魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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77話 お届け物をしたら、趣味が藁を集めることだと思われました

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「それじゃあ行ってくるから、留守番よろしくなー。」

「はーーいっ!」

「いってらっしゃい、ヨシヒロ様!」


無事に名付けという大仕事を終えた俺は、クロとユキを連れてゲートをくぐった。
アーロンさんに会える時間を作ってもらいたくて相談に来たけど、別館には誰もいなくて、ひとまず表の入り口からギルド内へ入った。


「おい、アイツ。例の冒険者だぞ。」

「声かけてみたらどうだ?仲間にしてやるってよ。」

「バカか!王家御用達の冒険者に絡む奴なんていねぇだろうが!」

「相変わらず主、嫌われてるなぁ。」

「あるじさまの良さが分からないなんて、可哀想な人たちですよね。」

「ははは…仕方がないよねぇ、これは。」


冒険者ギルドに入ると、いつものコソコソ話が聞こえてきて、
クロはグサリと刺さる言葉を俺に投げかけてきた。
俺だって!嫌われたくて嫌われてるわけじゃないのよ!
王家と関わると、こうなってしまうのが運命なんだろうなぁ。
まあ、俺も別に関わろうと思って関わってるわけじゃないけども…。
なんて一人でブツブツ言いながら、受付のアリーシャさんに声をかけた。


「こんにちは!アリーシャさん。」

「ヨシヒロさん!こんにちは。今日はどうされたんですか?
依頼…を受けに来られたわけじゃないですよね?」

「はは、ガーノスさんは2階ですか?」

「ええ。ギルド長でしたら2階で書類に目を通されていますよ。
こちらからどうぞ!」

「ありがとう!じゃあ、ちょっと行ってくるね。」


アリーシャさんに挨拶をして、ガーノスさんの居場所を尋ねると、
2階にいると教えてくれて、横の階段を通してもらい、ガーノスさんの元へ向かった。


コンコンッ―


「入れー。」

「失礼します。」


ガチャ―


「おう!ヨシヒロか。どうした?何かあったのか?」

「アーロンさんに渡したいものがあって…。
できれば王城に行って直接渡したいんですけど、どうすれば会えますか?」

「なんだ、アーロンに用事か。ちょっと待ってな。
すぐに伝書ガラス飛ばしてやるからよ。」

「ありがとうございます!」


部屋に入ると、ガーノスさんがしかめっ面をしながら書類に目を通していた。
ガテン系のガーノスさんからすれば、机仕事は絶対に好きじゃないだろうな。
そんな彼にアーロンさんに会いたいと告げると、すぐに伝書ガラスを王国に向けて飛ばしてくれた。
これですぐに会えるわけではないだろうけど、予定を空けてもらえたらいいなと思っていた。


「ヨシヒロからアーロンに会いたいだなんて、珍しいな?
いつもは“王族とはできるだけ関わらないように”って言ってたのによ。」

「まぁ、今でもその気持ちは変わってないんですけどね?
今回は特別というか…多分、アーロンさんだけが喜ぶものを収穫したので、
是非ともお届けしたいなぁって。」

「へぇ?アーロンだけが喜ぶものねぇ。
…なぁ、俺もついて行っていいか?」

「え?別に構いませんが…面白いものではないですよ?」

「いいんだよ!アイツがどんな反応するのか見てみたいし、
もう俺は書類作業はしたくねぇ!」

「あはは、それが本音でしょう?」


伝書ガラスが戻ってくるまでの間、ガーノスさんと今回のことについて話していた。
いつもなら自ら進んで王家と関わることなんてしない俺が、珍しくアーロンさんに会いたいと言ったことに驚いていた。

そんなガーノスさんに「アーロンさんが喜ぶものを収穫した」と伝えると、
「俺も一緒に行く」と言い出した。
…まあ、ガーノスさんはただただ机仕事をしたくないだけなんだろうけど。
でも、お米を見てもらうのは悪くないかもしれない。
ガーノスさんにはお世話になってるし、俺一人で王城に出向くのも少し気が引ける。
そう思いながら、同行してもらうことに決めた。


コンコンコンッ―

バサバサバサッ―


「カアアア!カアアアッ!」

「お、早速戻ってきたぞ。
えーと…?これから迎えを寄越すってよ。
今日はえらく暇らしいな。良かったな、ヨシヒロ!」

「え?そんなすぐに予定合わせてもらえるもんなんですか?
一応国王ですよね?!」

「アイツの都合が合えば、すぐに会えるぞ。
正式な謁見とかなら後日になる可能性もあるが、
今回はヨシヒロとアーロンだけの話だからな。非公式の面会って感じだな。」

「色々あるんですねぇ…。
まあ、でもすぐに渡せるなら良かったです!」


ガーノスさんが王城に手紙を飛ばしてから、30分も経たないうちに戻ってきた伝書ガラス。
そこに書かれていたのは、「今日は比較的時間に余裕があるから、今から迎えの馬車を寄越す」という内容だった。
普通、王様に会うにはいろんな許可を得て、数日後になるものだと思っていたから、
こうも簡単に会えることに驚かされた。
ガーノスさんは「今回は非公式の面会だから、何もせずに会える」と言っていたけど、
そんなに簡単でいいのか…?と少し不安になった。
まあ、それは俺がアーロンさんと知り合いだからという事実が大きいんだろうけど、
「行っていい?」と聞いて「いいよ」と即答されるような感じでいいのか…。

なんて思っている間に、王城からやってきた馬車と、アーロンさんの護衛を務めるクロノスさんが到着した。
言葉数は少ないけれど、いつも紳士的で、さすが国王の護衛だなと思わされる。
そんなクロノスさんと共に馬車に乗り、久しぶりの王城へと向かった。
米俵と土鍋を見たら、アーロンさんはどんな顔をするかな?
それが少しばかり楽しみで、ワクワクしていた―…。









コンコンコンッ―


「アーロン陛下。ヨシヒロ様、クロ様、ユキ様、ガーノス様がご到着されました。」

「うむ。入れ。」

「失礼いたします。」


ガチャ―

パタンッ―


「よくぞ参った。珍しいな、ヨシヒロから私に会いたいだなんて。」


王城に到着して、クロノスさんに案内されたのは前回と同じ執務室。
相変わらず書物の多さと、威厳のある装飾に緊張してしまう。
それなのに、俺とは正反対のクロとユキは、アーロンさんに呼ばれるとすぐさま駆け寄り、愛でられていた。


「えーっとですね…今日はアーロンさんにプレゼントを持ってきました!」

「ほう?私にプレゼント?もしや動物か?ペットか?」

「はは、生き物じゃありません!でも、アーロンさんは好きだと思います。
あ、皆さん少し避けていただけますか?ここに物を出しますので。」

「お?なんだ。大きなものでも出すのだな?皆、ヨシヒロの邪魔にならぬよう避けよ!」

「承知いたしました。」


アーロンさんはクロとユキと戯れながら、ガーノスさんと同じように「珍しいな」と笑っていた。
プレゼントがあると言うと、「動物か?!」と目を輝かせるあたり、やっぱり動物好きだなぁと思う。
首を横に振り、「アーロンさんが好きそうなものです」と伝えると、
何か大きな物体を出すと察したアーロンさんは、すぐさま俺の邪魔にならないように皆に指示を出してくれた。


「あ…でも重い…60キロは重い…」

【ひとつの米俵に触れて、“全放出”と心で呟いてください。】

「おお…!エマ、ありがと。ではー…出しますね!」


ヴオンッ―


「ヨシヒロ、お前……!それは古代魔法の空間収納ではないか?!」

「へ?あー、なんかそんなことを言われた気が?
そんなことより、そろそろ出しますよー。」


すぐにでも米俵を出したかったけど、ひとつ60キロあることに気づいて手が止まった。
困っていると察してくれたエマが、小さな声で一気に出す方法を教えてくれて助かった。
言われた通りに空間アイテムボックスを出すと、その場の空気がガラリと変わった気がした。
アーロンさんもなぜか驚いていたけど、別に驚かせるために出したわけじゃないんですってば!
そう思いながら、米俵に触れて「全放出」と呟いた。


ドスンッ―


「全放出」と呟くと、何もなかった地面に突然、大きな音を立てて米俵が10俵姿を現した。
まるでお殿様に献上した瞬間のようで、時代劇の一場面を思い出してしまった。
米俵を見たあとでアーロンさんをチラリと見ると、目を見開いて口もあんぐりと開けたまま、完全に固まっていた。
予想通り、驚いてくれたみたいだなぁと内心喜んでいると、アーロンさんよりも先に側近のベルさんが口を開いた。


「ヨ、ヨシヒロさん…こ、これは一体?なぜ藁の束を出されたのでしょう?
アーロン陛下が“好きなもの”とおっしゃっていましたが…
陛下に藁集めの趣味があったとは初耳です…」

「確かに…陛下が藁集めに夢中だったとは…
ヨシヒロ様が集められた藁ですから、きっと質の良い藁なのでしょうね?」

「ええ…わ、藁にも色々ございますから…ね?」

「ふふふっ…」


ベルさんはまさかアーロンさんに藁集めの趣味があったとはと驚き、恐る恐る米俵に触れた。
理解が追いつかず、パニックになっている様子が伝わってくる。
執事長のガロンさんも、メイド長のネオさんも、アーロンさんの趣味を否定しないよう、
必死にあたりさわりのない言葉を選んで発していた。
さすがにその光景を見て、笑いを我慢するのは至難の業だった。


「オイオイ、ヨシヒロ…いつからアーロンは藁集めするようになったんだよ?
そもそも誰も知らないって、おかしいだろう?」

「ふははっ…!い、いや…あのっ…藁は藁でも、ただの藁じゃなくって…」

「なーに笑ってんだよ?もしかしてこれは新手の悪戯だったとか言わねぇよな?!」

「いえいえっ…!これはれっきとした、アーロンさんへの贈り物ですよ!」


何も知らないガーノスさんも、訳が分からないといった様子で米俵を触っては首を傾げていた。
やっぱり、お米を知らないこの世界の人たちからすれば、米俵という物体は得体の知れないもので、意味が分からないのも当然だよな。

だけど、ただ一人アーロンさんだけは違った。
先ほどまで米俵をじっと見つめるだけで動けずにいたアーロンさんは、
ゆっくりと米俵に近づき、震える右手をそっと米俵へと伸ばした。
その指先が藁に触れる瞬間、こちらまでドキドキしてしまうほどだった。
これは…大成功だったのでは?
そう思いながら、俺はアーロンさんからの言葉を、じっと待っていた―…。
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