蜥蜴と狒々は宇宙を舞う

中富虹輔

文字の大きさ
11 / 11
エピローグ

エピローグ

しおりを挟む
 半年間にわたる宇宙狒々の襲来を、今回も人類は退け、生き残ることができた。
 そして人々に平穏な日常生活が戻ってきたある日。
 オストーコロニーの宇宙港。シャープエッジ宇宙サービスの専有エリアの一角で。
「それじゃあね、タニー! 元気でね! ノーマコロニーに戻ったら、連絡ちょうだいね!」
 目に涙を浮かべてタニーの手を取り、ぶんぶんと振り回しているのはメイベルだった。
 そんなメイベルに、タニーは苦笑いを浮かべて「はい、わかりました」とうなずく。メイペルの背後、少し離れたところでは、一通り挨拶をすませたシャープエッジ宇宙サービスの上司や同僚たちがタニーと同じような苦笑いを浮かべていた。
 そして。
 タニーの背後には、乗降口が開いた宇宙船が一機、静かにたたずんでいた。
 宇宙船の機首には、鎧兜に身を包み、剣と盾を構えたトカゲの戦士が描かれている。何か月にもわたる戦いをくぐり抜けてきた機体には、激戦の痕跡である傷がそこここに残っていたが、機首に描かれたトカゲの戦士の絵だけは、今日に合わせて新たに描き直されていた。
 そして機体後部に目を向ければ、これもやはり傷だらけのエンジンモジュールが接続されている。モジュールには再建なったカグツチエンジンが搭載されており、今日のこの飛行が、カグツチのひとまずの飛び納めとなる予定になっていた。
「メイベル、ほどほどにしとけよ。タニーが困ってるじゃねえか」
 リザードマンから降りてきたラウルが、あきれ顔で声をかける。タニーとメイペル、二人の目が同時にラウルの方へ向いた。
「だってえ……」
 駄々っ子のような声を出したメイベルに、
「べつに今生の別れってわけでもねえんだ。宇宙狒々も当分は襲ってこねえし、会おうと思えばいつだって会えるだろ」
 ため息まじりにラウルはいった。
「発進準備は完了したぜ。忘れ物はねえな?」
「はい、大丈夫です」
 うなずいて、タニーはラウルの愛機リザードマンに目を向けた。その視線に気づいたか、ラウルもまた愛機へと顔を向ける。
「長かったような短かったような、って感じだな」
「そうですね」
「このあとカグツチが使えなくなるのはちっと不便だけどな」
 冗談めかしたラウルの言葉に、小さく笑う。
「まあでも、これまで助かったよ。ありがとな」
「いえ、大したことはできませんでしたし」
「謙遜しなくていいのよ。あなたのおかげで私たちはずいぶん助かったし。私からもお礼をいわせてちょうだい」
 タニーの言葉に反応しようとしたラウルをさえぎって、メイベルが微笑みかけた。
「はい」
 メイベルにうなずきを返し。
「そういえば、ちらっと聞いたけどコースを変えるんだって?」
「はい。両親の専門だった宇宙考古学を学んでみようと思っています。この星系で過去に起きたことを調べることで、別の方向から宇宙狒々に対処する方法が見つかるんじゃないかと思って」
「頑張ってね。あなたならできるわ」
「はい」とうなずくタニーに、
「調査活動に宇宙船が必要になったら、そのときはぜひ我が社にご用命を」
 ラウルはおどけた様子で口を開いた。
「はい。現地調査が必要になったら、ぜひ」
「そのときは、ラウルの給料を半分にして、その分うんとディスカウントしてあげるからね」
「おれの給料かよ! そこは自分の給料だろうが」
 ラウルの抗議を無視して、メイベルがタニーを見つめる。
「じゃ、元気でね。なにか困ったことがあれば、いつでも連絡をちょうだい」
「はい、ありがとうございます。メイペルさんもお元気で。色々とありがとうございました」
「ええ」
 とメイベルはうなずいて。
「ずっとこうしていても名残惜しくなるばかりだし。そろそろおしまいにするわね。じゃ、元気でね」
 そういってきびすを返し、後ろにいた同僚たちの列にまざった。
「よし、じゃあそろそろ行くか」
 ラウルの言葉にタニーはうなずいた。
「はい」
 先を歩くラウルの背中を見ながら。
 タニーは一歩を踏み出した。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...