魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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90話 皆で決めたあの子の名前。そして不思議なことが起きました

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「主、皆で決めたぜ!アクアベアの名前!」

「おお!皆で話し合って決めたんだな?」

「あるじさまも、きっと気に入ってくださると思います!」

「ふふっ!それじゃあ発表しましょう。クロちゃん!」


アクアベアの名前が決まったようで、皆がその周りに集まっていた。
皆で一生懸命考えた名前が、いったいどんなものなのか楽しみにしていると、
代表してクロがアクアベアの頭を撫でながらその名前の発表した。


「この子の名前は…“あっくん”です!」

「え?!あっくん?!なんであっくん?」


クロから発表されたのは、俺がまったく想像していなかった名前、あっくん。
どうしてその名前にしたのか、純粋に気になった俺は、クロに訊ねた。


「アクアベアの“あ”だろ?赤い熊の“あ”と、愛らしい子の“あ”で、あっくん!」

「ああ、そういう意味か!なんか、えらく可愛い名前になったなぁ。」


クロに理由を教えてもらった俺は、思わず頬が緩んだ。
ルーナみたいな美しい名前を考えたかと思えば、今度は皆でにんまりするような理由での名づけ。
こんな悪魔や魔物、魔獣たちが、皆で意見を出し合って、
結果的に思いを込めた頭文字を集めて、こんなに愛おしい名前にしてくれるなんて。
絶対、誰も経験したことのない名付けだろうな。

そう思いながら、アクアベアのあっくんを抱きかかえた。


「君の名前は“あっくん”だって!良かったね。
皆に素敵な名前を付けてもらって!よろしくな、あっくん!」

「グオオッ!」


あっくんという名前をもらったことを、この子が理解しているかは分からない。
でも、身体的な成長はできなくても、年は重ねていく。
いつか、自分の名前が“あっくん”だって分かってくれたらいいな。
今はただ、あっくんが健やかに、幸せな毎日を送れますようにと願うばかり。

この場所を、あっくんにとって住みやすい領地にしていかなくちゃいけない。
そう思いながら、無邪気に皆とグオグオ言いながらお喋りをするあっくんを、そっと見つめていた―…。












その日の夜―


「主ー!主ー!大変だー!」

「んー?」

「主!俺、なんか急に変わった!!」

「変わった?何が変わっ―…えっ?!」


晩御飯を食べ、皆でワイワイ過ごし、お風呂に入ったあと。
寝室の扉を開けたままの状態で、あっくんを寝かしつけていた時だった。
なんだか慌てた様子のクロの声が聞こえてきた。
「何かが変わった」と慌てているクロ。
思わず振り返ると、そこにいたのは確かにクロなんだけど何だか様子が違う。
一体何が違って…え?


「クロ?!え?なんで二本足で立ってるのー?!
え?トカゲ感ゼロになっちゃってるじゃん!」

「なんか急に体がブワッて光ったんだよ!
そしたら見た目もちょっと変わって、二本足で立てた!」

「立てたって…あなた、何が起きたんだ?」


元々クロは、“リザード”という名前が付いているように、真っ黒なトカゲだった。
うねった角が中央寄りに二本生えていて、コウモリのような翼、
細く長い尻尾の先端には炎がゆらゆらと揺らめいていた。
だったんだけど…
今、俺の目の前にいるクロは、顔こそ変わらないけれど、顔の大きさが少し大きくなっていて、
角の位置は両端に移動し、胴長で四足歩行だった体はギュッと縮まり、
お人形のような体形で、二本足でしっかりと地面に立っていた。
まるで、小さなドラゴンのよう。
クロの体形は二頭身といったところで、その見た目の変化に驚いて、何度も瞬きをした。


「なんで急にクロの体が変わったの?進化するタイプだったのか?」

「いや?俺はこの状態が最終形態だったんだけど…何か急に変わった!」

「そんなことある?!」


突然の進化に、元々そういうタイプだったのかと聞いてみたけれど、
クロは「今までの形態が最終形態だった」と言い、ますます意味が分からなくなった。
こういう時は、やっぱりあれだよね。
エマ大先生に質問しようと思い、すぐに問いかけた。


「エマ!クロがなんかすごいことになってるんだけど、事情分かる?」

【…はい。お答え可能です。】

「本当?!じゃあ教えてくれる?」


もしかしたら分かるかも。
そんな気持ちで質問すると、どうやら謎は解けているようで。
早速、エマにこの現象の説明をしてもらうことにした。


【元々、ディアボロス・リザードはクロの形態から進化することはありません。
しかし稀に、何かの拍子にもう一段階上の進化を遂げる者がいます。
クロの場合、出会った当初は“主を護る使い魔”という位置づけで存在していました。
しかし、前回のルーナ、そして今回のあっくんという名づけを通して、
仲間と共に命を育む存在へと進化したのです。
それは身体的なものではなく、クロが本来持つ“ディアボロス・リザード”としての心が進化したという意味です。
その心の変化が、身体的特徴までも進化させたということになります。
クロの中で、“今までの形態よりも現在の形態の方が命を護れる”と願ったのでしょう。
この手の進化は、本人が望む姿に変わることもあると言われています。】


エマから教えてもらったのは、
本来進化しないはずの種族だったクロの“心”が進化し、
それが“形態の進化”にもつながったという、とても感慨深い内容だった。
確かに、悪魔がここまで相手を思いやり、共に生きようとするなんて、
普通なら考えられないことだろう。
それに、わざわざ他種族のために悪魔が頑張るなんて。
それはもう、奇跡に近い気がする。


「この世界、何が起きるのか分かんないもんだな…。
クロ、凄いな?かっこいいじゃん!」

「えー?そうかなぁ?俺は何にも変わってないけどー!」

「はは、クロはクロだもんな?俺は今までのクロも、今のクロも好きだぞ。」

「主ーーー!俺も主が好きだぞ!」


「かっこいいじゃん」と伝えると、照れ隠しなのか、
「何も変わってない」と言いながら、パタパタと背中の翼を動かして俺の肩に飛び乗った。
その表情は、何だか“純粋に嬉しい”って顔に見えてとても愛らしく感じていた。

そして、俺は思った。
進化しない生き物も、何かの拍子に進化することがあると知った今、
それが“悪い方向”に働かなければいいなと。
皆が皆、クロのように進化できるとは限らない。
邪悪な何かに取り込まれて、飲み込まれてしまう生き物もいるかもしれない。
そう思うと、少し不安になった。

でも、外のことばかり気にしていても仕方がない。
まずは、ここにいる子たちにはそんなことをさせないように、
めいっぱいの愛情をもって接していこう。
毎日が、ほんの少しでいいから。
「幸せだな」「楽しいな」と思える生活を送らせてやりたい。
そのために、頑張らなきゃいけないことがあるなら…
俺も、ちょっとだけ頑張ってみようかな。
そう思っていた―…。
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