魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

文字の大きさ
57 / 125

57話 色とりどりな我が家も悪くないなと思います

しおりを挟む
ギルド別館―

「今日はそんなことがあったのか?
海岸でよく魔法の練習してるやつらだろ?
遅咲きで魔法が使えるようになって嬉しいのか知らんが、
無駄に魔法を使ってる連中だ。制御が下手で的にも当たらねぇから、
魔物討伐も二人じゃできないって話だ。しかも性格が悪くて、誰もパーティ組んでくれねぇんだ。
しっかし、スライムくんたちには怖い思いをさせて悪かったな。
けどよ、こいつは安心していいからな。絶対にお前たちを護ってくれるぞ。」

「……」

「ガーノス師匠、ありがとう。」

「おお?ラピス、お前俺のことを“師匠”って呼んでくれるのか?」

「ギルドの頂点ですから。師匠みたいに、ちゃんと頂点に立って護りたいです。」

「そうかそうか!お前なら大丈夫だ、ラピス!その気持ちが大事なんだからな!」


ギルドの別館で夕食を囲みながら、今日あった出来事を話していた俺たち。
ガーノスさんから情報をもらって、あの魔導士二人がかなり問題のある連中だと分かった。
魔法が使えるようになったのが嬉しいのは分かるけど、ああいう使い方は違うだろうって思う。
力を持ったなら、それをどう使うかが大事なんだよな。

なんて思っていると、ガーノスさんは、あいつらの代わりにスライムたちに謝ってくれて、
それを見ていたラピスは、感謝の気持ちを込めて「師匠」と呼び始めた。
その理由は、ガーノスさんがこのギルドをまとめる“頂点”の存在だから。
ラピスも、そんなふうに誰かを護れる存在になりたいと思ったらしい。
なんか健気だなぁ、ラピスは。
そう思いながら、会話を続けて食事を楽しんだ。
ラピスの想い。
どうか、あの子たちに届いてほしいなぁ……。







「それじゃあ、今日はありがとうございました!早速ゲートで帰ります!」

「ああ!こちらこそ楽しい食事をありがとな。また近いうちに会って飯食おうぜ!」

「ありがとうございます!それじゃあ、おやすみなさい!」

「またな!」


ガーノスさんたちと食事を楽しんで、約2時間が経った頃。
そろそろ帰ろうかと片づけを手伝い、帰り支度を済ませた。
そして、いよいよ初めての転移ゲートでの帰宅。
出来た時に覗いてみただけだった俺は、初めてのゲート移動にドキドキしていた。
ロウキたちが最初に通った時、何ともなかったよな?
そう思いながら、意を決してゲートに足を踏み入れた。


「…本当に帰れた…」

「作った時に見ただろうが?」

「見たけど、実感わかなくてさ。いやぁ、これは便利なもの作ったなぁ。
あ、スライム君たち。ここが俺たちの家だよ。好きな場所で過ごしてね。」


恐る恐る足を踏み入れてみると、出た先は本当に俺たちの家だった。
もしかして、俺ってば結構すごいものを作ったんじゃ?
そう思いながら、4匹のスライム君たちを地面に下ろして「自由に過ごしてね」と伝えた。
すると、そこら中に散らばっていたスライムたちが次々と顔を出し、
4匹の到着を祝うようにピョンピョンと跳ねながらこちらへ向かってきた。
その光景はとてもカラフルで本当に癒しの存在そのものだった。


「やっぱり、一緒がいいよなぁ。」

「良かったな!ラピス!」

「無事に全員が戻ってこられて、安心しましたね!」

「はい!クロちゃん、ユキちゃん、ミルくんもありがとう!」

「よかったね。ここなら、あるじがいるから、あんしん。」


再会を喜ぶ姿を見て、クロたちはラピスに「良かったね」と声をかけた。
魔物同士でこんなふうに言い合えるって、俺はすごいことなんじゃないかと思ってる。
だって、魔物だよ?
互いのために動くなんて、あまりしない気がする。
それは本能がそうさせるのか、自分が生きていくのに必死で、気遣う余裕がないからかもしれない。
でも、そんな中でもこうしてお互いの手を取り合えるって、
素敵じゃないの?って思う。


「ヨシヒロ様…本当にありがとうございます。
僕は、このご恩に報いるために、生涯あなたの側で、微力ながらお力になれたらと思います。」

「何でそんなにかしこまってんの。もう家族じゃん、俺たち。
家族が困ってる時は助け合うのが当たり前だからな。
これからは元気に過ごしてくれたら、それでいいよ。」

「ヨシヒロ様…」


ラピスは、今回の件で相当な恩を感じているのか、「生涯力になれたら」と言ってくれた。
まさかそんなふうに言うなんて思っていなかった俺は、「家族だから当たり前だよ」と返した。
そして、「元気に過ごしてくれたらそれでいい」と言うと、ラピスは俯いて、小さく笑った。

この子たちにとって、人間は脅威でしかなかった。
でも、少しでもその傷が癒せたらいいな。
そのためにもこの子たちは、絶対に護っていかなきゃ。
改めて、そう強く決意した―…。









魔物管理室―


「ひび割れちゃってるけど、出ては来ないみたいだな。」

「しかし、ちゃんと鼓動は聞こえるからな。問題はないだろうとは思うが…」

「ヨシヒロ様、ごめんなさい…僕が飛び跳ねちゃったから…」

「あの時はラピスも大変だったんだから、もう気にしなくていいよ。」


その日の夜、俺たちはお風呂上がりに魔物管理室に立ち寄っていた。
ラピスが飛び跳ねてひびが入ってしまった卵は、鼓動はしているものの、まだ孵る気配はない。
本当に大丈夫なんだろうか?そんな不安がじわじわと胸に広がってくる。
ラピスも、自分のせいで卵に影響が出ているのではないかと、悲しそうな顔で謝ってくれた。
でも、ラピスにも事情があったんだから、仕方ないよな。


「それにしても、なんでこの卵2個は鑑定できないんだろうな?」

「この卵からは魔法の力を感じるからな。あの魔法使いが詮索されないように、何か仕掛けているのではないか?」

「あー…確かにそれはあるかも。それだけ貴重な卵なのか、護りたい卵だったのか…
どっちにしても、ひび割れちゃったんだから、早く出ておいでー?待ってるよー。」


ラピスが心配しちゃうから、早くその顔を見せてほしくて。
いつもは何かあったら怖くて触れられなかったけど、
卵に声をかけて、そっと手をかざし、優しく撫でてみた。
触れなくても命の鼓動は感じ取れていたけど、
こうして触れると、その鼓動がさらに強く伝わってくる気がした。
ああ、ちゃんと生きてる。
生きようとしてくれてるんだよな。


「じゃあ、また明日な?卵ちゃん。」

しばらく卵を撫でたあと、俺たちは1階に戻り、厨房の冷蔵庫からアイスを取り出して、夜風に当たりながら食べていた。
お風呂上がりのアイスって最高だよなぁ。
ジュースを凍らせただけなんだけど、氷魔法ってほんと便利だわ。
なんて思いながら、これからのことを考えていた。


「主、まだあの子たちを従魔にしなくてもいいのか?」

「んー…今、無理やり従魔になってもらうのはなぁ。
今は安全な場所に来て、少しは安心してくれてると思うから、
あとはあの子たちが“俺を許せる”って思ってくれたら、かな?」

「そっかー…主は良い奴なのになぁ!」

「そうですね。あるじさまは命を平等に大切にされる方で、
とても慈悲深いお方だって、分かってほしいです。」

「あるじ、すき。」

「やめろやめろ!恥ずかしい!」


明日からどうするか考えていると、クロがあのスライム4匹を従魔にしなくてもいいのかと問いかけてきた。
クロたちからすれば、早く従魔になっておいた方が安全だと考えてくれているんだろう。
だから俺は、今の気持ちを素直に話すと、皆が口々に俺を褒めてくれた。
さすがにそんな風に褒め殺しにあうと、照れくさいしムズムズしてしまう。
そんな俺の様子を見て、ロウキはフンッと鼻を鳴らしてニヤついていた。

俺の隣では、ラピスがその場でウロチョロするスライムたちを見つめて、嬉しそうにしていた。
これが“群れの長”なのかな。体は小さいけど、仲間を護りたいという気持ちはとてつもなく大きい。
自分が危険な状況になったとしても、その気持ちは変わらない。
そんなラピスを、俺は誇りに思う。

だから、たくさんいるスライムたちを護れるように、
弱い俺でも、護れる何かを掴まなきゃいけないかな。
そんなふうに思っていた―…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティ。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 そう言ってくれた彼らの言葉を信じて、 俺は毎日、必死でついていった。 何もできない“つもり”だった。 それでも、何かの役に立てたらと思い、 夜な夜なダンジョンに潜っては、レベル上げを繰り返す日々。 だけど、「何もしなくていい」と言われていたから、 俺は一番後ろで、ただ荷物を持っていた。 でも実際は、俺の放った“支援魔法”で仲間は強くなり、 俺の“探知魔法”で危険を避けていた。 気づかれないよう、こっそりと。 「役に立たない」と言われるのが怖かったから、 俺なりに、精一杯頑張っていた。 そしてある日、告げられた言葉。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 そうして俺は、静かに追放された。 もう誰にも必要とされなくてもいい。 俺は俺のままで、静かに暮らしていく。そう決めた。 ……と思っていたら、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、 また少し、世界が騒がしくなってきたようです。 ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~

うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」 探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。 探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼! 単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。 そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。 小さな彼女には秘密があった。 彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。 魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。 そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。 たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。 実は彼女は人間ではなく――その正体は。 チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

処理中です...