魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

文字の大きさ
120 / 125

120話 全てを悔いて、謝罪の言葉を伝えました

しおりを挟む
ケルベロスの名前を考えていた時に一番悩んだこと。
それは、個々に名前をつけてあげるかどうかだった。
総称で呼べば問題はないと思う。
だけど、それぞれ性格があるから、やっぱり3つの頭に名前があった方が分かりやすいのではないかと思った。
そこで俺は、総称は「ケルベロス」らしく、個々の名前は性格に合ったものにしようと考えた。
頭が3つなんて、まるで分身の術みたいだから、日本寄りの名前にするのもいいかもしれない。
そう決めた俺は、イメージでパッと浮かんだ名前をそれぞれに付けることにし、ケルベロスへ声をかけた。


「決めたよー。じゃあ、従魔契約するからちょっと待ってね。」

「承知しました。」

「……我が眷属となりし者よ、この名を与える―…三影(ミカゲ)。
そして、左の君は涙(ルイ)、真ん中の君は律(リツ)、右の子は烈(レツ)。」

「えっ…私たち全員に名を?」

「ああ。呼ぶ時は基本的にミカゲって呼ぶかもしれないけど、皆性格が違うだろう?
だったらそれぞれ名前があった方がいいかなって。嫌だった?」

「と、とんでもございません!」


従魔契約が無事に終わると、三つの頭が同時に深く頭を下げた。
そして、自分たちそれぞれに名前がついたことを、心から喜んでいるように見えた。


「私たち……名前を……私はリツ…ですか…」

「僕…ルイって名前なんだ…!僕っぽい気がする!」

「俺はレツか…何かカッコいいかも?」


自分たちにまで名前が付くとは思っていなかったようで、それはそれは嬉しそうにしていた。
その姿を見て、付けた俺まで頬が緩んでしまう。
今回の名付けは、完全に日本寄りというか、そんな感じだ。
3つの頭から分身の術をイメージして「三影」と付け、さらに性格に合わせて漢字を選んだ。
ルイは泣き虫だから「涙」。
リツは真面目で規律を重んじるタイプだから「律」。
レツは烈火のように感情が爆発しそうだから「烈」。
まぁ、そのまんまっちゃそのまんまなんだけど、俺は結構気に入っていた。


「主、皆の名前カッコいいな!」

「本当?嬉しいなぁ!これはね、俺の国の言葉から取ったんだよ。」


名付けを見ていたクロたちも、ミカゲの名前を気に入ってくれたようだった。
由来を説明すると「ピッタリだね」と笑ってくれて、俺も嬉しくなった。
苦手だった名付けも、少しずつだけど早く決められるようになってきたなぁと実感する。
ひとまずこれでミカゲが暴走することはなくなった。
あとは、ダークエルフたちに色々と報告をしなければならない。
そう思いながらも、まずは朝食の準備だな!
なんてのんきに考えていた―…









「さてと、待ち合わせ場所に帰ろうか。
ミカゲは怖がられるだろうから、小さくなってロウキの背中に乗ってる?」

「そんなっ…ロウキ様の背中に乗るなど…」

「僕、乗りたい!」

「あ?ダメだっつってんだろうが!」

「やかましい!さっさと小さくなって背中に乗っていろ、鬱陶しい!」

「あはは、ロウキもそう言ってるから背中に乗ってな?
念じたら小さくも大きくもなれるみたいだから、やってごらん?」

「は、はいっ…」


ダークエルフとの待ち合わせ場所へ向かう途中、さすがにこのままの大きさで連れて歩くのは怖がらせてしまうと思い、小さくなるように言った。
すると、大きな頭をフルフルと横に振ったのはリツとレツ。
ルイだけは目を輝かせながら「ロウキの背中に乗りたい!」と言い出し、早速ロウキにめっちゃ怒られていて笑ってしまった。

まだほんの少ししか時間は経っていないだけど、ちゃんと一緒に過ごせそうだな。
そう思いながら、ミカゲがロウキの背中に乗ったのを確認して再び歩き始めた。

まだ結構歩くのかなと思っていたけど、広場までの近道があるとミカゲが教えてくれ、あっという間に広場が見えてきた。
ここからが大事な時間。きちんと説明をして、ミカゲにも謝罪させて、どうにか和解の方向へ持っていかなければ。

そう思うと少し緊張してしまう。
こういう時、話し上手な人に本当に憧れるなぁ。
なんて考えている間に到着してしまい、俺たちの帰りを待っていたダークエルフたちが出迎えてくれた。
ずっとここで待っていたのか?真面目すぎるだろう…。


「魔王様、無事にご帰還されて安心いたしました。
それで…あの…どう、でしたか?」

「ああ…皆に訊いてほしいんだけど…ケルベロスは俺の従魔になった。」

「え?」

「従魔?!」

「なんとっ…」

「そう、従魔。その経緯なんだけど…」


開口一番「従魔にした」と伝えると、彼らはこれでもかというほど目を見開いて驚いた。
そんな彼らに、昨日あった出来事を一から話した。
理解は出来ないかもしれない。だけど、黙っているよりはきちんと話しておいた方がいい。
そう思い話すと、予想通り複雑な表情で俯いていた。まぁ、仕方がない。


「魔王様、私たちからも謝罪をさせていただきたいです。」

「ああ、そうだな。こっちにおいで。」

「はい。」


どうするかと思っていると、ロウキの背中に乗っていたミカゲが「謝りたい」と言ったので、背中から降りてもらい俺の側に来てもらった。
その時のダークエルフたちの顔。笑っちゃいけないけど、思わず笑いそうになった。


「え…と?魔王様、こちらの小さな三つ頭の生き物が…ケルベロスでしょうか?」

「我々が見たのはもっとこう…フェンリル様くらいの大きさだったのですが…」

「まさか子がいたのですか?!」


ロウキの背中に乗れるサイズになっていたミカゲ。
それを見た瞬間、彼らは「自分たちが恐怖に怯えていた生き物は、こんなにも小さな存在だったのか」と驚愕していた。


「この子が例のケルベロスだよ。
俺と従魔契約したことで体の大きさは自由に変えられるようになったんだ。
もう怖くもなんともないだろう?」

「魔王様と契約を交わすと大きさを変えられるのですか?!」

「そうだ。さ、ミカゲ。自分の気持ちを話してごらん。」

「はい、魔王様」


驚く彼らに従魔契約について話すと、そんなことが可能なのかと再び目を見開いていた。
今日はさっきから驚いた顔ばかり見ているな。なんて思いながら、ミカゲに話す場を与えた。
上手く話せなくてもいい。大事なのは、ちゃんと自分の気持ちを伝えることだ。


「…皆さま、この度は、私たちが誓いの呪いに囚われ、この森で引き起こした多大なる破壊と、多くの犠牲に対し、心よりお詫び申し上げます。
自たちの弱さゆえに、あなた方を一年もの間恐怖に怯えさせてしまいました。本当に申し訳ございません。」

「俺たちの罪は、いかなる罰をもってしても償い切れるものではないと自覚している…。
本当に申し訳なかった…」

「…僕たちのしたことは、皆さんにとって恐怖以外の何ものでもなかったと思います…
本当にごめんなさい。
許して欲しいとは言いません…。
ただ、僕たちに、これから魔王様のもとで暮らし、御護りすることをお許しください。
必ず護り抜いてみせますから…」


代表してリツが謝罪すると思っていたけど、レツもルイもそれぞれ自分なりに謝罪を述べ、揃って深く頭を下げた。
その姿には、以前の凶暴な面影はなく、過去を悔い、失われた命への懺悔の気持ちで満ちていた。

その謝罪を、ダークエルフの3人は口をはさむことなく黙って聞いていた。
やがて、そのうちの一人が、小さくなったミカゲにそっと手を差し伸べた。


「貴方がしたことは決して許されるものではありません。
しかし、貴方もまた辛く悲しい過去を背負い、その孤独と絶望が狂気へと駆り立てたことも理解できます。
貴方が行った森の生命への破壊、そして奪われた我々や人間の命の重さは、従魔契約をしたからといって帳消しになるものではありません。

ですが、もし本当に許しを得たいと願うのなら、これから先、この世界と、貴方に名を与えて下さった魔王様のために命をかけて償い続けてください。
それを私たち、そして失われた命への謝罪として受け取ります。
その忠誠を…その誓いを決して忘れないでください。」


ダークエルフの彼女は、まるでシスターや聖女のような言葉をミカゲにかけてくれた。
きっと言いたいことや責め立てたいことも沢山あっただろうに。
それでも毅然とした態度でミカゲに接してくれたことを、俺は心から感謝した。

これで彼女たちは安心して暮らしていけるだろう。
対処できないほどの恐怖に怯える日々は終わり、その安堵感が彼女たちの表情から伝わってきた。
まさか、こんな展開になるとは思っていなかったけど…
結果的には皆を救えたことになるのかもしれない。

失われた命を復活させてやれないことが悔やまれるけど…
あの騎士だけでも家に帰せると思うと、俺自身も少し救われる気がしていた―…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティ。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 そう言ってくれた彼らの言葉を信じて、 俺は毎日、必死でついていった。 何もできない“つもり”だった。 それでも、何かの役に立てたらと思い、 夜な夜なダンジョンに潜っては、レベル上げを繰り返す日々。 だけど、「何もしなくていい」と言われていたから、 俺は一番後ろで、ただ荷物を持っていた。 でも実際は、俺の放った“支援魔法”で仲間は強くなり、 俺の“探知魔法”で危険を避けていた。 気づかれないよう、こっそりと。 「役に立たない」と言われるのが怖かったから、 俺なりに、精一杯頑張っていた。 そしてある日、告げられた言葉。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 そうして俺は、静かに追放された。 もう誰にも必要とされなくてもいい。 俺は俺のままで、静かに暮らしていく。そう決めた。 ……と思っていたら、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、 また少し、世界が騒がしくなってきたようです。 ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~

うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」 探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。 探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼! 単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。 そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。 小さな彼女には秘密があった。 彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。 魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。 そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。 たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。 実は彼女は人間ではなく――その正体は。 チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

処理中です...