魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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70話 気合を入れて見張っていました

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「そうか…どこにでもいるんだよな。弱いものいじめする奴はよ…。
ヨシヒロが見つけてくれて良かった。ちゃんと家族に迎え入れてくれたみたいだしな。」

「クロとユキが見つけてくれなかったら、ルーナは死んでました…。
だから、許すわけにはいかなくて。」

「猫や犬、小動物で腕を試してから魔物に向かう奴も少なくないからな…。
とりあえず今日はギルドで見張ってもらって構わねぇ。もし見つけたら教えてくれ。」

「ありがとうございます!ガーノスさん。」

「いいってことよ。俺も弱いものいじめする奴は大嫌いだからな!」


別館にやってきたガーノスさんに、今回の出来事を話すと、ギルドでの調査を快く許してくれた。
ギルドの隅にはいくつかテーブルが設置されているから、そこに座って人間観察でもしようかな。
なんて思いながらも、ガーノスさんの言葉が胸にギュッと響いた。
魔物ではなく、犬や猫、小動物で腕試しをしてから魔物討伐に向かうなんて…
なめとんか!って思う。だけど、この世界ではそれが許されてしまっている現実も、キツい。
自分に害をなす存在でない限り、殺傷すべきじゃないのに。

そう思いながら別館を出て、表からギルドに入ると、
血気盛んな人たちが集まった時に感じる、独特の空気が漂っていた。
そして、相変わらず俺への視線がとても痛い。
だけど、俺の顔はもう認識されないから、少しだけ安心できる。
…とはいえ、クロたちは認識されてるから、結局同じなのかもしれないけど。


「ヨシヒロさん!こんにちは!」

「アリーシャさん、こんにちは。今日は少しばかりお邪魔しますね。」

「裏でギルド長から話は聞きました!思う存分いてくださいね!
私も絶対に許せませんから!」

「ははは、ありがとう。」


ひとまず受付でアリーシャさんに挨拶をすると、
「思う存分いてください」と言って、なぜか気合が入っていた。
アリーシャさんも俺と同じ気持ちでいてくれて、
「許せない」と怒ってくれたのが、すごく心強かった。
こういう人がいてくれると、本当に救われるなと思いながら、受付に一番近いテーブル席が空いていたので、そこの席に着いた。
俺が席に着くと、ギルド内がやたらとザワつき始めた。
チラチラと俺を見ながら、小さな声で俺の話をしているのが、よく分かる。
勝手に話していな!俺は君たちには用はないのだよ。
俺が用事があるのは、あの時の男だけだ。心の中でそう思いながら見ていた。


「主、ルーナをいじめてた奴が分かったら、決闘していい?」

「僕も決闘したいです。ルーナのために。」

「君たちは本当に優しいねぇ。でも、決闘はやめようね?」

「なんでだよー!悪い奴なんだぞー!」

「あのねー、君たちと決闘したら、相手は死んじゃうのよ。
クロは悪魔ちゃんだし、ユキはフェンリルだからね。
普通の人とやり合ったら、死んじゃうのよ。」

「じゃあ、半殺しならいい?」

「クロ!めっ!そんな怖いこと言っちゃダメ!
相手を傷つけたりするってことは、その男と同じになっちゃうんだよ?
同じ土俵に上がっちゃダメ。それ以外の方法で懲らしめようね。」

「チェッ…でも、主がそういうなら、そうする。」

「そうですね。ルーナを傷つけた人と同じにはなりたくないです!」

「うん。分かってくれてありがと。」


周りの様子を見ていると、クロとユキが「犯人を見つけたら決闘したい」と言い始めた。
この世界では、決闘でどちらかが死んでも罪には問われないと聞いていたから、即座に「ダメだよ」と言った。
すると、クロが真面目な顔で「半殺しならいい?」と恐ろしいことを言うもんだから、つい怒ってしまった。
その理由を伝えると、クロは納得しきれていない表情をしながらも、「分かった」と言ってくれた。
ユキも「傷つけた奴と同じにはなりたくない」と言ってくれて、分かってもらえて本当に良かった。
本当にね、君たちが本気を出したら、きっと瞬殺なんだよ。怖い怖い!
なんて思いながら、二人の頭をそっと撫でた。

この子たちは、ルーナのことを大切に思ってくれているのが伝わってきて、俺は嬉しくなっていた。
今日は犯人に会えないかもしれないけど、絶対に見つけなければいけないと思った。
話をして、きちんと理解できる相手だったらいいけど。
もしそうでないなら…。まあ、その時はその時で考えよう。
そう思いながら、行き交う冒険者たちを静かに観察していた―…。









「主、お腹空いたー。」

「そうだなぁ。もうお昼だしな。ちょっと待ってて。
アリーシャさん!すみません、ここで昼食を食べても大丈夫でしょうか?」

「構いませんよ!結構いらっしゃるんですよ、このテーブルで昼食を食べてから依頼を受ける人。」

「そうなんですね!ありがとうございます!
クロ、ユキ。食べていいって。」

「わーい!ありがと、アリーシャ!」

「ありがとうございます、アリーシャさん!」

「ふふっ、いいですよ~クロくちゃんにユキちゃん。」


テーブルに座ってどれくらい経っただろうか。
気づけば昼食の時間になっていて、クロがお腹が空いたと言い始めた。
受付のアリーシャさんに昼食を食べても大丈夫か確認すると、
笑顔で「大丈夫ですよ」と言ってもらえて、ホッとした。
俺はすぐさまアイテムボックスの鞄から、サンドイッチとスープを取り出した。
今日のスープは冷たくても美味しいコーンスープだから、ちょうど良かった。

なんて思いながらテーブルの上に並べると、ユキがピョンッと椅子の上に座った。
最近ユキは、なぜか両前足を使ってパンを掴めるようになり、椅子に座って食べられるようになっていた。
さすがにスープは飲めないから、あとで床に置いてやろうと思い、
ひとまずはテーブルの上に置いていた。
それにしても、ユキの器用さには驚かされる。フェンリルって、やっぱり凄いんだな。

そして、そんな様子を見ている冒険者たちもまた、
俺が最初にユキを見た時と同じような表情で、彼を見つめていた。
まあ、そうだろう。
椅子に座って前足でサンドイッチを掴んで食べるフェンリルなんて、見たことないだろうからな…。
可愛いだろう?俺の従魔たちは。そう皆に言って回りたいくらいだ。


「主ー、全然来ないな。」

「そうだなー。毎日通ってるわけじゃないのかもしれないな。」

「ちょっと飽きちゃった。」

「あはは、そうだね?じゃあちょっとゲートくぐって休憩するか?」

「そうするー!」

「分かった。じゃあ、俺はもう少しここにいるから、二人は先に戻ってな?」

「あるじさま、おひとりで大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。気にしなくていいから、行っておいで?」

「分かりました!ご飯を食べたら行きましょう、クロ兄さん!」

「そうしよー!」


サンドイッチを頬張りながら人間観察を続けていると、どうやら人探しに飽きた様子のクロとユキ。
ここは俺一人で大丈夫だろうと思い、二人に「ゲートから家に戻っていいよ」と声をかけた。
すると二人は大きく頷き、急いでご飯を食べてから、
アリーシャさんにお願いして受付の中を通らせてもらい、外に繋がる扉から別館へと出て行った。

まあ、分かるよ。何もせずにただ人間観察してるだけだから、飽きちゃうよね。子供と一緒。
そういうところも、なんだか可愛いんだよなぁ。
こんなふうに思ってしまう俺は、完全に従魔たちに心を奪われてるなって思う。
それが悪いことだとは思っていないから、特に気にしてはいないけど。
なんて思いながら、サンドイッチを頬張りつつ、一人で人間観察を続けていた―…。










数時間後-



「今日はもうダメだな…。疲れたし、俺も戻るかな。
アリーシャさん!今日は無理言ってすみませんでした。俺もそろそろ帰ります!」

「犯人、見つからなくて残念でしたね…。でも、そのうちきっと来ます!
その時は、ちゃんと叱ってやりましょうね!」

「そうですね!その時は一緒にお説教、お願いします!
今日はありがとうございました!」

「いえいえ!では、また!お疲れ様でした!」


あれから数時間待ってみたものの、あの時の気配の男は現れなかった。
毎日通っている奴なら会えると思っていたけど、どうやら熱心に冒険者をやっているわけじゃなさそうだ。
そう思いながらアリーシャさんに挨拶をして別館へ向かい、
誰もいなかったので、ひとまずお礼にといつものルミグミをテーブルの上に置いてから、ゲートをくぐって家に戻った。


「主ー!お帰りー!」

「その顔は…見つからなかったんだな?」

「あるじ、おつかれさま。」

「あるじさま、また必ず探しに行きましょうね。」

「あー!ヨシヒロ様、おかえりなさい!」

「皆、ただいまー。」


ゲートをくぐると、そこには皆が大集合していて、次々に俺に声をかけてくれた。
「おかえり」って言われたり、「ただいま」が言えるって、幸せすぎるんだが。
たとえそれを言い合えるのが魔物相手だったとしても、
彼らの優しさを俺は知っているから、彼らが発する言葉のすべてが愛おしく思える。


「よし、ちょっと田んぼの様子を見てから晩ご飯の支度しようかなぁ。」

「賛成ー!」

「行きましょう、あるじさま!」

「そういえばさ、今日初めて見た冒険者がいてさ―」


こんなふうに他愛のない会話をしながら一緒にいる時間が、
癒しの時間となって、俺の心を元気にしてくれる。
こんな風になれる力をくれるこの子たちに、何のお返しもできないけど、
楽しく生きていってもらえるように、俺は努力できたらって思う。
だから、一つずつ、確実に問題を解決していきたいなと思いながら、
皆と一緒に湖へと向かった。

それにしても、あと一週間くらいでお米が収穫できちゃうのかぁ。
そう思うと嬉しくて、なんだかニヤけてしまうな―…。
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