魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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96話 王の謝罪と祈りの言葉、天に届けばいいな

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俺にできることは、一体なんだろう?
そう考えたとき、女神様にもらったスキル、Angelic Handアンジェリック・ハンドしかないと思った。
生きとし生けるものすべての命を癒し、救う力があるというこの力。
今回は明らかに対象外だとは思うけれど…それでも彼女を救いたいという気持ちで、俺は石碑に手を当てて祈った。


「どうかこの力で…この人を、この人たちの魂を救ってくれ!」


そう強く念じた瞬間、石碑に添えた両手から、これまでに見たことのないほど強烈な光が溢れ出した。
それは、傷を癒す時のハイヒールのような温かい光ではなく、すべてを浄化し、打ち砕くかのような青白く、銀色に輝く光だった。
同時に感じる不快感。これは、俺の魔力がどんどん吸い取られている時と同じ症状で、今にも吐いてしまいそうなほどだった。

それでもグッと堪えて意識を集中していると、石碑から青白い塊が二つ、ふわりと現れた。
その塊は石碑の周囲をぐるぐると回転し始め、何だかとても苦しそうに見える。
ドンッ!ドンッ!と石碑にぶつかったり、時には床に体当たりしたりと、暴走している様子が伺えたが、この手を放すわけにもいかず、俺はなんとか耐えていた。

すると、次第に青白い塊が、黄色く優しい色へと変わり始めた。
そして―


【心優しき人…私たちを見つけてくれてありがとう…】

「え?」

「主、声が聞こえる!」

「あるじさま、この声はもしかして…」


突然響き渡った、優しい女性の声。
キョロキョロと視線を動かすと、黄色く優しい色になった塊が人の形へと変化し、女性と男性が現れた。
この二人は、先ほど映像で見たあの二人だ。そうか…この二人の魂だったのか。


【200年間、暗く地獄のような苦しみの中にいました…
ですが今、私たちは救われました。ありがとう、優しき青年。】

「200年…ですか…苦しかったですよね…
もっと早くに気づいてあげられなくて…すみません…」

【良いのです…。私の声があなた方に届いた。それで良いのです…。】


人の形になった彼女は、200年間この苦しみの中にいたと教えてくれた。
誰も気づいてやれなかったことが申し訳なくて謝罪すると、彼女は優しく首を横に振った。
そんな彼女と男性の名前を知りたい。そう思い、俺は訊ねた。


「あの…名前を聞いても?」

【私の名前はコルナ・フローレス。そしてこの人はアルト・アダムス。
貴方も教えていただけますか?】

「俺はヨシヒロ…ヨシヒロといいます。」


名前を訊くと、彼女はコルナさん、彼はアルトさんだと教えてくれた。
200年も前の話だから、きっと末裔を探すのは困難だろう。
だから、これ以上俺にできることはないかもしれない。
それでも、彼女たちが確かに存在していたという事実、その最期の真実を、俺は忘れない。そう思っていた。


【感謝します、ヨシヒロさんと魔物さんたち。
どうかこれからの人生が、幸多きものとなりますように…】

「ありがとう…コルナさん、アルトさん…」

【ありがとう…本当に、ありがとう…】


彼女は再び、俺たちに感謝の気持ちを伝えてくれた。
そして、これからの俺たちの人生を祈ってくれた。
その言葉を胸に刻みながら、俺は静かに見守った。
二人は光の粒となり、ゆっくり、ゆっくりと天へ昇っていった。
その時、ルーナが「二人に安らかな眠りを」と、そっと祈りを捧げてくれた。


「はぁ…重たい…」

「綺麗ごとばかりではないのだ。これが現実だ、ヨシヒロ。」

「そうだな、ロウキ…。これは現実の話なんだよな…」

「それでもヨシヒロ様は、また一つ魂を救いました。
誰にでもできることではありません。
ヨシヒロ様の行いは、神聖光教団をも超えた“救い”ですわ。」

「ルーナ…ありがとな。」


とても大きな出来事だった。
これがただの偶然起きた幽霊騒動だったら、どれだけ良かったか。
ひとまず解決はできたものの、体がとても重たくて。
それを伝えると、ロウキは「これが現実だ」と言った。分かってはいるけれど、やっぱり落ち込む。
だけどルーナは、「また一つ魂を救った」と励ましてくれてその優しさに、俺は救われていた。


「でもさ、これ…どう説明すれば?」

「え?教団の人に殺された人が起こしてたって言えばいいじゃん!」

「ええ?そんなストレートに?!」

「だって真実じゃんか!あいつら、ひどい時は悪魔を召喚して殺しやってるからな?」

「マジか…まぁ、悪魔との契約って、そういうことだもんな…」

「それなら明日、先にガーノス師匠に相談してはどうでしょう?」

「だな。それが懸命だよな。」


今回の依頼は無事に解決したものの、どうやって報告すればいいのか悩んでいた。
クロはありのままを言うべきだと言っていたけれど、過去の話とはいえ、これは大問題になりかねない。
そう思っていると、ラピスが神父様に報告する前に、まずガーノスさんに相談してはどうかと提案してくれた。
まぁ、それが妥当な判断だろうなと思い、俺たちは地下から地上へと上がった。


「相変わらず綺麗なステンドグラスだな…切ないくらい。」

「あるじさま、隠蔽されないよう、結界を張っておいた方がよいかと。」

「そうだな、ユキ。……セルリアン・バリア!」


ヴオンッ―


地上に上がったところで、ユキから結界を張った方がいいとアドバイスを受け、俺はすぐにセルリアン・バリアを展開し、誰も入れないように結界を張った。
そういえば、よく考えたら明日、神父様とマリンさんがここを訪れたら、この部屋を発見してしまうだろう。
どちらにしても、説明は避けられないんだな。
そう思い、ひとまず扉の鍵を閉め、その前に結界を張り、
"俺が来るまでは開けないでください"と書いた張り紙を貼り付けた。


「さてと…ひとまず帰ろうか。」

「うむ。我はもう眠い。」

「帰ろう帰ろー!」


やるべきことを終えた俺たちは、ギルド別館の転移ゲートをくぐって家に戻った。
さっきまでの重たい空気は一変し、安心できる空間に肩の力がスッと抜けていくのを感じた。

もう明日のことは、明日考えよう。今は、ただゆっくりと休もう。
そう思いながら、皆で家に入り、それぞれの場所で静かに眠りについた―…。









翌日―



「おはようございます、ガーノスさん。」

「おう!おはよ。昨日はお疲れさんだったな。早速、話を聞こうか。」

「それなんですけどー…」


朝食を終えたあと、俺はクロを連れてゲートをくぐり、ギルドへ向かった。
別館ではすでにガーノスさんが待っていてくれていて、俺は昨日の出来事をすべて話した。
思い出すだけでもしんどいけど、隠しておけるものじゃないし、神父様への伝え方も相談しなきゃいけないからな。
そう思いながら、最初から最後まで話すと、ガーノスさんは「はあ…」と肩を落とし、伝書ガラスを王城へと飛ばした。
200年前のこととはいえ、神聖光教団が関わっていた以上、報告はすべきだという判断だった。


「ヨシヒロ、大丈夫か?研究施設の時といい、今回といい…命が重かっただろう。」

「はは、そうですね…俺がいた世界とは、まるで違うので…」

「俺がいた世界?」

「あ…いえ。とにかく、俺が育った場所の常識とは、あまりにもかけ離れていたんで…」

「そうか…。まぁ、難しい問題だよな。この手の話はよ。」


ガーノスさんは、俺が命のやり取りに敏感なことを気遣ってくれて、「大丈夫か」と声をかけてくれた。
つい「俺の世界とはまるで違う」と口走ってしまい、慌てて訂正したけど…。
そんな中、ガーノスさんはこの件の扱いについて触れた。


「ヨシヒロ。今回のことはアーロンには報告するが、絶対に外には漏らさないようにしねぇとな。
神聖光教団はソウリアス王国の権威だ。その暗部を暴くことは、国を揺るがす大問題になりかねない。
それに、お前が魂を解放したなんて知られたら、それこそ“のんびり生活”なんて出来なくなるからな。」

「困る…それは大いに困ります…」

「だろ?まぁ、これからのことと、ダニエル神父への報告の仕方は、アーロンたちに決めてもらおう。」

「そうですね…俺たちには荷が重い案件です…」


神聖光教団の闇を暴いたという事実。
それが露見すれば、国としての問題となり、アーロンさんたちの立場も悪くなるだろうし、市民からの信頼も揺らいでしまう。
そんなことがあってはいけないから、俺も他言はしないと決めていた。
それに、ガーノスさんの言うように、俺が関わっていることが広まれば、俺の異世界のんびり生活に支障が出るのが一番困る。
だから、今回の件はアーロンさんやガーノスさんの指示に従おう。そう誓っていた。


ヴィンッ―


「あ、魔法陣!主、アーロン来るぞ!」

「もう?早いね?」


しばらくガーノスさんと話していると、床に転移の魔法陣が出現し、クロが「アーロンさんが来るぞ」と教えてくれた。
朝っぱらから来てくれるなんて、王城の仕事は大丈夫なんだろうか…?


「ガーノス、ヨシヒロ、おはよう。
お、クロも来ておったのか。おはよう。」

「おはよー!」

「おはようございます、アーロンさん。」

「朝からすまんな、アーロン。」

「いいさ。内容が内容だからな…」


魔法陣から現れたアーロンさんとクロノスさん。
朝から申し訳ないと思っていたけど、さすがにこの件の内容が重すぎて、来てくれたようだった。
俺は、先ほどガーノスさんに話した内容をもう一度詳しく説明した。
話を聞いたアーロンさんも、さすがに胸を痛めたようで、「すまなかったな」と俺に言った。
そして、「一度現場を見せてくれ」と言われ、ガーノスさんとアーロンさんを連れて教会へ向かった。
二人が教会に入ったあと、もう一度結界を張ろうと手を伸ばしたところで、隣の孤児院から神父様が現れた。


「ヨシヒロ殿、私たちはまだ中には…?」

「ええ。申し訳ないのですが、最終確認をしますので、もう少しお待ちいただけますか?」

「分かりました…。では、隣の孤児院におりますので、またお声がけください。」

「はい。では、後ほど。」


バタンッ―


「ヨシヒロ、ここか?」

「あ、はい!結界解除します!」


さすがにアーロンさんが来ているとは言えず、「最終確認をするので、もう少し待ってほしい」と伝え、再び結界を張ってから中に入ると、地下への入り口の前に立っていたアーロンさんとガーノスさん。
俺はすぐにそこの結界を解除し、二人は迷うことなく中へと入っていった。


「ルーメンスッ!」

「すまんな…
しかし、本当にこのような部屋があったとはな…。
…これが…人柱を捧げる魔法陣か…?」

「そうだぞ!ここに生贄を置いて、呪文を唱えて捧げるんだ。
悪魔を召喚して契約する時もそうだぞ。」

「クロが召喚されない良い子で良かったわい。」

「へへっ!俺は主のために働くんだー!」

「そうだな。そのままのクロでいておくれ。」


階段を降りて、あの魔法陣がある部屋に辿り着くと、アーロンさんとガーノスさんは隠されていた部屋に驚きを隠せない様子で見回し、中央に描かれた魔法陣をまじまじと見つめていた。
その魔法陣についてクロが説明すると、アーロンさんは「クロが良い子で良かった」と安堵していた。

そして、部屋の中をぐるりと見回したあと、石碑のある部屋の扉を開け、建てられていた石碑に手を当てると、アーロンさんは静かに語り始めた。


「200年もの間、このような場所に眠らされて…さぞ辛かったであろう…。
現国王として、深く陳謝する。
救いを求めた者に刃を向け、その命を口封じのために利用した教団の罪を、私はここに、国王として重く受け止めようぞ。
コルナ・フローレス。そしてアルト・アダムスよ。安らかに眠られよ。
二人の真実の叫びは、決して無駄にはしない。」

「アーロンさん…」


非公式とはいえ、アーロンさんの謝罪はとても大きな意味を持つ気がした。
この言葉が、あの二人に届いてくれていたらいいんだけどな…。
そう思っていると、アーロンさんは顔を上げ、ガーノスさんに視線を向けた。


「ガーノス。この件は、極秘案件とする。教団上層部への対応は、私が直接行う。
公にすれば、ソウリアスの信仰の根幹が揺らぎ、民に無用な混乱を生じさせるからな。」

「そうだな。分かったよ。ダニエル神父とマリンにはどう説明するんだ?」

「隠し通せることではないからな…。私から真実を話そう。」

「分かった。ヨシヒロ、すまんが二人を呼んできてくれるか?」

「はい、分かりました。」


アーロンさんはこの件を極秘扱いとしつつ、教団への説明は自ら行うと言った。
自分が犯した罪ではないけれど、一国の王としての責務。そういうことなのだろう。
そして、今現在もこのようなことが行われていないかを確認するための報告と調査が始まる。そんな予感がしていた。

俺は孤児院へ向かい、神父様とマリンさんを地下室へと案内した。
この地下室の存在は二人ともまったく知らなかったようで、「なぜ、うちのような場所に…?」と驚きを隠せない様子だった。
そして、地下の扉を開けた先にいたアーロンさんを見た二人は、慌ててその場で両膝を地面につけ、深く頭を下げた。


「かしこまらなくて良い。今日は非公式でこの地を訪れているからな。
さて、ここで起きたことをこれから説明する。しかと受け止めよ。」

「はい…」


アーロンさんは二人に頭を上げさせたあと、俺の代わりに、俺が目撃した記憶の内容を交えながら、
ここで起きた出来事と、200年前の教団の罪について説明した。
その話を訊いた二人は、言葉なく静かに涙を流した。
この二人は、本当に信仰心篤い聖職者として生きてきたのだろう。その涙を見て、直感的にそう思った。
彼らの涙は、教団への失望ではなく、犠牲者への純粋な哀悼の涙だった。

話をすべて聞き終えると、二人は静かに立ち上がり、石碑に向かって謝罪と祈りの言葉を唱えた。


「コルナ・フローレス様、アルト・アダムス様。
200年前、聖職者という名を持つ者たちの手によって、貴方方の尊い命が、醜い罪の口封じのために利用されました。
愚かなる者たちの一員として、心よりお詫び申し上げます。」

「お二人の純粋な魂が、もう二度と苦痛を覚えることなく、神の愛に包まれ、永遠の安息を得られますように。」


偽りではなく、本物の祈り。
それはきっと、コルナさんとアルトさんの魂を天へ導いてくれるだろう。
そう思いながら、俺もそっと両手を合わせて、二人のために祈った。

俺は思う。この世界は、俺をとことん癒してくれる。
でも、とことん非道で、残酷な行いが当たり前のように起きている。
そんな世界なんだと、改めて感じていた―…。

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