魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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102話 光の粒子が導いた先で、妖精に出会いました

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三日後-


「ここがそうなのか…?」

「そうですわ、ヨシヒロ様。
ガーノスさんから聞いた話によると、この村落の背後にある山の崖から流れる滝付近が“妖精の住処”とされる場所で、滝のすぐ側から上へと登れる道があるようですわ。」

「へぇ…なんか神秘的で綺麗だなぁ。
とりあえず村の人に話を訊いてみようか。歩くから出るぞー!」

「はーい!」


あれから俺の願い通り、何事もなく…というよりは、魔物退治を皆がしてくれたおかげで、無事に“妖精の住処”とされる山の近くまで来ることができた。
この辺りは王都と違って未舗装の道が多く、ガタガタしているけど、その田舎道がまた心地よかった。

馬車から降りると、一旦お馬さんと人造体、そして馬車を空間収納の中で休ませて、徒歩で村まで向かうことに。
次第に道は緩やかな下り坂になり、時折カーブを描きながら村へと続く道を、遠足のように歩いていく。
そして道を下りきると、明かりの灯った小さな村落にたどり着いた。

夜ということもあり、家々の灯りがとても綺麗で、更に月も出ているもんだから、やけに幻想的。
その景色をより美しくしているのが、村の背後を流れる滝。
その横から山に入れる道が整備されていて、頻繁に山へ出入りしている様子が伺えた。

そして、俺たちがこういう村落に初めて来ると、必ず聞こえてくるものがある。
そう、無数の叫び声。


「ぎゃあああっ!!魔物が出たぞーーー!!!」


そうだね、魔物も魔獣もいるね。怖いよね。ごめんね。
そう心の中で謝りながら、出てきた村長さんにいつものように説明をすると、平謝りされて俺が慌てるというお決まりの流れ。
俺がこんなふうに生き物が好きだから仕方がないんだけど…。


「国王陛下は今年も探索隊を出されたのですね。本当に心優しきお方ですなぁ。」

「そうですね。アーロンさん…あ、アーロン陛下は、心の底から民の皆さんに幸せを届けたいと願っていましたよ。」

「そうでしょうなぁ。歴代のどの陛下よりも、お心が優しいと聞いております。
…それでは、皆さん。夜道は危険ですが、どうかお気をつけて向かってください。」

「ありがとうございます。行ってきます!」


村長さんと少しばかり話をしたあと、俺たちは山の入り口まで案内してもらい、“妖精の住処”を探して山の中へと入った。
俺はてっきり朝から探索するものだと思っていたけど、毎年夜に探索に出ると教えられ、恐怖に怯えながら山へと登り始めた。
山といえば、生い茂った木々の合間をぬって頂上を目指すイメージだったけど、見渡す限り岩と土壁が広がる、開拓された山で驚いた。
不思議に思った俺は、エマなら何か知っているかもと思い、質問してみた。


【この山は、かつて鉱石を採掘していた場所になります。
村落の人々はこの山での採掘を仕事とし、採掘した鉱石を王都に売りに行き、生活していたようです。
そのため、木々が伐採され、岩肌がむき出しになったという訳です。】

「そうなんだ。仕事だから仕方がないんだろうけど、岩肌がむき出しっていうのも、ちょっと寂しいな?」

【採掘を優先した結果、自然破壊に繋がってしまい、村に伝わるこの山々の守り神、妖精が出て行き、
新しい樹木の苗を植えても育たなくなったという話もあるようです。】

「え?じゃあ、もしかしたらこの山にはもう妖精がいないかもってこと?」

【そうなります。ですが真意は不明です。この辺りの住民は、誰も見たことがありませんので。】

「まぁ、そうだよな…。希望は捨てずに歩いて行きますかね。」


エマから教えられたこの村落の事情は、何とも言えない話だった。
仕事だからやらざるを得ないというのも分かるし、それに怒る妖精の気持ちも分かる。
自分たちの住処が破壊されていくのを見て、怒らない方がおかしいもんな。
セドラが“妖精の住処”の話を聞いた時は、まだ緑豊かだったのかもしれないなぁ。
なんて思いながら、砂利道をえっちらほっちら歩いていった-…









歩き続けて、どのくらい経ったのだろう。
道が開けているせいか、魔物が出てくることもなく、とても平和に歩けていた。
上へ行けば行くほど、不思議な小さな光の粒子が舞い始めて驚いたけど、それ以外に特別な変化はなくて。
このまま頂上付近まで行ったところで、本当に俺に見つけられるのか?そんな不安が拭えなかった。
そんなことを考えていた時、ロウキの背中に埋もれていたシンゴが、ひょこっと顔を出して俺に訴えた。


「パッパ!あれ、追いかけて!」

「え?あれって、光のこと?」

「きれい!追いかけて!」

「綺麗って…シンゴ、遊んでる場合じゃないんだよぉ?」

「やぁ!追いかけてー!パッパ!」


シンゴはあの光が気になるようで、「追いかけて」と何度も繰り返し、ロウキの背中の上でぴょんぴょん跳ね回った。
ここまでワガママを言う子じゃなかったのに、どうしたんだろう?
初めてのお出かけでテンションが上がっちゃったのかな?
そう思っていると、側にいたルーナが口を開いた。


「ヨシヒロ様。この先に命の揺らぎを感じます。少し、弱っている気が…」

「え?誰かいるってこと?!」

「ええ。あの光を追ってみた方が良いかもしれません。」

「分かった。じゃあ、行ってみようか。」


ルーナの言葉を受けて、俺たちは光の粒子が向かう方へと歩を進めることにした。
ゆらりゆらりと舞う光の粒子は、まるで俺たちに気づいたかのように、ゆっくりと道案内をしてくれているように感じられた。
そして辿り着いたのは、岩と岩を繋ぐ吊り橋。
恐る恐るゆっくりと渡っていると、ロウキはひょいっとジャンプし、ユキもルーナも平然と渡っていく。怖いもの知らずめ!

そう思いながらようやく渡りきると、光の粒子が同じ場所をぐるぐると回り始めた。
何かあるのか?そう思って近づいていくと、そこには小さな羽を生やした妖精らしき女の子が、倒れ込んでいた。


「ロウキ、この子って…」

「妖精だな。」

「ええ。この山に住むと言われている妖精でしょう。命の炎がとても弱いですわね…」

「魔力の枯渇…だな。何かをしていて魔力が尽きてしまったのだろう。
普通は寝ていれば回復するものだが…ルーナが“命の炎が弱い”というのなら、この状態で放置は危険だ。
ヨシヒロ、お前の魔力を分けてやれ。」

「どうやって?」

「その妖精の手に自分の指を重ねて、自分の体の魔力を流し込むイメージをするのだ。」

「難しいなそれ。でも、やってみようか。」


倒れた妖精を前に、どうすればいいのかと悩んでいると、ロウキがすぐに「魔力枯渇」だと判断し、放置は危険だと告げた。
俺の魔力を分け与えることで助けられるらしい。
ロウキに言われた通り、指をその小さな手に重ね、じっと集中して、自分の中の魔力を相手に流すようなイメージを重ねた。

すると、体の中から何かが動き、移動していく感覚があり、その感覚が消えたところで指を離した。
これで目を覚ましてくれたらいいんだけど…
そう思いながら様子をうかがっていると、倒れていた彼女がピクリと動き、その目がそっと開いた。ホッとした。


「…え。にん…げん…?」

「ああ。急にごめんな。倒れていたから、俺の魔力を分けさせてもらったよ。大丈夫かい?」

「にん…げん……
人間っ?!きゃあああああっ!!」

「わっ!びっくりした…そんなに驚かなくても…」

「ななななっ!なぜ人間が?!それになにこれっ…魔物に魔獣…
フェッ…フェンリルさま?!えええええっ?!」


目を覚ました妖精の目に俺が映った瞬間、ギョッとして羽で一気に空へと舞い上がり、ぐるぐると旋回。
パニックになっている様子で、俺もどうしたらいいのか分からず、ただ落ち着くのを待つしかなかった。
そして今度は、俺の後ろにいた皆に驚き、ロウキとユキを見た瞬間、その驚きは最高潮に達したようで、慌てて地面に頭をこすりつけた。
どういうことだ?フェンリルって、妖精にとってそんなに位が高い存在なのか?
そう疑問に思っていると、後ろにいたロウキが口を開いた。


「この人間は貴様を魔力枯渇から救った命の恩人だ。警戒せずともよい。感謝せい。」

「えっ…人間が私に魔力を…?」

「ええ。ヨシヒロ様が魔力を分け与えなければ、あなたは死んでいましたわよ。」

「猫…いや、ケット・シー…?」

「主は君を助けたんだぞ!ちゃんとありがとうって言ってよ!」

「ヨシヒロ様はあなたをお救いになったのです!神です!」

「待って待って…?悪魔にスライム…何がどうなってるの?何故人間なんかと一緒に…?」


ロウキが妖精に俺のことを伝えると、代わる代わる皆が「感謝しろ」と言い始めて、俺は苦笑い。妖精は妖精で、なぜ俺がこんなにも多種族を引き連れているのか不思議で仕方がない様子だった。
そりゃそうだよな。普通の人間は、こんなに多種族を連れて歩かないだろうし…。
なんて思っていると、ロウキがもう一度、俺が助けたことを伝えた。
すると妖精は俺の近くにやってきて、再び頭を下げた。


「人間よ…私を助けてくれてありがとうございます。魔力共有はとても負担のかかる行為。
それを迷わずに行ってくださって、感謝します。」

「頭をあげて。俺、こう見えて魔力多めだから大丈夫だよ。君が無事に回復して良かったよ。」


妖精はそう言って、俺に深く頭を下げた。
俺が「大丈夫だよ」と伝えると、妖精はホッとした表情へと変わった。
それにしても、ロウキの言うことを素直に受け入れるなんて、
妖精にとってロウキは、どんな存在なんだ?
フェンリルって、結構な割合で“悪”とみなされて、世界を滅ぼす魔獣という位置づけだと思っていたけど…。
この世界では、扱いが違うのかもしれない。そう感じずにはいられなかった。


「改めまして、私は妖精族の一人、デイジーと申します。この度は命を救っていただき、感謝いたします。
もしよろしければ、お礼をさせていただきたいので、私たちの住処へいらっしゃいませんか?」

「え?!」

「妖精の住処…本当に存在したのだな。」

「ええ。強固な隠蔽魔法をかけておりますので、よほどのことがない限りは見つからないかと。
ご案内させていただいても、よろしいでしょうか?」

「君さえよければ…ぜひ、お願いします!」


妖精を見つけられただけでも嬉しかったのに、妖精族のデイジーさんが俺たちを“妖精の住処”に案内してくれるなんて驚きだった。
魔力を分け与えるということは、本当はすごいことなのか?
魔力に無縁だった俺には、いまだによく分からないけど…。
せっかく誘ってくれたし、ここはお言葉に甘えて行くっきゃないよね。
そう思いながら、デイジーさんに付いていくことにした。


「あれ…その光の粒子は一体?」

「この光の粒子は、私たち精霊を見守る光になります。
何かあると、こうして現れてくれるのです。
そのおかげで、私はあなた方に見つけていただけたという訳です。」

「へぇ…守り神みたいな感じだ。綺麗だねぇ。」


デイジーさんと一緒に舞う光の粒子。
それがまさか“妖精を見守る光”だとは思わなくて、驚かされた。
もしかして、シンゴは無意識にそれを感じ取っていたんだろうか?
そうだとしたら、シンゴって実はものすごく賢い子なんじゃ…?!どうしよう!
ますます狙われないように注意しなくちゃ!
なんて思いながら、デイジーさんのあとを静かに付いていった―…。
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