魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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99話 届いた依頼、今回は素直に受けようと思います

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モモが誕生してから、どのくらい経っただろう。
きっと、もう10日くらいは経過している。
モモは相変わらず食いしん坊だったけど、少しずつ「食べていいもの」と「ダメなもの」の区別を覚え始めていた。
そして、ほんの少しだけど言葉も覚え始めて、シンゴとあっくんと仲良くお喋りをしていた。

「パッパ!だよ!」

「パッパ?」

「そう!パッパ!あっちは、マンマ!」

「マンマ?」

「マンマ!」

「マ?」


シンゴは、あっくんとモモに一生懸命、俺とルーナの呼び方を教えていて、お兄ちゃんぶりを発揮していた。
シンゴが生まれたばかりの頃は、どうなることかと思っていたけど。
そんなシンゴが、今ではあっくんとモモの面倒を見るお兄ちゃんになるなんて。
子供の成長は早いって言うけど、本当に早いなと、しみじみ感じていた。


「はぁー…いいねぇ、このゆっくりと流れる時間がさ。なぁ、ロウキー。」

「そうだな。最近は何かと動きっぱなしだったからな。
このまま依頼もなく過ごしたいものだ。」

「だよね?ほんとにね、このままのんびりスローライフを謳歌したいなぁ。
もう季節は8月だし、ちょっと暑いから動きたくないよなぁ。」

「うむ。我もこの高貴な毛皮のせいで暑さには弱い。
ここはそこまで暑くならぬから、出たくはないな。」

「分かるー。森のおかげなのかな?ちょうどいい感じだよね。」


モモたち子供たちの様子を眺めながら、ロウキとそんな会話を交わした。
とても17歳の青年の会話とは思えないよな。まぁ、中身は30代後半なんだから仕方ないか。
冒険も依頼も大変で、のんびり生活とは程遠い。
だけど、頼まれたら断れないのが俺たちなんだよなとも思っていた。
今は留守番してくれる子たちが、子守をしっかりこなしてくれるおかげで、心配せずに出かけられるのがありがたい。
だからまぁ、また何か依頼が来たら、行くことになるんだろうな。
なんて思っていた、その時―


「カアアアッ!」

「…ねぇ、ロウキ。」

「おい、来たぞ。噂をすれば何とやらだな。」

「はぁ…」


本当に“噂をすれば何とやら”だよ。
のんびりしていた空間に響き渡った、聞き慣れた伝書ガラスの鳴き声。
ロウキと一瞬目を合わせたあと、ため息を吐きながら伝書ガラスから書状を受け取った。
書状を見てすぐにアーロンさんだと分かり、恐る恐る開いてみると、そこにはこう書かれていた。


8月は13日から16日まで、国民には休みを設けてある。いわゆる盆休みだ。
盆休みの最終日には「花冥祭《かめいさい》」という祭りが行われる。
この祭りは、ご先祖様や亡くなった大切な人への感謝と供養の気持ちを込めて行う祭りでな。
出店が並び、毎年とても盛り上がる祭りだ。
祭りの中では、献花台に白い花を供えて祈りを捧げる。
そして祭りの最後には、冥界に還る魂を送るために火を灯し、空へと送り出す。
“来年また会おう”と約束を交わすのだ。
この祭りの大まかな内容は以上だが、先ほど花を供えると書いたと思うが、
この地には“シキナ”という花が存在する。
その花は、死者との対話を可能とする花で、毎年この日のために探索隊を出して探しているのだが、いまだ見つかっていない。
そこで、ヨシヒロに“シキナ”の探索を正式に依頼したい。
詳しい話はガーノスに訊くとよい。――国王アーロン


「お盆休みだって…さすがアーロンさん。日本人だなぁ。」

「花冥祭か。我は外から見たことがあるが、いろんな出店が並び、それは楽しそうにしておったぞ。
それに、火を灯して空に送るあの瞬間は、とても儚く美しいものだった。」

「お盆って、亡くなった人が帰ってくるって言われてるもんな。
その人たちが空に帰る時の見送り方が、それなんだな。」


アーロンさんからの書状で、盆休みがあると知り、まさか祭りまであるとは驚きだった。
日本人であるアーロンさんらしい政策というか、イベントだよな。
…まぁ、それは別にいい。
俺が気になったのは、“シキナ”という花を探してくれという依頼。
毎年探索隊を出しても見つからないものを、なぜ俺に頼もうと思ったのか。


「ロウキ、シキナって知ってる?」

「ああ。我も実際には見たことはないが、噂には聞いたことがある。
その花を祈りの魔法陣に捧げて祈ると、一度だけ死者と対話ができるという奇跡の花だ。」

「すごく素敵な花じゃん。でもそれを探せって…ロウキですら見たことないのに、絶望的じゃない?」

「そうだな。じいさんに聞いてみたらどうだ。」

「セドラに?」

「俺、聞いてくるー!ユキ、行こうぜー!」

「はい!クロ兄さん、行きましょう!」


ロウキも知らないシキナを探すという無理難題に困っていると、セドラに聞いてみたらどうかと提案された。
それを聞いていたクロが、ユキを連れてゲートをくぐり、セドラの元へと向かった。
セドラが住んでいる鉱山とゲートを繋いでからというもの、隣の家に行くくらいの感覚で会いに行けるようになった。
ゲートってやっぱり便利だし、繋がりを大事にする俺からすれば、本当にありがたい存在だ。
すぐに会いに行けるし、その場から離れられないセドラとも一緒に食事ができる。
そんな幸せな時間を過ごせていた。


「主ー!じいちゃん、聞いたことがあるって!主、来てー!」

「本当?ロウキもちゃんと聞いててよ!行くぞ!」

「なぜ我が行くことが前提なのだ…」

「ロウキいないと俺、何にもできないの知ってるだろ?」

「はぁ…」


ユキの背中に乗ったクロが戻ってくるなり、セドラがシキナについて何か知っていると教えてくれた。
俺はロウキを無理やり連れて、ゲートをくぐった。
王家からの依頼は基本的に受けない方針だけど、その花には興味があった。
話だけでも聞いてみたい。そう思っていた。


「セドラ、シキナっていう花、聞いたことがあるんだ?」

「そうじゃのう。もう遥か昔の記憶じゃから曖昧じゃが…
王都から東に100キロほど行ったところに山岳地帯があってのう。
その山のひとつに“妖精の住処”と呼ばれる山があるんじゃ。
その山の頂上付近に妖精の村があり、そこでシキナが咲き、管理されておると聞いたことがある。
妖精たちはとても警戒心が強く、自分たちの住処を護るために、強固な隠蔽魔法で場所を隠しておる。
人間には見つけることができんという訳じゃ。」

「え?じゃあ俺、ダメじゃない?人間だし。」

「ふーむ…どうかのう。ヨシヒロは普通の人間ではないからのう…。
こればっかりは、行ってみないことにはどうとも言えんのう。」

「そっかぁ…」


セドラの話を聞いた俺は、自分には見つけられない気がしてならなかった。
“人間には見つけられない”と言われた時点で、もう詰んでる気がする。
この依頼を受けたとして、何も見つからなかったじゃ話にならないし、
かといって、隠蔽魔法で守られている妖精の村のことを簡単に話すのも違う気がする。
この状況、どうするかなぁと悩んでいると、側で聞いていたユキが、何か言いたそうな表情で俯いていた。


「ユキ?どうした?何か言いたいことあるんじゃないの?言ってごらん?」

「あるじさま…いえ、なんでもないですよ…?」

「本当にぃ?すっごく何か言いたそうな顔してるよ。怒らないから言ってみて?」

「…あの…僕…
母上に会いたい…です…」

「!!」

「もし…本当にシキナで死者との対話が可能なら…一度でいいから母上に会いたいです…」

「ユキ…」

「あ、で、でも!難しいことは分かっていますから!
僕は父上やあるじさまを困らせたいわけじゃないですから…」


気になって声をかけたユキが、小さな声で呟いた願い。
それを聞いた瞬間、胸がギュッと掴まれた気がした。
そりゃそうだ。まだ小さいユキが母親に会いたいと願うのは、ごくごく当たり前のこと。
それを遠慮がちに言うなんて…本当にもう、この子は!


「よし。依頼を受けよう。ガーノスさんのところで話、聞いてくるよ。」

「うむ…。そうだな。普段我儘など言わぬユキが言うのだ…。
ユキの願い、我も叶えてやりたくなった。」

「だよな?じゃあ、ちょっとこれから話聞きに行ってくるよ!
ありがとう、セドラ。また近況報告するから!」

「ユキや。お前さんの母親に会えることを祈っておるよ。」

「ありがとうございます、セドラおじいちゃん!」


ユキのあんな寂しそうな表情を見て、このまま依頼を受けないなんて選択はできなかった。
ロウキも、我が子の願いを叶えてやりたいという気持ちが芽生えたようで、この件に関しては受けることを許してくれた。
多分だけど…もしその願いが叶った時、ロウキも愛する妻に会える。
その気持ちも、きっとあったんじゃないかなって思ってる。

今回の依頼は、必ず達成したい。
そんな気持ちを胸に、俺たちは一度王都へ向かい、ガーノスさんの元へと向かうことにした。
この依頼が成功すれば、王都の人々も、自分の大切な人に会えるかもしれない。
とても切ないけど、それでも会えたら、きっと前を向ける人だっているはずだ。
そのためにも、俺はどうにかしてシキナを見つけてやりたい。
そう、強く思っていた―…。
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