魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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112話 声の内容について教えてもらいました

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ギルドにいたガーノスさんを呼び止め、事情を話すと「しばらく待ってくれ」と言われ、俺たちは待機することにした。
それから約30分ほど経ち、ようやくガーノスさんの手が空いたようで、別館へと顔を出してくれた。


「悪いな、待たせちまって。今日はやけに魔物討伐の報告が多くてな。
地域ごとにまとめていたところだ。
万が一、大事になりそうならヨシヒロたちにも依頼を出させてもらうから、頼むぞ。」

「うう…分かりました。」

「ところで、今日はどうしたんだ?」


魔物討伐の報告が多いと、面倒くさそうに言うガーノスさん。
この辺りで魔物討伐の報告が増えているって、ちょっと怖いな…。
できれば討伐依頼なんて受けたくない。
そう思っていたところで、俺より先にロウキが口を開いた。


「ガーノスよ。最近、“迷いの樹海”に誰か派遣したか?」

「…何故それを知っている?」

「我らが育てている“心願樹”という、植物の姿をした精霊がいるんだが、
通称“追憶の欠片”と呼ばれていて、人間の感情を吸収し、記憶する性質を持つ。
感情魔力をエネルギー源としていてな、毎日のように誰かの感情を口にして、やかましくて仕方がない。
その中の言葉に、こうあった。
“森の洞窟に閉じ込められている”“一人で向かわせてごめんなさい”と。
その意味を知るべく、ここに来たというわけだ。」

「なんじゃその植物は…すげぇもん育ててんだな…。」

「先日の花冥祭で、感情があまりにも多く動いたこともあって、突発的に生まれたのだ。
で?どうなのだ?迷いの樹海に、何かあるのか?」


ロウキはコダマのことを説明し、そのコダマが口にした言葉の意味を探るためにここへ来たと伝えた。
すると、ガーノスさんの眉がピクリと動いた。何かあると感じるのは当然だ。
それは、口にしたくないことなのだろうか?
そう思いながら、俺はガーノスさんの言葉を静かに待った。


「お前たちと出会う前…そうだな、ちょうど1年前くらいだったか?
ルセウスのところの騎士団の第二部隊の騎士の一人が“迷いの樹海”に出かけた。
理由は馬鹿げててな。
第二部隊の中で仲の良い連中が何人かいて、当時、同じ女を好きだったらしい。
で、その女がこう言ったんだ。
“迷いの樹海にあるとされる『ルミグミ』を取ってきた人と付き合う”ってな。」

「ええ…ルミグミなら、うちにいっぱいありますけど…
立ち入り禁止エリアでしたから、無理だったんですね…」

「ああ。ルミグミは昔から“幻の果実”として有名だったからな。
他の騎士たちは“無理無理”って笑ってたそうだが、
皆がその話を忘れた頃に、騎士の一人がそれを真に受けて、迷いの樹海に行っちまった。
そして…帰ってこなくなった。
誰ももうルミグミの話なんて覚えてなかったからな。
無断欠勤を続けた末に、逃げて辞めたんだろうって思われてた。
でも…その女が、罪の意識に耐えられなくなったんだろうな。
別の騎士に、“あの人、迷いの樹海に行くって言ってた”って話したことで、ようやく発覚したんだよ。」

「愚かな女子だな。…もっと早く言っておれば、そやつは助かったかもしれんというのに。」

「そうだな…。
一応、ルセウスが命じて、副団長のランティスが第二部隊を連れて迷いの樹海に捜索に行ったことはあるんだが…
結局、何も分からずじまいだった。」

「そうだったんですね…」


ガーノスさんから聞いた“迷いの樹海”で起きた出来事。
事件というか、事故というか…。
その話を聞いた俺は、何とも言えない気持ちになった。
“好きな人に振り向いてほしくて頑張った”。そう言えば聞こえはいい。
でも、内容を聞く限り、彼女に利用されたんじゃないかとも思えてしまった。

だけど、自分の軽はずみな言葉のせいで、一人の青年が危険な場所へ向かい、
帰らぬ人になったかもしれない。そう知ったら、冷静ではいられないはずだ。
バカなことをしたなその人。そう思わずにはいられなかった。


「結局、分からぬままなんだろう?」

「そうだな…。迷いの樹海の調査は、思うようにはいかなかった。
ルセウスもランティスも諦めたくはなかったが、アーロンが捜索を打ち切らせたんだ。
“自分の大切な人間を、これ以上失うわけにはいかない”ってな。」

「苦渋の決断でしたね…」

「ああ…。まあ、アーロンの言うことも分かるからな。何とも言えねぇって感じだったぜ。」


ロウキが「帰らぬままなんだろう?」と訊き、ガーノスさんは静かに頷いた。
アーロンさんが捜索を打ち切った理由も、よく分かる。
何とも言えない、辛い状況だったんだな…。
そして、コダマが記憶していた“悲しい声”はその彼女の懺悔だったんだろう。
1年前、あんなことを言ってしまってごめんなさいという懺悔。
まだ人間らしい心が残っていたんだなと思うと同時に、
自分の言葉の重さを自覚して、二度と同じようなことは言わないでほしい。
そんな思いが、自然と胸に湧いていた。


「ガーノスさん、辛い話を教えてくださってありがとうございます。」

「いや、大丈夫だ。…ってわけだからよ。
お前たちも、あの森には近づかないでくれよ?
お前たちまで失ったら、俺は本当に泣くからな?」

「はは、分かりました。大丈夫ですよ。
俺、のんびり生活したいので、そういう危険な場所には行きませんから。」

「ははは、そうだったな?
んじゃあ、俺は仕事に戻るわ。また今度、ゆっくり飯でも食いながら話そう。」

「はい!ありがとうございました!」


ガーノスさんに「絶対に行くなよ」と念を押された迷いの樹海。
当たり前だけど、行くつもりなんてなかった。
そんな恐ろしい場所に、俺が行くはずがない。
そう思いながら、ひとまずゲートをくぐって家に戻ると、ミルたちが、他の子たちに何があったのかを話し始めていた。
…良くないよなぁ、こういうの。
だって俺、分かっちゃうから。皆が、なんて言うのか。
聞こえないふりをしたいけど、どうしたらいいんだろうか。
そう思っているうちに、事情の説明が終わり、皆が口をそろえて言い始めた。


「主、行くよな?」

「あるじさま、生きてはいないでしょうけど、連れて帰ってあげた方がいいのではないでしょうか?」

「私もついて行くわよ、ヨシヒロ様。」

「パッパ!モモも行く!」

「シンゴもー!お助けする!」


ほらね。そう言うと思ってたんだよ。
分かってたよ、皆がこの手の話を聞いて放っておけるわけがないって。
しかも、モモやシンゴまで皆に似てきて「一緒に行く」なんて言い出すなんて…。
さすがに危ないからダメだろうと思いながらも、どうしたものかと悩んでいた。


「ロウキ、どうすればいいんだよこれ…」

「全員連れて行けばよかろう。
この領地には誰も入れはせんし、危ないようなら馬車の中に待機させておけばよい。
ガーノスに言って、馬を借りてくるのだ。」

「えええ…全員で行くのか?大丈夫かよ…」

「たまには全員で出かけるのも悪くなかろう?」

「いやいや…いやいやいや…」

「クロ、ガーノスに馬を借りられるか確認してこれるか?」

「いいぜ!ユキ、行こうぜー!」

「行きましょう!クロ兄さん!」

「また勝手に…」


悩んでいる俺に、ロウキは「皆で出かけたらよい」と、また適当なことを言い始めた。
さすがに無理だろうと思っていたけど、「馬車に待機させればいい」という一言で、
その場にいた全員が“迷いの樹海に行く気満々”になってしまった。
クロはユキと一緒にガーノスさんのところへ向かってしまったし、
ラピスたちは眷属の子たちに「出かけてくるから、いい子にしててね」と説明を始めていた。
シンゴはモモとあっくんに向かって、「お外は危ないから、パッパの言うことをちゃんと聞くんだよ」と、すっかりお兄ちゃんモード。

…もうダメだね。
また収拾がつかなくなっちゃった。もう、行くことが決定だな。
迷いの樹海って、どんなところなんだろうか…。
俺、死んじゃったりしないよな?
そんな不安しかないけど、もし騎士団の人らしき人物がいた場合は、どうにかして連れて帰る方向で考えていた。


「諦めるのが早くなったのではないか?」

「皆のせいだからな?」

「フン!そうさせておるのは、お前だからな。」

「俺が何をしたっていうんだよ…!」

「まぁ、とにかく出かける準備をしておくのだ。」

「はいはい。じゃあ、準備しますかね。」


ロウキは、俺が“行かない”ことを諦めて、皆と一緒に行くと決めたのが分かったのか、
ニヤニヤと笑っていた。
そして、「皆がこうなったのはお前のせいだ」と言っていたけど、
俺が一体、皆に何をしたっていうんだよ…。

なんて、分からないことを考えても仕方がないから、
俺はミルと一緒に、出かけるための食事作りを始めた。
何が起こるか、まったく予想はつかないけど、今回も、とにかく無事に帰ってこられますように。
そう祈りながら、出かける支度をしていた―…。
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