魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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115話 洞窟の中はやけに静かで、怖いくらいでした

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せっかく洞窟の在り処が分かったかもしれないというのに、湖の中じゃどうすることも出来ないよな。
誰かが湖の水を全部吸い上げてくれたりしたら有難いんだけど…
でも、そんなことをしたら湖の生き物たちにも影響が出ちゃう。
そう思うと、諦めるしかないのか…?


「パーパー!」

「ん?なぁに、あっくん。」

「あっくんは凄いんだよ。あっくはアクアベアなんだから。」

「え?」

「見てて。ちゃんと、見ててねパーパー。」

「え、ちょ、あっくん?!」


この状況は完全に詰んだ。そう、この場にいる皆が思っていた時だった。
ひょこひょことやってきたあっくんは、「自分はアクアベアなんだからね」と胸を張り、湖の前に仁王立ちした。
そういえば、あっくんは元々アクアベアで、こういう場所で生活できる特殊な熊さんなんだよな。
だけど、子供の姿をしている今のあっくんでは負担が大きいんじゃないか?
そう思いながらも、ここはひとつ見守ってみようと皆で話し、あっくんが何をするのかを見届けることにした。


「僕は、あっくんだよー!この湖はあっくんの縄張りだよー!」


なぜかあっくんは自己紹介を始め、自分の縄張りだとよく分からないことを言い出した。
すると、湖の水面がざわざわと動き始め、波紋が逆流するように中央へ集まっていった。
一体何が起きているんだ?そう思っている間に、あっくんは大きく息を吸い込んだ。
そして―


「グオオオオオオ!」

「ええええええっ!」

「あっくん声でけぇ主!!」


大きく息を吸ったあと、あっくんはその可愛らしい顔からは全く想像できないほど野性的な声で雄たけびを上げた。
その瞬間、湖の水面がさらに大きく揺れ始め、バシャバシャと荒波のような状態になった。
そして、波が一瞬おさまったかと思った次の瞬間、中央から左右にドォンッ!!と大きな音を立てて水面が割れ始めた。
そう、まるで“十戒”のように。
あまりの光景に、誰一人として声を出せなかった。
ただ一人、あっくんだけは満面の笑みを浮かべて「今すぐ褒めて!」と言わんばかりに俺を見つめてきた。


「あっくんだって、皆の役に立てるんだからね!」

「あっくん!!!とんでもない子だよ!!もうっ!本当に凄いよあっくん!!」

「へへへへっ!」


すぐにあっくんを抱き上げて褒めちぎると、あっくんはさらに嬉しそうに笑い、その笑顔に癒されまくりの俺がいた。
だけど…モモにしても、あっくんにしても、やっぱり持っている能力が高すぎないか?
俺の家族はこんなにも優秀なんだから、俺という存在がかすんじゃうな。
ま、いいけどさ。


「降りるぞー。皆、気を付けてなぁ。」

「今回はモモにあっくんが良い仕事をしておるな。」

「そうだな。まさかだったけどな。まだ子供だと思ってたけど、力は大人顔負けでエグい。」

あっくんが切り開いてくれたおかげで、俺たちは何の苦労もなく湖の底まで降りることができた。
湖の壁を見ると、魚たちが普通に泳いでいて、まるで天然の水族館のようで面白かった。
それに聖水の湖だから、水は驚くほど澄んでいて美しい。その中を魚が泳ぐ姿は、何とも幻想的に思えた。


「ここが洞窟か…
よし…ルーメンスッ!」


洞窟までの距離はさほど遠くなく、すぐにたどり着けた。
ルーメンスで灯りを灯すと、入り口付近は普段は水の中だったせいか、海藻や貝殻があちこちに散らばっていた。
そこから少し進むと階段があり、ようやく水辺から陸地エリアへ到着。
特に何もなく、魔物の気配もない。ただただ静かな空間で、俺たちの話し声と足音だけが響いていた。


「あっくん、あの湖の割れはいつまで持続するの?」

「えー?知らなーい!でも、ずっとじゃないよ!」

「そっかぁ。となると、この洞口が森のどこかに出口として繋がってるといいんだけど。」

「木々の香りはしますから、多分出口はあるかと思います!あるじさま!」

「さすがユキ!鼻が利くな!じゃあ、出口までに騎士を見つけられるのが理想だな。」


あっくんがやってくれた湖の“十戒割れ”がいつまで続くのか気になって訊いたけど、結局分からなかった。
それでも、ユキが「出口はありそう」と言ってくれたから、この洞窟から出られる可能性があると分かり、少し安心した。
あとは眠る王国騎士を見つけてあげられれば言うことはないんだけど…。
どこかに痕跡はないかな…?
そう思いながら歩き続けていると、ところどころで力尽きた人たちの姿を目にする回数が増え始めた。
その手には“お宝”とされる貴金属を握っていたり、最後まで戦おうとしたのか武器を強く握り締めていたり…。
ここまで多くの人の最期を目にする人生なんて送ったことがない俺は、本当に何とも言えない気持ちになった。


「主ー!向こうに見たことある鎧あったー!」

「見たことある鎧?行ってみようか。」


複雑な気持ちを抱えながら歩いていると、前を進んでいたユキとクロが「見覚えのある鎧がある」と叫んだ。
あの子たちが見たことある鎧って…もしかして、もしかする?
淡い期待を抱きながらクロたちが呼ぶ方へと向かうと、そこには痛々しい姿となった王国騎士が横たわっていた。
多分、この人だろう…。


「明らかに魔物にやられておるな…」

「そうだね…お腹のあたり、えぐられてるもんね…」


王国騎士団の鎧を身に纏ったこの人は、お腹の辺りを鎧ごと半分ほどえぐられていて、確実に致命傷となった傷だとすぐに分かった。
どういう経緯でこの場所に来たのかは分からないけれど、不運にも魔物に襲われ、この場で命が尽きてしまったのだろう。
そして、この人を襲った魔物は大型の魔物に違いない。こんなにもえぐれるなんて、普通じゃない…。


「とりあえず見つけられて良かった…。連れて帰ろう…
……クレオ!」

「棺か…」

「うん。簡易的なものだけど…。そのまま空間収納に入ってもらう訳にはいかないだろう?
シトリン、強化しておいてくれる?」

「オッケー!じゃあ、オイラやるね!」


騎士を運ぶためには空間収納に入ってもらう必要があった。
そのためには棺の一つでも生成してやらないと。知らない人とはいえ、雑な扱いは出来ない。
そこでクレオで棺を生成し、シトリンに強化してもらった。


「我が連れ出そう。」

「わ、浮かせられるんだ?すごいねロウキ。」


骨になっていることもあり、棺に入れる方法を考えなくちゃと思っていたら、
ロウキが前に出て浮遊魔法で騎士を浮かせ、そのまま棺の中へと収めてくれた。
いざという時に頼りになるよなぁ、ロウキって。


「よし…もう少し待っててくださいね。ちゃんと連れて帰りますから。」

「主、じゃあ出口まで行こうぜー!」

「そうだな。出発するか。」


無事に騎士を空間収納に入れることが出来た俺たちは、少し早足で洞窟を歩いた。
もしかしたら、この洞窟には危険な魔物が潜んでいるかもしれない。
…まぁ、俺以外の皆さんはとても強いので心配する必要はないのだが!
俺が困るんだよ!やっぱり非力な人間にとって、こういう場所は危険だからな。

なんて思いながら歩いていると、ところどころで貴金属が落ちていて、ロウキに「拾っておけ」と言われ、手分けしてかき集めて鞄に詰め込んだ。
あとで換金すれば、きっといい金になるだろう。


「あ、出口だー!ちょっと見てくるから待ってて主!ユキ行くぞー!」

「はい!クロ兄さん!」


そんな感じで何事もなく進んでいくと、出口らしき光が見え始めた。
俺が怖がっているのを分かっているクロは、ユキと一緒に洞窟の外の確認に行ってくれた。
そして「大丈夫だよ」という声を聞いて先へ進み、外に出るとそこは森の中でも拓けた場所で、木々がなく、広場のような空間になっていた。
あの騎士や他の人たちは、ここから洞窟の中に入ったんだろうか?


「ここ、もしかしてキャンプ地とかなのかな?
誰かが開拓して作ったって感じがしない?明らかに人の手が入ってるよね?」

「そうだな。誰がとは分からぬが、明らかに過ごしやすい空気になっているな。」

「わぁ!今日は、パッパたちとお泊り?!」

「違うよーシンゴー!こんな怖いところにお泊りしないからね!」

「大丈夫だよー!シンゴが護ってあげるからぁ!」


この開けた場所を見た途端、シンゴたちは「お泊りだ」と騒ぎ始めた。
絶対にそんなことしないから!そう思いながら辺りを見回していると、やっぱり誰かがこの場所を作ったように思える。
洞窟もあるし、雨をしのげるし、寝起きも出来るだろう。

だけど、そうだとしたらこの森に住んでいる人がいるのか、この森を攻略した人、もしくは攻略するために能力を使って開拓した人がいるってことか?
どちらにしても、何だか怖くなってくる。
一刻早く森の外に出たい。そう思いながら、俺だけが心の中で悲鳴を上げていた。

どうしよう、皆ここで遊ぶ気満々なんですけど?!
ロウキには「諦めろ」とか言われるし、ミルもこの場所は解放感があるのか、元の大きさに戻って皆とはしゃぎ始めた。
まぁ、そうだよな。本来の姿で過ごすのが一番楽しいに決まってる。
そう思いながらも、どうやって皆を説得して、この森を出る方向へ持っていけるか、必死に考えていた―…
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