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65話 パトロール隊が異変を察知しました
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「そういえばさ、この世界って季節とか暦の概念って存在するのかな。」
家の庭で野菜の収穫をしている時、ふとそんなことを思った。
それは、前世のように季節を感じる“カレンダー”という概念が、この世界にもあるのかどうか。
家にはそれらしきものがなかったし、王都でもちゃんと見たことがなかったから、
そもそも、そういうものが存在しているのかすら分からなかった。
でも、きっとエマなら答えてくれるだろうと思い、彼女に尋ねてみた。
「エマ、どう思う?何か知ってる?」
【このソウリアス王国には、あなたの前世で言う“太陽暦”のようなものが存在します。
アーロン国王が生まれた際、ご自身で王家に提案し広めたもので、1月から12月までの時季に分けられ、
春・夏・秋・冬の四季が巡るように定められています。
日本のように明確に四季が分かれているわけではありませんが1週間は7日、1ヶ月は30日または31日とされ、合計365日で構成されています。
また、日本で言う“祝日”のようなものも含まれており、年々改定されて増えているそうです。】
「へぇー…アーロンさん、すごいなぁ。国の考え方を変えたってことだもんな?
アーロンさん自身が四季と共に生活してきたから、訳が分からなくなる前に広めたんだろうな。
でも、俺もその方が助かるけど!
…じゃあ、今は何月になるんだろう?ちょっと暑い気がするけど。」
【本日は5月31日の土曜日です。明日は国民の休日、日曜日となります。】
「5月の終わりかー。少しずつ暑くなってくる時季じゃん?
そんで今日は土曜日なのかー。
俺にとっては土日も平日と一緒だったけど、今は年中休みの感覚だから、
暦の概念があるって分かると、さらに幸せ気分だなぁ!」
エマにこの世界に暦があるのかと尋ねると、まさかの回答が返ってきて驚いた。
この世界にも四季という概念があり、ちゃんと日付と曜日が定められているなんて。
アーロンさんが広めたと言っていたけど、これは本当に良いことを広めたと思う。
他の国にも根付いているかは分からないけど、少なくとも俺が住んでいる場所で当たり前になっているだけで、ありがたかった。
「そっかぁ。じゃあ、カレンダーが家にないと不便だな。
カレンダーなら俺にお任せってやつだ!・・・・・・クレオ!」
この世界に暦という概念があるのなら、絶対にカレンダーを家に置いておきたい。
そう思った俺は、手袋を外してすぐにカレンダーを生成した。
A3サイズくらいで数字が大きく書いてあるこの感じ、懐かしい。
とりあえず、あとで部屋のどこかに飾ろうと思い、外のテーブルに置いた。
トイレは風水的にダメだったような?まあ、あとで考えよう。
そう思いながら、畑作業を再開した。
「あーるーじー!主ー!」
「ん?」
「主ー!」
「クロ?どうした?」
手袋をはめ直して収穫作業を再開しようと思っていたところに、俺を呼ぶ声が聞こえて振り返った。
すると、そこにはクロとユキがいて、何やら焦った様子でこちらに向かってきていた。
パトロールに出てからしばらく経っていたけど、何か見つけたのかな?
そう思っていると、クロが羽をパタパタさせながら俺に言った。
「結界の向こうで、人間が猫いじめてた!」
「なんだって?!許さん!ロウキさんや!出番ですよ!!」
「……またか。今度は自分で行ったらどうだ?」
「今はまだ弱いからダメだよ俺は。
やるよー…ラウン・チェンジ!」
「はぁ…本当にお前は…」
クロから「領地の結界の向こう側で猫が人間にいじめられている」と教えられた俺は、
すぐさまロウキに「出番ですよ」と言った。
するとロウキはキュッと目を細めて、「自分で行ったらどうだ」と呆れ顔。
そんなロウキに、俺は「弱いからダメだよ」と返し、早速ロウキの毛色を黒に変化させた。
魔王の配下のフェンリルって、設定はめっちゃカッコいいんだけどな。
なんて思いながら、クロの後を追って現場へと向かった。
結界の境界線まではすぐに到着。
だけど、人間の姿はどこにも見当たらなかった。
辺りをキョロキョロと見回していると、クロが可愛らしい短い前足で遠くを指さして言った。
「あっち!」
「え?」
「あっち!ここから真っすぐ走って行ったら人が見えるよ!」
「クロ、あなた目が良いのねぇ…。よし、行こう!」
クロが指さした方向はまだ森の中。
木々に隠れて見えない場所に、どうやら人間がいたようだった。
クロのとんでもない視力に驚きながら、その場所まで皆で向かうと、
そこには既に人間の姿はなく、メインクーンのようなサバトラ柄の猫が横たわっていた。
なんてことを……!
そんな怒りが湧いた俺は、気配感知で意識を集中させ、向こうの方に逃げていく人間の気配を捉えることができた。
男か……誰だアイツ。
この気配は覚えた。今度この辺りを歩いていたら、見つけて懲らしめてやる。
そう思いながら、俺はすぐさま回復魔法を唱えた。
「ハイヒール!」
ポワアアッー
「ふぅ…良かった。ちゃんと効いたみたいだな。」
回復魔法を唱えると、傷だらけだった体の傷がゆっくりと塞がり、
付いていた血も消えて、元の綺麗なサバトラ色が姿を現した。
か、可愛い…。
なんて思っていると、猫ちゃんがパチッと目を覚ました。
キョロキョロと目だけを動かしながら周囲を確認し、最後にバチッと俺と目が合った。
「ンニャアアアアアッ!!!」
ドタドタドタッ――
「あああ…行っちゃった。まあ、人間怖いよな。
とりあえず助けられて良かったー。
クロ、ユキ、パトロールありがとうな!」
俺と目が合った瞬間、猫ちゃんの黒目がぱっと大きくなり、
一目散にその場から逃げていった。
それは仕方のないことだし、ちゃんと元気に走れるようになっているなら、それだけで十分だ。
そう思いながら、クロとユキに「ありがとう」とお礼を言って家に戻った。
猫ちゃん、無事に家に帰れたらいいんだけどな。
そんなことを思っていた―…。
◇
翌日―
「主ー!腹減ったー!」
「はいはい、もうすぐできるよー。」
「おさら、ならべるね。」
爽やかな朝を迎え、しっかりと目が覚めたところで、俺は厨房で朝食の準備をしていた。
クロにせかされながら、サンドイッチと朝スープを温めている。
この世界に来て、時間に追われることがなくなったのは本当にありがたい。
前世では、ある意味時間を気にしなくなっていたけど、それが死因の一つだったのかもしれない。
だからこそ、時間に追われないということが、どれほど幸せかを実感していた。
とはいえ、時計があれば待ち合わせの時なんかには便利だよな…とも思う。
「ヨシヒロ様ー!お外に猫ちゃんが遊びに来てるの!
お腹を空かせているみたいだから、ミルクとかあげてもいい?」
「え?猫?」
時計や時間について考えていると、ピョンピョンと跳ねながら赤色のスライムのガーネットが入ってきた。
朝から珍しいなと思っていると、外に猫がいるからミルクをあげたいと言い始めた。
猫? この場所に猫が来たことなんて今までなかったけど…。
まさかと思い、作りかけのサンドイッチを放り投げて外へ飛び出した。
出入り口の扉を開けると、そこには何とも可愛らしい3匹の子猫と、昨日助けたサバトラ柄のメインクーンによく似た猫が、お行儀よく座っていた。
子猫がいるってことは、この子はお母さん猫だったのか。
そう思いながら、「お腹が空いてるの?」と問いかけると、ニャアンと可愛らしい鳴き声を聞かせてくれた。
「人間用のミルクはお腹壊すよな…。
聖水から作れば大丈夫かな?ちょっと待っててねー。」
何とも可愛すぎる猫ちゃんたちのためにご飯を用意すべく、俺は一度家の中の厨房へ戻った。
聖水が出る水道から瓶に聖水を入れて準備完了。
どうやって生成すればいいのかは分からなかったけど、
「子猫のためになるミルクを作りたい」という祈りを込めて、両手を瓶に向けて意識を集中し、
いつものように「クレオ」と唱えてみた。
すると、掌から微かな温かさが伝わってきて驚いた。
その熱が少しずつ聖水を温め、次第に湯気のようなものが立ち昇り始める。
そして、瓶の中に突然白っぽい粉がパラパラパラッと降り始めた。
その粉は聖水に溶け込み、みるみるうちに透明だった水が真っ白なミルクに変わっていく。
「おぉ……粉ミルクだ……!」
驚きながらも瓶を軽く振ってみると、聖水と混ざったとろりとしたミルクがゆっくりと揺れた。
瓶を触ると掌に伝わってくる温かさも、人間が飲んでちょうどいいくらいの温度。
これなら子猫ちゃんも母猫も飲めるかな?
完全にミルクへと変わったことを確認し、俺はホッとした。
次は母猫のご飯。
王都で購入しておいた魚があったことを思い出し、冷凍庫から取り出す。
フライパンに乗せ、箱に山積みになっていた魔石の中から赤い魔石を一つ手に取り、魚の上に置いた。
このわずか1センチほどの小さな魔石は、冷凍したものを解凍してくれる優れもので、
この事実を発見した時はめっちゃ喜んだ。
「よし、解凍完了。あとは素焼きしてほぐしてやれば食べられるかな。」
数秒待つと解凍が終わり、フライパンで味を付けずにしっかり焼けば調理は完了。
焼けた魚をお皿に移し、骨をすべて取り除いて食べやすい大きさにほぐしてやれば、母猫の朝ごはんの出来上がり。
俺は急いでミルクと一緒に外へと運んだ。
「ごめん!お待たせ!こっちがミルクで、お母さんはこっちのお魚食べてね。」
「ヨシヒロ様ありがとう!私が渡すね!」
「ありがとう、ガーネット。じゃあ、お願いね。」
外に出ると、俺が戻ってくるのを待っていたガーネット。
自分がミルクをあげると言い、空の深皿と瓶を上手に頭に乗せて猫ちゃんの元へと向かった。
だけど、手がないから瓶のふたを開けられなくて、俺が代わりに開けてお皿に移してやると、
子猫はごくごくと一生懸命ミルクを飲み始めた。
母猫にもミルクとほぐした魚をあげると、一目散に魚を食べ始めた。
よほどお腹が空いていたのか、あっという間にたいらげて、子猫のお腹はパンパンに膨れていて、可愛すぎた。
母猫も食べ終わると、口の周りをペロペロと舐めて満足そうにしていた。
それにしても、よくこの場所に俺たちがいることが分かったなぁ。
もしかして、クロたちの匂いを辿ってきたのかな?なんて思いながら、
このままこの子たちが望むなら、ふれあい広場に連れて行ってみようかな?
そう思いながら、そっと手を伸ばして匂いを嗅いでもらい、
安心してもらったところで顎のあたりを撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らし、
久しぶりに癒しの音を聞いた俺の頬も緩んだ。
この様子なら、ちゃんと付いて来てくれるかもしれないと思い、母猫に声をかけた。
「猫ちゃんたち、うちに住むかい?こっちにおいで!」
「ニャアアンッ」
母猫に声をかけると、元気いっぱいに返事をしてくれた。
そして、湖の方へ向けて少し歩くと、子猫と母猫は俺たちに続いて歩き始めた。
これは猫ちゃん散歩じゃん!最高!
とってもスローペースな散歩だけど、何とも言えない心地よさがあった。
猫ちゃんが、ふれあい広場の第一号の住人か。
となると、アレを生成しなくちゃな。
そう頭の中でいろいろと考えながら、湖へと向かった―…。
家の庭で野菜の収穫をしている時、ふとそんなことを思った。
それは、前世のように季節を感じる“カレンダー”という概念が、この世界にもあるのかどうか。
家にはそれらしきものがなかったし、王都でもちゃんと見たことがなかったから、
そもそも、そういうものが存在しているのかすら分からなかった。
でも、きっとエマなら答えてくれるだろうと思い、彼女に尋ねてみた。
「エマ、どう思う?何か知ってる?」
【このソウリアス王国には、あなたの前世で言う“太陽暦”のようなものが存在します。
アーロン国王が生まれた際、ご自身で王家に提案し広めたもので、1月から12月までの時季に分けられ、
春・夏・秋・冬の四季が巡るように定められています。
日本のように明確に四季が分かれているわけではありませんが1週間は7日、1ヶ月は30日または31日とされ、合計365日で構成されています。
また、日本で言う“祝日”のようなものも含まれており、年々改定されて増えているそうです。】
「へぇー…アーロンさん、すごいなぁ。国の考え方を変えたってことだもんな?
アーロンさん自身が四季と共に生活してきたから、訳が分からなくなる前に広めたんだろうな。
でも、俺もその方が助かるけど!
…じゃあ、今は何月になるんだろう?ちょっと暑い気がするけど。」
【本日は5月31日の土曜日です。明日は国民の休日、日曜日となります。】
「5月の終わりかー。少しずつ暑くなってくる時季じゃん?
そんで今日は土曜日なのかー。
俺にとっては土日も平日と一緒だったけど、今は年中休みの感覚だから、
暦の概念があるって分かると、さらに幸せ気分だなぁ!」
エマにこの世界に暦があるのかと尋ねると、まさかの回答が返ってきて驚いた。
この世界にも四季という概念があり、ちゃんと日付と曜日が定められているなんて。
アーロンさんが広めたと言っていたけど、これは本当に良いことを広めたと思う。
他の国にも根付いているかは分からないけど、少なくとも俺が住んでいる場所で当たり前になっているだけで、ありがたかった。
「そっかぁ。じゃあ、カレンダーが家にないと不便だな。
カレンダーなら俺にお任せってやつだ!・・・・・・クレオ!」
この世界に暦という概念があるのなら、絶対にカレンダーを家に置いておきたい。
そう思った俺は、手袋を外してすぐにカレンダーを生成した。
A3サイズくらいで数字が大きく書いてあるこの感じ、懐かしい。
とりあえず、あとで部屋のどこかに飾ろうと思い、外のテーブルに置いた。
トイレは風水的にダメだったような?まあ、あとで考えよう。
そう思いながら、畑作業を再開した。
「あーるーじー!主ー!」
「ん?」
「主ー!」
「クロ?どうした?」
手袋をはめ直して収穫作業を再開しようと思っていたところに、俺を呼ぶ声が聞こえて振り返った。
すると、そこにはクロとユキがいて、何やら焦った様子でこちらに向かってきていた。
パトロールに出てからしばらく経っていたけど、何か見つけたのかな?
そう思っていると、クロが羽をパタパタさせながら俺に言った。
「結界の向こうで、人間が猫いじめてた!」
「なんだって?!許さん!ロウキさんや!出番ですよ!!」
「……またか。今度は自分で行ったらどうだ?」
「今はまだ弱いからダメだよ俺は。
やるよー…ラウン・チェンジ!」
「はぁ…本当にお前は…」
クロから「領地の結界の向こう側で猫が人間にいじめられている」と教えられた俺は、
すぐさまロウキに「出番ですよ」と言った。
するとロウキはキュッと目を細めて、「自分で行ったらどうだ」と呆れ顔。
そんなロウキに、俺は「弱いからダメだよ」と返し、早速ロウキの毛色を黒に変化させた。
魔王の配下のフェンリルって、設定はめっちゃカッコいいんだけどな。
なんて思いながら、クロの後を追って現場へと向かった。
結界の境界線まではすぐに到着。
だけど、人間の姿はどこにも見当たらなかった。
辺りをキョロキョロと見回していると、クロが可愛らしい短い前足で遠くを指さして言った。
「あっち!」
「え?」
「あっち!ここから真っすぐ走って行ったら人が見えるよ!」
「クロ、あなた目が良いのねぇ…。よし、行こう!」
クロが指さした方向はまだ森の中。
木々に隠れて見えない場所に、どうやら人間がいたようだった。
クロのとんでもない視力に驚きながら、その場所まで皆で向かうと、
そこには既に人間の姿はなく、メインクーンのようなサバトラ柄の猫が横たわっていた。
なんてことを……!
そんな怒りが湧いた俺は、気配感知で意識を集中させ、向こうの方に逃げていく人間の気配を捉えることができた。
男か……誰だアイツ。
この気配は覚えた。今度この辺りを歩いていたら、見つけて懲らしめてやる。
そう思いながら、俺はすぐさま回復魔法を唱えた。
「ハイヒール!」
ポワアアッー
「ふぅ…良かった。ちゃんと効いたみたいだな。」
回復魔法を唱えると、傷だらけだった体の傷がゆっくりと塞がり、
付いていた血も消えて、元の綺麗なサバトラ色が姿を現した。
か、可愛い…。
なんて思っていると、猫ちゃんがパチッと目を覚ました。
キョロキョロと目だけを動かしながら周囲を確認し、最後にバチッと俺と目が合った。
「ンニャアアアアアッ!!!」
ドタドタドタッ――
「あああ…行っちゃった。まあ、人間怖いよな。
とりあえず助けられて良かったー。
クロ、ユキ、パトロールありがとうな!」
俺と目が合った瞬間、猫ちゃんの黒目がぱっと大きくなり、
一目散にその場から逃げていった。
それは仕方のないことだし、ちゃんと元気に走れるようになっているなら、それだけで十分だ。
そう思いながら、クロとユキに「ありがとう」とお礼を言って家に戻った。
猫ちゃん、無事に家に帰れたらいいんだけどな。
そんなことを思っていた―…。
◇
翌日―
「主ー!腹減ったー!」
「はいはい、もうすぐできるよー。」
「おさら、ならべるね。」
爽やかな朝を迎え、しっかりと目が覚めたところで、俺は厨房で朝食の準備をしていた。
クロにせかされながら、サンドイッチと朝スープを温めている。
この世界に来て、時間に追われることがなくなったのは本当にありがたい。
前世では、ある意味時間を気にしなくなっていたけど、それが死因の一つだったのかもしれない。
だからこそ、時間に追われないということが、どれほど幸せかを実感していた。
とはいえ、時計があれば待ち合わせの時なんかには便利だよな…とも思う。
「ヨシヒロ様ー!お外に猫ちゃんが遊びに来てるの!
お腹を空かせているみたいだから、ミルクとかあげてもいい?」
「え?猫?」
時計や時間について考えていると、ピョンピョンと跳ねながら赤色のスライムのガーネットが入ってきた。
朝から珍しいなと思っていると、外に猫がいるからミルクをあげたいと言い始めた。
猫? この場所に猫が来たことなんて今までなかったけど…。
まさかと思い、作りかけのサンドイッチを放り投げて外へ飛び出した。
出入り口の扉を開けると、そこには何とも可愛らしい3匹の子猫と、昨日助けたサバトラ柄のメインクーンによく似た猫が、お行儀よく座っていた。
子猫がいるってことは、この子はお母さん猫だったのか。
そう思いながら、「お腹が空いてるの?」と問いかけると、ニャアンと可愛らしい鳴き声を聞かせてくれた。
「人間用のミルクはお腹壊すよな…。
聖水から作れば大丈夫かな?ちょっと待っててねー。」
何とも可愛すぎる猫ちゃんたちのためにご飯を用意すべく、俺は一度家の中の厨房へ戻った。
聖水が出る水道から瓶に聖水を入れて準備完了。
どうやって生成すればいいのかは分からなかったけど、
「子猫のためになるミルクを作りたい」という祈りを込めて、両手を瓶に向けて意識を集中し、
いつものように「クレオ」と唱えてみた。
すると、掌から微かな温かさが伝わってきて驚いた。
その熱が少しずつ聖水を温め、次第に湯気のようなものが立ち昇り始める。
そして、瓶の中に突然白っぽい粉がパラパラパラッと降り始めた。
その粉は聖水に溶け込み、みるみるうちに透明だった水が真っ白なミルクに変わっていく。
「おぉ……粉ミルクだ……!」
驚きながらも瓶を軽く振ってみると、聖水と混ざったとろりとしたミルクがゆっくりと揺れた。
瓶を触ると掌に伝わってくる温かさも、人間が飲んでちょうどいいくらいの温度。
これなら子猫ちゃんも母猫も飲めるかな?
完全にミルクへと変わったことを確認し、俺はホッとした。
次は母猫のご飯。
王都で購入しておいた魚があったことを思い出し、冷凍庫から取り出す。
フライパンに乗せ、箱に山積みになっていた魔石の中から赤い魔石を一つ手に取り、魚の上に置いた。
このわずか1センチほどの小さな魔石は、冷凍したものを解凍してくれる優れもので、
この事実を発見した時はめっちゃ喜んだ。
「よし、解凍完了。あとは素焼きしてほぐしてやれば食べられるかな。」
数秒待つと解凍が終わり、フライパンで味を付けずにしっかり焼けば調理は完了。
焼けた魚をお皿に移し、骨をすべて取り除いて食べやすい大きさにほぐしてやれば、母猫の朝ごはんの出来上がり。
俺は急いでミルクと一緒に外へと運んだ。
「ごめん!お待たせ!こっちがミルクで、お母さんはこっちのお魚食べてね。」
「ヨシヒロ様ありがとう!私が渡すね!」
「ありがとう、ガーネット。じゃあ、お願いね。」
外に出ると、俺が戻ってくるのを待っていたガーネット。
自分がミルクをあげると言い、空の深皿と瓶を上手に頭に乗せて猫ちゃんの元へと向かった。
だけど、手がないから瓶のふたを開けられなくて、俺が代わりに開けてお皿に移してやると、
子猫はごくごくと一生懸命ミルクを飲み始めた。
母猫にもミルクとほぐした魚をあげると、一目散に魚を食べ始めた。
よほどお腹が空いていたのか、あっという間にたいらげて、子猫のお腹はパンパンに膨れていて、可愛すぎた。
母猫も食べ終わると、口の周りをペロペロと舐めて満足そうにしていた。
それにしても、よくこの場所に俺たちがいることが分かったなぁ。
もしかして、クロたちの匂いを辿ってきたのかな?なんて思いながら、
このままこの子たちが望むなら、ふれあい広場に連れて行ってみようかな?
そう思いながら、そっと手を伸ばして匂いを嗅いでもらい、
安心してもらったところで顎のあたりを撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らし、
久しぶりに癒しの音を聞いた俺の頬も緩んだ。
この様子なら、ちゃんと付いて来てくれるかもしれないと思い、母猫に声をかけた。
「猫ちゃんたち、うちに住むかい?こっちにおいで!」
「ニャアアンッ」
母猫に声をかけると、元気いっぱいに返事をしてくれた。
そして、湖の方へ向けて少し歩くと、子猫と母猫は俺たちに続いて歩き始めた。
これは猫ちゃん散歩じゃん!最高!
とってもスローペースな散歩だけど、何とも言えない心地よさがあった。
猫ちゃんが、ふれあい広場の第一号の住人か。
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ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
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