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108話 涙の先に咲いた約束
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「ガーノス!ヨシヒロ!朝からありがとう。」
「おはようございます、アーロンさん。」
「待たせちまったな。…クリスティーナのご両親も、お久しぶりです。」
「ガーノス君、久しぶりだねぇ。ちょっと見ない間に、ずいぶん男前になっちゃって。」
「ガーノスも、すっかりオヤジになっちまったな!」
「アーロンと俺も、もういい歳ですからね。体にガタがきまくりですよ!」
アーロンさんが手を挙げて挨拶すると、続けてクリスティーナさんのご両親も、懐かしそうに言葉を交わしていた。
その様子を見ている限り、ご両親はクリスティーナさんの死を誰かのせいにしているわけではないように感じた。
だけど同時に、「もし生きていたら、どんな女性に育っていたんだろう」と、そんな思いも抱いているように見えた。
「お父さん、お母さん。こちらが、先ほどお話ししたヨシヒロという青年です。
今回、シキナ探索の依頼を出した冒険者です。」
「初めまして、ヨシヒロ君。入ってきた瞬間、魔王様かと思いましたけど、
とても優しい顔をした青年ですねぇ。」
「魔王ってのは、こんなに若い青年だったのか!知らなかった。
けど、魔王でも何でもいいさ。今回は君のおかげで娘に会えるんだからな。
本当にありがとう、ヨシヒロ君。」
「あ、あの…えっとですね…このことは、ご内密にしていただけると…」
「もちろんだよ。アーロン君からもしっかり話を聞いているからね。
誰にも言わないから、安心しなさい。」
「ありがとうございます!助かります!」
クリスティーナさんのご両親に挨拶すると、「魔王がこんなにも優しい青年だったとは」と言われて驚いた。
この人たちの前では、Face Muteは発動しないようだ。俺が自分で"この二人は安全な存在”だと認識しているからだろうか。
しっかりとこの顔を覚えてくれた二人に、慌てて「内緒にしてください」とお願いすると、
アーロンさんがすでに説明してくれていたようで、安心した。
さてと…今日一発目の緊張の瞬間を迎えるわけだけど。緊張するな…。
そう思いながら献花台へと向かい、「Harvest Vault」と唱えて、シキナを一輪取り出して供えた。
「皆さん、こちらが“シキナ”という花になります。
この花に向かって、クリスティーナさんを想い、祈りを捧げてください。
その想いに応えてくれるならば、クリスティーナさんが来てくれます。」
「分かった。それでは…やりましょう。お父さん、お母さん。」
「ええ。」
「ああ…」
「やりますかな。」
アーロンさんとガーノスさん、そしてご両親に説明を終え、俺は一歩下がって見守ることにした。
それぞれが緊張した面持ちで深く息を吸い、ゆっくりと目を閉じて手のひらを合わせ、指をクロスさせて祈り始めた。
その祈りの時間は、とても静かだった。
朝日に照らされたステンドグラスの色とりどりの光が、アーロンさんたちを包み込むように照らしていて、その場は、神聖な空気に満ちていた。
そして―
ゆっくりと、ゆっくりと浮かび上がるシキナ。
微かに発光する花びらの光が天へと昇り始め、その光がその場にいた全員を優しく包み込んだ。
その光の中から、半透明な姿をしたクリスティーナさんと思われる、金髪で長髪の美しい人が、そっと静かに姿を現した。
「あ…クリスティーナ…クリスティーナなのか?!」
「アーロン…君?それにガーノス…お父さん、お母さんまで…?」
「ティーナ!私の可愛い娘!ずっと…ずっと会いたかったわ、ティーナ!」
「本当にお前なのかい?我が娘…ティーナなのか?」
「ええ…ええ…そうよ…お父さん…お母さん…どうして私はここに?」
目の前に現れたクリスティーナさんを前に、誰もが一瞬、言葉を失った。
けれど、次第に実感が湧いてきたようで、一番にアーロンさんが声をかけた。
驚いた様子のクリスティーナさんの声は、澄んでいて透明感があり、優しくて。
まるで心が浄化されるような、穏やかな気持ちにさせる声だった。思わず息をのんでしまうほどに。
クリスティーナさんは状況が飲み込めない様子で、アーロンさんとガーノスさん、そしてご両親を見つめながら首を傾げた。
「シキナの伝説は本当だったんだよ、クリスティーナ。
今こうして君に会えたことが、その証拠だ。」
「シキナ…幼いころから聞いていた伝説は、本当だったのね。アーロン君、ガーノス…。
ということは、皆が私を呼んでくれたの?」
「そうだ…俺たちはずっと探していたんだ、このシキナを。
君に…クリスティーナに、もう一度会いたくてな…。
今更だと思われるだろうが、俺はずっと謝罪したかった。謝ったところで許されるとは思っていなかったが…。
あの日、君に俺を庇わせてしまったこと、本当に申し訳ないと思っている。
そのせいで、君の輝かしい未来を奪ってしまった。そして、ご両親を深く悲しませてしまった…。
本当に…本当にすまなかった、クリスティーナ…」
「俺も、側にいながら助けてやれず…すまなかった。
俺にもっと力があれば、お前を死なせずに済んだというのに…すまない…」
アーロンさんは、シキナの存在を伝えながら、ずっと心の奥にあった罪と謝罪の言葉を口にした。
その言葉に続いて、ガーノスさんも苦しい表情を浮かべながら、深く、深く頭を下げた。
二人の話を最後まで静かに聞いていたクリスティーナさんは、少し困ったように微笑んでいた。
その表情だけで、この人の人柄が伝わってくる。
クリスティーナさんは本当に心根の優しい人で、二人がいつも以上に頭を下げるものだから、
「そんなに謝らなくても…」と、困ってしまうような人なのだと感じた。
「二人とも、顔を上げてよ…。
私はね、あの日アーロン君を助けられたことを誇りに思ってる。
もちろん、死んでしまったことはとても悔しいし、未来を迎えられなかったことで両親を悲しませてしまった。
それは、正直すごく辛い…。
でも…あの日、もし私がアーロン君を護れずに重傷を負わせたり、万が一にも亡くなってしまうようなことが起きていたら…
私は、どちらにしても自ら命を絶っていたと思う。」
「クリスティーナ…」
「王族だからとか、そういうことじゃなくてね。
人として、冒険者として、ヒーラーとして。
私は、自分の責務を全うできずに、大切な仲間を目の前で失ったってなったら、もう冒険者は続けられない。
だから、あの日私がしたことを、私は間違った行動だったとは思っていないよ。」
「すまない…本当に…」
アーロンさんとガーノスさんの謝罪を受けて、クリスティーナさんは今まで誰にも打ち明けることのなかった胸の内を明かした。
死んでしまったことへの悔しさもあると素直に語りながら、
それでも自分の行動は間違っていなかったと、優しくも強い意志を宿した瞳で二人を見つめていた。
その言葉を聞いた瞬間、アーロンさんは両膝と両腕を地面につき、大粒の涙を流した。
ガーノスさんもまた、今まで見せたことのない表情で、静かに涙をこぼした。
この二人の中で、クリスティーナさんの死がどれほど重く、深く刻まれていたのか…
そのことが、痛いほど伝わってくる瞬間だった。
「ねぇ、ガイセル、ギコル、アルファたちは?元気にしてる?」
「ああ、きっと元気だろう。あのあとパーティは解散してアイツらは王都を出ちまったからな。
そんで、俺は今王都の冒険者ギルドでギルド長をやってる。」
「そう…解散してしまったのね…。仕方のないことだけど…何だか寂しいわね?」
「そうだな。皆、お前のことが大好きだったからな。」
「ふふっ!嬉しいこと言ってくれちゃって。
でも皆、それぞれの時間を過ごしているのね…。アーロン君は立派な国王に、
ガーノスは冒険者を支える人になったのね。嬉しい。ちゃんと皆が前を向いて歩いていて。
今度、他の子たちにも会えたら伝えてくれない?私は大丈夫よって。」
「ああ…そうだな。伝えておくよ。約束だ。」
「約束、ね?」
アーロンさん、ガーノスさんだけでなく、クリスティーナさんも自分の死について、いろいろと思うところがあったのだろう。
二人ときちんと話ができたあとの彼女の顔は、どこかスッキリしているように見えた。
これで、この三人の絆は、今まで以上に深く結ばれ、もう二度と解けることはないんじゃないか。そんな気がした。
こんな風に、新たな約束を交わすくらいなのだから。
来年、もしまたこの機会を設けることができたなら、その約束が果たされて、きっと賑やかな再会になるだろうな。なんてちょっと嬉しくなった。
「お父さん。お母さん。ずっと心配かけてごめんね?
あの日、任務が終わって帰ったら“キノコのクリームシチューを作ってね”って約束してたのに、食べられなくて…ごめんね?」
「ううっ…いいんだよっ!そんなことは…またこうしてティーナと話せただけで、お母さんはもう…!」
「ようやく…ようやく願いが叶ったよ、ティーナ…。
アーロン君とガーノスは、ずっとワシたちのためにシキナを探してくれてたんだ。
謝りたいという気持ちもあっただろうが、ワシたちのために探してくれていたことが、とても嬉しくて…同時に申し訳なくも思ってな…。
今年見つからなかったら、もう探すのは止めてもらおうかとも話していたんだ…。
でも、今年は…ここにいるこの青年が、見事に探してきてくれたんだよ!
そのおかげで…やっと…やっとお前に会えた…!」
「お父さん…お母さん…」
「長話はできねぇらしいから言うぞ。
ワシたちの娘に生まれてきてくれて、ありがとう、ティーナ!
Sランク冒険者になっても変わらない優しい心を持ったお前を…ワシたちは誇りに思ってる!」
「私の可愛いティーナ…!
あなたは私たちの自慢の娘よ。今までも、これからもずっと、ずーっとね!」
「…んっ…うんっ!ありがとう…お父さん…お母さん…大好きだよ…!」
アーロンさんとガーノスさんとの時間を過ごしたあと、クリスティーナさんはそっと視線をご両親に向けた。
最初は気丈に振る舞っていた彼女だったけれど、ご両親の言葉と涙を受けて、大粒の涙を流した。
そして、抱きしめることはできないけれど、クリスティーナさんは二人をギュッとするような仕草を見せた。
その瞬間、泣き顔だったご両親の表情が、涙を浮かべながらも笑顔に変わった。
その顔を見た瞬間、俺も思わずウルッときてしまい、乱暴に涙を拭った。
アーロンさんとガーノスさんももちろんだけど、ご両親が一番彼女に会いたかったに違いない。
お腹を痛めて産み、最大級の愛情を注いで育てた娘なのだから。
冒険者という道を選んだ以上、ああいう最期になるかもしれないとは思っていたかもしれない。
だけど、実際にその日が来るとは、きっと思っていなかっただろう。
この場にいる全員が、あの日、あの瞬間から、暗くて長いトンネルの中を歩いているような、そんな時間を過ごしていたのだと思う。
でも、今日という日をきっかけに、それぞれの出口へと繋がり、また前を向いて歩いていけたらいい。
そうなることを、クリスティーナさんもきっと望んでいるはずだから。
今日という日は、きっと誰もが忘れない。
そして、来年また会えるかもしれないという希望も持てた。
明日からの皆の人生を、少しでも明るく照らすことができたのなら、それだけで、俺も嬉しい。
この優しい光景を見つめながらそう思い、今回シキナに関わってくれた全ての人たちの感謝していた―…。
+++++++++++++++++
いつも読んでくださってありがとうございます!
登場人物たちのキャラクター紹介ページを作りました。
まだ未完成ではありますが…
AIイラストと一緒に、物語の世界を少しでも感じていただけたら嬉しいです。
https://note.com/sorariaru_17/m/m1837141d8564
「おはようございます、アーロンさん。」
「待たせちまったな。…クリスティーナのご両親も、お久しぶりです。」
「ガーノス君、久しぶりだねぇ。ちょっと見ない間に、ずいぶん男前になっちゃって。」
「ガーノスも、すっかりオヤジになっちまったな!」
「アーロンと俺も、もういい歳ですからね。体にガタがきまくりですよ!」
アーロンさんが手を挙げて挨拶すると、続けてクリスティーナさんのご両親も、懐かしそうに言葉を交わしていた。
その様子を見ている限り、ご両親はクリスティーナさんの死を誰かのせいにしているわけではないように感じた。
だけど同時に、「もし生きていたら、どんな女性に育っていたんだろう」と、そんな思いも抱いているように見えた。
「お父さん、お母さん。こちらが、先ほどお話ししたヨシヒロという青年です。
今回、シキナ探索の依頼を出した冒険者です。」
「初めまして、ヨシヒロ君。入ってきた瞬間、魔王様かと思いましたけど、
とても優しい顔をした青年ですねぇ。」
「魔王ってのは、こんなに若い青年だったのか!知らなかった。
けど、魔王でも何でもいいさ。今回は君のおかげで娘に会えるんだからな。
本当にありがとう、ヨシヒロ君。」
「あ、あの…えっとですね…このことは、ご内密にしていただけると…」
「もちろんだよ。アーロン君からもしっかり話を聞いているからね。
誰にも言わないから、安心しなさい。」
「ありがとうございます!助かります!」
クリスティーナさんのご両親に挨拶すると、「魔王がこんなにも優しい青年だったとは」と言われて驚いた。
この人たちの前では、Face Muteは発動しないようだ。俺が自分で"この二人は安全な存在”だと認識しているからだろうか。
しっかりとこの顔を覚えてくれた二人に、慌てて「内緒にしてください」とお願いすると、
アーロンさんがすでに説明してくれていたようで、安心した。
さてと…今日一発目の緊張の瞬間を迎えるわけだけど。緊張するな…。
そう思いながら献花台へと向かい、「Harvest Vault」と唱えて、シキナを一輪取り出して供えた。
「皆さん、こちらが“シキナ”という花になります。
この花に向かって、クリスティーナさんを想い、祈りを捧げてください。
その想いに応えてくれるならば、クリスティーナさんが来てくれます。」
「分かった。それでは…やりましょう。お父さん、お母さん。」
「ええ。」
「ああ…」
「やりますかな。」
アーロンさんとガーノスさん、そしてご両親に説明を終え、俺は一歩下がって見守ることにした。
それぞれが緊張した面持ちで深く息を吸い、ゆっくりと目を閉じて手のひらを合わせ、指をクロスさせて祈り始めた。
その祈りの時間は、とても静かだった。
朝日に照らされたステンドグラスの色とりどりの光が、アーロンさんたちを包み込むように照らしていて、その場は、神聖な空気に満ちていた。
そして―
ゆっくりと、ゆっくりと浮かび上がるシキナ。
微かに発光する花びらの光が天へと昇り始め、その光がその場にいた全員を優しく包み込んだ。
その光の中から、半透明な姿をしたクリスティーナさんと思われる、金髪で長髪の美しい人が、そっと静かに姿を現した。
「あ…クリスティーナ…クリスティーナなのか?!」
「アーロン…君?それにガーノス…お父さん、お母さんまで…?」
「ティーナ!私の可愛い娘!ずっと…ずっと会いたかったわ、ティーナ!」
「本当にお前なのかい?我が娘…ティーナなのか?」
「ええ…ええ…そうよ…お父さん…お母さん…どうして私はここに?」
目の前に現れたクリスティーナさんを前に、誰もが一瞬、言葉を失った。
けれど、次第に実感が湧いてきたようで、一番にアーロンさんが声をかけた。
驚いた様子のクリスティーナさんの声は、澄んでいて透明感があり、優しくて。
まるで心が浄化されるような、穏やかな気持ちにさせる声だった。思わず息をのんでしまうほどに。
クリスティーナさんは状況が飲み込めない様子で、アーロンさんとガーノスさん、そしてご両親を見つめながら首を傾げた。
「シキナの伝説は本当だったんだよ、クリスティーナ。
今こうして君に会えたことが、その証拠だ。」
「シキナ…幼いころから聞いていた伝説は、本当だったのね。アーロン君、ガーノス…。
ということは、皆が私を呼んでくれたの?」
「そうだ…俺たちはずっと探していたんだ、このシキナを。
君に…クリスティーナに、もう一度会いたくてな…。
今更だと思われるだろうが、俺はずっと謝罪したかった。謝ったところで許されるとは思っていなかったが…。
あの日、君に俺を庇わせてしまったこと、本当に申し訳ないと思っている。
そのせいで、君の輝かしい未来を奪ってしまった。そして、ご両親を深く悲しませてしまった…。
本当に…本当にすまなかった、クリスティーナ…」
「俺も、側にいながら助けてやれず…すまなかった。
俺にもっと力があれば、お前を死なせずに済んだというのに…すまない…」
アーロンさんは、シキナの存在を伝えながら、ずっと心の奥にあった罪と謝罪の言葉を口にした。
その言葉に続いて、ガーノスさんも苦しい表情を浮かべながら、深く、深く頭を下げた。
二人の話を最後まで静かに聞いていたクリスティーナさんは、少し困ったように微笑んでいた。
その表情だけで、この人の人柄が伝わってくる。
クリスティーナさんは本当に心根の優しい人で、二人がいつも以上に頭を下げるものだから、
「そんなに謝らなくても…」と、困ってしまうような人なのだと感じた。
「二人とも、顔を上げてよ…。
私はね、あの日アーロン君を助けられたことを誇りに思ってる。
もちろん、死んでしまったことはとても悔しいし、未来を迎えられなかったことで両親を悲しませてしまった。
それは、正直すごく辛い…。
でも…あの日、もし私がアーロン君を護れずに重傷を負わせたり、万が一にも亡くなってしまうようなことが起きていたら…
私は、どちらにしても自ら命を絶っていたと思う。」
「クリスティーナ…」
「王族だからとか、そういうことじゃなくてね。
人として、冒険者として、ヒーラーとして。
私は、自分の責務を全うできずに、大切な仲間を目の前で失ったってなったら、もう冒険者は続けられない。
だから、あの日私がしたことを、私は間違った行動だったとは思っていないよ。」
「すまない…本当に…」
アーロンさんとガーノスさんの謝罪を受けて、クリスティーナさんは今まで誰にも打ち明けることのなかった胸の内を明かした。
死んでしまったことへの悔しさもあると素直に語りながら、
それでも自分の行動は間違っていなかったと、優しくも強い意志を宿した瞳で二人を見つめていた。
その言葉を聞いた瞬間、アーロンさんは両膝と両腕を地面につき、大粒の涙を流した。
ガーノスさんもまた、今まで見せたことのない表情で、静かに涙をこぼした。
この二人の中で、クリスティーナさんの死がどれほど重く、深く刻まれていたのか…
そのことが、痛いほど伝わってくる瞬間だった。
「ねぇ、ガイセル、ギコル、アルファたちは?元気にしてる?」
「ああ、きっと元気だろう。あのあとパーティは解散してアイツらは王都を出ちまったからな。
そんで、俺は今王都の冒険者ギルドでギルド長をやってる。」
「そう…解散してしまったのね…。仕方のないことだけど…何だか寂しいわね?」
「そうだな。皆、お前のことが大好きだったからな。」
「ふふっ!嬉しいこと言ってくれちゃって。
でも皆、それぞれの時間を過ごしているのね…。アーロン君は立派な国王に、
ガーノスは冒険者を支える人になったのね。嬉しい。ちゃんと皆が前を向いて歩いていて。
今度、他の子たちにも会えたら伝えてくれない?私は大丈夫よって。」
「ああ…そうだな。伝えておくよ。約束だ。」
「約束、ね?」
アーロンさん、ガーノスさんだけでなく、クリスティーナさんも自分の死について、いろいろと思うところがあったのだろう。
二人ときちんと話ができたあとの彼女の顔は、どこかスッキリしているように見えた。
これで、この三人の絆は、今まで以上に深く結ばれ、もう二度と解けることはないんじゃないか。そんな気がした。
こんな風に、新たな約束を交わすくらいなのだから。
来年、もしまたこの機会を設けることができたなら、その約束が果たされて、きっと賑やかな再会になるだろうな。なんてちょっと嬉しくなった。
「お父さん。お母さん。ずっと心配かけてごめんね?
あの日、任務が終わって帰ったら“キノコのクリームシチューを作ってね”って約束してたのに、食べられなくて…ごめんね?」
「ううっ…いいんだよっ!そんなことは…またこうしてティーナと話せただけで、お母さんはもう…!」
「ようやく…ようやく願いが叶ったよ、ティーナ…。
アーロン君とガーノスは、ずっとワシたちのためにシキナを探してくれてたんだ。
謝りたいという気持ちもあっただろうが、ワシたちのために探してくれていたことが、とても嬉しくて…同時に申し訳なくも思ってな…。
今年見つからなかったら、もう探すのは止めてもらおうかとも話していたんだ…。
でも、今年は…ここにいるこの青年が、見事に探してきてくれたんだよ!
そのおかげで…やっと…やっとお前に会えた…!」
「お父さん…お母さん…」
「長話はできねぇらしいから言うぞ。
ワシたちの娘に生まれてきてくれて、ありがとう、ティーナ!
Sランク冒険者になっても変わらない優しい心を持ったお前を…ワシたちは誇りに思ってる!」
「私の可愛いティーナ…!
あなたは私たちの自慢の娘よ。今までも、これからもずっと、ずーっとね!」
「…んっ…うんっ!ありがとう…お父さん…お母さん…大好きだよ…!」
アーロンさんとガーノスさんとの時間を過ごしたあと、クリスティーナさんはそっと視線をご両親に向けた。
最初は気丈に振る舞っていた彼女だったけれど、ご両親の言葉と涙を受けて、大粒の涙を流した。
そして、抱きしめることはできないけれど、クリスティーナさんは二人をギュッとするような仕草を見せた。
その瞬間、泣き顔だったご両親の表情が、涙を浮かべながらも笑顔に変わった。
その顔を見た瞬間、俺も思わずウルッときてしまい、乱暴に涙を拭った。
アーロンさんとガーノスさんももちろんだけど、ご両親が一番彼女に会いたかったに違いない。
お腹を痛めて産み、最大級の愛情を注いで育てた娘なのだから。
冒険者という道を選んだ以上、ああいう最期になるかもしれないとは思っていたかもしれない。
だけど、実際にその日が来るとは、きっと思っていなかっただろう。
この場にいる全員が、あの日、あの瞬間から、暗くて長いトンネルの中を歩いているような、そんな時間を過ごしていたのだと思う。
でも、今日という日をきっかけに、それぞれの出口へと繋がり、また前を向いて歩いていけたらいい。
そうなることを、クリスティーナさんもきっと望んでいるはずだから。
今日という日は、きっと誰もが忘れない。
そして、来年また会えるかもしれないという希望も持てた。
明日からの皆の人生を、少しでも明るく照らすことができたのなら、それだけで、俺も嬉しい。
この優しい光景を見つめながらそう思い、今回シキナに関わってくれた全ての人たちの感謝していた―…。
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「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
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