魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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119話 悲しい過去を抱えた子のこれからを心配していました

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翌日―

「ふぁ…ねむ。」

「ヨシヒロよ。お前も眠れば良かったのにな。」

「さすがに心配だから寝るに寝れなかったよ…」

「まぁ、そうだな。あとはこやつの気持ち一つだな。」

「うん…そうねぇ…」


あれから俺たちは、この暗く濃霧が広がる森のど真ん中にテーブルを広げて食事をした。
そして少しだけ森を伐開し、そこに馬車を出して皆にはその中で眠ってもらった。
シンゴは「一緒に見張りをする」と言ってきかなかったので、仕方なく俺の膝の上に乗せておいたら、あっという間に眠ってしまって、その姿が可愛かった。

ロウキが一晩付き合ってくれたおかげで、何とか眠気に勝つことが出来た。
森の中で全員が眠ってしまうのは危険だし、ケルベロスが暴走するかもしれないと思うと、おちおち寝ていられなかった。
それに、もし目が覚めた時に誰とも話せなかったら可哀想だとも思っていたから。
けれど、ケルベロスはぐっすり眠り、起きる気配はなかった。
今までまともに眠れなかったのではないかと思うほど、深い眠りについていた。


「この子さ、起きたらどうするんだろうな?この森で暮らすのかな。」

「もし、この場所が気に入っているのであれば、ダークエルフの番犬にでもなれば良かろう。」

「あ、それいいね?それならきっとお互い助かる気がするなぁ。」


眠るケルベロスを見ながら、この子の今日からの人生について考えていた。
俺とロウキの意見は、この地がもし気に入っているならダークエルフと話をつけて、この地の番犬として新しい人生を歩めばいいというものだった。
もし本人が「もう番犬をしたくない」「自由に生きたい」と望むなら、この大陸の安全な場所を教えて、そこで暮らせるようにしてあげたいとも思った。


「主おはよー。」

「お、起きたか?おはよう皆。」


ロウキとケルベロスの今後について話していると、馬車の扉がガチャッと開き、皆がゾロゾロと降りてきた。
そして、まじまじとケルベロスを見ながら、昨日起きた出来事を話して盛り上がっていた。
皆、本当に優しい。違う星の生き物だっていうのに、関係ないって感じで接している。
そういう優しい一面を持っているから、俺は本当に皆が大好きなんだよな。そう思いながら、その様子を見つめていた。


「ブルル…」

「あ、起きちゃった?うるさかったかな?」


皆の声が耳に届いたのか、ケルベロスの耳がピクリと動き、瞼がゆっくりと開いた。
綺麗な青色の瞳がお目見えし、最初はうっすら開いていた瞼も、意識がはっきりすると3つの頭が同時に動き、驚いて飛び起きた。
そしてロウキの顔を見るなり、3つの頭のうち一番左の子が今にも泣きそうな顔になった。
この子はあの時、一番苦しそうな顔をしていた子だな。


「き、昨日はっ…ごめん…なさいっ…もう怒らないでくださいっ…」

「ああん?誰のせいでこうなったか分かっておるのか?」

「うううっ…僕ですぅ…」


左の子は泣きそうになりながら昨日のことを謝り、ロウキが少し説教しようとすると、目には涙が浮かんでいた。
この子は泣き虫担当なのか?そう思っていると、今度は右側の頭の子が不機嫌そうに左の頭へ向かって言った。


「毎回毎回すぐ泣くんじゃねぇよ!しょうがねぇだろうが!こうなったのは!」

「だって!フェンリル怖いじゃん!」

「アホか!俺たちと変わらんわ!」


右の子はどうやら短気な性格らしく、泣き虫な左の子にひたすら怒りをぶつけていた。
こうなると真ん中の子がどんな性格なのか気になる。黙ってじっと見ていると、ハァッと大きなため息を吐き、口を開いた。


「いい加減にしなさい!そんなこと言っても仕方がないでしょう。
今こうして呪詛の輪を解いてもらったのだから、きちんとお礼を言いなさい。
謝罪とお礼を言うことは大事だって教わったでしょう!」

「ううぅっ…」

「うるせぇ、分かってるよ…」


真ん中の子は、この二人をまとめる冷静な役割なのだろう。
言い合う両端をなだめ、叱り、落ち着かせている様子から、いつもこんなふうに3つの頭がまとまっているのだと思えた。まるで三兄弟のようで面白い。
そう感じていると、バラバラだった3つの頭の表情が一斉にキリッと真剣なものへと変わった。


「…皆さま、この度は多大なるご迷惑をおかけして申し訳ございません。
そして、私たちの犠牲になってしまった人間たち、この森に生息するすべての生き物たちに、深く深くお詫び申し上げます。
自分の弱さと間違った忠誠心のために、自らを誓いの呪いという名の狂気に縛り付け、この森の生態系を一年もの間、支配し、破壊し尽くしました。
私たちのせいで失われた哀れな魂たちに対し、償う言葉も見つかりません…。」

「ケルベロス…」


ケルベロスの口から紡がれた謝罪の言葉。
それはとても重く、自分たちがしてきたことを心から悔いていると伝わるものだった。
自分の意思で誓いの呪いをかけたのかもしれない。
けれど、その道のりを考えると、この子だけを悪者にすることは俺には出来なかった。

それが甘いと言われればそうなのかもしれない。
見切りを付けられ、捨てられ、さらに異界へ飛ばされ、その場所が霧に包まれ正気を失う森だったのだ。
だから、情状酌量の余地はあると思うんだ。


「私たちは、いかなる罰も受け入れます。
そして、この地を納める魔王様。私たちをこの狂気から解放してくださった恩義、決して忘れません。
この罪を背負い、償いを果たせるのならば、どうか、魔王様のお側に仕えさせていただけないでしょうか?」

「……え?」

「私たちは魔王様の側で、この命が尽きるまで償いを果たし、同時に魔王様をお護りしたいのです。
どうか…私たちの願い、聞き入れていただけないでしょうか?」

「ケルベロス…」


ケルベロスはどんな罰でも受け入れると言い、その頭を深々と下げた。
そこまでは良かったのだが、突然の願いに俺は言葉を失った。
今、俺に仕えたいって言わなかった?え?言ったよね?
なんで?俺は別にそういうつもりで助けたわけじゃないんだけどなぁ…。

戸惑いながら皆を見てみると、何だかニヤニヤしている。
まるで俺の答えを分かっているような笑顔。期待に応えられる自信はあるけどさ…。
そう思いながら、ケルベロスに語りかけた。


「ケルベロスがいた世界ではどうだったか分からないけどさ。
俺に仕えるってことは、俺が君に名を与えて、従魔契約を結ぶってことなんだ。
従魔契約をすると俺の言うことは絶対になっちゃうし、嫌な思いをするかもしれない。
自由が良かったって思う時だってくるかもしれないよ?それでもいいの?」

「従魔契約…構いません。私たちの世界では、上位の悪魔しか名を持ちません。
名を持つことは主から認められた証であり、自分の存在の証明そのものなのです。
もしお側に置いていただけるのでしたら、ぜひ名を…魔王様に付けていただきたいです。
そして、どうか私たちを番犬としてお側に置いてください。
魔王様の命令ならば、私たちは喜んで従います。」


従魔契約の話をすると、ケルベロスはその巨大な三つの頭を深く垂れ、契約を懇願した。
どこの世界でも「名を与えられる」ということは、とてつもなく大きな意味を持つのだと感じた。
きっと覚悟の上での選択。その気持ちを無下にすることなんて出来るわけがない。
そう思いながら、俺はケルベロスに言った。


「分かったよ、ケルベロス。君を俺の従魔にする。
だけど、条件がある。
もう二度と"自分は役に立たない"とか"認められない存在だ"なんて考えないこと。
俺にとっての従魔契約は、ただの契約じゃない。
俺たちが家族になるための儀式だと思ってる。だから、君たちは今日から家族の一員だ。
これからは、ただ一緒にいてくれれば、それでいい。な?分かった?」

「魔王様…この命尽き果てるまで、魔王様のお側を離れないことを今、ここに誓います。」

「ありがとうな。
…じゃあ、ちょっと待ってくれる?名前、考えるからさ。」


契約をただの作業として俺は絶対にしたくない。
悪魔や魔物たちには理解できない感情かもしれないけど、俺にとってはとても大切なことだ。
この世界で一緒に暮らすこと、それは大切な家族になるってこと。

だから、自分の大切な家族がマイナスな感情に覆われているのは辛すぎる。
もう、この家族の一員になった時点で、全員が必要な存在なんだから。
そう思いながら、ケルベロスに付ける名前を考え始めた―…。
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