魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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103話 女王陛下に会えたので、シキナについて教えてもらいました

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デイジーさんに連れられて、道なりに歩くこと2、3分。
洞窟の入り口まで来ると、「しばらく待っていてください」と言われ、そのまま待機することに。
デイジーさんは洞窟の中へと入っていき、姿が見えなくなった。
まさかとは思うけど…この洞窟が住処だなんて言わないよね?


「ねぇ、まさかとは思うけどさ。」

「違うわ。ここは普通に見ればただの洞窟だが、強固な隠蔽魔法がかけられている痕跡がある。
この洞窟のどこかに住処へ繋がる入口があり、その入り口を魔法によって隠しているのだ。」

「ああ!なるほどね!頭いいね、ロウキ!」

「誰でも察しがつくだろうが…」

「俺は異世界人だから知らないからー!」

「はぁ…」


俺が何を言おうとしたのか、すぐに察したロウキは、即座に俺の考えを否定した。
そして、洞窟のどこかに入口があると説明してくれて、ようやく納得できた。
いや、本当にね。もしここが妖精の住処だったら、丸わかりだし夢も希望もないもんな。
なんて思って苦笑いしていると、デイジーさんがパタパタと羽を羽ばたかせて戻ってきた。


「フェンリル様、そして…」

「あ、俺はヨシヒロといいます。」

「ありがとうございます。
では、改めましてフェンリル様、ヨシヒロ様、そして皆々様、ご案内いたします。
先ほど助けていただいた件を、妖精女王セシリア様にお話ししましたところ、ぜひお礼をと申しておりました。
なので、ぜひセシリア様にお会いいただきたいのです。」

「わぁ…いきなり女王陛下…」

「そんなに緊張されずとも大丈夫ですよ。セシリア様は、人間も魔物も関係なく愛していらっしゃるお方ですから。」

「そうなん…そうでしたか。それは助かります。人間を嫌う種族は多いかと思っていたので…」

「セシリア様は、種族差別を決して行わない方です。私たちの憧れなんですよ!」

「女王陛下は素敵な方なんですね。」


デイジーさんがとても丁寧な口調に変わったこともあり、俺も何だかかしこまってしまった。
そして、突然の訪問だというのに女王陛下に会うことになるとは思わなくて。
妖精の女王陛下って、どんな人なんだろう?
デイジーさんの話では、種族差別をしない素敵な人ってことだから、きっと心根がとても優しいんだろうな。そう感じていた。

そんな話をしながら洞窟の中をある程度歩いていると、何となく雰囲気が変わっていくのを感じた。
魔力の流れが出てきた…というのかな。
入り口付近では何も感じなかったのに、この辺りでは魔力の流れを肌で感じる気がする。


「それでは、いきます。」


俺が一人そんなことを考えていると、デイジーさんが「いきます」と言って、その小さな両手を前に伸ばした。
すると、今まで何もなかった洞窟の土壁に、突然七色のもくもくした雲のようなものが現れた。
それは雲にも見えるし、わたがしにも見える…そんな感じで、ちょっと美味しそう。
なんて思いながら、その雲の中に入っていくと、1分もしないうちに出口が見えてきて、ドキドキしながら雲を抜けた瞬間。


「わぁ!ええ!異世界ーーー!!ファンタジー!!」

「ほう…。さすが妖精の住処。乙女が好きそうな場所だな。」

「あるじさま、とても可愛らしい場所ですね!」

「主すげぇな!妖精の国!!」


雲を抜けて一歩足を踏み入れた途端、それはまるで別の次元に迷い込んだかのようだった。
鮮やかな傘を持つ巨大なキノコの家は、おとぎ話に出てくるような見た目で、何とも可愛らしくて。
大木の幹にくり抜かれた住居、そしてそこら中を飛び交う、手のひらサイズの妖精たち。
村の中央には、聖水のように清らかな泉が湧き出ていて、その水面からは絶えず青白い光の粒が舞い上がっていた。
この光景は、本当に絵本の世界と言っても過言ではないくらいの幻想的な世界だった。

そんな可愛らしい景色の奥に、大きなお城が見えた。
それがきっと、女王セシリア様が住むお城なのだろう。
他の建物よりもはるかに大きく、人間が住むサイズに見えるけど…
もしかして、妖精の女王は人間と同じ大きさなのか?
なんて一人で色々と想像している間に、そのお城の前に到着。
そのまま中に案内され、到着したのは王城の応接間。
その瞬間の俺の安堵感といったら。
前回、アーロンさんたちの元で行ったような謁見の場だったらどうしようと内心不安だったけど、今回はそんな堅苦しい感じではなさそうで、一安心だった。


「皆さま、こちらが妖精の住処の女王陛下、セシリア様にございます。
セシリア様。こちらが私を救ってくださいました人間のヨシヒロ様と、フェンリル様ご一行です。」

「あ…お、お初にお目にかかります。私はヨシヒロと申します。
そして、私の使い魔と従魔たちにございます。」


「ようこそ、この妖精の住処へ。そして、よくぞ参られました、ヨシヒロ殿。
我が娘、デイジーの命を救っていただいたこと、この場を借りて心より感謝申し上げます。」

「いえ…私にできることをしただけですので。デイジーさんが無事で良かったです。」


部屋に入ると、俺たちを待っていてくれた女王陛下がくるりとこちらを向いた。
銀髪の長い髪に、エルフのような尖った耳。そして、エメラルドグリーンのように煌びやかな瞳。
背中の羽は透明度が高く、それでいて虹色に輝いていて、とても美しかった。そして、俺が思っていた通り、妖精の女王陛下は人間の成人女性と変わらない身長だった。
それがまたファンタジー要素満載で、少しばかり見惚れてしまった。

この世界には俺の知らない人がたくさんいるとは思っていたけど、こんなにも美しい女性にお目にかかれる日が来るなんて。
ただ美しいだけではなく、その佇まいには女王としての威厳が満ちていて、決して安易に会える方ではないと感じた。


「ありがとう、ヨシヒロ殿。
そして、フェンリル様にお目通りできるとは思っておらず、お迎えもできずに大変申し訳ございません。」

「うむ。構わぬ。面を上げよ。
我はこやつの従魔としてこの地にやって来たまで。
そなたたちが我に気を使う必要はない。そなたの娘が無事で何よりだったな。」

「はい。有難きお言葉。
フェンリル様が仕えるほど、ヨシヒロ殿は清らかで美しい魂をお持ちなのですね。
我々も、ヨシヒロ殿に精一杯の感謝と恩返しをさせていただきたいと願っております。」


俺に挨拶をしてくれたあと、セシリア様は両膝をついてロウキに向かって深く頭を下げた。
ロウキは何のためらいもなく、まるでセシリア様よりも立場が上であるかのような対応をしていて驚いた。
やっぱり妖精とフェンリルには、何か特別な繋がりがあるのか?
この場でそんな質問は出来ないから、あとでこっそり訊いてみるか。
なんて思っていると、ロウキがセシリア様にシキナのことを話し始めた。


「そうかたくならずとも良い。我らは当然のことをしたまでだ。
それより、我らが今宵この場所に来た理由を話しても?」

「この時期にこの場所…やはり、シキナのことでしょうか?」

「察しが良いな。我らは国王陛下より命を受け、この地にやってきたのだ。
それに…シキナという花が存在するのであれば、亡き妻を息子に会わせてやりたいと思ってな。」

「フェンリル様のご子息でしたか。奥様はお亡くなりになられていたのですね…。
フェンリル様の願い、ぜひとも叶えて差し上げたいのですが…」

「何か問題が?」

「シキナは清らかな魂、そして水を好みます。
ですが、外の世界が穢れてしまった日から、シキナは蕾の状態から花を咲かせていないのです。
この村でも、シキナは年に一度、この時期に献花として捧げてまいりました。
しかし、ある日突然、その花が咲かなくなりました。」

「そうか…それは、どうにもならぬかもしれんな…。」


ロウキがシキナについて訊ねると、セシリア様の表情はとてもつらそうなものへと変わった。
まさか、シキナがもう蕾から花びらを広げていないだなんて、思いもしなかった。
それも原因は“外の世界の穢れ”だと言われたら、俺は何も言えない。
俺が原因ではないけど、きっと人間が行った開拓や争いによって、穢れがこの妖精の住処にまで入り込んでしまったということだろう。
そう思うと、何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「…一度、ご覧になられますか?」

「うむ。そうしよう。案内を頼む。」

「承知しました。では、こちらへどうぞ。」


やりきれない気持ちでいると、セシリア様が提案してくれて、シキナが咲く場所へ案内してもらえることになった。
王城を通り過ぎて、3分も歩かない場所まで移動すると、そこには一面、白い花の蕾が咲き誇っていた。
蕾ばかりということで、これがシキナなのだとすぐに察した。

シキナの花びらは、ガーノスさんからもらったイラストとは少し違い、極めて薄く、半透明の白色。
そして、自ら微かに発光しているようにも見える。夜ということもあり、その存在はひときわ際立っていた。
だけど、セシリア様が言ったように、どれも蕾のままで…ユキの願いを叶えられそうにない現実が、胸に重くのしかかった。


「ご覧の通り、すべて蕾となっております。どうすれば再びこの蕾が開くのか、私どもにも分かっておりません。」

「そうか…咲けば、さぞ美しいのだろうな。」

「はい。シキナは、自ら微かに発光する珍しい花です。
この花を献花台に捧げ、祈りを込めることで、一度だけ死者との対話が可能となります。
それは、シキナが持つ光が冥界の魂と繋がっているからだと伝えられております。
年に一度、この花を捧げることで、儚くも尊い時間を過ごすことができるのです。」

「本当に…死者との対話ができるのですね…。会わせてやりたいなぁ…ユキの母親に。」

「あるじさま…」


セシリア様の説明を聞きながら、俺は改めて、この花が本当に死者との対話を可能にするのだと知り、ますます咲かせたくなった。
俺のスキルAngelic Handで、どうにかできるものなんだろうか?
前回、教会では奇跡的に通じたけど…花を咲かせるなんてことなんてさすがに無理だよな…
そう思い、ためらっていた時―
ロウキの背中から、ひょいっと顔を出したシンゴが「降ろせ降ろせ」と訴えてきたので、仕方なく地面に降ろした。


「この子はっ…グリフォン?!絶滅したはずでは…」

「色々事情があるのだが、家に眠っていた卵が、ヨシヒロのおかげで孵ったのだ。」

「すごい…グリフォンは、フェンリル様と同じくこの地の守り神…。
お二方に揃ってお会いできる日が来ようとは…私は今、とても感動しております。」

「うむ…そうか…守り神、か。」


シンゴを見たセシリア様は、今日一番の驚きの表情を浮かべていた。
絶滅したはずのグリフォンが目の前に現れたら、まぁ驚くのも無理はないけど…
まさかの“守り神”扱いだなんて、知らなかった。しかもロウキまで。
ますます、俺の中でロウキの立ち位置が分からなくなってきた。

そう思いながら、シンゴが何をするのかを見守っていた。
まさか、シキナを食べるとか言わないよな?モモじゃないんだから、何でも食べたりしないよな?
なんてドキドキしていると、シンゴはシキナの蕾の前まで来て、じっとそれを見つめた。
怖いなぁ、大丈夫かなぁ…。

そんな不安な俺をなだめるように、側にいたルーナが足に尻尾を絡ませてくれた。
そして、「シンゴなら大丈夫ですわよ」と、小さく囁いた。
ルーナの言葉で、少しだけ気持ちが落ち着いた。
シンゴが何をするのかは分からないけど、もし解決策があるのなら…頼むぞ、シンゴ。
そう祈りながら、俺は小さなその背中を、じっと見つめていた―…。
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