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113話 迷いの樹海はとても空気が冷たい場所でした
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迷いの樹海という森は、王都から北へ約190kmほど馬車を走らせた場所に位置していた。
大きな森の中には湖もあるらしく、その湖の底には巨大魚が棲んでいるという噂もある。
さらに、その湖からは常に濃い霧が発生していて、森の内部に侵入すると方向感覚だけでなく視覚までも完全に奪われる。
それが“迷いの樹海”という名前の由来だという。
「俺たちが森に行ったら、やっぱり迷うよね?どうすんの?」
「ガーノスが言ってたぜ?前に騎士団が捜索に行ったときは、ロープを付けて進んだって。
森の入り口に何人か待機させて、めっちゃ長いロープを巻き付けて行ったらしい。
魔法を使っても迷っちゃうからって。」
「へぇ…。って、まさかクロ、ガーノスさんに“行く”って言ったの?」
「ううん!これから皆で遊びに行くから馬を貸してって言いに行ったんだ。
その時に“あの森、迷わないの?”って聞いたら、“ロープで”って教えてくれた。」
森に入れば俺たちも同じように迷うと思っていたから不安だったけど、
昔ながらの方法で捜索していたと知って驚いた。
確かにその方法なら、入口でロープを持っていてくれる限り、どうにか帰ってこられそうだ。
ということは、今回はミルに残ってもらう感じかな。
そう思いながら、捜索方法について考えていた。
「この中で、誰かこの森に行ったことある子いるの?」
「我くらいではないのか?わざわざ行かぬだろう。」
「え?ロウキあるんだ?」
「もうはるか昔の話だがな。暇つぶしに遊びに出かけたら…」
「出かけたら?」
「…迷った。」
「ええ!やっぱりロウキでも迷うんじゃん!絶対ヤバいじゃん!」
「馬鹿を言うな。一瞬だ、一瞬!すぐに感覚を取り戻して散策して帰ったわ。」
興味本位で誰かが行ったことあるのかと訊いてみると、やっぱりロウキが入ったことがあるらしい。
「迷った」と言われた時点で、ロウキですら迷うなら絶対に危険な場所だと確信した。
だけどロウキは「すぐに感覚を取り戻した」と言い張る。嘘だよ、絶対。
そう思っている俺の横で、ロウキはさらに話を続けた。
「あの森にある湖だがな、巨大魚がいるという噂だったが、我が行ったときは何もいなかった。
代わりに、色んな遺体を見たぐらいだな。」
「い、遺体?!」
「迷いの樹海の湖は、ヨシヒロ様の領地にある湖と同じく“聖水”と呼ばれています。
そこにあるルミグミを求めて行く人は多かったようですから。
それに、ルミグミの香りにつられて魔物が寄ってくることもよくあったそうですわ。」
「そうなんだ…ルーナ、物知りだねぇ。」
「あの辺りで命の炎が消える…というのも、珍しくありませんでしたから。」
「あああ…そ、そういうことか…」
ロウキから「遺体を見た」と聞かされ、さらにルーナからも「あの森で命の炎が消えることは珍しくない」と教えられて一気に元気がなくなった。
何で皆、そんな危ないところに行くんだよ…。
そう思いながら、本当に俺は大丈夫なんだろうかと、不安ばかりが募っていった―…。
◇
迷いの樹海への道中は特に危険もなく、四日間の旅はのんびりと進んだ。
途中でクロが「主!あの畑のニンジン美味しそうー!」と騒ぎ出したり、
ロウキがシンゴとモモ、あっくんを背中に乗せて走り、村人を驚かせたりいつもの調子で笑いの絶えない旅になった。
すっかり“いいお父さん”になっちゃってるんだよなぁ。
だけど、迷いの樹海へ近づくほどに、何となく空気が冷たく重くなっていくのを全員が感じていた。
澄んでいた景色も次第に霧が濃くなり、四日目の昼頃、俺たちはついに“迷いの樹海”の入り口へとたどり着いた。
よほど危険な森なのか、大きな看板が立てられていて、「入るべからず。命の保証はない」という内容が書かれていて、妙な緊張感が走った。
「ロープ…ロープを作らなくちゃ。」
「必要なかろう?」
「何でだよ!ロープがなくちゃ迷っちゃうだろ!」
森に入る前に、絶対にロープを生成しようと思っていた俺。
ところが、ロウキは「必要ない」と言い切った。
いや、絶対必要だろ!?そう思い抗議すると、ロウキはエマに問いかけ始めた。
「エマよ。確かじいさんのセルリアンドームは、精神干渉されないものだったよな?」
【はい。セルリアドラゴン、セドラのセルリアンドームは、多少の攻撃を防ぐだけでなく、精神干渉を受けない特殊な結界です。】
「へ?そうなの!?あ、でも俺、今までずっと“セルリアン・バリア”って言ってきたけど…何が違うんだ?」
【セルリアン・バリアは通常の結界で、攻撃を防ぐほか、使用者が認めた者以外を通さないようにできます。
一方、セルリアンドームはセルリアン・バリアと同等の結界に加え、精神干渉を防ぐ力を持ち合わせています。
ただし、大量の魔力を消費するため、通常は使用されません。】
「へぇ…知らなかった。教えてくれてありがと、エマ!
じゃあ、ここにいる全員に向けて発動しようかね。
……セルリアンドーーーム!」
ヴィンッ―
「うおっ…ごっそり持っていかれた!」
エマに教えてもらうまで、俺は何の疑いもなく、ずっとセルリアン・バリアを使っていた。
だけど、セルリアンドームのことを聞いた瞬間、そういえば最初に「セルリアンドームという結界がどうの」と教えられていたな、とふと思い出した。
人の話はもっとちゃんと聞かなきゃだな…。
そう思いながら、その場にいた全員にセルリアンドームを発動。
すると、大量の魔力を消費する時特有の、あの気持ち悪い感覚に襲われ、本当に魔力を“ごっそり”持っていかれるんだなぁ、と実感していた。
「よし。じゃあ、行きますか。とりあえず馬車と皆は収納ね。
皆、空間収納の中でいい子にしててねぇ。」
「うむ。行くぞ。」
馬車と借りた馬、そしてラピスたちを Arca Magna(アルカ・マグナ) で収納し、俺とロウキ、ユキ、クロ、ミル、ルーナで森の中へと入った。
辺り一面に濃い霧が立ち込め、今にも何かが出てきそうな雰囲気で正直、怖すぎる。
だけど、結界のおかげで不思議と霧に惑わされる感じはなく、一歩踏み入れた途端、霧が少し薄くなった気がした。
「この霧の中、皆よく進もうと思えたよね…」
「霧が深い森というのは、割とよくありますのよ。
皆、いろんな目的でこの森に入ったのでしょうけど、帰って来た人間は、ほぼいないと記憶していますわ。」
「そうなのかぁ…じゃあ、今も帰れてない人が沢山いる可能性もあるんだなぁ…。
さすがに全員をって訳にはいかないよな…」
結界のおかげでスムーズに進めてはいたけれど、この森には“家に帰れなかった人たち”が沢山いると知り、とても複雑な気持ちになった。
見つけられた人、全員を連れて帰ることが出来たら理想だけど、さすがにそうもいかないよな…。
「今回の目的は騎士団の人間だからな。他について手を出す余裕はないぞ、ヨシヒロ。」
「うん、そうだよね。分かってる。早く見つけてあげなきゃ。
多分、湖の方だよね?ルミグミを探してたって言ってたし。」
「俺、ルミグミの匂い分かるから!皆、俺についてきて!」
「さすが、ルミグミが好物なだけあるな?クロ!」
「任せてー!俺は主の使い魔だから!役に立てるんだからな!」
ロウキにも言われた通り、今回の目的を最優先にしなきゃな。
そう気持ちを切り替えていると、クロが「ルミグミの匂いが分かる」と張り切り始めた。
その明るさに、少し救われる気がする。
そう思いながら、皆でクロの背中を追いかけ、湖を目指して足を進めていった―…。
大きな森の中には湖もあるらしく、その湖の底には巨大魚が棲んでいるという噂もある。
さらに、その湖からは常に濃い霧が発生していて、森の内部に侵入すると方向感覚だけでなく視覚までも完全に奪われる。
それが“迷いの樹海”という名前の由来だという。
「俺たちが森に行ったら、やっぱり迷うよね?どうすんの?」
「ガーノスが言ってたぜ?前に騎士団が捜索に行ったときは、ロープを付けて進んだって。
森の入り口に何人か待機させて、めっちゃ長いロープを巻き付けて行ったらしい。
魔法を使っても迷っちゃうからって。」
「へぇ…。って、まさかクロ、ガーノスさんに“行く”って言ったの?」
「ううん!これから皆で遊びに行くから馬を貸してって言いに行ったんだ。
その時に“あの森、迷わないの?”って聞いたら、“ロープで”って教えてくれた。」
森に入れば俺たちも同じように迷うと思っていたから不安だったけど、
昔ながらの方法で捜索していたと知って驚いた。
確かにその方法なら、入口でロープを持っていてくれる限り、どうにか帰ってこられそうだ。
ということは、今回はミルに残ってもらう感じかな。
そう思いながら、捜索方法について考えていた。
「この中で、誰かこの森に行ったことある子いるの?」
「我くらいではないのか?わざわざ行かぬだろう。」
「え?ロウキあるんだ?」
「もうはるか昔の話だがな。暇つぶしに遊びに出かけたら…」
「出かけたら?」
「…迷った。」
「ええ!やっぱりロウキでも迷うんじゃん!絶対ヤバいじゃん!」
「馬鹿を言うな。一瞬だ、一瞬!すぐに感覚を取り戻して散策して帰ったわ。」
興味本位で誰かが行ったことあるのかと訊いてみると、やっぱりロウキが入ったことがあるらしい。
「迷った」と言われた時点で、ロウキですら迷うなら絶対に危険な場所だと確信した。
だけどロウキは「すぐに感覚を取り戻した」と言い張る。嘘だよ、絶対。
そう思っている俺の横で、ロウキはさらに話を続けた。
「あの森にある湖だがな、巨大魚がいるという噂だったが、我が行ったときは何もいなかった。
代わりに、色んな遺体を見たぐらいだな。」
「い、遺体?!」
「迷いの樹海の湖は、ヨシヒロ様の領地にある湖と同じく“聖水”と呼ばれています。
そこにあるルミグミを求めて行く人は多かったようですから。
それに、ルミグミの香りにつられて魔物が寄ってくることもよくあったそうですわ。」
「そうなんだ…ルーナ、物知りだねぇ。」
「あの辺りで命の炎が消える…というのも、珍しくありませんでしたから。」
「あああ…そ、そういうことか…」
ロウキから「遺体を見た」と聞かされ、さらにルーナからも「あの森で命の炎が消えることは珍しくない」と教えられて一気に元気がなくなった。
何で皆、そんな危ないところに行くんだよ…。
そう思いながら、本当に俺は大丈夫なんだろうかと、不安ばかりが募っていった―…。
◇
迷いの樹海への道中は特に危険もなく、四日間の旅はのんびりと進んだ。
途中でクロが「主!あの畑のニンジン美味しそうー!」と騒ぎ出したり、
ロウキがシンゴとモモ、あっくんを背中に乗せて走り、村人を驚かせたりいつもの調子で笑いの絶えない旅になった。
すっかり“いいお父さん”になっちゃってるんだよなぁ。
だけど、迷いの樹海へ近づくほどに、何となく空気が冷たく重くなっていくのを全員が感じていた。
澄んでいた景色も次第に霧が濃くなり、四日目の昼頃、俺たちはついに“迷いの樹海”の入り口へとたどり着いた。
よほど危険な森なのか、大きな看板が立てられていて、「入るべからず。命の保証はない」という内容が書かれていて、妙な緊張感が走った。
「ロープ…ロープを作らなくちゃ。」
「必要なかろう?」
「何でだよ!ロープがなくちゃ迷っちゃうだろ!」
森に入る前に、絶対にロープを生成しようと思っていた俺。
ところが、ロウキは「必要ない」と言い切った。
いや、絶対必要だろ!?そう思い抗議すると、ロウキはエマに問いかけ始めた。
「エマよ。確かじいさんのセルリアンドームは、精神干渉されないものだったよな?」
【はい。セルリアドラゴン、セドラのセルリアンドームは、多少の攻撃を防ぐだけでなく、精神干渉を受けない特殊な結界です。】
「へ?そうなの!?あ、でも俺、今までずっと“セルリアン・バリア”って言ってきたけど…何が違うんだ?」
【セルリアン・バリアは通常の結界で、攻撃を防ぐほか、使用者が認めた者以外を通さないようにできます。
一方、セルリアンドームはセルリアン・バリアと同等の結界に加え、精神干渉を防ぐ力を持ち合わせています。
ただし、大量の魔力を消費するため、通常は使用されません。】
「へぇ…知らなかった。教えてくれてありがと、エマ!
じゃあ、ここにいる全員に向けて発動しようかね。
……セルリアンドーーーム!」
ヴィンッ―
「うおっ…ごっそり持っていかれた!」
エマに教えてもらうまで、俺は何の疑いもなく、ずっとセルリアン・バリアを使っていた。
だけど、セルリアンドームのことを聞いた瞬間、そういえば最初に「セルリアンドームという結界がどうの」と教えられていたな、とふと思い出した。
人の話はもっとちゃんと聞かなきゃだな…。
そう思いながら、その場にいた全員にセルリアンドームを発動。
すると、大量の魔力を消費する時特有の、あの気持ち悪い感覚に襲われ、本当に魔力を“ごっそり”持っていかれるんだなぁ、と実感していた。
「よし。じゃあ、行きますか。とりあえず馬車と皆は収納ね。
皆、空間収納の中でいい子にしててねぇ。」
「うむ。行くぞ。」
馬車と借りた馬、そしてラピスたちを Arca Magna(アルカ・マグナ) で収納し、俺とロウキ、ユキ、クロ、ミル、ルーナで森の中へと入った。
辺り一面に濃い霧が立ち込め、今にも何かが出てきそうな雰囲気で正直、怖すぎる。
だけど、結界のおかげで不思議と霧に惑わされる感じはなく、一歩踏み入れた途端、霧が少し薄くなった気がした。
「この霧の中、皆よく進もうと思えたよね…」
「霧が深い森というのは、割とよくありますのよ。
皆、いろんな目的でこの森に入ったのでしょうけど、帰って来た人間は、ほぼいないと記憶していますわ。」
「そうなのかぁ…じゃあ、今も帰れてない人が沢山いる可能性もあるんだなぁ…。
さすがに全員をって訳にはいかないよな…」
結界のおかげでスムーズに進めてはいたけれど、この森には“家に帰れなかった人たち”が沢山いると知り、とても複雑な気持ちになった。
見つけられた人、全員を連れて帰ることが出来たら理想だけど、さすがにそうもいかないよな…。
「今回の目的は騎士団の人間だからな。他について手を出す余裕はないぞ、ヨシヒロ。」
「うん、そうだよね。分かってる。早く見つけてあげなきゃ。
多分、湖の方だよね?ルミグミを探してたって言ってたし。」
「俺、ルミグミの匂い分かるから!皆、俺についてきて!」
「さすが、ルミグミが好物なだけあるな?クロ!」
「任せてー!俺は主の使い魔だから!役に立てるんだからな!」
ロウキにも言われた通り、今回の目的を最優先にしなきゃな。
そう気持ちを切り替えていると、クロが「ルミグミの匂いが分かる」と張り切り始めた。
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