魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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76話 名前を今決めてくださいと迫られました

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ルーナの話を聞いたあと、俺はその話を皆にしてもいいか、それとも秘密にしておきたいかを確認した。
彼女にとってはとても重くて辛い話だし、勝手にペラペラ喋るのは違うと思っていたから。
するとルーナは、「この場にいる従魔たちなら信用できるし、信頼しているから」と話すことを許してくれた。
だから俺は、その場に皆を集めて、ルーナから聞いた話をゆっくりと、丁寧に語った。

話がすべて終わると、どこからか泣き声が聞こえ、キョロキョロと辺りを見回した。
その泣き声の主はガーネットだった。
彼女はルーナのそばに駆け寄ると、柔らかい体をピタリとくっつけて言った。


「ルーナ!生きててくれてありがとう!私はあなたに出会えて嬉しい!
もう一人じゃないからね!皆とずっと一緒だよ!」

「ガーネット…ありがとう。私も嬉しい。」

「ヨシヒロ様も、ここにいる皆も、絶対にルーナを護るからね!」

「ふふっ。嬉しいわ、ガーネット。私も頑張るわね。」


女の子同士だからなのか、何か通じ合うものがあるんだろう。
それに、ルーナの生きてきた足跡を辿って、何も感じない人なんていない。
魔物や魔獣、そして悪魔という存在が、どこまで感情を持っているのかは俺には分からないけど、
少なくともこの場にいる子たちは皆、ルーナの話を真剣に聞き、自分なりに受け止めて、
そして「ルーナが大切だ」と意思表示をしてくれているように感じていた。
これでもう大丈夫。
きっとルーナが背負ってきたものは、少しずつ軽くなっていくだろう。


「さてと。じゃあ皆の気持ちが通じ合ったところで、
俺はこれから王都に行ってくるから、遊んでてくれる?」

「そうなのか?じゃあ俺がついて行ってやるよ!」

「あるじさま、僕もご一緒したいところなのですが…
その前に、グリフォンの名前はもう考えられたのですか?」

「え?」

「あるじ、なまえ、とくいだよね。」

「本当だ!主!早く決めてあげなきゃ可哀想だよー!」

「皆、気が早いな…」

「皆の者、こやつは名前を考えるのが一番苦手なのだぞ。」

「そうなのですか?ヨシヒロ様!皆に素敵なお名前をつけているのに!」

「いやぁ…名前ってとっても重要だろ?
安易に付けられないっていうか、なんというか…」


少し気持ちが落ち着いたところで、俺はアーロンさんに会うため、王都へ向かうつもりだと告げた。
いつものようにクロは「ついて行く」と言い、ユキも「同行したい」と言ってくれたけど、
突然「グリフォンの名前はもう決めたのか」と問いかけられた。

すると、他の皆までが「名前をつけてあげよう」と声をあげはじめて、俺は思わず苦笑いした。
そんな俺を見て、ロウキは「こやつは名前を考えるのが一番苦手なのだ」と暴露してくれたけど、
皆は「そんな風には見えない」と不思議そうな顔でこちらを見ていた。


「名前…今?」

「今だよー!」

「ぜひ!」

「うぅ…やっぱり今なのか…
ちょっと考えるから、待ってて…」


今じゃなければダメかと訴えてみたものの、皆が口をそろえて「今だ」と頷いた。
だから俺は諦めて、ガゼボに一人移動してグリフォンの名前を考えることにした。
グリフォンだから「グリ」とか…それじゃダメ?
ゲームみたいにランダムで名前の候補が出てきてくれたらいいのに!
頭の中で「あれでもない、これでもない」と考えていると、ふとグリフォンについて前に読んだことを思い出した。

そういえば、グリフォンの伝承のひとつに「魂の番人」や「死者の魂を天に運ぶ存在」って言われてなかったっけ?
なんだか、ルーナの“生と死を見つめる存在”と似てる気がする。
魂…心…それを護る存在。


「よし、決めた。グリフォン、君と契約するよ。
…我が眷属となりし者よ、この名を与える―…心護(しんご)!」

「シンゴ…?」

「ああ。これも日本語になるんだけど、漢字で書くと“心”を“護る”って書く。
ルーナとの繋がりも意識したんだ。
それに、グリフォンの伝承に“魂の番人”や“死者の魂を天に運ぶ存在”っていうのがあるって聞いたことがあってさ。
だから、“心を護る存在”として、シンゴと名付けたよ。」


頭の中に浮かんだ漢字が「心を護る」だった。
それが正しい意味になるのかは分からなかったけど、パッと浮かんだこの言葉を名前として贈ろうと思った。
グリフォンに向かって「シンゴ」と呼ぶと、大きな瞳をぱちくりさせながら、小さな翼を一生懸命パタパタと羽ばたかせた。


「ピィッ!!し、ん、ご!ッピ!」

「あはは、そうそう!今日から君の名前はシンゴだよ!シンちゃん!」

「ヨシヒロ様…素敵な名前をつけてくださり、ありがとう。
私との繋がりまで考えてくださるなんて、嬉しいですわ。」

「ルーナは母親代わりだし、ルーナと近い存在って思うからさ。」

「ええ。この子はきっと、私と何か繋がっているのでしょう。
だから、必ず立派な神獣に育ててみせますわ。」

「ああ、頼むな!…って、グリフォンって神獣なの?!」

「え?ええ。この世界では神獣の扱いですわよ。
特にこのソウリアス王国の国旗にはグリフォンが描かれていますから、
とても大切に扱われてきました。ご存じなくて?」

「ん?俺は何も知らない!エマ、詳しく教えて!」


シンゴという名前を、本人も気に入ってくれたようで一安心。
ルーナも嬉しそうに笑っていた。
そして、シンゴを立派な神獣に育ててみせると意気込むルーナ。
その瞬間、グリフォンがこの世界でも“神獣”扱いされていることを初めて知った。
さらに、ソウリアス王国の国旗にグリフォンが描かれていることも初耳で、
何も知らない俺は、咄嗟にエマに助けを求めた。


【ヨシヒロさんは本当に生き物以外に興味がないですね…。
それでは、ソウリアス王国の国旗にグリフォンが描かれている理由を説明します。
グリフォンは、鳥の王と百獣の王が合わさった生き物であり、天と地の覇者という意味で捉えられます。
つまり、グリフォンはソウリアス王国に“永遠の王権”をもたらす存在と信じられています。
また、グリフォンは“宝物”や“聖域”を護る存在として知られています。
そのグリフォンを国旗に描くことで、グリフォンによって自国は護られていると、国内外に示しているのです。】

「へぇー…そうだったのか。俺、国旗とか興味なかったから、ちゃんと見たことないや。
王城に行ったときに、ちゃんと見ておこうっと。」

【ヨシヒロさんは、もう少し国のことにも興味を持ちましょうね。】

「ははは、ごもっともだな。勉強しまーす…。」


エマによれば、この国自体がグリフォンという存在、そしてその伝承を信仰していると知った。
まさかの繋がりに驚かされたけど、グリフォンを信仰する理由は納得できた。
今は絶滅してしまったグリフォンだけど、生き残りがいたと知ったらどうなるんだろう?
アーロンさんは単純に喜んでくれそうだけど、他の人たちが「グリフォンは国のものだ」とか言って奪いに来そうだな…。


【シンゴとヨシヒロさんは従魔契約をしているので、誰であってもシンゴを奪うことはできません。安心してください。】

「あ、そうなの?それなら安心!シンゴをめぐって争いとか起きたらたまんないからなぁ…。」

「パッパ!パッパ!」

「シンゴー。ルーナの言うことをちゃんと聞いて、良い子にするんだぞ!」

「ピィッ!」


国を動かすような大事件になったらどうしようと不安に思っていたけど、
それを察知したエマが「心配しなくていい」と教えてくれて、ホッとした。
さすがに神獣ともなれば、争いが起きてもおかしくないと思っていたから、
従魔契約をしていて本当に良かったと、つくづく思った。

俺がこんなにも心配している横で、シンゴは呑気に鳴き声をあげながら笑っていた。
まだ産まれたばかりだから、何も分からないんだろうな。
でも、そのままでいい。
そのまま素直に育ってくれたら、俺は大満足だよ。
そう思いながら、シンゴを抱き上げ、その可愛らしい頭を撫でて癒されていた―…。
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