魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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80話 夜空の星に願いたいのは平和な生活

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「いっただきまーーす!」


あれから30分、40分と時間が過ぎ、ようやく皆の食事が出来上がった。
外にあるテーブルをゲートの前に移動させ、料理を運び、ゲートの向こうにいるセドラにも食事を届けた。
俺とミル、ルーナとシンゴ、そして子猫たちはこちら側に残り、
他の皆はセドラのところで食事をとることに。
ゲートの通り道を開けっぱなしにできないかとエマに相談したところ、
「魔力を送り続けることで穴を開けたままにできます」と言われ、
ゲートの空間に穴を開けてみた。
そのおかげでセドラとも会話を楽しみながら、皆でご飯が食べられて、何だかとても賑やかだった。


「セドラ、白米はどう?」

「長い間生きてきたが、こんなにも美味なものを食べたのは初めてじゃ。
この白米とやらだけを食べるとほんのり甘いだけじゃが、肉と絡めると旨味が白米に染み込んで、
何とも言えんほど美味じゃ!
ヨシヒロの前世では、こんなにも美味なものを当たり前のように食べていたんじゃな。」

「そうなの。でも、ここじゃ2週間くらいで完成するから苦労なく出来るけど、
実際には何ヶ月も稲と向き合って米を作ってるんだ。農家の人たちにはすごく感謝だよね。
米だけじゃなくて何でもそうだけどさ。
自分が提供されているものに関しては、“ありがたいな”って思うんだよねー。
俺じゃ出来ないことだし、その人たちがいるから、自分の生活が豊かなんだって思うじゃん!」

「そうじゃのう。ヨシヒロのそういう考えは、作り手にとってはとても嬉しいことじゃろうな。」

「そうだといいんだけどねー。
でも今は、こうして皆が“美味しい”って言って食べてくれる瞬間が、めっちゃ嬉しい!」

「幸せなことよなぁ。ワシも、こんなふうに皆で食事ができるということは、本当に幸せじゃよ。」


食事をしながらセドラに「ご飯どう?」と訊くと、思っていた以上の反応を見せてくれた。
セドラにも気に入ってもらえて、やっぱりお米を作って良かったなと思った。
今までは“与えられてばかり”の生活で、それは今もあまり変わらないのかもしれない。
でも、それでも与えられた力で、今はほんの少しだけでも皆に何かを“与えられている”なら、嬉しい。
そのために俺の力はあるって、そう思うから。
だから、皆が望むことをしてやりたい。
俺はいつも、皆に“生きる力”をもらっているから。
そう思っていた―…。









「ほう、ケット・シーにグリフォンの赤ん坊か。
この地のグリフォンは200年ほど前に絶滅したと聞いておったが…
まさかこんなにも愛いグリフォンが産まれていたとはのう…」

「ジィジ!シンゴ!シンゴ!」

「おお、ワシのことを“ジィジ”と呼んでくれるのか。可愛いのう、シンゴ。
それにルーナ。お主も大変な道を歩んできたのう。
それでも今日まで生きていたこと、もっと誇らしく思って良いぞ。」

「ありがとうございます、セドラ様。
そんな風に言っていただけるだけで、私が生きてきた意味がありますわ。」


食事を終えたところで、俺はルーナとシンゴをセドラに紹介した。
ラピスたちは、すでにクロたちが紹介してくれていたようで、セドラの洞窟をえらく気に入って遊んでいたらしい。
久々に見るであろうグリフォンにケット・シーにも、セドラは優しく接してくれた。
やっぱり“おじいちゃんと孫”の構図だな。それを見ているだけで、すっごく癒される。
それに、ラピスたちスライムもセドラに懐いていて、背中にのぼったり鉱山を探検したりと楽しそうだった。
このゲートを作ったのは本当に正解。我ながら、良い仕事をしたなぁと感じていた。


「グリフォンが産まれたということは、もう一つの卵も産まれたのか?
ドラゴンの赤子もいたのじゃろう?」

「それが…ドラゴンの赤ん坊はまだ眠ったままで、卵はうんともすんとも言わなくてさ。
だから何の卵かも分かんないんだよね。でも鼓動は感じるから、頑張ってはいるんだと思うんだけど…」

「ちゃんと生きているのなら良いが…早くもう一つの子も産まれてくると良いのだがな。」

「そうだよなー。心配になるよな。俺が突然復活させちゃった命だから、
ちゃんと産まれさせてあげたいんだけど、どうすればいいのかも分かんないし…
見守ることしかできないんだよなぁ…」


シンゴが産まれたことを受けて、セドラは他の子たちのことも気にかけていた。
それは俺も気になってはいたけど、クロの前の主が遺したデータみたいなものがないから、謎だらけ。
皆が心配しているからこそ、一日でも早くその顔を見せてくれたらいいんだけど。
なんて思っていると、セドラはクロに教えてもらったと言って、魔王についての話題に触れた。


「それはそうとヨシヒロ。クロから聞いたぞ。魔王になったのか?」

「なるわけないでしょー?あれは町の人たちが勝手に噂しててさ。
まあ、ロウキとかミルとかいるから無理もないんだけどさ。
俺は誤解を解いてもらいたかったんだけど、それを聞きつけたアーロンさん…あ、今の国王はアーロンさんって言うんだけどさ。
そのアーロンさんが“抑止力になるから”って言いだしてさ。
魔王の存在が確認されたっていうのと、交流があるから安心せいみたいな通達を出しちゃったのよ。
酷い話だと思わない?!
おかげで俺は、自分が安心できる相手以外は顔を覚えられないように魔法をかけたよ。」

「はっはっは!そういうことか。ヨシヒロも王国に利用されておるな。」

「そうなんだよー。別に危害を加えられたわけじゃないけどさ。
俺はただ、ゆっくりのんびり生活が送りたいだけなのに、何故か魔王にされたから!
ガーノスさんとかには“もう諦めろ”って言われるしさ。
それに、クロとか魔王に賛成みたいなんだよね。何でだろう?」

「魔物や魔獣、悪魔にとって魔王は絶対的支配者で、魔物の頂点と言えるからのう。
その地位に自分の主が就くとなれば、これほど喜ばしいことはないんじゃよ。」

「あー…こっちで言う国王みたいなもんかぁ…
そんな風に言われたらまあ…そうね、分からなくもないけど…」

「特別被害がないのであれば、そのまま“魔王”と呼ばれておれば良い。
この子たちにとって、それは自慢できることなのだからな。」

「そういうもんかねぇ…」


魔王にされた話題を振られた俺は、ここぞとばかりに愚痴をこぼした。
セドラも最初は同情してくれていたけど、クロたちが喜んでいると伝えると、
「魔王は頂点だから誇らしいのだろう」と言い始めて…。
ここで言う“国王”、日本で言う“総理大臣”みたいなもんなんだろうと思えば、
気持ちは分からなくもないけど…俺は野心家でもなんでもないのよ。
なんて思っていると、セドラから「被害がないのであれば、このままにしておいてやりなさい」と言われた。
その理由を聞かされた俺は、大きな声で「嫌だ」とは言えるはずもなく…
自分の主を自慢に思ってくれていると分かったら、あからさまに拒否できないじゃない。
嬉しいけど、本音はちょっと嫌!そんな、なんとも複雑な気持ちだった。


「ヨシヒロよ、お前はもう魔王なのだ。諦めて魔王を名乗れ。」

「何てこと言うのロウキ!やだよ!俺が魔王です!なんて!」

「カッコいいのにー。なぁユキ!」

「はい!あるじさまほどの魔王は、きっとどこにもいませんよ!」

「ヨシヒロ様が魔王を名乗れば世界は平和になります!」

「あるじ、おとこまえ!」

「ちょいちょい!皆で煽らないの!俺は静かに暮らしたいだけなの!」

「じゃあ静かに暮らし、平和を愛する魔王の誕生ですわね。」

「ルーナー!違うのにー!」

「パッパッ!つおい!」

「つおい!じゃないのよーシンちゃーん…!」


魔王の話題は膨らみに膨らんで、皆はあの時以上に「魔王を名乗れ」と勧めてくるようになった。
だけど、何度俺をおだてたって、魔王と名乗る日は来ないからな!
そう言い聞かせながら見上げた夜空は、とても穏やかで、平和な輝きを放っていた―…。
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