魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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91話 訪問者と秘密の共有をしました

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ノエルさんが捕縛されてから、5日が過ぎた。
まさか一週間も経たぬうちに、あの事件の判決が下されるとは思いもしなかった。
朝食後にゲートから伝書ガラスがやって来て、持っていた書類に目を通すと、
【ノエルの件で話したいことがあるから、そちらに行きたい】とガーノスさんの言葉が記されていた。


【ヨシヒロさんがこちらから手を伸ばし、その手をガーノス氏が掴み引き寄せると、ゲートをくぐれます。】

「そんな仕組みがあったんだねー…。」


俺が何も言わなくても、エマが察してくれて、
ガーノスさんがこちらに来られるようにするための方法を教えてくれた。
すぐさまゲートを開き、ガーノスさんにやり方を説明。
俺の手を取って引き寄せると、無事にガーノスさんがゲートを通過できた。


「うげぇ!なんじゃこの城!
一度この地には入ったことがあったが、今にも崩れそうな城だったんだが…
ヨシヒロが一人で直したのか?」

「はは、そうなんですよ。
でも、俺がここに来た時は家がなかったので、この家を修復する以外の選択肢がなかったんです。
でもその結果クロの魂が復活して、幸せな生活が始まりました!」


家を見たガーノスさんは、昔の朽ちた状態を知っていたらしく、
ここまで完全に修復されていることに驚いていた。
立ち入り禁止のエリアとはいえ、調査で訪れることもあるもんなぁ。
あの時の状態を見ているなら、今の綺麗な姿に驚くのも無理はないかも。なんて思っていた。

そして、この家を修復したおかげでクロの魂が復活したと伝えると、
クロは翼を広げてガーノスさんの元へ飛び、二本足でしっかりと立った。
その様子を見たガーノスさんの目がギョッと見開かれたのが、少し面白かった。


「なるほどねぇ…って、クローーー?!
お前どうしたんだよその面!!ええ?小さいのは変わらんが…
えらい顔がでかくなって、胴が縮んじまって…
しかも二本足で立ってるじゃねぇか?!」

「へへっ!すげぇだろー!主のおかげで進化したんだぜー!」

「はぁ?クロって確かディアボロス・リザードだったよな? 進化すんの?
昔読んだことがある悪魔についての本には、そんなこと書いてなかったぞ?!」

「稀に進化できるんだってー!俺もロウキに似て天才かもしれなーーーい!」

「はあ?!」


クロを見て「何があったのか」と訊ねると、クロは自慢げに口角を上げて説明していた。
クロの種族が進化するという話は聞いたことがないと言い、ガーノスさんはさらに驚いた表情を浮かべていた。
そんなガーノスさんに向かって、クロはまるでロウキのように自分のことを「天才」と呼び始め、
短い両腕を腰に当てて得意げに笑った。
幼稚園児が他の子に何かを自慢する姿に見えて、俺は終始ほんわかしていた。

そして、何にも関係ないロウキは、クロに「天才」と言われた瞬間、まるで自分のことかのように「フンッ」と鼻を鳴らし、得意げにほくそ笑んでいた。
フェンリルなのに、なんて単純なんだろう…。
そう思いながら、俺は微笑ましくその様子を見守った。


「パッパー!パッパー!あそぼ!」

「シンゴー!おはよ。ルーナもおはよう。」

「おはようございます、ヨシヒロ様。…あら、確かあなたはガーノスさん、でしたかしら?
私たち家族以外がこの地に来るなんて珍しいですわね。どうされましたの?」

「おお、あの日以来だな、ケット・シーのルーナ。あん時は世話になった…
ってルーナ…その鳥みてぇな赤ん坊は何だ?」


二人の様子を見守っていると、家の中からルーナとシンゴが出てきた。
最近、ルーナと子供たち、そしてシンゴはふれあい広場ではなく、家の中で過ごすようになった。
あのふれあい広場はすっかり遊び場に変わってしまったから、公園のような遊具を作り、賑やかに遊べる仕様に変更した。
まぁ、だいたいそうだよね。予定は未定ってやつだよね。俺のふれあい広場…。


「この子はグリフォンのシンゴよ。この家の中にあった卵から産まれましたの。
今は私が母親になって面倒を見ているんですのよ。」

「へぇ、グリフォンか。どうりで見たことがある見た目だと思った…」

「……?」

「……ん?」

「…はあああああああっ?!グ、グリフォンだとーーーー?!
お前、グリフォンって絶滅してんだろうが?!!!」


特に何も考えていなかった俺は、ルーナがシンゴの説明をしている時、うんうんと頷きながら聞いていた。
すると一瞬、時が止まったような間ができた。
「なに?」と思った次の瞬間、先ほどクロのことで驚いた時の表情よりも数倍目を見開いたガーノスさんの叫び声が響き渡った。
その時、俺はハッとして気づいた。
シンゴの存在を隠していたということに。


「ああ…そうだ…俺、言わないようにしてたんだった…。
あのー…このことはどうかアーロンさんにはご内密にぃ…して欲しいなぁって…
国の象徴であるグリフォンがいると分かったら、ちょっと困るっていうか、何というか…」

「困るどころじゃねぇ!確実に国に献上しろって言われる案件だ!!
グリフォンはこのソウリアス王国にとっちゃ守り神のような存在だ。国旗を見れば分かるだろう?
しかし、既にこの大陸でグリフォンは絶滅している。
いや、この大陸だけじゃない。今や隣国のどこにもグリフォンの存在は確認されてねぇんだ。
それがここで生きてたとなったら、お前…絶対に差し出せと言われるぞ?」


俺の予想通り、グリフォンだと分かった途端、
「確実に国に献上しろと言われるぞ」と言い切られてしまった。
更に、この大陸だけでなく、隣国のどこにもグリフォンの存在は確認されていないと言われて、俺は青ざめた。
そんな俺を見て、スッと俺の前に立ったのはルーナ。
彼女はガーノスさんに、俺とシンゴのことを静かに語ってくれた。


「ガーノスさん。シンゴはヨシヒロ様と既に従魔契約を終えていますの。
無理矢理引き剝がそうとしても、シンゴはヨシヒロ様以外は扱えなくってよ。」

「え?!もう従魔契約したのか?早すぎないか?」

「シンゴが望んだんですもの。ヨシヒロ様はシンゴの願いを聞き入れただけですわ。
それに、グリフォンは最初に決めた主を一生護る生き物ですの。
この子はヨシヒロ様以外を護るつもりはないですわよ。」

「そうだったのか…しかしこれは極秘案件だな…」


ルーナは、シンゴと俺が従魔契約をしていること、
そしてこれは初耳だったんだけど、グリフォンは最初に主と決めた人を一生護る生き物だということを、ガーノスさんに伝えた。
すると、ガーノスさんは特大の深いため息を吐き、家の前の階段に座り込んだ。
そして、頭を抱えながら「この件は極秘案件だな…」と、小さく呟いた。


「なんかすいません…。でもこの子は俺が連れてきた子じゃないんですよね。
その昔、この場所に住んでいた魔法使いさんが救った命だったんですよ。
でも家主が天国に行って、卵たちも孵ることなく命が尽きたんでしょう…
それから時が経って、俺がこの家を完全に修復したせいなのか、クロを含めて卵まで復活しました。
で、産まれたのがまさかのグリフォンだったっていう…」

「はぁ…なんてこった…」


頭を抱えるガーノスさんに、シンゴがどうやってうちにやってきたのかを説明すると、
それはそれで異次元の話だったようで、今度は両手で顔を覆って大きなため息を吐き出した。
シンゴのことはこのまま知られない方が良かったけれど、知られてしまったことで、
より一層シンゴがこの国にとって貴重で重要な存在だと知り、警戒しなければならないと実感していた。


「パッパ!だれ?このおじさん、だれ?」

「おじっ…」

「シンちゃーん。この人はおじさんじゃなくて、ガーノスさんっていう人だよ。
冒険者ギルドっていうところで一番偉い人なんだよー。」

「ガーシュ?」

「はは、ガーノスさん!」

「ガーシュ!」

「あはは、シンゴにはまだ難しいかな?そこが可愛いんだけど。」

「はぁ…もう…疲れた…」


ガーノスさんがため息を吐いてうなだれていると、ひょこひょこと彼に近づいたシンゴ。
俺に向かって「だれ?」と訊いてくるので名前を伝えると、
絶妙に間違えた名前で呼ばれて、思わず吹き出しそうになった。
「ガーノスさんだよ」ともう一度教えたけれど、どうやらシンゴは“ガーシュ”という赤の他人の名前で覚えてしまったようで、ちょっと申し訳ない気持ちになった。

そんな無邪気なシンゴを見て、「もう疲れた…」と弱音を吐いたガーノスさん。
シンゴは警戒することもなく近づき、軽快にジャンプして膝の上に飛び乗った。
すると、ガーノスさんは何もかもを諦めたような表情でシンゴを見つめ、そっと頭を撫でてくれていた。

何だか、来て早々疲れさせてしまって申し訳ないなと思いつつ、
同じ秘密を共有した“共犯者”という認識になった俺は、ほんの少しだけ気持ちが楽になったような気がしていた―…。
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