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63話 ガーノスの一日 ~無謀な冒険者~
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―ソウリアス王国 重要告知―
【本王国において、新たに魔王の存在が確認された。
魔王と聞けば不安になる市民もいるだろう。だが、安心してほしい。
アーロン陛下が直々に魔王と交渉し、親交を深める大切な存在となった。
魔王は本領に害を及ぼすものではなく、この国を護る存在となろう。
よって、軽率な挑発や無用な詮索は固く禁ずる。
王国としても、魔王との良好な関係を保持することをここに宣言する。
魔王ならびに魔王の配下に手出しをした者がいた場合は、厳重に処罰する。
王都広報局】
そんな張り紙が貼り出されたのは、ヨシヒロとアーロンと魔王について話した翌日のことだった。
アーロンの奴は、決めたら即行動するタイプだからか、
お抱えの記者に魔王について言及した張り紙を早速書かせていた。
これをヨシヒロが見たら…発狂するな、アイツ。
なんて思いながら、冒険者ギルドにも大々的に貼り出していた。
これを貼っておかなければ、「魔王討伐だ!」なんて言い出す馬鹿が出てくるからな。
「発行されて少し経っちまったが、一応アイツにも一言書いて送っておくか。」
ヨシヒロには次に来た時に伝えればいいかとも思ったが、
一応「こういうことになった」という事実を手紙に書いて、伝書ガラスを転移ゲートから飛ばした。
こんな便利なもんを平気で作ってしまう魔王なんて知ったら皆、驚くだろうな。
まあ、この別館は特別客しか入れねぇから、何かされることもないだろうが。
そう思いながら日常業務に戻り、書類に目を通していた時だった。
コンコンッ―
ガチャッ-
「ガーノスさん!大変です!新人冒険者の“光の破壊神”が魔王討伐とか言って、領地に向かったそうです!
4、5時間ほど前だそうなので、すでに領地付近にいるかと思われます!」
「はぁ?!あの馬鹿ども…注意書き読んでないのか?!手出ししたらお前…
あー…アイツらには一度痛い目を見ないと分からんかもな…。
とりあえず、アイツらが死なないように話しなきゃいけねぇだろうから、俺も向かう!」
その知らせは突然だった。
あれだけ大々的に「手出し厳禁」と書かれていたにも関わらず、馬鹿な冒険者がやらかしたと聞かされ、ため息を吐いた。
“光の破壊神”と言えば、冒険者の間でも有名な新人パーティで、
平気でルールは破るし、周囲に迷惑をかけるし、討伐対象外の魔物まで狩って秩序を乱す連中だった。
しかも、以前ヨシヒロのところのスライムをいじめていた魔導士二人も入ったという、救いようのない構成。
しかし、まずいな…ロウキがキレちまったら、アイツら食い殺されるんじゃねぇのか?
そう考えると、さすがの俺も動かないわけにはいかない。
なんでアイツらは、こうも周りに迷惑をかけることしかできねぇんだ。
さすがの俺も堪忍袋の緒が切れたぞ…。
アーロンに報告して、ルセウス呼んでもらうか。
そう考えた俺は、急いでもう一羽の伝書ガラスに報告内容を書いて飛ばし、
馬にまたがり、アイツらのあとを追った。
頼むからロウキ、早まらないでくれよーー!
◇
約2時間半ほど馬を走らせると、ヨシヒロの領地付近をうろつく冒険者たちが目に入った。
あいつら、領地に入れなくてあたふたしてるんだろう。
そりゃそうだ。ヨシヒロの知ってる奴しか通れない結界が張ってあるんだからな…。
「お前たち!何をやってるんだ!!」
「ゲッ!!ガーノスさんだっ…!」
「魔王討伐しようとか考えてんじゃねぇだろうな?
だとしたら今すぐここから出て戻るんだ!ライセンスを失いたいのか!」
「でもガーノスさん!魔王ですよ?!国王と仲が良いって言いますけど、
そんなの絶対に騙してるに決まってるじゃないですか!
魔王を倒してこその冒険者、勇者パーティです!俺たちがやってみせます!」
「勇者パーティってお前ら…何バカなこと言ってんだ!魔法も剣もまともに使えない奴が!
いいから戻れ!ここはお前たちが来ていい場所じゃねぇだろう!」
俺が大きな声で呼び止めると、ばつの悪そうな顔をした冒険者たち。
ライセンスを失いたいのかと脅すと、魔王は俺たちを騙していると言い出し、
魔王を倒してこその勇者パーティだと訳の分からないことを口にして呆れた。
「ガーノスさんまで、なんで魔王の味方するんですか?!おかしいですよ!
魔王ですよ魔王!いい奴なわけないじゃないですか!止められても俺たちは行きますよ!」
「結界で入れねぇだろうが…頼むから帰れ…これ以上いると、お前…」
魔王が“いい奴”なわけがないのに、なぜ俺まで味方するのかと詰め寄る冒険者。
何があっても討伐に行くと言い、まったく言うことを聞かない。
なんて面倒な奴らだと思っていたその時―
とてつもない殺気を感じて、恐る恐る振り返った。
「なっ…」
「え、えっ…フェ、フェンリル?!しかも漆黒の…」
「漆黒のフェンリルって…世界を一瞬で滅ぼせる力を持つっていう、あの伝説の…」
「ま、まずいよこれ…俺たちっ…殺されるんじゃ…」
「お前…ああ…?」
身動きが取れなくなるほどの殺気の主は、ロウキとは違う漆黒のフェンリルだった。
ロウキだと思っていたが、アイツは真っ白のフェンリルだったよな?
じゃあ、この目の前にいるフェンリルは一体…?
ヨシヒロのやつ、また新たな従魔契約でもしたんじゃないだろうな?!
そう思いながら様子を見ていると、冒険者たちの顔色が真っ青になり、その場でブルブルと震え始めた。
一人はその場に座り込んで泣いてやがる…なんつー情けない姿だ。
ああ、そうか。これはフェンリルの覇気か…。
フェンリルの覇気なんか、新人に耐えられるわけねぇからな。
面倒ごとばっかりよこしやがって!
そう思ったその時だった。
ふと視線を逸らすと、大木の影に見知った顔が俺を見ながら、
その手に乗っていた伝書ガラスを俺の元へと飛ばしてきた。
手紙を開けてみると、そこにはこう書かれていた。
【このフェンリルはロウキです。
普段のロウキが魔王の手下だと思われたくなくて、毛色を変えました。
なので脅かすだけなので安心してください。】
その文を読んだ瞬間、体の力が一気に抜けていくのを感じた。
あ、あれロウキだったのか…。だったらまあ安心だが…
魔法で色を変えるって、お前…考えることが違うな、ヨシヒロは。
そうなれば話は別だ。俺が出て行って揉めることもないだろう。
そう思い、ロウキの出方を待つことにした。
「貴様ら、この領地が魔王の領地と知って、足を踏み入れようとしておるのか。」
「いやっ…ま、魔王は討伐しないとって…」
「貴様らに魔王がどんな仕打ちをしたと?何かされたのか?」
「それは…」
「貴様らを今すぐ食い殺すことは可能だが…アーロンに確認を取ってからだな。
なぁ、ガーノスよ。」
「…そうだな。この件はすでに王家に連絡済みだ。ただじゃ済まされないだろう。」
「そんなっ?!酷いですよガーノスさん!!俺たちは善意で魔王討伐を!!」
ロウキは魔王の手先らしく振る舞い、まるで四天王のような威厳を放っていた。
知ってる奴だからそう思うのかもしれないが…やっぱりフェンリルは格が違う。
なんて思っていると、俺に話を振ってきたロウキ。
この事案はすでに王家に報告済みだと伝えると、冒険者たちは泣きながら「酷い」と叫び出した。
その時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、ようやく到着したかと胸をなでおろした。
「誰がそんなことを頼んだのだ?」
「え?」
「あっ…あ、あなたはっ…王国騎士団団長…ルセウス様…!!」
声の主はアーロンの弟であり、王国騎士団の団長を務めるルセウス。
何か起きる前に来てくれて助かったと思いながら、ヨシヒロが寄越した手紙を見せて状況を把握させた。
すると、ルセウスの表情が一瞬柔らかくなったのが分かった。
だよな、俺もそうだったぜ。
なんて思っていると、ルセウスはその場に跪き、ロウキに深く頭を下げた。
「フェンリル様、この度は私どもが不用意な行動により、御身に不敬を働きましたこと、深くお詫び申し上げます。
なお、これに関して関与した者どもは相応の処罰を受けるべく、厳重に対処いたします。
以後、二度と同様の過ちが起こらぬよう、細心の注意を払う所存です。」
「そ、そんなっ…俺たちはただっ…この王都を護ろうと…」
「魔王様がすでに護ってくださっている。お前たちが口を出すことではない。
ただちにこの者たちを連れて行け!」
「ハッ!」
「ま、待ってくださいよ!俺たちは悪いことなんてしてないっ!!
魔王が“良い奴”だなんて騙されてるんだっ!!おかしいよこんなのっ!!」
「お前たち、私が何も知らないとでも思っているのか?」
「…え?」
「王家直属の冒険者の従魔に手を出した魔導士をパーティに入れているようだな。
ガーノスの恩情で見逃してやっていたというのに…
もう知らぬ。その件と合わせて、お前たちを断罪する。覚悟しておけ!」
「嫌だっ!!せっかく冒険者になったのに!!お願いしますっ!
もうこんなことはしませんからっ!!ですからどうか、ライセンスの剥奪だけはっ…!」
「なぜ最初から、きちんと考えて行動しなかったのか…。」
「うぅっ…やだよっ…」
「連れて行け。」
「ハッ!」
ルセウスが深々と頭を下げて謝罪をし、連れていた兵士に冒険者たちを捕らえさせた。
それでも、「こんなのはおかしい」「魔王に肩入れするなんて」と叫ぶ冒険者たち。
その気持ちは分かる。きっと正しい感覚だろう。
魔王と仲良くなんて、普通は到底無理な話だからな。
だけどな、この国のルールを守れない奴に、居場所はないんだよ。
きちんと話を聞いておけば、こんな動きは取らなかったかもしれない。
それは俺の教育不足だなと、痛感した瞬間だった。
「フンッ…我は帰る。」
「ああ、ありがとうなロウキ。俺も後で帰るよ。」
「早く来るのだぞ。」
「分かってる!」
事が片付くと、ロウキは即座に背を向けて家へと戻っていった。
普段ならそんなことはしないのになと思ったが、ルセウスがいるからだとすぐに察した。
王族を嫌っているという話は聞いていたからな。まあ、仕方がない。
そう思いながら、ヨシヒロから今回の件について話を聞いた。
「すみません!ガーノスさんにルセウスさん。
あ、ルセウス様…ですね、すみません。」
「いや、さん付けで構わんよ。私もヨシヒロと呼ばせてくれ。」
「ありがとうございます…。
ガーノスさんから魔王の件について知らせをもらってしばらくしたら、気配感知に引っかかって…。
冒険者だってすぐに分かったので、ロウキに変装してもらいました。
色が目立つのでどうしようかと思ってたんですけど、
“漆黒のフェンリルが存在してる”ってロウキから教えてもらったので、それにしました!
めっちゃカッコよかったですよね!」
「まあ、確かにあのロウキからはものすごい覇気を感じたからな…。
普段のロウキがいかに大人しくしているかがよく分かったぜ。」
「ヨシヒロ、今回の件でロウキ殿は気を悪くしていないだろうか?
兄上はそれを一番気にしていた。」
「あ、大丈夫ですよ。久々に自分の中の魔力を解放できる~とか何とか言って、ノリノリでしたから。」
「そうか…。それなら良いのだが…申し訳ないことをしたと、再度詫びておいてくれるか。」
「ありがとうございます、ルセウスさん。そのお気持ちだけで十分ですよ!」
ヨシヒロに改めて話を聞くと、ロウキは割とノリノリで今回の件に当たってくれていたようで、ホッとした。
それと同時に、普段のロウキがいかに良い奴でいてくれているのかも、肌で感じた瞬間だった。
あれが本気を出せば、確実に国が滅ぶだろう。
フェンリルが“破滅の魔獣”と呼ばれる理由が、少し分かった気がした。
そう思っていると、ヨシヒロが鞄から何やら箱を取り出し、俺とルセウスに手渡した。
何だか甘い匂いがするが…お菓子か?
「あの、今日わざわざお越しいただいたお礼と、驚かせてしまったお詫びと言っては何なんですが…
ルミグミ、良かったらお持ち帰りください!甘くて美味しいですよ!」
「は?ルミグミだー?あの高値で取引されてるっていう?」
「そうみたいですね。うちの湖にルミグミ、めっちゃ生ってるんですよ!
クロが昔からすごく好きで、たまにみんなで食べてます!」
「いいのか?こんな高価なものをもらっちまって…」
「構いませんよ!クロが“いいよ”って言ってくれましたしね。」
甘い匂いの正体はお菓子かと思っていたが、
高値で市場取引されているルミグミという果実だと聞いて驚いた。
この辺じゃもう採取できる場所がなく、他国から取り寄せることはできるが、とても高価だと聞いたことがある。
まさかそのルミグミを無料で渡される日が来るなんて…これはうちのカミさん、喜ぶぞ!
最高のご機嫌取りアイテムだぜ!なんて秘かに喜んでいると、
パタパタと翼を羽ばたかせながら、クロが俺の肩に乗ってきて言った。
「これ美味しいぞー!特別だからな!ガーノスと…ルセウス?」
「ああ、私のことはルセウスと呼んでくれ。私もクロと呼んでも?」
「いいぜー!こっちはロウキの息子のユキで、こっちがミル!
で、新しくスライムが仲間になったんだぜ!
青いスライムがラピスで、黄色いのがシトリン、赤いのがガーネット、緑色がルド、銀色がムーンだ!
新しい仲間だからよろしくなー!」
「ガーノス師匠!皆、従魔になってくださいました!」
「そうかそうか!良かったなラピス!お前、頑張ってたもんな!」
クロは満面の笑みで「美味しいぞ」と言い、なぜかルセウスと名前交換をして、
ユキたちを紹介したあと、新しく仲間になったスライムたちの名前も教えてくれた。
すると、ヨシヒロの肩に乗っていたラピスが嬉しそうに「皆が従魔になってくれた」と言い、
頑張りを知っていた俺は、思わずラピスの頭を撫でまわした。
なんだか我が子みたいだな。良い報告が聞けて、本当に良かったぜ。
「それじゃあ、俺たちは戻りますね。
今日は色々とすみません…ありがとうございました!」
「ああ、また会おうヨシヒロ!」
「じゃあな。また近いうち、飯食いに来いよ!」
「はーい!」
少しばかり話し込んだあと、王都に戻るために俺たちは馬にまたがった。
一時はどうなることかと思ったが、丸く収まって良かった。
しっかし、あの冒険者たちはどう処罰されるんだろうか?
冒険者ライセンスの剥奪は間違いないが、それ以上に苦しい罰を受けるかもしれねぇな…。
他の冒険者が同じ目に遭わないように、魔王についての講習会でも開くか?
それとも王国側から、また何か警告状でも出してもらうか…。
まあ、アーロンから何か話があるだろうから、その時にでも相談するかな。
そんなことを考えていた―…。
【本王国において、新たに魔王の存在が確認された。
魔王と聞けば不安になる市民もいるだろう。だが、安心してほしい。
アーロン陛下が直々に魔王と交渉し、親交を深める大切な存在となった。
魔王は本領に害を及ぼすものではなく、この国を護る存在となろう。
よって、軽率な挑発や無用な詮索は固く禁ずる。
王国としても、魔王との良好な関係を保持することをここに宣言する。
魔王ならびに魔王の配下に手出しをした者がいた場合は、厳重に処罰する。
王都広報局】
そんな張り紙が貼り出されたのは、ヨシヒロとアーロンと魔王について話した翌日のことだった。
アーロンの奴は、決めたら即行動するタイプだからか、
お抱えの記者に魔王について言及した張り紙を早速書かせていた。
これをヨシヒロが見たら…発狂するな、アイツ。
なんて思いながら、冒険者ギルドにも大々的に貼り出していた。
これを貼っておかなければ、「魔王討伐だ!」なんて言い出す馬鹿が出てくるからな。
「発行されて少し経っちまったが、一応アイツにも一言書いて送っておくか。」
ヨシヒロには次に来た時に伝えればいいかとも思ったが、
一応「こういうことになった」という事実を手紙に書いて、伝書ガラスを転移ゲートから飛ばした。
こんな便利なもんを平気で作ってしまう魔王なんて知ったら皆、驚くだろうな。
まあ、この別館は特別客しか入れねぇから、何かされることもないだろうが。
そう思いながら日常業務に戻り、書類に目を通していた時だった。
コンコンッ―
ガチャッ-
「ガーノスさん!大変です!新人冒険者の“光の破壊神”が魔王討伐とか言って、領地に向かったそうです!
4、5時間ほど前だそうなので、すでに領地付近にいるかと思われます!」
「はぁ?!あの馬鹿ども…注意書き読んでないのか?!手出ししたらお前…
あー…アイツらには一度痛い目を見ないと分からんかもな…。
とりあえず、アイツらが死なないように話しなきゃいけねぇだろうから、俺も向かう!」
その知らせは突然だった。
あれだけ大々的に「手出し厳禁」と書かれていたにも関わらず、馬鹿な冒険者がやらかしたと聞かされ、ため息を吐いた。
“光の破壊神”と言えば、冒険者の間でも有名な新人パーティで、
平気でルールは破るし、周囲に迷惑をかけるし、討伐対象外の魔物まで狩って秩序を乱す連中だった。
しかも、以前ヨシヒロのところのスライムをいじめていた魔導士二人も入ったという、救いようのない構成。
しかし、まずいな…ロウキがキレちまったら、アイツら食い殺されるんじゃねぇのか?
そう考えると、さすがの俺も動かないわけにはいかない。
なんでアイツらは、こうも周りに迷惑をかけることしかできねぇんだ。
さすがの俺も堪忍袋の緒が切れたぞ…。
アーロンに報告して、ルセウス呼んでもらうか。
そう考えた俺は、急いでもう一羽の伝書ガラスに報告内容を書いて飛ばし、
馬にまたがり、アイツらのあとを追った。
頼むからロウキ、早まらないでくれよーー!
◇
約2時間半ほど馬を走らせると、ヨシヒロの領地付近をうろつく冒険者たちが目に入った。
あいつら、領地に入れなくてあたふたしてるんだろう。
そりゃそうだ。ヨシヒロの知ってる奴しか通れない結界が張ってあるんだからな…。
「お前たち!何をやってるんだ!!」
「ゲッ!!ガーノスさんだっ…!」
「魔王討伐しようとか考えてんじゃねぇだろうな?
だとしたら今すぐここから出て戻るんだ!ライセンスを失いたいのか!」
「でもガーノスさん!魔王ですよ?!国王と仲が良いって言いますけど、
そんなの絶対に騙してるに決まってるじゃないですか!
魔王を倒してこその冒険者、勇者パーティです!俺たちがやってみせます!」
「勇者パーティってお前ら…何バカなこと言ってんだ!魔法も剣もまともに使えない奴が!
いいから戻れ!ここはお前たちが来ていい場所じゃねぇだろう!」
俺が大きな声で呼び止めると、ばつの悪そうな顔をした冒険者たち。
ライセンスを失いたいのかと脅すと、魔王は俺たちを騙していると言い出し、
魔王を倒してこその勇者パーティだと訳の分からないことを口にして呆れた。
「ガーノスさんまで、なんで魔王の味方するんですか?!おかしいですよ!
魔王ですよ魔王!いい奴なわけないじゃないですか!止められても俺たちは行きますよ!」
「結界で入れねぇだろうが…頼むから帰れ…これ以上いると、お前…」
魔王が“いい奴”なわけがないのに、なぜ俺まで味方するのかと詰め寄る冒険者。
何があっても討伐に行くと言い、まったく言うことを聞かない。
なんて面倒な奴らだと思っていたその時―
とてつもない殺気を感じて、恐る恐る振り返った。
「なっ…」
「え、えっ…フェ、フェンリル?!しかも漆黒の…」
「漆黒のフェンリルって…世界を一瞬で滅ぼせる力を持つっていう、あの伝説の…」
「ま、まずいよこれ…俺たちっ…殺されるんじゃ…」
「お前…ああ…?」
身動きが取れなくなるほどの殺気の主は、ロウキとは違う漆黒のフェンリルだった。
ロウキだと思っていたが、アイツは真っ白のフェンリルだったよな?
じゃあ、この目の前にいるフェンリルは一体…?
ヨシヒロのやつ、また新たな従魔契約でもしたんじゃないだろうな?!
そう思いながら様子を見ていると、冒険者たちの顔色が真っ青になり、その場でブルブルと震え始めた。
一人はその場に座り込んで泣いてやがる…なんつー情けない姿だ。
ああ、そうか。これはフェンリルの覇気か…。
フェンリルの覇気なんか、新人に耐えられるわけねぇからな。
面倒ごとばっかりよこしやがって!
そう思ったその時だった。
ふと視線を逸らすと、大木の影に見知った顔が俺を見ながら、
その手に乗っていた伝書ガラスを俺の元へと飛ばしてきた。
手紙を開けてみると、そこにはこう書かれていた。
【このフェンリルはロウキです。
普段のロウキが魔王の手下だと思われたくなくて、毛色を変えました。
なので脅かすだけなので安心してください。】
その文を読んだ瞬間、体の力が一気に抜けていくのを感じた。
あ、あれロウキだったのか…。だったらまあ安心だが…
魔法で色を変えるって、お前…考えることが違うな、ヨシヒロは。
そうなれば話は別だ。俺が出て行って揉めることもないだろう。
そう思い、ロウキの出方を待つことにした。
「貴様ら、この領地が魔王の領地と知って、足を踏み入れようとしておるのか。」
「いやっ…ま、魔王は討伐しないとって…」
「貴様らに魔王がどんな仕打ちをしたと?何かされたのか?」
「それは…」
「貴様らを今すぐ食い殺すことは可能だが…アーロンに確認を取ってからだな。
なぁ、ガーノスよ。」
「…そうだな。この件はすでに王家に連絡済みだ。ただじゃ済まされないだろう。」
「そんなっ?!酷いですよガーノスさん!!俺たちは善意で魔王討伐を!!」
ロウキは魔王の手先らしく振る舞い、まるで四天王のような威厳を放っていた。
知ってる奴だからそう思うのかもしれないが…やっぱりフェンリルは格が違う。
なんて思っていると、俺に話を振ってきたロウキ。
この事案はすでに王家に報告済みだと伝えると、冒険者たちは泣きながら「酷い」と叫び出した。
その時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、ようやく到着したかと胸をなでおろした。
「誰がそんなことを頼んだのだ?」
「え?」
「あっ…あ、あなたはっ…王国騎士団団長…ルセウス様…!!」
声の主はアーロンの弟であり、王国騎士団の団長を務めるルセウス。
何か起きる前に来てくれて助かったと思いながら、ヨシヒロが寄越した手紙を見せて状況を把握させた。
すると、ルセウスの表情が一瞬柔らかくなったのが分かった。
だよな、俺もそうだったぜ。
なんて思っていると、ルセウスはその場に跪き、ロウキに深く頭を下げた。
「フェンリル様、この度は私どもが不用意な行動により、御身に不敬を働きましたこと、深くお詫び申し上げます。
なお、これに関して関与した者どもは相応の処罰を受けるべく、厳重に対処いたします。
以後、二度と同様の過ちが起こらぬよう、細心の注意を払う所存です。」
「そ、そんなっ…俺たちはただっ…この王都を護ろうと…」
「魔王様がすでに護ってくださっている。お前たちが口を出すことではない。
ただちにこの者たちを連れて行け!」
「ハッ!」
「ま、待ってくださいよ!俺たちは悪いことなんてしてないっ!!
魔王が“良い奴”だなんて騙されてるんだっ!!おかしいよこんなのっ!!」
「お前たち、私が何も知らないとでも思っているのか?」
「…え?」
「王家直属の冒険者の従魔に手を出した魔導士をパーティに入れているようだな。
ガーノスの恩情で見逃してやっていたというのに…
もう知らぬ。その件と合わせて、お前たちを断罪する。覚悟しておけ!」
「嫌だっ!!せっかく冒険者になったのに!!お願いしますっ!
もうこんなことはしませんからっ!!ですからどうか、ライセンスの剥奪だけはっ…!」
「なぜ最初から、きちんと考えて行動しなかったのか…。」
「うぅっ…やだよっ…」
「連れて行け。」
「ハッ!」
ルセウスが深々と頭を下げて謝罪をし、連れていた兵士に冒険者たちを捕らえさせた。
それでも、「こんなのはおかしい」「魔王に肩入れするなんて」と叫ぶ冒険者たち。
その気持ちは分かる。きっと正しい感覚だろう。
魔王と仲良くなんて、普通は到底無理な話だからな。
だけどな、この国のルールを守れない奴に、居場所はないんだよ。
きちんと話を聞いておけば、こんな動きは取らなかったかもしれない。
それは俺の教育不足だなと、痛感した瞬間だった。
「フンッ…我は帰る。」
「ああ、ありがとうなロウキ。俺も後で帰るよ。」
「早く来るのだぞ。」
「分かってる!」
事が片付くと、ロウキは即座に背を向けて家へと戻っていった。
普段ならそんなことはしないのになと思ったが、ルセウスがいるからだとすぐに察した。
王族を嫌っているという話は聞いていたからな。まあ、仕方がない。
そう思いながら、ヨシヒロから今回の件について話を聞いた。
「すみません!ガーノスさんにルセウスさん。
あ、ルセウス様…ですね、すみません。」
「いや、さん付けで構わんよ。私もヨシヒロと呼ばせてくれ。」
「ありがとうございます…。
ガーノスさんから魔王の件について知らせをもらってしばらくしたら、気配感知に引っかかって…。
冒険者だってすぐに分かったので、ロウキに変装してもらいました。
色が目立つのでどうしようかと思ってたんですけど、
“漆黒のフェンリルが存在してる”ってロウキから教えてもらったので、それにしました!
めっちゃカッコよかったですよね!」
「まあ、確かにあのロウキからはものすごい覇気を感じたからな…。
普段のロウキがいかに大人しくしているかがよく分かったぜ。」
「ヨシヒロ、今回の件でロウキ殿は気を悪くしていないだろうか?
兄上はそれを一番気にしていた。」
「あ、大丈夫ですよ。久々に自分の中の魔力を解放できる~とか何とか言って、ノリノリでしたから。」
「そうか…。それなら良いのだが…申し訳ないことをしたと、再度詫びておいてくれるか。」
「ありがとうございます、ルセウスさん。そのお気持ちだけで十分ですよ!」
ヨシヒロに改めて話を聞くと、ロウキは割とノリノリで今回の件に当たってくれていたようで、ホッとした。
それと同時に、普段のロウキがいかに良い奴でいてくれているのかも、肌で感じた瞬間だった。
あれが本気を出せば、確実に国が滅ぶだろう。
フェンリルが“破滅の魔獣”と呼ばれる理由が、少し分かった気がした。
そう思っていると、ヨシヒロが鞄から何やら箱を取り出し、俺とルセウスに手渡した。
何だか甘い匂いがするが…お菓子か?
「あの、今日わざわざお越しいただいたお礼と、驚かせてしまったお詫びと言っては何なんですが…
ルミグミ、良かったらお持ち帰りください!甘くて美味しいですよ!」
「は?ルミグミだー?あの高値で取引されてるっていう?」
「そうみたいですね。うちの湖にルミグミ、めっちゃ生ってるんですよ!
クロが昔からすごく好きで、たまにみんなで食べてます!」
「いいのか?こんな高価なものをもらっちまって…」
「構いませんよ!クロが“いいよ”って言ってくれましたしね。」
甘い匂いの正体はお菓子かと思っていたが、
高値で市場取引されているルミグミという果実だと聞いて驚いた。
この辺じゃもう採取できる場所がなく、他国から取り寄せることはできるが、とても高価だと聞いたことがある。
まさかそのルミグミを無料で渡される日が来るなんて…これはうちのカミさん、喜ぶぞ!
最高のご機嫌取りアイテムだぜ!なんて秘かに喜んでいると、
パタパタと翼を羽ばたかせながら、クロが俺の肩に乗ってきて言った。
「これ美味しいぞー!特別だからな!ガーノスと…ルセウス?」
「ああ、私のことはルセウスと呼んでくれ。私もクロと呼んでも?」
「いいぜー!こっちはロウキの息子のユキで、こっちがミル!
で、新しくスライムが仲間になったんだぜ!
青いスライムがラピスで、黄色いのがシトリン、赤いのがガーネット、緑色がルド、銀色がムーンだ!
新しい仲間だからよろしくなー!」
「ガーノス師匠!皆、従魔になってくださいました!」
「そうかそうか!良かったなラピス!お前、頑張ってたもんな!」
クロは満面の笑みで「美味しいぞ」と言い、なぜかルセウスと名前交換をして、
ユキたちを紹介したあと、新しく仲間になったスライムたちの名前も教えてくれた。
すると、ヨシヒロの肩に乗っていたラピスが嬉しそうに「皆が従魔になってくれた」と言い、
頑張りを知っていた俺は、思わずラピスの頭を撫でまわした。
なんだか我が子みたいだな。良い報告が聞けて、本当に良かったぜ。
「それじゃあ、俺たちは戻りますね。
今日は色々とすみません…ありがとうございました!」
「ああ、また会おうヨシヒロ!」
「じゃあな。また近いうち、飯食いに来いよ!」
「はーい!」
少しばかり話し込んだあと、王都に戻るために俺たちは馬にまたがった。
一時はどうなることかと思ったが、丸く収まって良かった。
しっかし、あの冒険者たちはどう処罰されるんだろうか?
冒険者ライセンスの剥奪は間違いないが、それ以上に苦しい罰を受けるかもしれねぇな…。
他の冒険者が同じ目に遭わないように、魔王についての講習会でも開くか?
それとも王国側から、また何か警告状でも出してもらうか…。
まあ、アーロンから何か話があるだろうから、その時にでも相談するかな。
そんなことを考えていた―…。
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単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。
そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。
小さな彼女には秘密があった。
彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。
魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。
そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。
たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。
実は彼女は人間ではなく――その正体は。
チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。
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※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
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【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
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