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73話 はじめての味と、はじめましてのご挨拶
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お米を炊き始めてしばらくすると、土鍋の穴から湯気がもくもくと立ち上り、
俺が前世で嗅いだことのある、あの懐かしい匂いが漂い始めて嬉しくなった。
そんな香りに包まれた厨房で昼食の準備を進めていき、
土鍋から「ピイッ」という音が鳴ったところでコンロの火を切り、15分ほど蒸らし作業へ。
その間にテーブルの上にサラダを並べ、スープを温め直し、
突然食べたくなったサイコロステーキにステーキソースをかけてからテーブルに置いた。
「さてと・・・クレオ!」
コトンッ―
「お茶碗ー!日本の心ー!」
一通り準備ができたところで、自分のお茶碗を生成。
他の子たちの分は、割ってしまうかもしれないから生成するのはやめておこうかな。
そして、土鍋をテーブルの真ん中に移動。
蓋を開けると、大量の湯気とともに、真っ白な白米が顔を出した。
その瞬間、この世界で本当にお米が食べられるという喜びが込み上げてきて、自然と笑顔になった。
自分のお茶碗に白米をよそい、家にある木製の器にもそれぞれ白米を盛りつけて準備完了。
いよいよ、白米を食べる瞬間がやってきたので、皆を呼び寄せた。
「主ー!お腹空いたー!」
「お腹が空きましたね、クロ兄さん!」
「やっとか。待ちくたびれたぞ。」
「ヨシヒロ様ー!何だか不思議な匂いがしますー!」
外にいる皆を呼び寄せると、次々と厨房にやってきて席に着いた。
そして、目の前に置かれた白米を見て、全員が不思議そうな表情になった。
そりゃ、初めて見る食べ物だから不思議に思うよな。
「これが主が食べたかった“お米”ってやつ?真っ白い粒だな!」
「そうだよ!まずは、この白米だけを食べるのがいいんだよねぇ。
ひとまず、食べてみてほしいな!
それでは……いただきます!」
「いただきまーーす!」
「んーー!これこれ!このほんのり甘い味!
・・・皆、どう?」
「…んー?」
「んー…」
「ヨシヒロ様…あまり味がしませんね…?」
「何だこれは…味が…ほぼせぬ。ほんのり甘い感じはあるが…
これがお前の世界で食べられていたものなのか?」
「ふふ、これがいいんだよ!でも、そうだな。皆には不思議な味に感じるよな。
そこのお肉と一緒に食べてみてほしいんだ。劇的に変わるよ。」
「そうなの?じゃあ、一緒に食べてみる!」
久々に白米を食べることができて、俺は感動していた。
チラリと皆を見てみると、初めて白米を口にしただけあって、想像通りの「えっ?」という反応だった。
慣れていない皆には、ほんの少しだけ甘さを感じるだけで、
「何を食べさせられたんだ?」って気持ちになるのも分かる。
だから俺は、肉と一緒に食べてみたら劇的に変わると伝えた。
すると、まずはクロが側にあったお肉をフォークに刺して口に運び、
すぐに白米を口に運んだ。
その瞬間、大きな瞳がキラキラと輝き、細長い尻尾をフリフリと揺らした。
「なにこれ!!さっきまでほとんど味がしなかったのに!
お肉と一緒に食べると、お肉の味がこのお米に混ざって、すっごく美味しくなった!」
「そうだろう?ロウキとユキは食べにくいだろうから、白米の上にお肉を乗せるから待ってて。」
「あるじ、これおいしい!」
「ヨシヒロ様、これは魔法ですか?!」
クロが「美味しい!」と口にすると、すぐさまミルやラピスたちもお肉と一緒に白米を食べ始めた。
俺はすぐに、ロウキとユキの白米が入った深皿にお肉を乗せて渡した。
すると、すぐにバクバクと口に運び、感動の声を上げた。
「ヨシヒロよ。日本人とやらは毎日このような美味なものを食していたのか!
口の中で、肉の濃い旨味が白い粒と混ざり合って、最初に食した白米とやらが一瞬で別物に変わったぞ。」
「あるじさま!とても美味しいです!お米とはこんなにも美味しくなるものなのですね!」
「良かった良かった!皆が気に入ってくれて俺も嬉しい!
皆で一緒に作ったお米だから、さらに美味しいって思うしな!」
どうやら皆、白米を気に入ってくれたようで、あっという間に6合分のご飯がなくなった。
ここまで気に入ってもらえるとは思っていなかったから、嬉しい。
最初から最後まで、皆で一緒に作ってきたお米だから、
俺にとって本当に特別なものだと感じていた。
これで好きな時にお米が食べられるし、
異世界生活も少しずつ整ってきたって感じがするな。
そう思いながら、初めての白米をゆっくりと堪能していた―…。
◇
「ふぅー…食べた食べた!」
「美味しかったな!主!また白米食べたい!
」
「そうだなぁ。これからは、ちゃんと白米とメイン料理って形でご飯作ろうなぁ。」
昼食を食べ終えて後片付けをしていると、クロが「これからも白米が食べたい」と笑った。
俺と同じ感覚でいてくれることが、何だか嬉しい。
そう思いながら、今夜の食事にも白米を添えることに決めた。
白米が食べられるだけでこんなにも嬉しいなんて、俺は単純だよなぁ。
でもきっと、アーロンさんも喜んでくれるに違いないという謎の自信があった。
忘れそうだから、早めにアーロンさんのところに行かなきゃ。
明日にでも一度、ガーノスさんに相談してみようかな。
そう思っていた、その時だった。
「なぁ、主。さっきから地下でなんか感じる。」
「え?」
「気づかんか?我も先ほどから地下で何やら感じる。」
「そうなの?俺は全然…でも気になるから、行ってみるか。」
呑気にお米の献上について考えていた時、クロが突然「地下で何かを感じる」と言い出した。
側にいたロウキも同じように何かを感じ取っているようだった。
俺にはまったく分からなかったけど、何かあるなら正体を突き止めておかなければと思い、
洗い物を終えたところで一緒に地下へ向かった。
地下には、お風呂と魔力炉と魔物管理室しかない。
何かを感じるとしたら…魔物管理室?
そう思いながら地下へ向かうと、クロが「魔物管理室からだよ」と教えてくれて、そのドアを開けた。
ガチャ―
「何か感じる?もしかして、ひび割れた卵かな?」
「うん!卵からだと思う!」
「うむ…こやつ、産まれようとしておるな。」
「えっ?!本当?!」
魔物管理室の奥の部屋のドアを開けると、クロが「ひび割れた卵から何かを感じる」と言った。
そしてロウキが「この卵が孵ろうとしている」と言い出し、俺は慌てて卵に近づいて、そっと撫でた。
「卵ちゃん。産まれてきたいのかな?俺はいつでも待ってるよ。
だから、安心して出ておいで。」
パキッ
パキパキッ―
パキッ―
「おお?出てくるかな?」
「産まれるぞー!」
卵を撫でてやると、パキパキッとひび割れが少しずつ広がっていった。
一体どんな子が産まれてくるのだろう?と胸がドキドキと高鳴っていく。
もしも怖い魔獣だったらどうしよう、という少しの不安もあったけど、
それ以上に早く顔を見せてほしいという気持ちが勝っていた。
俺に育てられるかな?産まれたらすぐに鑑定して種族を調べなくちゃ。
そのあとは、温かいお湯で体を洗って、ミルクをあげて…。
なんて、頭の中で色々と考えていたその時だった。
パキパキパキッ―
「ピィッ!ピィッ!」
「おおっ!!産まれたーー!!主、産まれたー!!」
「産まれた!!で、でもこの子は一体?」
「…グリフォン。そうか、見たことがある卵だと思ったが、グリフォンの卵だったか!
この土地ではすでに200年前に絶滅しているからな。忘れておったわ。」
「グリフォンーーーーー?!嘘でしょ?!え、あのグリフォン?!」
ついに卵の殻を破って、その姿を現した赤ん坊。
俺は「何の子だろう」と鑑定しようとしたけど、ロウキの発言によって答えはすぐに分かった。
まさか、グリフォン…あのグリフォンの赤ん坊だとは思わなかった。
グリフォンの赤ん坊って、こんなに可愛かったのかと思うほど愛らしい。
大きな卵から産まれた割には、ルーナくらいの成猫サイズで、小さく感じる。
確か、鷲の頭とライオンの体を組み合わせた不思議な姿だったよな。
グリフォンの特徴の一つでもある翼はとても小さくて短いから、空は飛べそうもない。
そして、前足は鳥で後ろ足はライオンで思いのほか太いなぁと思ったけど、
後ろ足の肉球がネコ科の肉球そのものでたまらない。
まあ、何でもいいんだけど、とにかくすごく可愛い!
「えっと、お風呂!お風呂で体を洗ってあげなくちゃ!
…抱っこできるかな?おいで?」
「ピィッ!・・・・パッパッ?」
「え?」
「パッパッ!」
「パパー?!」
産まれたばかりだから、とにかくお風呂に連れて行こうとして手を伸ばした。
すると、大きな瞳を何度かパチクリさせながら、グリフォンの赤ちゃんはピッと鳴いたあと、
「パッパ」と言って、小さな羽をパタパタとさせた。
一瞬、聞き違いかと思ったけど、もう一度「パッパ」と呼んでくれたことで、
俺のことを“パパ”と呼んでくれたのだと確信した。
「主のこと、親だと思ってるみたいだぞ!」
「グリフォンでも、最初に見た者を親と思うというのはあるのだな。
しっかり面倒みるのだぞ、パパ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!俺、まだパパになれないって!
何をすればいいのか分かんないのに!」
グリフォンが俺を“パパ”と呼ぶと、クロはなぜか嬉しそうに笑っていた。
ロウキはというと、「鳥の世界の常識がグリフォンにも適応されているのか」と感心し、
「しっかり面倒を見るのだぞ」と言って、前足で俺の背中をポンポンッと叩いた。
そんなことを言われても……俺がパパって、大丈夫か?!
なんて戸惑っていた時、突然後ろから声が聞こえた。
「ヨシヒロ様、グリフォンの濡れた体を温めて、早く乾かして低体温症を防ぐことが重要ですわ。
ぬるま湯で軽く湿らせた布や柔らかいタオルで、体に付着した水分や小さな殻の破片を優しく拭き取って、グリフォンを濡らしたままにせず、すぐに温かい布で包んであげてくださいな。」
「ありがとう!なんか喋り方変わったね?ガーネッ…え?あれ?誰が喋ったの?」
「・・・」
俺の後方から聞こえてきたのは、的確すぎるアドバイス。
その声の主はガーネットだと思って振り返ったけど、彼女はその場にいなくて。
今この場にいるのは、クロとロウキ。そして…あれ?ルーナ?
「もしかして…ルーナが今喋ったの?」
「ええ。命の鼓動に呼ばれたから来てみましたの。
そしたらグリフォンの赤ちゃんが産まれていて、驚きましたわ。」
「いやいや…驚いたのはこっちなんだけど?ルーナって猫ちゃんだよね?」
「ふふっ。ヨシヒロ様、そのお話はあとでしましょうか。
まずは、その子を温めてあげてくださる?」
「あ、そうだ!そうだった!よし、じゃあひとまず上に上がろう!」
「俺、お湯出してくるー!」
「我は布きれを探してこようぞ。」
ガーネットだと思っていた声の主は、まさかのルーナだった。
今の今まで、ルーナは普通の猫ちゃんだと思っていたのに、突然喋り始めるなんて。
しかも、産まれたばかりの赤ちゃんの扱い方をよく知っていて、
その姿はまさにお母さんのようだった。
だけど、ルーナがお喋りって…一体何がどうなってるんだ?
異世界の猫はやっぱり喋るのか?
そう思いながら頭がパニックになっていると、
ルーナがまずはグリフォンのお世話をしましょうと言ってくれて、ハッとして地下から上へと向かった。
ルーナといい、グリフォンといい、突然すぎて頭が追いつかない。
あれだけ産まれてくる気配がなかったのに、どうして急に産まれてこようと思ったんだろう?
それに、ルーナもなぜ突然喋り始めたんだろう?
そんな疑問が浮かびながらも、ルーナに言われたとおりに、
まずはグリフォンを温めることを優先して動いた―…。
俺が前世で嗅いだことのある、あの懐かしい匂いが漂い始めて嬉しくなった。
そんな香りに包まれた厨房で昼食の準備を進めていき、
土鍋から「ピイッ」という音が鳴ったところでコンロの火を切り、15分ほど蒸らし作業へ。
その間にテーブルの上にサラダを並べ、スープを温め直し、
突然食べたくなったサイコロステーキにステーキソースをかけてからテーブルに置いた。
「さてと・・・クレオ!」
コトンッ―
「お茶碗ー!日本の心ー!」
一通り準備ができたところで、自分のお茶碗を生成。
他の子たちの分は、割ってしまうかもしれないから生成するのはやめておこうかな。
そして、土鍋をテーブルの真ん中に移動。
蓋を開けると、大量の湯気とともに、真っ白な白米が顔を出した。
その瞬間、この世界で本当にお米が食べられるという喜びが込み上げてきて、自然と笑顔になった。
自分のお茶碗に白米をよそい、家にある木製の器にもそれぞれ白米を盛りつけて準備完了。
いよいよ、白米を食べる瞬間がやってきたので、皆を呼び寄せた。
「主ー!お腹空いたー!」
「お腹が空きましたね、クロ兄さん!」
「やっとか。待ちくたびれたぞ。」
「ヨシヒロ様ー!何だか不思議な匂いがしますー!」
外にいる皆を呼び寄せると、次々と厨房にやってきて席に着いた。
そして、目の前に置かれた白米を見て、全員が不思議そうな表情になった。
そりゃ、初めて見る食べ物だから不思議に思うよな。
「これが主が食べたかった“お米”ってやつ?真っ白い粒だな!」
「そうだよ!まずは、この白米だけを食べるのがいいんだよねぇ。
ひとまず、食べてみてほしいな!
それでは……いただきます!」
「いただきまーーす!」
「んーー!これこれ!このほんのり甘い味!
・・・皆、どう?」
「…んー?」
「んー…」
「ヨシヒロ様…あまり味がしませんね…?」
「何だこれは…味が…ほぼせぬ。ほんのり甘い感じはあるが…
これがお前の世界で食べられていたものなのか?」
「ふふ、これがいいんだよ!でも、そうだな。皆には不思議な味に感じるよな。
そこのお肉と一緒に食べてみてほしいんだ。劇的に変わるよ。」
「そうなの?じゃあ、一緒に食べてみる!」
久々に白米を食べることができて、俺は感動していた。
チラリと皆を見てみると、初めて白米を口にしただけあって、想像通りの「えっ?」という反応だった。
慣れていない皆には、ほんの少しだけ甘さを感じるだけで、
「何を食べさせられたんだ?」って気持ちになるのも分かる。
だから俺は、肉と一緒に食べてみたら劇的に変わると伝えた。
すると、まずはクロが側にあったお肉をフォークに刺して口に運び、
すぐに白米を口に運んだ。
その瞬間、大きな瞳がキラキラと輝き、細長い尻尾をフリフリと揺らした。
「なにこれ!!さっきまでほとんど味がしなかったのに!
お肉と一緒に食べると、お肉の味がこのお米に混ざって、すっごく美味しくなった!」
「そうだろう?ロウキとユキは食べにくいだろうから、白米の上にお肉を乗せるから待ってて。」
「あるじ、これおいしい!」
「ヨシヒロ様、これは魔法ですか?!」
クロが「美味しい!」と口にすると、すぐさまミルやラピスたちもお肉と一緒に白米を食べ始めた。
俺はすぐに、ロウキとユキの白米が入った深皿にお肉を乗せて渡した。
すると、すぐにバクバクと口に運び、感動の声を上げた。
「ヨシヒロよ。日本人とやらは毎日このような美味なものを食していたのか!
口の中で、肉の濃い旨味が白い粒と混ざり合って、最初に食した白米とやらが一瞬で別物に変わったぞ。」
「あるじさま!とても美味しいです!お米とはこんなにも美味しくなるものなのですね!」
「良かった良かった!皆が気に入ってくれて俺も嬉しい!
皆で一緒に作ったお米だから、さらに美味しいって思うしな!」
どうやら皆、白米を気に入ってくれたようで、あっという間に6合分のご飯がなくなった。
ここまで気に入ってもらえるとは思っていなかったから、嬉しい。
最初から最後まで、皆で一緒に作ってきたお米だから、
俺にとって本当に特別なものだと感じていた。
これで好きな時にお米が食べられるし、
異世界生活も少しずつ整ってきたって感じがするな。
そう思いながら、初めての白米をゆっくりと堪能していた―…。
◇
「ふぅー…食べた食べた!」
「美味しかったな!主!また白米食べたい!
」
「そうだなぁ。これからは、ちゃんと白米とメイン料理って形でご飯作ろうなぁ。」
昼食を食べ終えて後片付けをしていると、クロが「これからも白米が食べたい」と笑った。
俺と同じ感覚でいてくれることが、何だか嬉しい。
そう思いながら、今夜の食事にも白米を添えることに決めた。
白米が食べられるだけでこんなにも嬉しいなんて、俺は単純だよなぁ。
でもきっと、アーロンさんも喜んでくれるに違いないという謎の自信があった。
忘れそうだから、早めにアーロンさんのところに行かなきゃ。
明日にでも一度、ガーノスさんに相談してみようかな。
そう思っていた、その時だった。
「なぁ、主。さっきから地下でなんか感じる。」
「え?」
「気づかんか?我も先ほどから地下で何やら感じる。」
「そうなの?俺は全然…でも気になるから、行ってみるか。」
呑気にお米の献上について考えていた時、クロが突然「地下で何かを感じる」と言い出した。
側にいたロウキも同じように何かを感じ取っているようだった。
俺にはまったく分からなかったけど、何かあるなら正体を突き止めておかなければと思い、
洗い物を終えたところで一緒に地下へ向かった。
地下には、お風呂と魔力炉と魔物管理室しかない。
何かを感じるとしたら…魔物管理室?
そう思いながら地下へ向かうと、クロが「魔物管理室からだよ」と教えてくれて、そのドアを開けた。
ガチャ―
「何か感じる?もしかして、ひび割れた卵かな?」
「うん!卵からだと思う!」
「うむ…こやつ、産まれようとしておるな。」
「えっ?!本当?!」
魔物管理室の奥の部屋のドアを開けると、クロが「ひび割れた卵から何かを感じる」と言った。
そしてロウキが「この卵が孵ろうとしている」と言い出し、俺は慌てて卵に近づいて、そっと撫でた。
「卵ちゃん。産まれてきたいのかな?俺はいつでも待ってるよ。
だから、安心して出ておいで。」
パキッ
パキパキッ―
パキッ―
「おお?出てくるかな?」
「産まれるぞー!」
卵を撫でてやると、パキパキッとひび割れが少しずつ広がっていった。
一体どんな子が産まれてくるのだろう?と胸がドキドキと高鳴っていく。
もしも怖い魔獣だったらどうしよう、という少しの不安もあったけど、
それ以上に早く顔を見せてほしいという気持ちが勝っていた。
俺に育てられるかな?産まれたらすぐに鑑定して種族を調べなくちゃ。
そのあとは、温かいお湯で体を洗って、ミルクをあげて…。
なんて、頭の中で色々と考えていたその時だった。
パキパキパキッ―
「ピィッ!ピィッ!」
「おおっ!!産まれたーー!!主、産まれたー!!」
「産まれた!!で、でもこの子は一体?」
「…グリフォン。そうか、見たことがある卵だと思ったが、グリフォンの卵だったか!
この土地ではすでに200年前に絶滅しているからな。忘れておったわ。」
「グリフォンーーーーー?!嘘でしょ?!え、あのグリフォン?!」
ついに卵の殻を破って、その姿を現した赤ん坊。
俺は「何の子だろう」と鑑定しようとしたけど、ロウキの発言によって答えはすぐに分かった。
まさか、グリフォン…あのグリフォンの赤ん坊だとは思わなかった。
グリフォンの赤ん坊って、こんなに可愛かったのかと思うほど愛らしい。
大きな卵から産まれた割には、ルーナくらいの成猫サイズで、小さく感じる。
確か、鷲の頭とライオンの体を組み合わせた不思議な姿だったよな。
グリフォンの特徴の一つでもある翼はとても小さくて短いから、空は飛べそうもない。
そして、前足は鳥で後ろ足はライオンで思いのほか太いなぁと思ったけど、
後ろ足の肉球がネコ科の肉球そのものでたまらない。
まあ、何でもいいんだけど、とにかくすごく可愛い!
「えっと、お風呂!お風呂で体を洗ってあげなくちゃ!
…抱っこできるかな?おいで?」
「ピィッ!・・・・パッパッ?」
「え?」
「パッパッ!」
「パパー?!」
産まれたばかりだから、とにかくお風呂に連れて行こうとして手を伸ばした。
すると、大きな瞳を何度かパチクリさせながら、グリフォンの赤ちゃんはピッと鳴いたあと、
「パッパ」と言って、小さな羽をパタパタとさせた。
一瞬、聞き違いかと思ったけど、もう一度「パッパ」と呼んでくれたことで、
俺のことを“パパ”と呼んでくれたのだと確信した。
「主のこと、親だと思ってるみたいだぞ!」
「グリフォンでも、最初に見た者を親と思うというのはあるのだな。
しっかり面倒みるのだぞ、パパ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!俺、まだパパになれないって!
何をすればいいのか分かんないのに!」
グリフォンが俺を“パパ”と呼ぶと、クロはなぜか嬉しそうに笑っていた。
ロウキはというと、「鳥の世界の常識がグリフォンにも適応されているのか」と感心し、
「しっかり面倒を見るのだぞ」と言って、前足で俺の背中をポンポンッと叩いた。
そんなことを言われても……俺がパパって、大丈夫か?!
なんて戸惑っていた時、突然後ろから声が聞こえた。
「ヨシヒロ様、グリフォンの濡れた体を温めて、早く乾かして低体温症を防ぐことが重要ですわ。
ぬるま湯で軽く湿らせた布や柔らかいタオルで、体に付着した水分や小さな殻の破片を優しく拭き取って、グリフォンを濡らしたままにせず、すぐに温かい布で包んであげてくださいな。」
「ありがとう!なんか喋り方変わったね?ガーネッ…え?あれ?誰が喋ったの?」
「・・・」
俺の後方から聞こえてきたのは、的確すぎるアドバイス。
その声の主はガーネットだと思って振り返ったけど、彼女はその場にいなくて。
今この場にいるのは、クロとロウキ。そして…あれ?ルーナ?
「もしかして…ルーナが今喋ったの?」
「ええ。命の鼓動に呼ばれたから来てみましたの。
そしたらグリフォンの赤ちゃんが産まれていて、驚きましたわ。」
「いやいや…驚いたのはこっちなんだけど?ルーナって猫ちゃんだよね?」
「ふふっ。ヨシヒロ様、そのお話はあとでしましょうか。
まずは、その子を温めてあげてくださる?」
「あ、そうだ!そうだった!よし、じゃあひとまず上に上がろう!」
「俺、お湯出してくるー!」
「我は布きれを探してこようぞ。」
ガーネットだと思っていた声の主は、まさかのルーナだった。
今の今まで、ルーナは普通の猫ちゃんだと思っていたのに、突然喋り始めるなんて。
しかも、産まれたばかりの赤ちゃんの扱い方をよく知っていて、
その姿はまさにお母さんのようだった。
だけど、ルーナがお喋りって…一体何がどうなってるんだ?
異世界の猫はやっぱり喋るのか?
そう思いながら頭がパニックになっていると、
ルーナがまずはグリフォンのお世話をしましょうと言ってくれて、ハッとして地下から上へと向かった。
ルーナといい、グリフォンといい、突然すぎて頭が追いつかない。
あれだけ産まれてくる気配がなかったのに、どうして急に産まれてこようと思ったんだろう?
それに、ルーナもなぜ突然喋り始めたんだろう?
そんな疑問が浮かびながらも、ルーナに言われたとおりに、
まずはグリフォンを温めることを優先して動いた―…。
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【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
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【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
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