77 / 125
77話 お届け物をしたら、趣味が藁を集めることだと思われました
しおりを挟む
「それじゃあ行ってくるから、留守番よろしくなー。」
「はーーいっ!」
「いってらっしゃい、ヨシヒロ様!」
無事に名付けという大仕事を終えた俺は、クロとユキを連れてゲートをくぐった。
アーロンさんに会える時間を作ってもらいたくて相談に来たけど、別館には誰もいなくて、ひとまず表の入り口からギルド内へ入った。
「おい、アイツ。例の冒険者だぞ。」
「声かけてみたらどうだ?仲間にしてやるってよ。」
「バカか!王家御用達の冒険者に絡む奴なんていねぇだろうが!」
「相変わらず主、嫌われてるなぁ。」
「あるじさまの良さが分からないなんて、可哀想な人たちですよね。」
「ははは…仕方がないよねぇ、これは。」
冒険者ギルドに入ると、いつものコソコソ話が聞こえてきて、
クロはグサリと刺さる言葉を俺に投げかけてきた。
俺だって!嫌われたくて嫌われてるわけじゃないのよ!
王家と関わると、こうなってしまうのが運命なんだろうなぁ。
まあ、俺も別に関わろうと思って関わってるわけじゃないけども…。
なんて一人でブツブツ言いながら、受付のアリーシャさんに声をかけた。
「こんにちは!アリーシャさん。」
「ヨシヒロさん!こんにちは。今日はどうされたんですか?
依頼…を受けに来られたわけじゃないですよね?」
「はは、ガーノスさんは2階ですか?」
「ええ。ギルド長でしたら2階で書類に目を通されていますよ。
こちらからどうぞ!」
「ありがとう!じゃあ、ちょっと行ってくるね。」
アリーシャさんに挨拶をして、ガーノスさんの居場所を尋ねると、
2階にいると教えてくれて、横の階段を通してもらい、ガーノスさんの元へ向かった。
コンコンッ―
「入れー。」
「失礼します。」
ガチャ―
「おう!ヨシヒロか。どうした?何かあったのか?」
「アーロンさんに渡したいものがあって…。
できれば王城に行って直接渡したいんですけど、どうすれば会えますか?」
「なんだ、アーロンに用事か。ちょっと待ってな。
すぐに伝書ガラス飛ばしてやるからよ。」
「ありがとうございます!」
部屋に入ると、ガーノスさんがしかめっ面をしながら書類に目を通していた。
ガテン系のガーノスさんからすれば、机仕事は絶対に好きじゃないだろうな。
そんな彼にアーロンさんに会いたいと告げると、すぐに伝書ガラスを王国に向けて飛ばしてくれた。
これですぐに会えるわけではないだろうけど、予定を空けてもらえたらいいなと思っていた。
「ヨシヒロからアーロンに会いたいだなんて、珍しいな?
いつもは“王族とはできるだけ関わらないように”って言ってたのによ。」
「まぁ、今でもその気持ちは変わってないんですけどね?
今回は特別というか…多分、アーロンさんだけが喜ぶものを収穫したので、
是非ともお届けしたいなぁって。」
「へぇ?アーロンだけが喜ぶものねぇ。
…なぁ、俺もついて行っていいか?」
「え?別に構いませんが…面白いものではないですよ?」
「いいんだよ!アイツがどんな反応するのか見てみたいし、
もう俺は書類作業はしたくねぇ!」
「あはは、それが本音でしょう?」
伝書ガラスが戻ってくるまでの間、ガーノスさんと今回のことについて話していた。
いつもなら自ら進んで王家と関わることなんてしない俺が、珍しくアーロンさんに会いたいと言ったことに驚いていた。
そんなガーノスさんに「アーロンさんが喜ぶものを収穫した」と伝えると、
「俺も一緒に行く」と言い出した。
…まあ、ガーノスさんはただただ机仕事をしたくないだけなんだろうけど。
でも、お米を見てもらうのは悪くないかもしれない。
ガーノスさんにはお世話になってるし、俺一人で王城に出向くのも少し気が引ける。
そう思いながら、同行してもらうことに決めた。
コンコンコンッ―
バサバサバサッ―
「カアアア!カアアアッ!」
「お、早速戻ってきたぞ。
えーと…?これから迎えを寄越すってよ。
今日はえらく暇らしいな。良かったな、ヨシヒロ!」
「え?そんなすぐに予定合わせてもらえるもんなんですか?
一応国王ですよね?!」
「アイツの都合が合えば、すぐに会えるぞ。
正式な謁見とかなら後日になる可能性もあるが、
今回はヨシヒロとアーロンだけの話だからな。非公式の面会って感じだな。」
「色々あるんですねぇ…。
まあ、でもすぐに渡せるなら良かったです!」
ガーノスさんが王城に手紙を飛ばしてから、30分も経たないうちに戻ってきた伝書ガラス。
そこに書かれていたのは、「今日は比較的時間に余裕があるから、今から迎えの馬車を寄越す」という内容だった。
普通、王様に会うにはいろんな許可を得て、数日後になるものだと思っていたから、
こうも簡単に会えることに驚かされた。
ガーノスさんは「今回は非公式の面会だから、何もせずに会える」と言っていたけど、
そんなに簡単でいいのか…?と少し不安になった。
まあ、それは俺がアーロンさんと知り合いだからという事実が大きいんだろうけど、
「行っていい?」と聞いて「いいよ」と即答されるような感じでいいのか…。
なんて思っている間に、王城からやってきた馬車と、アーロンさんの護衛を務めるクロノスさんが到着した。
言葉数は少ないけれど、いつも紳士的で、さすが国王の護衛だなと思わされる。
そんなクロノスさんと共に馬車に乗り、久しぶりの王城へと向かった。
米俵と土鍋を見たら、アーロンさんはどんな顔をするかな?
それが少しばかり楽しみで、ワクワクしていた―…。
◇
コンコンコンッ―
「アーロン陛下。ヨシヒロ様、クロ様、ユキ様、ガーノス様がご到着されました。」
「うむ。入れ。」
「失礼いたします。」
ガチャ―
パタンッ―
「よくぞ参った。珍しいな、ヨシヒロから私に会いたいだなんて。」
王城に到着して、クロノスさんに案内されたのは前回と同じ執務室。
相変わらず書物の多さと、威厳のある装飾に緊張してしまう。
それなのに、俺とは正反対のクロとユキは、アーロンさんに呼ばれるとすぐさま駆け寄り、愛でられていた。
「えーっとですね…今日はアーロンさんにプレゼントを持ってきました!」
「ほう?私にプレゼント?もしや動物か?ペットか?」
「はは、生き物じゃありません!でも、アーロンさんは好きだと思います。
あ、皆さん少し避けていただけますか?ここに物を出しますので。」
「お?なんだ。大きなものでも出すのだな?皆、ヨシヒロの邪魔にならぬよう避けよ!」
「承知いたしました。」
アーロンさんはクロとユキと戯れながら、ガーノスさんと同じように「珍しいな」と笑っていた。
プレゼントがあると言うと、「動物か?!」と目を輝かせるあたり、やっぱり動物好きだなぁと思う。
首を横に振り、「アーロンさんが好きそうなものです」と伝えると、
何か大きな物体を出すと察したアーロンさんは、すぐさま俺の邪魔にならないように皆に指示を出してくれた。
「あ…でも重い…60キロは重い…」
【ひとつの米俵に触れて、“全放出”と心で呟いてください。】
「おお…!エマ、ありがと。ではー…出しますね!」
ヴオンッ―
「ヨシヒロ、お前……!それは古代魔法の空間収納ではないか?!」
「へ?あー、なんかそんなことを言われた気が?
そんなことより、そろそろ出しますよー。」
すぐにでも米俵を出したかったけど、ひとつ60キロあることに気づいて手が止まった。
困っていると察してくれたエマが、小さな声で一気に出す方法を教えてくれて助かった。
言われた通りに空間アイテムボックスを出すと、その場の空気がガラリと変わった気がした。
アーロンさんもなぜか驚いていたけど、別に驚かせるために出したわけじゃないんですってば!
そう思いながら、米俵に触れて「全放出」と呟いた。
ドスンッ―
「全放出」と呟くと、何もなかった地面に突然、大きな音を立てて米俵が10俵姿を現した。
まるでお殿様に献上した瞬間のようで、時代劇の一場面を思い出してしまった。
米俵を見たあとでアーロンさんをチラリと見ると、目を見開いて口もあんぐりと開けたまま、完全に固まっていた。
予想通り、驚いてくれたみたいだなぁと内心喜んでいると、アーロンさんよりも先に側近のベルさんが口を開いた。
「ヨ、ヨシヒロさん…こ、これは一体?なぜ藁の束を出されたのでしょう?
アーロン陛下が“好きなもの”とおっしゃっていましたが…
陛下に藁集めの趣味があったとは初耳です…」
「確かに…陛下が藁集めに夢中だったとは…
ヨシヒロ様が集められた藁ですから、きっと質の良い藁なのでしょうね?」
「ええ…わ、藁にも色々ございますから…ね?」
「ふふふっ…」
ベルさんはまさかアーロンさんに藁集めの趣味があったとはと驚き、恐る恐る米俵に触れた。
理解が追いつかず、パニックになっている様子が伝わってくる。
執事長のガロンさんも、メイド長のネオさんも、アーロンさんの趣味を否定しないよう、
必死にあたりさわりのない言葉を選んで発していた。
さすがにその光景を見て、笑いを我慢するのは至難の業だった。
「オイオイ、ヨシヒロ…いつからアーロンは藁集めするようになったんだよ?
そもそも誰も知らないって、おかしいだろう?」
「ふははっ…!い、いや…あのっ…藁は藁でも、ただの藁じゃなくって…」
「なーに笑ってんだよ?もしかしてこれは新手の悪戯だったとか言わねぇよな?!」
「いえいえっ…!これはれっきとした、アーロンさんへの贈り物ですよ!」
何も知らないガーノスさんも、訳が分からないといった様子で米俵を触っては首を傾げていた。
やっぱり、お米を知らないこの世界の人たちからすれば、米俵という物体は得体の知れないもので、意味が分からないのも当然だよな。
だけど、ただ一人アーロンさんだけは違った。
先ほどまで米俵をじっと見つめるだけで動けずにいたアーロンさんは、
ゆっくりと米俵に近づき、震える右手をそっと米俵へと伸ばした。
その指先が藁に触れる瞬間、こちらまでドキドキしてしまうほどだった。
これは…大成功だったのでは?
そう思いながら、俺はアーロンさんからの言葉を、じっと待っていた―…。
「はーーいっ!」
「いってらっしゃい、ヨシヒロ様!」
無事に名付けという大仕事を終えた俺は、クロとユキを連れてゲートをくぐった。
アーロンさんに会える時間を作ってもらいたくて相談に来たけど、別館には誰もいなくて、ひとまず表の入り口からギルド内へ入った。
「おい、アイツ。例の冒険者だぞ。」
「声かけてみたらどうだ?仲間にしてやるってよ。」
「バカか!王家御用達の冒険者に絡む奴なんていねぇだろうが!」
「相変わらず主、嫌われてるなぁ。」
「あるじさまの良さが分からないなんて、可哀想な人たちですよね。」
「ははは…仕方がないよねぇ、これは。」
冒険者ギルドに入ると、いつものコソコソ話が聞こえてきて、
クロはグサリと刺さる言葉を俺に投げかけてきた。
俺だって!嫌われたくて嫌われてるわけじゃないのよ!
王家と関わると、こうなってしまうのが運命なんだろうなぁ。
まあ、俺も別に関わろうと思って関わってるわけじゃないけども…。
なんて一人でブツブツ言いながら、受付のアリーシャさんに声をかけた。
「こんにちは!アリーシャさん。」
「ヨシヒロさん!こんにちは。今日はどうされたんですか?
依頼…を受けに来られたわけじゃないですよね?」
「はは、ガーノスさんは2階ですか?」
「ええ。ギルド長でしたら2階で書類に目を通されていますよ。
こちらからどうぞ!」
「ありがとう!じゃあ、ちょっと行ってくるね。」
アリーシャさんに挨拶をして、ガーノスさんの居場所を尋ねると、
2階にいると教えてくれて、横の階段を通してもらい、ガーノスさんの元へ向かった。
コンコンッ―
「入れー。」
「失礼します。」
ガチャ―
「おう!ヨシヒロか。どうした?何かあったのか?」
「アーロンさんに渡したいものがあって…。
できれば王城に行って直接渡したいんですけど、どうすれば会えますか?」
「なんだ、アーロンに用事か。ちょっと待ってな。
すぐに伝書ガラス飛ばしてやるからよ。」
「ありがとうございます!」
部屋に入ると、ガーノスさんがしかめっ面をしながら書類に目を通していた。
ガテン系のガーノスさんからすれば、机仕事は絶対に好きじゃないだろうな。
そんな彼にアーロンさんに会いたいと告げると、すぐに伝書ガラスを王国に向けて飛ばしてくれた。
これですぐに会えるわけではないだろうけど、予定を空けてもらえたらいいなと思っていた。
「ヨシヒロからアーロンに会いたいだなんて、珍しいな?
いつもは“王族とはできるだけ関わらないように”って言ってたのによ。」
「まぁ、今でもその気持ちは変わってないんですけどね?
今回は特別というか…多分、アーロンさんだけが喜ぶものを収穫したので、
是非ともお届けしたいなぁって。」
「へぇ?アーロンだけが喜ぶものねぇ。
…なぁ、俺もついて行っていいか?」
「え?別に構いませんが…面白いものではないですよ?」
「いいんだよ!アイツがどんな反応するのか見てみたいし、
もう俺は書類作業はしたくねぇ!」
「あはは、それが本音でしょう?」
伝書ガラスが戻ってくるまでの間、ガーノスさんと今回のことについて話していた。
いつもなら自ら進んで王家と関わることなんてしない俺が、珍しくアーロンさんに会いたいと言ったことに驚いていた。
そんなガーノスさんに「アーロンさんが喜ぶものを収穫した」と伝えると、
「俺も一緒に行く」と言い出した。
…まあ、ガーノスさんはただただ机仕事をしたくないだけなんだろうけど。
でも、お米を見てもらうのは悪くないかもしれない。
ガーノスさんにはお世話になってるし、俺一人で王城に出向くのも少し気が引ける。
そう思いながら、同行してもらうことに決めた。
コンコンコンッ―
バサバサバサッ―
「カアアア!カアアアッ!」
「お、早速戻ってきたぞ。
えーと…?これから迎えを寄越すってよ。
今日はえらく暇らしいな。良かったな、ヨシヒロ!」
「え?そんなすぐに予定合わせてもらえるもんなんですか?
一応国王ですよね?!」
「アイツの都合が合えば、すぐに会えるぞ。
正式な謁見とかなら後日になる可能性もあるが、
今回はヨシヒロとアーロンだけの話だからな。非公式の面会って感じだな。」
「色々あるんですねぇ…。
まあ、でもすぐに渡せるなら良かったです!」
ガーノスさんが王城に手紙を飛ばしてから、30分も経たないうちに戻ってきた伝書ガラス。
そこに書かれていたのは、「今日は比較的時間に余裕があるから、今から迎えの馬車を寄越す」という内容だった。
普通、王様に会うにはいろんな許可を得て、数日後になるものだと思っていたから、
こうも簡単に会えることに驚かされた。
ガーノスさんは「今回は非公式の面会だから、何もせずに会える」と言っていたけど、
そんなに簡単でいいのか…?と少し不安になった。
まあ、それは俺がアーロンさんと知り合いだからという事実が大きいんだろうけど、
「行っていい?」と聞いて「いいよ」と即答されるような感じでいいのか…。
なんて思っている間に、王城からやってきた馬車と、アーロンさんの護衛を務めるクロノスさんが到着した。
言葉数は少ないけれど、いつも紳士的で、さすが国王の護衛だなと思わされる。
そんなクロノスさんと共に馬車に乗り、久しぶりの王城へと向かった。
米俵と土鍋を見たら、アーロンさんはどんな顔をするかな?
それが少しばかり楽しみで、ワクワクしていた―…。
◇
コンコンコンッ―
「アーロン陛下。ヨシヒロ様、クロ様、ユキ様、ガーノス様がご到着されました。」
「うむ。入れ。」
「失礼いたします。」
ガチャ―
パタンッ―
「よくぞ参った。珍しいな、ヨシヒロから私に会いたいだなんて。」
王城に到着して、クロノスさんに案内されたのは前回と同じ執務室。
相変わらず書物の多さと、威厳のある装飾に緊張してしまう。
それなのに、俺とは正反対のクロとユキは、アーロンさんに呼ばれるとすぐさま駆け寄り、愛でられていた。
「えーっとですね…今日はアーロンさんにプレゼントを持ってきました!」
「ほう?私にプレゼント?もしや動物か?ペットか?」
「はは、生き物じゃありません!でも、アーロンさんは好きだと思います。
あ、皆さん少し避けていただけますか?ここに物を出しますので。」
「お?なんだ。大きなものでも出すのだな?皆、ヨシヒロの邪魔にならぬよう避けよ!」
「承知いたしました。」
アーロンさんはクロとユキと戯れながら、ガーノスさんと同じように「珍しいな」と笑っていた。
プレゼントがあると言うと、「動物か?!」と目を輝かせるあたり、やっぱり動物好きだなぁと思う。
首を横に振り、「アーロンさんが好きそうなものです」と伝えると、
何か大きな物体を出すと察したアーロンさんは、すぐさま俺の邪魔にならないように皆に指示を出してくれた。
「あ…でも重い…60キロは重い…」
【ひとつの米俵に触れて、“全放出”と心で呟いてください。】
「おお…!エマ、ありがと。ではー…出しますね!」
ヴオンッ―
「ヨシヒロ、お前……!それは古代魔法の空間収納ではないか?!」
「へ?あー、なんかそんなことを言われた気が?
そんなことより、そろそろ出しますよー。」
すぐにでも米俵を出したかったけど、ひとつ60キロあることに気づいて手が止まった。
困っていると察してくれたエマが、小さな声で一気に出す方法を教えてくれて助かった。
言われた通りに空間アイテムボックスを出すと、その場の空気がガラリと変わった気がした。
アーロンさんもなぜか驚いていたけど、別に驚かせるために出したわけじゃないんですってば!
そう思いながら、米俵に触れて「全放出」と呟いた。
ドスンッ―
「全放出」と呟くと、何もなかった地面に突然、大きな音を立てて米俵が10俵姿を現した。
まるでお殿様に献上した瞬間のようで、時代劇の一場面を思い出してしまった。
米俵を見たあとでアーロンさんをチラリと見ると、目を見開いて口もあんぐりと開けたまま、完全に固まっていた。
予想通り、驚いてくれたみたいだなぁと内心喜んでいると、アーロンさんよりも先に側近のベルさんが口を開いた。
「ヨ、ヨシヒロさん…こ、これは一体?なぜ藁の束を出されたのでしょう?
アーロン陛下が“好きなもの”とおっしゃっていましたが…
陛下に藁集めの趣味があったとは初耳です…」
「確かに…陛下が藁集めに夢中だったとは…
ヨシヒロ様が集められた藁ですから、きっと質の良い藁なのでしょうね?」
「ええ…わ、藁にも色々ございますから…ね?」
「ふふふっ…」
ベルさんはまさかアーロンさんに藁集めの趣味があったとはと驚き、恐る恐る米俵に触れた。
理解が追いつかず、パニックになっている様子が伝わってくる。
執事長のガロンさんも、メイド長のネオさんも、アーロンさんの趣味を否定しないよう、
必死にあたりさわりのない言葉を選んで発していた。
さすがにその光景を見て、笑いを我慢するのは至難の業だった。
「オイオイ、ヨシヒロ…いつからアーロンは藁集めするようになったんだよ?
そもそも誰も知らないって、おかしいだろう?」
「ふははっ…!い、いや…あのっ…藁は藁でも、ただの藁じゃなくって…」
「なーに笑ってんだよ?もしかしてこれは新手の悪戯だったとか言わねぇよな?!」
「いえいえっ…!これはれっきとした、アーロンさんへの贈り物ですよ!」
何も知らないガーノスさんも、訳が分からないといった様子で米俵を触っては首を傾げていた。
やっぱり、お米を知らないこの世界の人たちからすれば、米俵という物体は得体の知れないもので、意味が分からないのも当然だよな。
だけど、ただ一人アーロンさんだけは違った。
先ほどまで米俵をじっと見つめるだけで動けずにいたアーロンさんは、
ゆっくりと米俵に近づき、震える右手をそっと米俵へと伸ばした。
その指先が藁に触れる瞬間、こちらまでドキドキしてしまうほどだった。
これは…大成功だったのでは?
そう思いながら、俺はアーロンさんからの言葉を、じっと待っていた―…。
35
あなたにおすすめの小説
追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで
ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。
家族も、家も、居場所もない。
そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティ。
「荷物持ちでもいい、仲間になれ」
そう言ってくれた彼らの言葉を信じて、
俺は毎日、必死でついていった。
何もできない“つもり”だった。
それでも、何かの役に立てたらと思い、
夜な夜なダンジョンに潜っては、レベル上げを繰り返す日々。
だけど、「何もしなくていい」と言われていたから、
俺は一番後ろで、ただ荷物を持っていた。
でも実際は、俺の放った“支援魔法”で仲間は強くなり、
俺の“探知魔法”で危険を避けていた。
気づかれないよう、こっそりと。
「役に立たない」と言われるのが怖かったから、
俺なりに、精一杯頑張っていた。
そしてある日、告げられた言葉。
『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』
そうして俺は、静かに追放された。
もう誰にも必要とされなくてもいい。
俺は俺のままで、静かに暮らしていく。そう決めた。
……と思っていたら、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、
また少し、世界が騒がしくなってきたようです。
◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇
ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~
うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」
探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。
探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼!
単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。
そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。
小さな彼女には秘密があった。
彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。
魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。
そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。
たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。
実は彼女は人間ではなく――その正体は。
チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。
銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~
雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。
左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。
この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる