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105話 とても美しい花を届けたら、過去と繋がりました
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翌朝-
「フェンリル様、ヨシヒロ殿。こちらがシキナになります。
どうぞ、大切に使ってやってください。」
「こんなにいただいて良いのですか?」
「ええ。王都でのお祭りにも使用されるのでしょう?
あの数の人々の願いを叶えるためには、これくらい必要になるかと。
ですが、この花の存在を知る者、待ち望んでいる者の中には、売りさばこうとする輩が現れるやもしれません。
そのようなよこしまな心の持ち主がこの花に触れた瞬間、すべてのシキナは枯れてしまいます。
どうか、お祭りが終わるまで、側で見守ってやってください。
この子たちも、願いを叶えずに枯れたくはないでしょうから…。」
「分かりました。俺たち…あ、私たちでしっかりと見守らせていただきますね。」
「ふふっ。そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ、ヨシヒロ殿。
敬意を示してくださり、ありがとうございます。」
「あ…は、はい…こちらこそ、何だかすみません…」
何とも爽やかな朝を迎え、朝食をご馳走になったあと、セシリア様から大量のシキナの花をいただいた。
清らかな魂を好む花ということもあり、盗人や売人が触れると枯れてしまうと聞き、絶対にそんなことはさせないぞと誓いながら、
「Harvest Vault(ハーベスト・ヴォルト)」と唱えて、シキナをそっと収納した。
事前にアーロンさんたちと話をして、通達を出してもらい、ロウキたちを配置しておけば安全は確保できるはず。
そして、この日だけは“噂の魔王”になり、黒いフェンリルと従魔たちという話で祭りに参加するのもいいかもしれない。そんなことを思いついた。
そんな中、俺が不慣れな対応をしているのを見かねたセシリア様は、「大丈夫ですよ」と優しく笑ってくれた。
恥ずかしいけど、どうもこういうのは苦手でダメだな…。
位の高い人との接し方も、もっと勉強が必要だなと、前回に引き続き今回も思った。
多分、“思うだけ”なところがダメなんだろうな…。
そう思いながら、皆に挨拶をして、デイジーさんに洞窟の外まで案内してもらった。
「ヨシヒロ様、フェンリル様、そして皆々様!この度は本当にありがとうございました!
後日、こちらからヨシヒロ様たちの領地へお邪魔させていただきますね。
お住まいは…えっと…?」
「魔王城。とでも言えば分かるか?」
「ああ!最近現れたという魔王が住む、あの領地ですか?!
え?もしかして、ヨシヒロ様が魔王だったのですか?!」
「いやいや、違くて。実は―」
「そうだよ!俺の主、魔王なんだ!かっこいいだろ!」
「あるじさまは、世界一の魔王だと思います!」
「こら!やめなさいっ!」
「そうだったのですね!母に…女王陛下にもお伝えしておきます!
それでは、また後日お会いしましょう!ありがとうございました!」
「あああっ!ちょっと待って!ちがっ…違うんだよー…!」
デイジーさんから「後日伺います」と言われ、家を訊かれた瞬間、ロウキが“魔王城”などという訳の分からないことを言い始めた。
見るとその顔はニヤニヤしていて、今日一番の苛立ちなんですが!
なんて思っていると、それに続くようにクロもユキも俺が魔王なんだよと言い始め、もはや修正不能。
デイジーさんはすっかり俺が魔王だと信じ込んでしまい、「女王陛下にも報告しておきます!」と笑顔で雲の中へ消えていった。
何で俺が魔王になっちゃうんだよ!
そりゃ、さっき“魔王になりすまして”とか考えたけども!
“なりすます”だけでしょ?!本当はただの転生者で、生き物好きなだけなんだよ!
そう叫んでも、もはや誰にも届かない。
また一つ、大きな誤解を生んでしまったと、深いため息を吐きながら、俺は静かに、山を下りていった。
「パッパ!」
「どうした?シンゴ。」
「シンゴ、役に立てた?」
「ああ、もうすごかったよシンゴ!俺、びっくりしたんだから!
あんなに立派になって…でも、なんで元に戻ったんだろうな?」
「知らない!助けたいって…思ったの。そしたらブワアッてなった!」
「そうかぁ。ブワアッてなったのかぁ。よく分かんないけど、可愛いなぁ。」
「ユキお兄ちゃん、笑顔になれる?」
「ええ、今とっても笑顔ですよ、シンゴ!」
「キャアッ!嬉しいっ!ヘヘヘッ!」
帰り道、元気になったシンゴは「自分は役に立てた?」と訊ねてきた。
「もちろんだ」と答えると、シンゴは嬉しそうに翼をパタパタさせて喜んでいた。
あの現象は何だったのかと聞いてみたけど、返ってきたのは幼稚園児のような答えで、結局よく分からなかった。
だけど、ユキが「笑顔になれたよ」と言うと、シンゴは満面の笑みを浮かべてユキにぎゅっと抱きついた。
その光景は、誰もが癒されるであろう。そんな優しいひとときだった。
本当に魔物なんだろうかと思うほど、互いを思いやる心を持っているんだよなぁ。
これはもう、100点です。100点!
相手のために頑張れるっていう心を持っているこの子たちを、俺は心から誇りに思っていた―…。
◇
妖精の住処を出てから三日後の夕方。
無事に王都へ到着した俺たちは、さっそくガーノスさんのもとへ向かった。
詳しい話は省いたけれど、皆のおかげでシキナを無事に見つけることができたと報告すると、
ガーノスさんはすぐに伝書ガラスに書状を託し、王城へと飛ばした。
ロウキは"我は帰る"と言ってすぐにゲートをくぐって家へ戻り、シンゴとルーナ、ラピスも一緒に帰っていった。
それから三十分ほど待ったところで、いつもの魔法陣が現れ、アーロンさんとクロノスさんが到着した。
「ヨシヒロよ…どうやってシキナを見つけたのだ?」
「えーっと、まぁ詳しい話はできないんですが…従魔たちのおかげでシキナをいただけたとだけ。
この子たちがいなければ、今回の依頼は達成できませんでした。」
「そうか…クロ!ユキ!皆で頑張ったのだな!」
「そうだぞ!シンッ…じゃない…皆で頑張ったぞ!」
「あるじさまのお人柄が、成功へと導いてくれたのです!」
「そうかそうか!私が生きているうちにシキナに巡り合えるとは思わなかった…
これで今年の祭りは大成功しようぞ!」
「あ、そのことなんですけど…」
アーロンさんは、初めて目にするシキナを前に、とても嬉しそうな表情を浮かべていた。
民の幸せを願い、心の奥底にある願いを叶えたいと願う、優しい人だと改めて感じた。
そんな中、俺はセシリア様に言われたことを思い出し、伝えることにした。
これだけはきちんと守らなければ、せっかくのシキナも意味をなさなくなってしまう。
そう思って伝えると、アーロンさんはすぐに広報を通じて通達を出すと約束してくれた。
そして、ユキを母親に会わせたいから一本だけ分けてほしいとお願いすると、思いもよらない話を聞かせてくれた。
「アーロンさん。このお花、ひとついただいても大丈夫ですか?
ユキの母親にお供えして、ユキと母親を会わせてやりたいんです。もちろん、ロウキにも。」
「ああ、構わんよ。ユキ、そなたの母親はとても聡明で、心優しきフェンリルだった。
幼き私を邪険にせず、ずっと一緒に遊んでくれたのだ。」
「え?」
「アーロンさん…もしかして、ロウキが昔、怪我を治したっていう子供って…
アーロンさんだったんですか?!」
「ああ。あの日、護衛の目をかいくぐって一人で探検していたんだ。
でも、子供一人で遊ぶには危険すぎた。魔物に追いかけられて必死に逃げて、そのとき怪我をしてしまってな。
たまたま通りかかったフェンリル、ユキの母親に思わず泣きついたのだ。
すると彼女は、私を食べるどころか、そっと撫でてくれて…そして遠吠えを始めた。
その呼びかけに応えたのが、ロウキ殿だったのだ。」
「すごい…話が繋がった…」
「ロウキ殿は“放っておけ”と言ったが、彼女は“この子を助けてあげて”と頼んでくれてな。
ロウキ殿は、仕方ないといった表情で、私の怪我を治してくれた。
それがきっかけで、私は時々あの森に通い、ロウキ殿とユキの母親と遊ばせてもらうようになったのだ。
だが、年齢を重ねるにつれて王族としての務めが増え、異国の高度な技術、剣術や魔法を極めるため、別の大陸の魔導学院に入学するよう父から命じられてしまってな。
15歳から20歳までの短期王族研修という名目で、世間には通達を出して学院生活を送ることになった。
それで…もう、ユキの母親とも、ロウキ殿とも会えなくなったというわけだ。」
「まさかのまさかです…驚きすぎて、ちょっと鳥肌立ちました!」
知らなかった。
ロウキが前に話してくれた、ユアさんとの思い出話に出てきた子供が、まさかアーロンさんだったなんて。
そんな偶然、ある…?
ロウキはそんなこと、一言も言ってなかった。多分、知らないんだろうな…。
この事実をロウキに伝えるべきか、それとも知らないままの方がいいのかすごく悩む。
何を言っても、結局アーロンさんの過去が変わるわけじゃないし、ロウキの痛みが消えるわけでもない。
そう考えると、しばらくは黙っていようと、心に決めた。
「母上が助けた人間が、アーロンさんだったのですね。
きっと母上は喜んでいると思います。自分が助けた人間が、一国の王となったことを。
父上は…難しいかもしれませんが…僕は、母上との話を聞けて嬉しいです。」
「ユキ…優しいのう…本当に…すまなかった…」
「いえ…人間には人間の事情というものがあること、分かっているつもりです…」
「そうか…そうか…」
俺の横で話を聞いていたユキは、アーロンさんに今の自分の気持ちを素直に伝えた。
するとアーロンさんは、地面に膝をつき、ユキをぎゅっと抱きしめて、涙を浮かべながら何度も謝罪を口にした。
その光景は胸にギュッとくるものがあって、俺は何も言えず、ただ二人を見守っていた。
いつも冷静な発言をするユキだけど、自分なりに一生懸命考えて、自分を納得させて、相手の気持ちに寄り添ってくれているんだなと、改めて感じた。
きっと、そういう一面は、ユアさんから受け継がれているんじゃないか。
そう思わずにはいられなかった。
ユアさんは、ユキのこの姿を見たらきっと、愛おしく思うんだろうな。
そして、そんなユキの側に居続けてくれているロウキのことも、同じくらい愛おしく思うはずだ。
そんな家族の時間を、絶対に作ってやりたい。
そう、強く思っていた-…
「フェンリル様、ヨシヒロ殿。こちらがシキナになります。
どうぞ、大切に使ってやってください。」
「こんなにいただいて良いのですか?」
「ええ。王都でのお祭りにも使用されるのでしょう?
あの数の人々の願いを叶えるためには、これくらい必要になるかと。
ですが、この花の存在を知る者、待ち望んでいる者の中には、売りさばこうとする輩が現れるやもしれません。
そのようなよこしまな心の持ち主がこの花に触れた瞬間、すべてのシキナは枯れてしまいます。
どうか、お祭りが終わるまで、側で見守ってやってください。
この子たちも、願いを叶えずに枯れたくはないでしょうから…。」
「分かりました。俺たち…あ、私たちでしっかりと見守らせていただきますね。」
「ふふっ。そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ、ヨシヒロ殿。
敬意を示してくださり、ありがとうございます。」
「あ…は、はい…こちらこそ、何だかすみません…」
何とも爽やかな朝を迎え、朝食をご馳走になったあと、セシリア様から大量のシキナの花をいただいた。
清らかな魂を好む花ということもあり、盗人や売人が触れると枯れてしまうと聞き、絶対にそんなことはさせないぞと誓いながら、
「Harvest Vault(ハーベスト・ヴォルト)」と唱えて、シキナをそっと収納した。
事前にアーロンさんたちと話をして、通達を出してもらい、ロウキたちを配置しておけば安全は確保できるはず。
そして、この日だけは“噂の魔王”になり、黒いフェンリルと従魔たちという話で祭りに参加するのもいいかもしれない。そんなことを思いついた。
そんな中、俺が不慣れな対応をしているのを見かねたセシリア様は、「大丈夫ですよ」と優しく笑ってくれた。
恥ずかしいけど、どうもこういうのは苦手でダメだな…。
位の高い人との接し方も、もっと勉強が必要だなと、前回に引き続き今回も思った。
多分、“思うだけ”なところがダメなんだろうな…。
そう思いながら、皆に挨拶をして、デイジーさんに洞窟の外まで案内してもらった。
「ヨシヒロ様、フェンリル様、そして皆々様!この度は本当にありがとうございました!
後日、こちらからヨシヒロ様たちの領地へお邪魔させていただきますね。
お住まいは…えっと…?」
「魔王城。とでも言えば分かるか?」
「ああ!最近現れたという魔王が住む、あの領地ですか?!
え?もしかして、ヨシヒロ様が魔王だったのですか?!」
「いやいや、違くて。実は―」
「そうだよ!俺の主、魔王なんだ!かっこいいだろ!」
「あるじさまは、世界一の魔王だと思います!」
「こら!やめなさいっ!」
「そうだったのですね!母に…女王陛下にもお伝えしておきます!
それでは、また後日お会いしましょう!ありがとうございました!」
「あああっ!ちょっと待って!ちがっ…違うんだよー…!」
デイジーさんから「後日伺います」と言われ、家を訊かれた瞬間、ロウキが“魔王城”などという訳の分からないことを言い始めた。
見るとその顔はニヤニヤしていて、今日一番の苛立ちなんですが!
なんて思っていると、それに続くようにクロもユキも俺が魔王なんだよと言い始め、もはや修正不能。
デイジーさんはすっかり俺が魔王だと信じ込んでしまい、「女王陛下にも報告しておきます!」と笑顔で雲の中へ消えていった。
何で俺が魔王になっちゃうんだよ!
そりゃ、さっき“魔王になりすまして”とか考えたけども!
“なりすます”だけでしょ?!本当はただの転生者で、生き物好きなだけなんだよ!
そう叫んでも、もはや誰にも届かない。
また一つ、大きな誤解を生んでしまったと、深いため息を吐きながら、俺は静かに、山を下りていった。
「パッパ!」
「どうした?シンゴ。」
「シンゴ、役に立てた?」
「ああ、もうすごかったよシンゴ!俺、びっくりしたんだから!
あんなに立派になって…でも、なんで元に戻ったんだろうな?」
「知らない!助けたいって…思ったの。そしたらブワアッてなった!」
「そうかぁ。ブワアッてなったのかぁ。よく分かんないけど、可愛いなぁ。」
「ユキお兄ちゃん、笑顔になれる?」
「ええ、今とっても笑顔ですよ、シンゴ!」
「キャアッ!嬉しいっ!ヘヘヘッ!」
帰り道、元気になったシンゴは「自分は役に立てた?」と訊ねてきた。
「もちろんだ」と答えると、シンゴは嬉しそうに翼をパタパタさせて喜んでいた。
あの現象は何だったのかと聞いてみたけど、返ってきたのは幼稚園児のような答えで、結局よく分からなかった。
だけど、ユキが「笑顔になれたよ」と言うと、シンゴは満面の笑みを浮かべてユキにぎゅっと抱きついた。
その光景は、誰もが癒されるであろう。そんな優しいひとときだった。
本当に魔物なんだろうかと思うほど、互いを思いやる心を持っているんだよなぁ。
これはもう、100点です。100点!
相手のために頑張れるっていう心を持っているこの子たちを、俺は心から誇りに思っていた―…。
◇
妖精の住処を出てから三日後の夕方。
無事に王都へ到着した俺たちは、さっそくガーノスさんのもとへ向かった。
詳しい話は省いたけれど、皆のおかげでシキナを無事に見つけることができたと報告すると、
ガーノスさんはすぐに伝書ガラスに書状を託し、王城へと飛ばした。
ロウキは"我は帰る"と言ってすぐにゲートをくぐって家へ戻り、シンゴとルーナ、ラピスも一緒に帰っていった。
それから三十分ほど待ったところで、いつもの魔法陣が現れ、アーロンさんとクロノスさんが到着した。
「ヨシヒロよ…どうやってシキナを見つけたのだ?」
「えーっと、まぁ詳しい話はできないんですが…従魔たちのおかげでシキナをいただけたとだけ。
この子たちがいなければ、今回の依頼は達成できませんでした。」
「そうか…クロ!ユキ!皆で頑張ったのだな!」
「そうだぞ!シンッ…じゃない…皆で頑張ったぞ!」
「あるじさまのお人柄が、成功へと導いてくれたのです!」
「そうかそうか!私が生きているうちにシキナに巡り合えるとは思わなかった…
これで今年の祭りは大成功しようぞ!」
「あ、そのことなんですけど…」
アーロンさんは、初めて目にするシキナを前に、とても嬉しそうな表情を浮かべていた。
民の幸せを願い、心の奥底にある願いを叶えたいと願う、優しい人だと改めて感じた。
そんな中、俺はセシリア様に言われたことを思い出し、伝えることにした。
これだけはきちんと守らなければ、せっかくのシキナも意味をなさなくなってしまう。
そう思って伝えると、アーロンさんはすぐに広報を通じて通達を出すと約束してくれた。
そして、ユキを母親に会わせたいから一本だけ分けてほしいとお願いすると、思いもよらない話を聞かせてくれた。
「アーロンさん。このお花、ひとついただいても大丈夫ですか?
ユキの母親にお供えして、ユキと母親を会わせてやりたいんです。もちろん、ロウキにも。」
「ああ、構わんよ。ユキ、そなたの母親はとても聡明で、心優しきフェンリルだった。
幼き私を邪険にせず、ずっと一緒に遊んでくれたのだ。」
「え?」
「アーロンさん…もしかして、ロウキが昔、怪我を治したっていう子供って…
アーロンさんだったんですか?!」
「ああ。あの日、護衛の目をかいくぐって一人で探検していたんだ。
でも、子供一人で遊ぶには危険すぎた。魔物に追いかけられて必死に逃げて、そのとき怪我をしてしまってな。
たまたま通りかかったフェンリル、ユキの母親に思わず泣きついたのだ。
すると彼女は、私を食べるどころか、そっと撫でてくれて…そして遠吠えを始めた。
その呼びかけに応えたのが、ロウキ殿だったのだ。」
「すごい…話が繋がった…」
「ロウキ殿は“放っておけ”と言ったが、彼女は“この子を助けてあげて”と頼んでくれてな。
ロウキ殿は、仕方ないといった表情で、私の怪我を治してくれた。
それがきっかけで、私は時々あの森に通い、ロウキ殿とユキの母親と遊ばせてもらうようになったのだ。
だが、年齢を重ねるにつれて王族としての務めが増え、異国の高度な技術、剣術や魔法を極めるため、別の大陸の魔導学院に入学するよう父から命じられてしまってな。
15歳から20歳までの短期王族研修という名目で、世間には通達を出して学院生活を送ることになった。
それで…もう、ユキの母親とも、ロウキ殿とも会えなくなったというわけだ。」
「まさかのまさかです…驚きすぎて、ちょっと鳥肌立ちました!」
知らなかった。
ロウキが前に話してくれた、ユアさんとの思い出話に出てきた子供が、まさかアーロンさんだったなんて。
そんな偶然、ある…?
ロウキはそんなこと、一言も言ってなかった。多分、知らないんだろうな…。
この事実をロウキに伝えるべきか、それとも知らないままの方がいいのかすごく悩む。
何を言っても、結局アーロンさんの過去が変わるわけじゃないし、ロウキの痛みが消えるわけでもない。
そう考えると、しばらくは黙っていようと、心に決めた。
「母上が助けた人間が、アーロンさんだったのですね。
きっと母上は喜んでいると思います。自分が助けた人間が、一国の王となったことを。
父上は…難しいかもしれませんが…僕は、母上との話を聞けて嬉しいです。」
「ユキ…優しいのう…本当に…すまなかった…」
「いえ…人間には人間の事情というものがあること、分かっているつもりです…」
「そうか…そうか…」
俺の横で話を聞いていたユキは、アーロンさんに今の自分の気持ちを素直に伝えた。
するとアーロンさんは、地面に膝をつき、ユキをぎゅっと抱きしめて、涙を浮かべながら何度も謝罪を口にした。
その光景は胸にギュッとくるものがあって、俺は何も言えず、ただ二人を見守っていた。
いつも冷静な発言をするユキだけど、自分なりに一生懸命考えて、自分を納得させて、相手の気持ちに寄り添ってくれているんだなと、改めて感じた。
きっと、そういう一面は、ユアさんから受け継がれているんじゃないか。
そう思わずにはいられなかった。
ユアさんは、ユキのこの姿を見たらきっと、愛おしく思うんだろうな。
そして、そんなユキの側に居続けてくれているロウキのことも、同じくらい愛おしく思うはずだ。
そんな家族の時間を、絶対に作ってやりたい。
そう、強く思っていた-…
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