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71話 ついにその日がやってきました
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無事に田植えが終わってから、5日が過ぎた。
毎日田んぼを見に行っていたけれど、そのたびに苗が成長しているのが分かる。
普通なら、田植えから5日ではほとんど変化がないはずだけど、
この世界の、この場所は違った。
植えた初日は可愛らしいサイズだった苗が、いつの間にかしっかり地面に根を張り、
力強くまっすぐに伸びていた。すでに20から30cmほどになっている。
これが聖水と、聖水が染み込んだ土壌の力なんだなと、改めて感心させられていた。
「いやぁ、成長が早いってすごいなー。ねぇ?ルーナ!」
「にゃああんっ!」
「可愛いなぁ!ルーナ!おいでっ!」
「にゃんっ!」
クロたちはまだ家の周りで遊んでいたので、俺は一足先に田んぼに来ていた。
すると、すぐさま駆け寄ってきてくれたルーナ。
声をかけると、満面の笑みで可愛い鳴き声を聞かせてくれて、思わず抱き上げた。
ルーナは、どことなく俺の世界にいた猫とは違う気がするけど、
この世界の猫ちゃんはこういう雰囲気が普通なのかもしれない。
メインクーンに似てるから、親近感が湧きまくりなんだけどな。
それに、ルーナはヤンチャというよりも、気品があって、とても美しく気高い猫ちゃん。
なんだか女王猫みたいな感じ。ルーナが女王の国とか、見てみたいなぁ。
「ルーナ、お昼ご飯は魚を焼くから食べようなー。」
「にゃにゃにゃーっ!」
「よーし!そうと決まれば、さっさと中干しとやらを始めようかね!
ルーナは危ないから、子供たちといい子にしててねー。」
「にゃあん!」
ルーナと少しお喋りをしたあと、キャットタワーに乗せて、俺は田んぼへと戻った。
これから行うのは中干し作業。
田んぼの土を乾燥させ、稲の根をしっかり張らせるために水を抜くという工程だったな。
この田んぼの水を抜くとして、湖に戻すわけにはいかないから、どうしようか。
なんて考えていたところに、ラピスたちの声が聞こえてきて、振り返った。
「ヨシヒロ様!今回も僕たちの出番ですよね!」
「え?」
「エマちゃんが前に、水を抜くって言ってたから!
私たちが水を吸って外に出せばいいわよね!」
「オイラたちにお任せだよー!」
「なるほど!それは助かるなぁ!よろしくな、皆!
お水を出したら、木々に撒いておいてくれる?捨てるにはもったいないからさ!」
「はーーーいっ!」
ラピスたちは、今日が中干しの日だと分かっていて、自分たちの出番だと張り切ってくれていた。
スライムは何でも吸収できるみたいで、田んぼの水を皆で吸ってくれると言ってくれたので、早速お任せしてみた。
ラピスたちは田んぼの端まで飛び跳ねながら向かうと、苗を踏まないように、
体の一部を細長く伸ばして、手のような、もしくはストローのような形に変えていった。
その体の一部を水に浸けると、水が体の中に吸い込まれていき、
少しずつ体が風船のように膨らみ始めた。
約20匹のスライムたちが同じような動きをするもんだから、驚くというよりも、圧倒されていた。
「はぁー…すごいなぁ、皆!」
「僕たちみたいなスライムでも、ヨシヒロ様のお役に立てるのが嬉しい!」
「俺、ヨシヒロ様の従魔になれて嬉しい!」
「ルドー!ムーン!毎日毎日、俺に癒しをくれてるんだよー君たちは!
俺の方こそ、皆が俺を認めてくれて嬉しいよー!」
「ヨシヒロ様は立派な主ですよ!
あ、もう少しで終わります!ヨシヒロ様!」
「このお水は周辺の樹木に撒いてくるね!」
バキュームカー並みに水を吸収していくその姿に圧倒されて声を上げると、
ルドとムーンが俺を泣かせるような言葉をくれた。
だから俺も、人間である俺を認めてくれてありがとうと、改めてお礼を言った。
そんな中、ラピスから「水を吸い終わった」と報告があり、
スライムたちは一斉に辺りに散らばっていき、今度は放水車のように水を撒き始めた。
万が一火事になった時、この子たちはすごく助けになるな!
なんて、一人で感心していた。
「ヨシヒロ様!水の給水と放水が終わりました!」
「仕事が早いねぇ、君たち!お疲れ様!ありがとうな!」
【皆さん、水の吸水処理お疲れ様です。これで中干しの準備が完了です。
この状態で5日間、土を乾燥させます。
水がなくなると、稲の根は水分を求めて地中深くに伸びようとします。
これにより、稲の茎が太くなり、風雨に強い丈夫な稲へと育つという情報があります。】
「へぇ、“雨にも負けず”みたいなやつだな。」
【5日後には、この田んぼ一面が黄金色に輝くでしょう。
本来は再度水を入れるのが通常ですが、この土地で育った稲穂は5日後には完成形となった状態になります。
そのため、再度水を張る期間は必要なく、収穫となるわけです。】
「そうなのか…凄いとしか言いようがないくらい凄いのね。」
【この世界は特別なのですよ、ヨシヒロさん。】
「へぇ…って今、俺の名前呼んだ?!珍しい!」
【…気のせいです。では、以上です。】
スライムたちの素晴らしい働きぶりに感心していた時、
エマがねぎらいの言葉をかけてくれ、これからの動きについて説明してくれた。
どうやら、これから5日間でこの田んぼは黄金色へと変化するらしい。
様々な工程をすっ飛ばして、約5日で収穫できるようになるなんてヤバいだろう。
そう思っていると、エマは「この世界は特別なのですよ」と俺を諭した。
そして、初めて俺の名前を呼んだ気がして思わず問いかけると、
「気のせいです」と冷たくあしらわれて通信が切られた。
エマは相変わらずだなー。
なんて思いながら、スライムたちを集めて体を綺麗にした。
「ヨシヒロ様、収穫が楽しみですね!」
「本当だね。美味しいんだよ、お米って。皆にも早く食べてもらいたいなぁ。」
「ヨシヒロ様の故郷の味、とても興味あるわ!」
「どういう表現をすればいいのか分かんないんだけど、何にでも合うんだよね、お米って!
とにかく、収穫まで一緒に見守ろうな!」
「はーいっ!」
水が抜かれた田んぼを見つめながら、皆がお米の収穫を楽しみにして盛り上がっていた。
この世界には「お米」というものが存在しないし、
そもそもスライムたちが人間と同じものを食べるなんて、普通はない気がする。
でも、俺と生活するようになってから、グルメなスライムに進化しただろうからきっと、お米の味も気に入ってくれるはず。
だから、早く食べさせてやりたいなぁという気持ちでいっぱいだった―…。
◇
「おはよー!皆、朝ごはんできてるから集まってー!」
「主、おはよう!今日は朝からご機嫌!」
「あるじさま、おはようございます!」
「お前は子供のようだな。」
「あるじ、はこぶね。」
「ヨシヒロ様、おはようございます!」
いつもより1時間早く目が覚めてしまった朝。
誰もいない厨房でせっせと皆の朝食を作り終えたところで、皆を起こした。
とても上機嫌な俺を見て、皆の反応は様々。
特にロウキは呆れたようにフンッと鼻を鳴らしていた。
でも、俺がこうなるのは仕方がない。
あれから無事に5日が過ぎ、いよいよ今日は収穫の日。
テンションが上がらないわけがない。
「俺は一足先に湖に出かけるから、食事が終わったらぼちぼち来てくれ。」
「分かったー。」
「分かりました!あるじさま。」
朝食づくりを終えて皆を呼び寄せた俺は、ルーナと子供たちの朝食を持って一足先に湖へ向かった。
今日は天気も良くて、まさに収穫日和。朝から頑張れそうだな。
そう思いながら湖に到着すると、キャットタワーの上でくつろぐルーナを見つけて声をかけた。
「ルーナ、おはよう!」
「にゃあん!」
「今日もいい天気で良かったよねー。
朝ごはんを持ってきたから、皆で食べような。」
「んにゃあ!」
ルーナに朝の挨拶をして頭を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らしてくれた。
もうすっかり懐いてくれて、子供たちも楽しそうに過ごしてくれている。
それが何より嬉しい。
ルーナと子供たちを連れてガゼボへ行き、朝食を置いて、俺は椅子に腰かけてパンを食べ始めた。
「いただきまーす!
静かな朝もいいねぇ。パワースポットだろうなぁ、ここ。」
パンを頬張りながら澄んだ空気と静かな世界を楽しんでいた時、前世の朝食の場面がふいに浮かんだ。
あの頃は朝も夜もなく働いていて、朝食はいつもコンビニで買った紙パックの野菜ジュースとパンかおにぎり。
味わう時間なんてなくて、無理やり口に放り込んですぐ仕事を始めていたっけ。
思えば、転職したのが失敗だったんだよなぁ。
甘い言葉に誘われて入った先は、まさかのスーパーブラック企業。
辞めたくても辞められなくて、皆生きた屍のようになっていた。
そんな俺が、今ではこんなにも優雅な朝食の時間を過ごせているなんて、あの時の俺には、まるで夢物語だ。
そう思いながら、幸せというものを噛みしめていた。
「ごちそうさまでした!」
「にゃにゃにゃあにゃにゃにゃーにゃ!」
「え?今、ごちそうさまでしたって言った?え?天才?」
「にゃあん!」
「異世界の猫って、俺が思ってるよりすごいのかも!
可愛いから何でもいいけど!」
あっという間に朝食を食べ終えて「ごちそうさまでした」と言うと、
隣でルーナが猫の言葉で「ごちそうさまでした」と言ったように聞こえて、思わず目を見開いた。
問いかけると、にゃあんと可愛らしく鳴くだけだったけど、今、絶対に言ったよな?
そう思うと、やっぱり普通の猫ちゃんではないなと直感的に思ったけど、
可愛ければ何でもいいやと思い、ルーナの頭を撫でていた。
「主ー!お待たせー!」
「稲を収穫しましょう!あるじさま!」
「今日は我はいらぬだろう?」
「あるじ、おれ、なにすればいい?」
ルーナの可愛さと頭の良さに感心しているところに、朝食を終えたクロたちがやってきた。
ロウキ以外はやる気満々で、なぜか俺は嬉しくなった。
ただの俺のわがままで始めたお米づくりなのに、皆が一生懸命頑張ってくれている。
本当に感謝してる。
「さてと、今日はついに稲刈りです!これは鎌と言って、稲を刈るための道具!
これが使えるのはミルだけかな?クロはちょっと使いにくいだろう?」
「俺できるよ、主ー!」
「そうか?じゃあ少し小さめの鎌もあるから、それを渡すけど気をつけて持つんだぞ。
この黄金に輝く稲を、地面から5cmから10cmのところで鎌で切ります!
鎌は地面と水平に引くのがポイントです!」
「分かったー!」
「がんばるね!」
「ヨシヒロ様!僕たちも鎌は持てます!やらせてください!」
「え?相変わらずラピスたちは頑張り屋さんだなぁ!」
「ルド!鎌を解析したから複製して!」
「任せて、レピス!」
これから行う作業に必要な鎌をミルとクロに渡したあと、稲刈りについての説明をしていた。
すると、グイッと前に出てきたラピス。どうしたのかと思っていると、自分たちも鎌が持てると言い、体からニョキッと細長い手のような物体を出した。
クロが持っていた鎌を借りたラピスは、すぐさま解析を始め、情報をルドに伝達。
あっという間に、スライム全員分の少し小さめの鎌が誕生した。
「それじゃあ、作業開始!怪我しないように気をつけてくれー!」
「はーーーいっ!」
「こんな感じでやるからな!」
ザク、ザクッ―
作業開始の合図を送り、乾いた田んぼに足を踏み入れ、稲穂を手に取り、
鎌で切り裂く音がザクッ、ザクッと爽やかに響き渡った。
なんて良い音なんだろう。
稲刈りは、体験学習でやらせてもらったことがあるくらいで、
もう小学生の頃の記憶しかないけど、あの頃も楽しんでいたんだろうか。
確実に言えるのは、今の方が絶対に楽しいということ。
それに、見てほしいこの光景を。
ロウキとユキは座り込んで尻尾を振りながら、仲間たちの作業を見守っていた。
クロは、小さな手で小さめの鎌を危なげなく扱い、稲を数株ずつ束ねながら刈り取るという、見た目に反してとても正確で手際の良い仕事ぶり。
ミルは、その怪力で鎌を軽々と扱い、稲を根元から豪快に刈り倒している。
だけどその作業はとても丁寧で、ミノタウロスの進化を見た気がした。
そして、ラピスをはじめとするスライムたちは、複製した小さな鎌を、
手のように伸びた体の一部でしっかりと持ち、一生懸命に稲を刈り始めた。
カラフルなスライムたちが一列になって稲を刈り進めるその姿は、何とも言えないほど愛らしい。
「俺も負けてられないな!」
皆の頑張りを見ていた俺も、気合を入れて稲刈りに精を出した。
このお米は絶対に美味しいぞ。なんせ、皆で作り上げた最高のお米なんだからな。
そう思いながら汗をぬぐいつつ、楽しみながら作業を続けていた―…。
毎日田んぼを見に行っていたけれど、そのたびに苗が成長しているのが分かる。
普通なら、田植えから5日ではほとんど変化がないはずだけど、
この世界の、この場所は違った。
植えた初日は可愛らしいサイズだった苗が、いつの間にかしっかり地面に根を張り、
力強くまっすぐに伸びていた。すでに20から30cmほどになっている。
これが聖水と、聖水が染み込んだ土壌の力なんだなと、改めて感心させられていた。
「いやぁ、成長が早いってすごいなー。ねぇ?ルーナ!」
「にゃああんっ!」
「可愛いなぁ!ルーナ!おいでっ!」
「にゃんっ!」
クロたちはまだ家の周りで遊んでいたので、俺は一足先に田んぼに来ていた。
すると、すぐさま駆け寄ってきてくれたルーナ。
声をかけると、満面の笑みで可愛い鳴き声を聞かせてくれて、思わず抱き上げた。
ルーナは、どことなく俺の世界にいた猫とは違う気がするけど、
この世界の猫ちゃんはこういう雰囲気が普通なのかもしれない。
メインクーンに似てるから、親近感が湧きまくりなんだけどな。
それに、ルーナはヤンチャというよりも、気品があって、とても美しく気高い猫ちゃん。
なんだか女王猫みたいな感じ。ルーナが女王の国とか、見てみたいなぁ。
「ルーナ、お昼ご飯は魚を焼くから食べようなー。」
「にゃにゃにゃーっ!」
「よーし!そうと決まれば、さっさと中干しとやらを始めようかね!
ルーナは危ないから、子供たちといい子にしててねー。」
「にゃあん!」
ルーナと少しお喋りをしたあと、キャットタワーに乗せて、俺は田んぼへと戻った。
これから行うのは中干し作業。
田んぼの土を乾燥させ、稲の根をしっかり張らせるために水を抜くという工程だったな。
この田んぼの水を抜くとして、湖に戻すわけにはいかないから、どうしようか。
なんて考えていたところに、ラピスたちの声が聞こえてきて、振り返った。
「ヨシヒロ様!今回も僕たちの出番ですよね!」
「え?」
「エマちゃんが前に、水を抜くって言ってたから!
私たちが水を吸って外に出せばいいわよね!」
「オイラたちにお任せだよー!」
「なるほど!それは助かるなぁ!よろしくな、皆!
お水を出したら、木々に撒いておいてくれる?捨てるにはもったいないからさ!」
「はーーーいっ!」
ラピスたちは、今日が中干しの日だと分かっていて、自分たちの出番だと張り切ってくれていた。
スライムは何でも吸収できるみたいで、田んぼの水を皆で吸ってくれると言ってくれたので、早速お任せしてみた。
ラピスたちは田んぼの端まで飛び跳ねながら向かうと、苗を踏まないように、
体の一部を細長く伸ばして、手のような、もしくはストローのような形に変えていった。
その体の一部を水に浸けると、水が体の中に吸い込まれていき、
少しずつ体が風船のように膨らみ始めた。
約20匹のスライムたちが同じような動きをするもんだから、驚くというよりも、圧倒されていた。
「はぁー…すごいなぁ、皆!」
「僕たちみたいなスライムでも、ヨシヒロ様のお役に立てるのが嬉しい!」
「俺、ヨシヒロ様の従魔になれて嬉しい!」
「ルドー!ムーン!毎日毎日、俺に癒しをくれてるんだよー君たちは!
俺の方こそ、皆が俺を認めてくれて嬉しいよー!」
「ヨシヒロ様は立派な主ですよ!
あ、もう少しで終わります!ヨシヒロ様!」
「このお水は周辺の樹木に撒いてくるね!」
バキュームカー並みに水を吸収していくその姿に圧倒されて声を上げると、
ルドとムーンが俺を泣かせるような言葉をくれた。
だから俺も、人間である俺を認めてくれてありがとうと、改めてお礼を言った。
そんな中、ラピスから「水を吸い終わった」と報告があり、
スライムたちは一斉に辺りに散らばっていき、今度は放水車のように水を撒き始めた。
万が一火事になった時、この子たちはすごく助けになるな!
なんて、一人で感心していた。
「ヨシヒロ様!水の給水と放水が終わりました!」
「仕事が早いねぇ、君たち!お疲れ様!ありがとうな!」
【皆さん、水の吸水処理お疲れ様です。これで中干しの準備が完了です。
この状態で5日間、土を乾燥させます。
水がなくなると、稲の根は水分を求めて地中深くに伸びようとします。
これにより、稲の茎が太くなり、風雨に強い丈夫な稲へと育つという情報があります。】
「へぇ、“雨にも負けず”みたいなやつだな。」
【5日後には、この田んぼ一面が黄金色に輝くでしょう。
本来は再度水を入れるのが通常ですが、この土地で育った稲穂は5日後には完成形となった状態になります。
そのため、再度水を張る期間は必要なく、収穫となるわけです。】
「そうなのか…凄いとしか言いようがないくらい凄いのね。」
【この世界は特別なのですよ、ヨシヒロさん。】
「へぇ…って今、俺の名前呼んだ?!珍しい!」
【…気のせいです。では、以上です。】
スライムたちの素晴らしい働きぶりに感心していた時、
エマがねぎらいの言葉をかけてくれ、これからの動きについて説明してくれた。
どうやら、これから5日間でこの田んぼは黄金色へと変化するらしい。
様々な工程をすっ飛ばして、約5日で収穫できるようになるなんてヤバいだろう。
そう思っていると、エマは「この世界は特別なのですよ」と俺を諭した。
そして、初めて俺の名前を呼んだ気がして思わず問いかけると、
「気のせいです」と冷たくあしらわれて通信が切られた。
エマは相変わらずだなー。
なんて思いながら、スライムたちを集めて体を綺麗にした。
「ヨシヒロ様、収穫が楽しみですね!」
「本当だね。美味しいんだよ、お米って。皆にも早く食べてもらいたいなぁ。」
「ヨシヒロ様の故郷の味、とても興味あるわ!」
「どういう表現をすればいいのか分かんないんだけど、何にでも合うんだよね、お米って!
とにかく、収穫まで一緒に見守ろうな!」
「はーいっ!」
水が抜かれた田んぼを見つめながら、皆がお米の収穫を楽しみにして盛り上がっていた。
この世界には「お米」というものが存在しないし、
そもそもスライムたちが人間と同じものを食べるなんて、普通はない気がする。
でも、俺と生活するようになってから、グルメなスライムに進化しただろうからきっと、お米の味も気に入ってくれるはず。
だから、早く食べさせてやりたいなぁという気持ちでいっぱいだった―…。
◇
「おはよー!皆、朝ごはんできてるから集まってー!」
「主、おはよう!今日は朝からご機嫌!」
「あるじさま、おはようございます!」
「お前は子供のようだな。」
「あるじ、はこぶね。」
「ヨシヒロ様、おはようございます!」
いつもより1時間早く目が覚めてしまった朝。
誰もいない厨房でせっせと皆の朝食を作り終えたところで、皆を起こした。
とても上機嫌な俺を見て、皆の反応は様々。
特にロウキは呆れたようにフンッと鼻を鳴らしていた。
でも、俺がこうなるのは仕方がない。
あれから無事に5日が過ぎ、いよいよ今日は収穫の日。
テンションが上がらないわけがない。
「俺は一足先に湖に出かけるから、食事が終わったらぼちぼち来てくれ。」
「分かったー。」
「分かりました!あるじさま。」
朝食づくりを終えて皆を呼び寄せた俺は、ルーナと子供たちの朝食を持って一足先に湖へ向かった。
今日は天気も良くて、まさに収穫日和。朝から頑張れそうだな。
そう思いながら湖に到着すると、キャットタワーの上でくつろぐルーナを見つけて声をかけた。
「ルーナ、おはよう!」
「にゃあん!」
「今日もいい天気で良かったよねー。
朝ごはんを持ってきたから、皆で食べような。」
「んにゃあ!」
ルーナに朝の挨拶をして頭を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らしてくれた。
もうすっかり懐いてくれて、子供たちも楽しそうに過ごしてくれている。
それが何より嬉しい。
ルーナと子供たちを連れてガゼボへ行き、朝食を置いて、俺は椅子に腰かけてパンを食べ始めた。
「いただきまーす!
静かな朝もいいねぇ。パワースポットだろうなぁ、ここ。」
パンを頬張りながら澄んだ空気と静かな世界を楽しんでいた時、前世の朝食の場面がふいに浮かんだ。
あの頃は朝も夜もなく働いていて、朝食はいつもコンビニで買った紙パックの野菜ジュースとパンかおにぎり。
味わう時間なんてなくて、無理やり口に放り込んですぐ仕事を始めていたっけ。
思えば、転職したのが失敗だったんだよなぁ。
甘い言葉に誘われて入った先は、まさかのスーパーブラック企業。
辞めたくても辞められなくて、皆生きた屍のようになっていた。
そんな俺が、今ではこんなにも優雅な朝食の時間を過ごせているなんて、あの時の俺には、まるで夢物語だ。
そう思いながら、幸せというものを噛みしめていた。
「ごちそうさまでした!」
「にゃにゃにゃあにゃにゃにゃーにゃ!」
「え?今、ごちそうさまでしたって言った?え?天才?」
「にゃあん!」
「異世界の猫って、俺が思ってるよりすごいのかも!
可愛いから何でもいいけど!」
あっという間に朝食を食べ終えて「ごちそうさまでした」と言うと、
隣でルーナが猫の言葉で「ごちそうさまでした」と言ったように聞こえて、思わず目を見開いた。
問いかけると、にゃあんと可愛らしく鳴くだけだったけど、今、絶対に言ったよな?
そう思うと、やっぱり普通の猫ちゃんではないなと直感的に思ったけど、
可愛ければ何でもいいやと思い、ルーナの頭を撫でていた。
「主ー!お待たせー!」
「稲を収穫しましょう!あるじさま!」
「今日は我はいらぬだろう?」
「あるじ、おれ、なにすればいい?」
ルーナの可愛さと頭の良さに感心しているところに、朝食を終えたクロたちがやってきた。
ロウキ以外はやる気満々で、なぜか俺は嬉しくなった。
ただの俺のわがままで始めたお米づくりなのに、皆が一生懸命頑張ってくれている。
本当に感謝してる。
「さてと、今日はついに稲刈りです!これは鎌と言って、稲を刈るための道具!
これが使えるのはミルだけかな?クロはちょっと使いにくいだろう?」
「俺できるよ、主ー!」
「そうか?じゃあ少し小さめの鎌もあるから、それを渡すけど気をつけて持つんだぞ。
この黄金に輝く稲を、地面から5cmから10cmのところで鎌で切ります!
鎌は地面と水平に引くのがポイントです!」
「分かったー!」
「がんばるね!」
「ヨシヒロ様!僕たちも鎌は持てます!やらせてください!」
「え?相変わらずラピスたちは頑張り屋さんだなぁ!」
「ルド!鎌を解析したから複製して!」
「任せて、レピス!」
これから行う作業に必要な鎌をミルとクロに渡したあと、稲刈りについての説明をしていた。
すると、グイッと前に出てきたラピス。どうしたのかと思っていると、自分たちも鎌が持てると言い、体からニョキッと細長い手のような物体を出した。
クロが持っていた鎌を借りたラピスは、すぐさま解析を始め、情報をルドに伝達。
あっという間に、スライム全員分の少し小さめの鎌が誕生した。
「それじゃあ、作業開始!怪我しないように気をつけてくれー!」
「はーーーいっ!」
「こんな感じでやるからな!」
ザク、ザクッ―
作業開始の合図を送り、乾いた田んぼに足を踏み入れ、稲穂を手に取り、
鎌で切り裂く音がザクッ、ザクッと爽やかに響き渡った。
なんて良い音なんだろう。
稲刈りは、体験学習でやらせてもらったことがあるくらいで、
もう小学生の頃の記憶しかないけど、あの頃も楽しんでいたんだろうか。
確実に言えるのは、今の方が絶対に楽しいということ。
それに、見てほしいこの光景を。
ロウキとユキは座り込んで尻尾を振りながら、仲間たちの作業を見守っていた。
クロは、小さな手で小さめの鎌を危なげなく扱い、稲を数株ずつ束ねながら刈り取るという、見た目に反してとても正確で手際の良い仕事ぶり。
ミルは、その怪力で鎌を軽々と扱い、稲を根元から豪快に刈り倒している。
だけどその作業はとても丁寧で、ミノタウロスの進化を見た気がした。
そして、ラピスをはじめとするスライムたちは、複製した小さな鎌を、
手のように伸びた体の一部でしっかりと持ち、一生懸命に稲を刈り始めた。
カラフルなスライムたちが一列になって稲を刈り進めるその姿は、何とも言えないほど愛らしい。
「俺も負けてられないな!」
皆の頑張りを見ていた俺も、気合を入れて稲刈りに精を出した。
このお米は絶対に美味しいぞ。なんせ、皆で作り上げた最高のお米なんだからな。
そう思いながら汗をぬぐいつつ、楽しみながら作業を続けていた―…。
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とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
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