魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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56話 最低な魔導士と出くわしました

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「スライムー!どこだー?返事しろー!」

ラピスの「森には気配がない」という言葉を受けて、俺たちは海岸を中心に探していた。
だけど、隠れる場所もほとんどないこの場所の、どこにいるっていうんだ?
そう思いながら探していると、遠くの方でローブを着た見知らぬ魔導士が二人、
何やら海に向かって魔法を放っていた。
海に向かって魔法?何のために?
そう思って魔法の先を見てみると、ぷかぷかと浮かぶ板のようなものが見えた。
そして、その板の上に何かがいるような…?
目を凝らしてよく見てみると―


「え?!あ、あれスライムたちじゃないの?!」

「ヨシヒロ様どこですか!?」

「あそこ!魔導士二人が魔法を放ってるところ!
板の上に、4つカラフルな何かが見えるんだけど!!」

「あ…ほ、本当だ……!あれは僕の仲間です!!」

「ヤバいじゃん!!なんであんなところで魔導士に狙われてんだよ?!」


板の上には、カラフルな物体が4つ。
それは、まぎれもなくラピスの仲間のスライムたちだった。
魔法の的にされているのか、ぷかぷかと浮かぶ板に向かって魔法の練習をしているように見えた。
きっと新人なのだろう。まともに魔法は当たっていないけど…
“下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる”って言うし、このままじゃあの子たちが危ない。
そう思って、魔導士二人に駆け寄った。


「君たち!やめてくれ!」

「あ?なんだよあのガキ。」

「ガキが俺たちに何か用?」

「今、君たちが魔法の練習で的にしてるのは、俺の仲間なんだ!
危ないからやめてくれ!」

「はぁ?スライムが仲間って…頭おかしいんじゃねぇの?」

「あ、見てみろよコイツの肩。スライムが乗ってんじゃん。
ってことはマジでスライムが仲間なの?弱すぎじゃん!」

「お前たちに関係ないだろう!いいから魔法を放つのをやめてくれ!
あの子たちに当たって怪我したら、どうしてくれるんだ!」

「知らねぇよ!たかがスライムだろ?そもそも討伐対象なんだからいいだろうが!」

「人の仲間のスライムに手を出すなって言ってんの!傷害罪で訴えるからな!!」


年下だからか、俺に対して上から目線でモノを言う新人魔導士たち。
俺、本当はお前らよりずっと大人なんだぞ!
そう思いながらも、スライムは仲間だからやめろと再度伝えた。
すると、スライムが仲間とか頭がおかしいと嘲笑い、ラピスを見て小馬鹿にしたように笑っていた。
もうね、本当に怒ってるんだからな俺は!
そう思いながら「傷害罪で訴える」と言うと、あからさまにバカにした目つきで睨みつけてきた。


「はぁ?!スライムごときで罪に問われるわけねぇだろうが!!
ガキのくせに生意気言ってんじゃねぇよ!!」

「ガキガキって…俺は30代だっつーの…
とにかく!今すぐ魔法を放つのをやめてくれ!」

「うるせぇんだよ!そんなに大事なら海に入って取りに行けよ!!」


ドゴオオオンッ!!

バシャアアアアンッ!!


「ああ!やめろって言ってんだろうが!!!」


年下の俺が文句を言うのが気に入らないのか、「ガキのくせに生意気言うな」と言い放ち、
「大事なら取りに行け」と言いながら、スライムたちに向かって魔法を放ち続けた。
さすがにね、これはもう本当に怒っていいと思う。

そう思った時だった。
突然、魔法を放っていた手がピタリと止まり、目を見開いて顔面蒼白になった二人。
何で急に?そう思って振り返ると、そこには鬼の形相をしたロウキたちが立っていた。


「どうした?ヨシヒロ…こやつら、お前を怒らせたのか?」

「ロウキ!聞いてくれよ!こいつら俺の大事なスライムに攻撃するんだけど!
何なのこいつら!」

「ひいっ!!!フェ、フェンリル?!なんでフェンリルがここに?!
しかもミノタウロスもいるってどういうことだよ?!」

「ちょ…な、何か最近聞いたじゃん!?王家直属の冒険者がいて、フェンリルとか連れてるって…
それ、こいつなんじゃねぇの?!ガキだって言ってたし!!」


魔導士二人が突然顔色を変えた理由が分かり、ホッとした俺は、
思わず「スライムを攻撃された」と訴えた。
すると、さらにロウキたちの表情が変わり、今にも食い殺しそうな勢いで二人を睨みつけた。
先ほどまで威張り散らしていた態度が一変し、二人はブルブルと震え始めた。
こういうの、あんまり好きじゃないけど…でも、スライムに攻撃したのは許せない。
だから、俺は何も言わずに黙っていた。


「…お前たち、スライム相手に何をしていた?
今すぐお前たちに同じことをしてやろうか?
それか、このままお前たちを消し去ってもいいんだぞ。
ヨシヒロとスライムに、今すぐ詫びろ。」

「ち、違うんだ!俺たちは何もっ…」

「遊び半分で魔物を痛めつけておいて“何もしてない”とはふざけているのか?!
我々は、お前たちの遊び道具ではない!」


ロウキはその大きな体で二人に近づき、ドスのきいた声で迫った。
たちまち涙目になった二人は、「何もしていない」と言い始めた。
それがロウキの癇に障ったのか、「魔物は人間の遊び道具じゃない」と声を荒げた。


「君たち…俺は怒ったからな。
このことは、ガーノスさんに報告させてもらう。」

「え…ま、待ってくれよ!!そんなことされたら、俺たち冒険者じゃなくなっちゃうじゃん!
それに、お前たちに手を出したことがバレたら、俺たち…」

「知るかそんなこと!!お前たちは俺の仲間を傷つけたんだ!!
これ以上やるっていうなら、相手になるぞ!!ロウキがな!!」

「おいっ!」


ロウキに続いて、俺も今回の件をガーノスさんに報告すると告げると、
彼らは「剥奪されるからやめてくれ」と懇願してきた。
この子たち、本当に自分のことばかりだな。
さっきからスライムたちに謝りもしない。

「ごめんなさい」と「ありがとう」を言うべき場面で言えない人間は、最低なんだからな。
そう思い、どうするか悩んでいると、ロウキがもう一歩踏み出して彼らに言った。


「…まあよい。たまには従魔らしいことをしようではないか。
なぁ?お前たち。」

「人間たちめ!!主をいじめたら許さないからな!!
それにスライムは俺たちの仲間だから攻撃したら許さない!」

「僕たちのあるじさまを怒らせた罪は重いですよ!!」

「おまえたち、きらい。」

「い、いやっ…その…
ごめんなさーーーーいっ!!」

「あ、逃げた。」


ロウキが「たまには従魔らしいことをしよう」と言い、側にいたクロたちに声をかけると、
怒りマークを浮かべたクロ、ユキ、そしてミルまでが戦闘態勢に入った。
魔導士二人はズズズッと後ずさりし、大声で謝罪しながら猛スピードでその場から逃げていった。
逃げるなら、最初からこんなことするなよな。


「ったく…どうしようもないな。
って、早く助けなきゃ!!」

「おいっ!」

「行くぞラピスーー!!掴まってろよーー!!」

「はいっ!ヨシヒロ様!!」


魔導士たちに呆れていたのも束の間。
水面に浮かぶスライムたちを助けなければと思い、俺はラピスを肩に乗せたまま海へと飛び出した。
泳ぎが得意ってわけじゃないけど、早くしないと流されてしまう!
そう思いながら浅瀬を進み、何とか泳いでスライムが乗っている板まで到着できた。


「もう…大丈夫だからな!今から帰るよ!」

「・・・」

「怖い思いをさせてごめんな。人間って、自分勝手だからさ…本当にごめんな。
従魔にならなくていいから、俺の家においで?
そこなら、もう安全だから。」

「・・・」

「家に行くだけなら…いいって…!」

「本当?それは良かった!ありがとな。」


板を掴んでビート板のようにしてバタ足で陸地へ戻りながら、スライムたちに声をかけた。
最初は何も言わなかったけど、「家に行くだけならいい」と言っているとラピスが教えてくれて、ホッとした。
別に従魔にならなきゃいけないわけじゃない。
ただ、ラピスの仲間を護ってやりたかっただけだから。
俺の領地なら、きっとここよりは安全に暮らせるはず。
そこでゆっくりラピスと話せば、ラピスの想いも届く日が来るかもしれない。
そう思いながら、びしょ濡れになった服を「ドライウィンド」と唱えて乾かした。
便利だよね、こういう生活魔法って。
なんて一人で感心しながら、スライムを抱えて王都へと戻った―…。
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