魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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81話 伝書ガラスから依頼書を渡されました

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「ごちそうさまでしたー!」

「はーい。食器を厨房に運んでねー。」

「はーい!」

「まかせて!」


とある日の昼。
いつものように家の外でお昼ご飯を食べ終え、皆がそれぞれ食器を運んでくれていた。
なんてことない風景だけど、これが幸せなのよ。
頭の上にお皿を乗せてピョンピョン跳ねながら厨房に向かうラピスたちの可愛さは天下一品。
クロはユキとロウキの分のお皿も持ってあげて、一生懸命運んでいて微笑ましい。
ミルは大皿を持って行ったり、テーブルを拭いてくれたり、とても頼もしい。
ユキとロウキは同じ場所にタレをつけていて、親子そろって可愛らしい。
ルーナは子猫たちとシンゴにご飯を食べさせていて、その姿がやけに美しく見える。
そんな世界に囲まれている俺は、きっと今、世界一幸せな空間にいると自負できる。


「洗い物を済ませたら、ちょっと昼寝しようかなぁ。」


幸せな時間を過ごしていると感じながら、今日はのんびり過ごそうと決めた俺。
席を立ち、洗い物をすべく一度家に入ろうとした時―
鳥の鳴く声がして、振り返った。


「カアアッ!」

「あれ?伝書ガラス?」

「なんだ?珍しいな。ガーノスからの使いか?」

「多分そうだよね。ありがとうねー。手紙、取るねー。」


このゲートを通れるのは、ガーノスさんのところの伝書ガラスだけだから、
すぐにガーノスさんからの手紙だと分かった。
首にかけられた手紙を取ると、そこには「相談があるので来て欲しい」とだけ書かれていた。
俺に相談って?俺だけ?それとも魔物案件?
手紙の内容だけでは訳が分からず、ロウキにその内容を伝えた。


「どう思う?」

「どうせ我に頼みがあるのではないか?魔物討伐とかであろう。
あまり気乗りはせぬが…まあ、ガーノスの頼みだ。話だけでも聞いてやるか。」

「そう?じゃあ、ちょっと行くだけ行ってみようか。」

「ああ。とりあえず我だけで良いだろう。行くぞ。」

「ええ?早いな!クロー!ちょっと俺、ロウキと出かけてくるから留守番頼むなー!」

「分かったー!早く帰ってきてなー!」

「了解ー!行ってくるー。」


ロウキにどうするかと訊くと、あまり乗り気ではなかったものの、
ガーノスさんのこと自体は嫌っていないロウキ。
「仕方ないから話を聞きに行ってやるか」と言い、俺よりも先にゲートへ向かった。
そんなロウキを追いかけるように、慌ててクロに「出かけてくる」と伝えてゲートをくぐった。
相談って一体なんだろう。やっぱり魔物討伐とかかな…
怖い魔物だったらどうしよう…!


「お邪魔しまーす。」

「おう!ヨシヒロ、悪いな。」

「いえいえ。何かあったんですか?」


少しの恐怖心と共にゲートをくぐると、すでにロウキは床でくつろいでいた。
ガーノスさんも待っていてくれて、ひとまず伝書ガラスを手渡す。
それにしても、ガーノスさん…今日は少しばかり表情に元気がない気がする。
やっぱり何かあったんだと思いながら、話を振ってみた。


「伝書ガラスを飛ばすなんて、何か緊急事態ですか?」

「ああ…今日はお前たちに調査依頼を出したいと思ってるんだが…
もちろん、今回は俺も行く。」

「え?ガーノスさんが出向くって…よほどの事態ってことですよね?」

「そうだな…ただ、ヨシヒロにはちょっとキツイ調査になるかもしれねぇと思ってな。」

「…やっぱり魔獣討伐ですか?!怖いの嫌です!」

「いや、怖いとかじゃなくてな…」


ガーノスさんに話を振ると、俺たちに調査依頼をしたいという申し出だった。
そして、今回の依頼にはガーノスさん自身も参加すると聞き、
「絶対にヤバい依頼だ」と直感した。
恐ろしい魔獣がいるのでは? そう感じていたけど、何だかとても歯切れが悪い。
一体どんな調査をさせる気なんだ…?内心ドキドキしていると、
ガーノスさんは言いづらそうに口を開いた。


「ここから西に約200キロほど行ったところに、古びた研究施設があるんだが…
そこはもう随分と使われていないはずだったんだけどな。最近、妙な噂を耳にしてな。」

「妙な噂ですか?」

「…魔獣を使って、違法な改造実験をしてるんじゃねぇかって噂だ。」

「え…」

「詳細は不明だが、魔獣の実験は当然この国では禁止されている。
違法に改造された魔獣は、下手すりゃ国を滅ぼしかねないからな。
事実は分からないが、調べないわけにはいかねぇだろ?
そこで腕利きの冒険者を集めて調査してほしいと、アーロンから相談があってな。」

「アーロンだと…?それでは今回は王家の依頼か?」

「ああ…ロウキが受けたがらないのは百も承知だ。
しかし、ヨシヒロにとっちゃあ魔獣は友達だろ?
それに、お前なら魔獣を助けられるんじゃねぇかって思ってな。」

「…ロウキが嫌な思いをすることは、できないです…」

「…まぁ、そうだよな。そう言うとは思ったんだが…」


どんな依頼を伝えられるのかとビクビクしていた俺の耳に届いたのは、
研究施設で魔獣たちが実験台にされているかもしれないという話だった。
それを聞いた瞬間、本能的に「助けなきゃ」と思った。
でも、依頼主がアーロンさんだと知り、受けることができずに俯いた。
ロウキが王家を死ぬほど憎んでいるのに、
その王家からの依頼をロウキと一緒に受けるわけにはいかない。
もちろん、実験台にされている魔獣たちがいるなら助けたい。
だけど…


「ヨシヒロよ。魔獣を救いたいか?」

「…え?」

「お前が救いの手を差し伸べたいと言うなら…受けてやる。」

「でも、ロウキ…」

「我ら魔獣が人間に好き勝手されているのは、腹立たしいからな。
それに、救える命があれば救う。お前はそう誓っているのだろう?
王家とは関係なく、お前の頼みであれば聞いてやる。
…どうしたいのだ?」

「…苦しんでる子がいるなら…救いたい。」


どちらも大切な気持ち。そう思って黙り込んでいると、ロウキが「どうしたいのか」と俺に問いかけてきた。
言ってもいいのだろうか…?そう迷いながらも「救いたい」と口にすると、
ロウキはフンッと鼻を鳴らしたあとで、ガーノスさんに向き直った。


「そういう訳だ、ガーノス。支度を済ませて、明日にでも出発するか?」

「ロウキ!すまねぇ!有難い!
正直、今回の依頼は他の奴じゃなくて、お前たちだけにしか話してねぇんだ。
アイツらの腕は認めるが、魔獣はすべて“悪”だと思ってるからな…
だから、ヨシヒロたちが一緒に行ってくれたらって思って相談したんだ。
まあ、俺も魔物や魔獣は“悪”だと思ってやってきた一人だけどな…
お前たちと出会って、そうじゃない奴もいるって実感したからよ。
救えるなら、救った方がいいだろうって。」

「ガーノスさん…ありがとうございます。」


ロウキは「すぐに行く」と言ってくれたけど、きっと俺のことを考えて折れてくれたんだと思う。
従魔にこんな風に気を遣わせるなんてダメだな…と思いつつ、
ロウキの思いやりには胸がギュッとなった。
ロウキが俺のために動いてくれたのだから、きちんと仕事はしなくちゃ。
そう思いながら、ガーノスさんと明日の予定について話し合った。


「ここからその施設まで歩けば、10日くらいはかかっちまうから馬車を使いたいんだ。
馬車だと遅くても4、5日で到着できるからな。
ただ、それだとロウキが乗れねぇからなぁって。」

「ああ、それならロウキが乗れるサイズの馬車を生成すればいいってことですよね?
俺の感性で良ければ作りますよ。そのあとシトリンに強化してもらえば大丈夫でしょうし。」

「…相変わらずだなぁ、ヨシヒロは。それじゃあ、頼んでいいか?」

「もちろんです!帰って、早速デザインを考えてきますね。」

「ああ。任せた。それじゃあ、朝食を食べ終えた頃に集合だな。」

「分かりました。よろしくお願いします。」


歩いて10日もかかる場所に行くのは初めてだから、
ガーノスさんが言うように馬車で行くのが正解だと思った。
だから俺は「ロウキが乗れるサイズの馬車を作りますね」と言うと、
呆れたように笑いながら「頼んだぞ」と言ってくれた。
少しでも楽がしたい俺は、こういうことなら頑張れちゃうからな。
なんて思いながら、明日の集合時間を決めてからゲートをくぐり、家へと戻った。


「あー!主、お帰りー!」

「おかえりなさい!あるじさま。」

「ただいま。何してたんだ?」

「えー?今、俺の服を複製してもらってたんだー!
これ、お気に入りのやつだから!」

「あはは、そっかぁ。似合ってるもんな、クロ。」

「そうだろー?」


家に戻ると、皆が「おかえりー!」と出迎えてくれて、それだけでホッとした。
この子たちを見ていたら、「絶対に救ってみせるからね」という強い意志が自然と湧いてくる。
そして今回は、ロウキだけを連れて行くべきか悩んでいた。
言えば全員が「行く!」って言い出しそうだしな…。
だけど、危険な目に遭わせたくはない。
ここは少人数で行く方が賢明だろうなと思っていた。


「エマ、馬車なんだけど一緒に考えてくれる?
便利な魔法もあったら教えてほしいな。」

【分かりました。それでは一緒に考えましょう。】

「ありがとー。」


連れて行くメンバーの厳選も大事だけど、まずは馬車を作らなければいけない。
いろんな漫画で馬車を見てきたけど、どんな構造だと乗り心地がいいんだろう。
そうやって頭の中で今まで見てきた馬車の構造を思い出しながら、
ここはエマ大先生にお力添えいただこうかな。なんて思い、相談を持ちかけてみた。
すると、意外にも「一緒に考えましょう」と前向きな返事をもらえて、ホッとした。
どんな馬車になるのか、俺もちょっと楽しみ。

だけど、一刻も早く救い出せる命があるなら、救い出したい。
そう考えながら、無邪気にはしゃぐクロたちを静かに見つめていた-…。

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