魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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111話 心願樹が覚えたその言葉の意味が気になります

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「ふふふっ…」

「会いたいよ…また来年…フゥ…」

「ねぇ、どうして?」


今日も朝からとても元気です、心願樹くん。
さすがに寝室には置けないから、正式な居場所が決まるまでは、地下の魔物管理室にいてもらおうと思って運んだんだけど、昨日もあれからずーっとお喋り。
悲しい言葉、嬉しい言葉、寂しい言葉…さまざまな想いを語り続けていた。
俺にとっては、ちょっとばかしキツイかなぁとも思っていたけど、
じぃっと見ていると、何だかおじいちゃんみたいで可愛くも思えてきて。
俺の脳みそは、完全に“何でもあり”になってきていた。


「パッパ!名前、つけないの?」

「え?この子に?いる?」

「いるー!パッパ、名前つけて!」

「名前ねぇ…」


シンゴを抱きかかえながら心願樹を眺めていた時、シンゴが「名前をつけて」とせがんできた。
木に名前?とも思ったけど、植物は名前をつけて可愛がると綺麗に咲く。なんて話もあったような気がする。
木だし、従魔契約にはならないだろうと思いながら、名前を考え始めた。
植物に名前をつけるのは初めてだなぁ…。


「なんか、フゥって言ってるから、フゥは?」

「やー!」

「んー…じゃあ、メメントとか?」

「メメント…うーん…」

「ジュキは?」

「じゅきぃー?」


どんな名前がいいのか分からない俺は、いろんな候補をシンゴに伝えてみたけど、イマイチ響かないらしい。
メメントはいいかなって思ったんだけど、ダメか。ジュキも可愛いと思ったんだけどなぁ。
そんなやり取りを続けること数分。
ふと、思い出した言葉があった。


「木霊…コダマは?」

「コダマ?なーに?」

「俺がいた世界で、樹木に宿る精霊のことを“コダマ”って呼ぶんだよ。」

「パッパの世界の精霊…シンゴ、コダマがいい!」

「本当?じゃあ、“コダマ”って呼びかけてあげてみて!」

「コダマー!今日から、コダマって言うんだよ!コダマー!」


そういえば、“コダマ”という言葉があったなぁと思い出して言ってみると、思いのほか気に入ってくれたシンゴ。
心願樹に呼びかけてもらうと、名前を呼んだ瞬間、頭の上に付いていた微かに光を帯びた数枚の葉っぱが小刻みに揺れ始めた。
これは…気に入ったのか?


「コダマァァァッ…
ねぇ、大好き…フゥ…」

「んんー…これは、大丈夫なのかな?」

「大丈夫だよ!シンゴ、お知らせ、してくる!」

「はいはい。分かったよ。じゃあ上がろうね。」


コダマという名前を気に入ってくれたのかは分からないけど、まぁ良しとしよう。
そう思いながら、「みんなに知らせたい!」というシンゴを抱えて1階へ戻った。
エントランスホールにいた皆、外で遊んでいた皆に、名前が“コダマ”になったと一生懸命伝えて回るシンゴ。
その様子を見ていると、可愛すぎてめちゃくちゃ癒されていた。
結局、俺の家族になってくれた子たちには、みんな名前をつけることになるんだなぁ。
まぁ、いいけどさ。
なんて思いながら今度、ちゃんと“コダマ”について調べてみようと思っていた―…。











コダマと名前をつけてからというもの、皆がかわるがわる魔物管理室へ顔を出すようになった。
いちいち地下まで行かせるのは可哀想かと思い、日中は外で日向ぼっこさせることにして、誰でもすぐに話しかけられるようにした。
コダマは相変わらず誰とも意思疎通はできないけれど、名前を呼ばれると時折葉を揺らすようになり、
それがまるで返事をしているようにも思えていた。
ところで、コダマって大きくなるのかな?それとも一生このままなのかな?
もし大きくなったら、家の隣に植えてやろうかな。そうしたら寂しくないもんな。
なんて、コダマの今後の成長を思いながら、いろいろと考えていた。
そんな時だった―


「ごめんなさい…」

「主、コダマが謝ってる。人間の悲しい感情?」

「そうだなぁ。“あの時はごめんね”みたいな感じなのかな?」


突然、謝罪の言葉を口にしたコダマ。
謝罪系の言葉はよく聞いていたから、特に気に留めなかった。
けれど、次に口にした言葉に、俺はギョッとした。


「あの森の…洞窟…閉じ込められ…」

「え?」

「あなたに…あなた一人に向かわ…て…ごめ…なさい…」

「今の…なに?」

「森…洞窟?閉じ込められてるって言ったよね?」


コダマの言葉を聞いた瞬間、何かよからぬ出来事があったとしか思えなかった。
森の洞窟に閉じ込められてる?一人で向かわせてごめん?
普通の発言じゃないだろ、それ…。
しかも、それを花冥祭の祈りの場で交わした言葉だとしたら、そういうことだよね。
そう思うと、聞いてはいけない言葉を聞いてしまったような気がして、俺は固まった。
すると、そんな俺の顔を覗き込んだロウキが、ニヤリと口角を上げて言った。


「ヨシヒロ、何を考えている?」

「え?べ、別に何も!俺は安心安全な異世界生活を送りたいだけだよ!」

「フン!そうはいかぬのが、この世界なのだ、ヨシヒロ。」

「ロウキ!俺はガーノスさんのところなんて行かないからな!」

「我らだけで行くからよいわ。ユキ、ミル、行くぞ。」

「はい!父上!」

「いいよ、ボス。ガーノスのところ、いこう。」

「ちょいちょいちょい!主を置いて従魔だけが事情を訊きに行くなんて、そんな話ある?!」

「お前が行かぬなら、我らが行くしかないだろうが。」

「何でだよ…!」


危ない匂いがするのは分かっているのに、ロウキはユキとミルを連れて、さっさと転移ゲートをくぐってしまった。
おかしくないか?!主を置いて調査に乗り出すなんて!
そもそも、俺たちは探偵でも何でもないんだけど!
そう叫んでも、誰も聞いちゃくれない。


「ヨシヒロ様。もし、この声の話が事実であれば、どこかで誰かが亡くなり、
その帰りを待つ人がいて、亡くなった人もこの地に還ることを望んでいる可能性がありますわ。
そんな声を聞き、想いを届けられるのは、ヨシヒロ様だけだと思いますの。」

「ルーナ…」

「ヨシヒロ様にとっては、とても面倒なことなのは分かっていますわ。
でも、ヨシヒロ様だからこそ、“追憶の欠片”はたくさんの言葉を届けてくれているのです。
コダマは、何でもかんでも口にするわけじゃありません。
ヨシヒロ様に愛情を持って接してもらい、魔力をもらうことで、ヨシヒロ様という存在を、コダマは強く信頼しているのです。
ヨシヒロ様だったら、自分の中にある声をきちんと聴き入れてくれる。
そう思って、声を届けているのです。」

「コダマが俺を…ね。」

「はい。ですから、どうかこの声を拾ってやってください。ヨシヒロ様。」


ロウキの好き勝手な行動に呆れていた俺だったけど、
静かに隣にやってきたルーナに、コダマが言葉を発する理由を教えられた。
そんな風に言われたら、もう動かないわけにはいかないじゃないか。
俺が解決できる案件じゃない気もするけど、俺もガーノスさんのところに行ってみるか。
そう思い直し、ルーナに家のことを任せて、クロと共に転移ゲートをくぐった。


「遅いぞ、ヨシヒロ。ガーノス呼んできてくれ。」

「はいはい。ちょっと待ってて。」


ゲートをくぐると、ガーノスさんはその場にいなかった。
ロウキに呼んでくるよう言われた俺は、とぼとぼと歩きながら表に出ると、偶然、クリスティーナさんのお母さんと出くわし、少しだけ話をした。


「あら、ヨシヒロ君。久しぶりだねぇ。元気にしてたかい?」

「あ、クリスティーナさんのお母さん!お久しぶりです!」

「今日はどうしたんだい?可愛いクロちゃんと一緒に。」

「主が困ってる人を助けるために、ガーノスに話を聞きに来たんだ!」

「おやおや、そうだったのかい。相変わらずヨシヒロ君は優しい子だねぇ。」

「主は世界一だからなー!
なんか、森の洞窟に誰か閉じ込められてるんだって!」

「森…?ああ、もしかして“迷いの樹海”のことかい?」

「迷いの樹海…?」

「ええ。足を踏み入れた者が方向感覚を失い、容易に抜け出せない広大な森でね。
迷宮のような、危険な森だから絶対に近づいちゃダメだよって、ティーナが昔教えてくれたんだよ。」

「ええ…もしかしてその森なのかな…コワッ…」


クロが今回の目的を軽く伝えると、クリスティーナさんのお母さんから“迷いの樹海”という、何とも恐ろしい名前の森の話を聞かされた。
絶対にそこじゃんか。そう思いながらため息を吐くと、彼女は優しく微笑んで言ってくれた。


「ヨシヒロ君なら、きっと大丈夫。だけど、気をつけて行くんだよ?
ヨシヒロ君たちに何かあったら、私たちも悲しいからね?」

「…はい!ありがとうございます!またお会いできた時に、どうだったかご報告しますね。」

「ふふっ。ありがとうね。じゃあ、またね。」


自分の母親ではないけれど、母親に“大丈夫だよ”って言ってもらえたような感覚だった。
親が恋しくなる年齢じゃないけど、やっぱりこんな風に心配してもらえるのは嬉しいな。
そう思いながら手を振って見送り、ガーノスさんの元へと向かった。

迷いの樹海かぁ…怖いところなんだろうな。
おばけとか出たらどうしよう…。
そんな不安を胸に抱えながら、俺は冒険者ギルドの扉に、ゆっくりと手を伸ばした―…。
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