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「揺れる妃の心 〜闇に差し伸べられた手〜」
しおりを挟む王宮の奥、香の薫る一室。
アレクサンドラ妃は鏡の前で髪を梳いていたが、その瞳は曇っていた。
いつまで経っても振り向かないギルヴァント。彼の隣には、いつも気安く笑い合う異邦の娘ヨウコ。
その光景を思い出すだけで、胸がひどく締めつけられる。
そんなとき、扉の外から静かな声がした。
「妃殿下、少々お時間をいただけますか」
現れたのは、第2皇子ガラントだった。
深紅のマントを翻し、彼は礼儀正しく頭を下げる。
「……ガラント殿下。こんな時間に、私の部屋へ?」
「大事なお話がございます。どうか、私の言葉をお聞きください」
アレクサンドラは一瞬ためらったが、その瞳に宿る真剣さに押され、頷いた。
ガラントは低い声で続ける。
「兄上――ギルヴァント様は、妃殿下を見ていない。あの方の視線は、すでに別の者に向けられている」
その言葉に、アレクサンドラの指が止まる。胸の奥を突かれるようだった。
「……っ、そんなこと……」
否定しようとしたが、声が震える。真実は、彼女自身がいちばん知っていた。
ガラントは一歩近づき、囁く。
「妃殿下。私と手を組みませんか。――将来、私が帝位に就いた暁には、あなたを皇后にお迎えいたします」
「……皇后……?」
夢のような言葉に、心が揺れる。だが同時に、罪悪感が胸を刺す。
「でも……私は……」
ガラントは穏やかに微笑む。
「いつまでも報われぬ想いに涙するより、共に未来を掴みませんか」
アレクサンドラの頬を、一筋の涙が伝った。
振り向かない男を想い続けてどれほど傷ついたことか。
そして――目の前の男は、その傷に巧みに手を差し伸べてくる。
「……私に……居場所をくださるのですか」
「ええ。あなたは決して、独りではない」
その瞬間、彼女の心の天秤は、わずかに傾いた。
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