魔王と噂されていますが、ただ好きなものに囲まれて生活しているだけです。

ソラリアル

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124話 禁術について調べたあと、教会でお祈りをしました

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魔物や魔獣に関する図鑑らしき本を数冊見つけた俺は、先ほど新聞が置いてあった場所へと戻った。
分厚い本をドサッと机に置き、ひとまず席についてクロが戻ってくるのを待ちながら、パラパラとページをめくって読み始めた。
そこには俺の知らない魔物や魔獣がイラスト付きで数多く載っていて、中には「可愛いなぁ」と思える生き物もいて、世界の広さを改めて感じさせられた。


「うちの子たちの説明も色々あるけど…良いこと何にも書いてないな…」


ページをめくっていくと、当然ロウキたちのことも書かれていた。
「世界を終わらせることができる魔獣」「魂を吸い取る恐ろしい存在」など、本当に散々な書かれ方だ。
唯一、ラピスたちスライムについては「薬の原材料になる」「特殊能力を持った個体がいる」と書かれていたけど…。

「いい子だって書き加えてやろうか」と思わずにはいられないほど、嫌な記述ばかりだった。
だけど、この世界での一般的な認識はこれが当たり前なのだろう。
怖くて当然、危険で当然、近づかないのが正解。
分かってはいるけど…俺はどうしても手を伸ばしてしまうんだよなぁ…。
そんなことを一人考えていると、クロが一冊の本を抱えて飛んできた。


「主、これ見てみようぜ。」

「なになに?えーっと…危険な魔術について?
この本に書かれているのは世界に存在する危険な魔術の内容です。
全ての内容は禁忌の書に記され、各国の管理下に置かれている…って。
なにこれ、怖いんだけど!」

「絶対これに何か載ってるって!主とロウキが見たステータスに“獣化”って書いてあったんだろ?
それ、普通じゃないから!」

「…確かにな。ちょっと見てみるか。」


クロが持ってきた本は、目次を読んだだけで背筋が寒くなるような内容だった。
だが、確かにこの中には手がかりがあるかもしれないと思い、読み進めていくと、数多くの“禁術”と呼ばれる魔術が記されていた。
詳しいやり方はもちろん書かれていないけど、「高位の悪魔を呼び出す方法」や「人を呪い殺める方法」など、恐ろしいにもほどがある内容ばかりだった。


「あ、主これ見て!」

「ん?どれ?」

「ここ!“自身の命と引き換えに行う禁忌術”ってやつ!」

「…うわ…」


様々な魔術を見ていく中で、クロが指さしたページに目を止めた。
そこに書かれていた内容に、思わず声を上げてしまった。

クロが見つけた禁術の内容はこうだった。
対象を獣化させると同時に、異空間や他国など別の場所へ転移させることができる魔術。
成功率は100%。その理由は、術者自身の命と引き換えに発動する魔術だからだという。
そして、獣化させられた者は人間の言葉を失い、誰にも気づかれることなく一生を終えることになる。
数ある禁術の中でも成功率100%というのは異常だ。
つまり、あの巨大魚は誰かの命と引き換えに獣化させられた存在である可能性が極めて高い。


「主、絶対これだよな?」

「俺もそう思う。でも…解呪方法って書いてないんだな。」

「禁忌の魔術だからなー。どの魔術も基本的には“やりっぱなし”なんじゃないの?」

「あー…確かにそうだな。でもまずいよなぁ。あの巨大魚、絶対に人間じゃない?」

「俺もそう思う!マズイなぁー…」


湖にいる巨大魚が、元は人間で呪いをかけられた存在。その解釈で俺たちは一致した。
だけど、それを解呪する方法が見つからず、頭を抱えるしかなかった。
このままでは巨大魚は一生その姿のまま。
そんな状態で俺の領地の湖に泳がせておくのは、気持ち悪いし、何より申し訳ない。
だけど、解決策は見当たらない。どうすればいいのか…。
そう思い悩んでいるとエマが静かに一つ、アドバイスをくれた。


【エトワール教会でお祈りをしてみてはいかがでしょうか。
覚えていますか?女神アイリスの存在を。教会で祈れば会えると教えられませんでしたか?】

「あ!本当だ。そんなこと言われていたな。ちょっと行ってみようか。
クロは浄化されないように席で待っててくれよな!」

「あはは、相変わらず心配性だなぁ主は!分かったよ!」


エマにアドバイスをもらった俺たちは、本を元の棚に戻し、さっそくエトワール教会へと向かった。
そういえば、この場所に来てから一度も女神アイリスに挨拶していなかったな…。
さすがに怒っているかもしれない。
そんな不安を抱きながら教会に入ると、時間帯のせいか誰もいなくて、とても静かな空気が漂っていた。
俺はダニエル神父に「個人的に祈りたい」と伝えると、小礼拝堂を使うよう勧められ、すぐに案内してもらった。


「ここが小礼拝堂か。初めて見た…
えーっと…?この像、何だか女神アイリスに似てる気がするけど…
ここでお祈りすればいいのかな?」


中に入ると、そこは本当に祈りのためだけに設けられた小部屋で、目の前には女神の像が静かに置かれていた。
その像の顔立ちは、最初に会った女神アイリスにどこか似ている気がして、胸が少しざわついた。
とりあえず俺は両手を組み、目を閉じて祈りを捧げた。


「久しぶりですね、ヨシヒロ。」

「…あ、女神様!お、お久しぶりです…」


祈りを捧げた直後、頭上から女性の声が響き、目を開けるとそこは死後に最初に連れてこられた白い空間だった。
顔を上げると、女神アイリスが優しく微笑んでいた。


「私の存在、忘れられてしまったのかと思いましたよ?」

「す、すみません…何だかタイミングを逃したというか…忘れてました。」

「ふふ、正直ですね?それで、今日はどうされたのですか?
私に何か訊きたいことがあったのでしょう?」

「実は…」


女神アイリスは少しからかうように笑い、首を傾げて俺を見つめた。
俺は今起きていることを伝えると、彼女は深くため息をつき、静かに言った。


「ヨシヒロが思っているよりも頻繁に起こるのです。術者の死を犠牲にして呪いをかけるということが。
そして、獣化の呪いは命を代償としたがゆえに、この世の通常の治療魔法では解くことができません。
それが禁忌の魔術なのです。」

「やっぱり…そうなんですね…」


解呪方法を教えてもらえるかと期待していたが、世の中そんなに甘くはなかった。
命を代償にかけられた禁術は解けない。その事実に、胸が重く沈んだ。
どうしてあの人は獣化させられたのだろう。
よほど大きな過ちを犯したのか、それとも邪な感情に利用されたのか…。
考え込む俺に、女神アイリスは続けた。


「私がこの世界にあなたを転生させたのは、命を救ってほしいからだと伝えましたね。
救うことを諦められた命、その命を救ってほしい。それが私の願いです。」

「そうは言っても、相手は解呪不可能な禁術をかけられた人ですよ…?
それに俺は、その人を救うことで何かトラブルに巻き込まれるんじゃないかって思うと、正直怖いんです。
今までは魔物や魔獣で、たまたま従魔たちが良い心を持っていたから上手くいった。
でも人間相手ですよね…絶対にヤバい何かが隠されている。
そこに首を突っ込んで今の安寧が脅かされるのは…嫌というのが本音です。最低なのは分かってますけど…」

「…そうでしょうね。ですが、私はあなたならきっとこの世の常識を壊してくれる。
そう信じて、この世界に送り出したのです。」

「…そんなふうに思っていただけるのは嬉しいけど…」


女神アイリスは、俺をこの世界に送り出した理由を改めて語った。
「あなたなら常識を壊せる」と信じて送り出した。
その言葉に、嬉しさと迷惑さが入り混じり、心は混乱した。

最初に言われたのは「動物たちに囲まれた生活」だったはずなのに、気づけば数々のトラブルに巻き込まれる日々。
嫌ではない。結果的に皆を救えてきたから。
だけど人間相手となれば、巨大魚を助けただけで話が終わるはずがない。
そう思うと、自分のキャパを超えていて、良い方向に進む気がしなかった。


「あなたがこの世界でのんびりした生活を望んでいることは分かっています。
ですが、広輔…いえ、国王アーロンとあなたには、命を救う力が備わっている。
あなた方を巻き込んでしまっていることは、多少は申し訳なく思っていますが…」

「多少かよ!」

「ふふっ。この世界には救える命、救わなければならない命が沢山あります。
ですが、我々天界の者には手が出せないのです。
だからこそ転生者を選び出している。それが事実です。」

「いやいや…巻き込むなよー…」


俺が望む生活については理解していると言う彼女。
だが、アーロンさんや俺たちをこの世界に送り出したのは、世界を少しでも良くするため。
結局、天界の者が手を出せない領域を、転生者に託しているのだと分かり、複雑な気持ちになった。
確かに、この世界に送り出してもらったおかげで第二の人生を歩めている。
クロやロウキたちと出会えたことは最高の時間だ。

だけど、アーロンさんなんて国を任されている。
責任重大すぎるし、下手をすれば滅びに繋がる可能性だってある。
それなのに平気で送り出せるなんて…神様や女神様って、やっぱり無責任だよなぁ…。
そう思わずにはいられなかった―…。
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