異星人が見た異世界転生記(我輩はゴアである・改)

雲黒斎草菜

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第三巻・ワンダーランド オオサカ

 北野家のいちばん長い日・眠らない街、大阪(前編)

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「どうする? キヨ子、怒って帰っちゃったよ」とアキラが言うが、
「怒ったのじゃないわ。クララさんに言い返す言葉を失ったのよ」
「天才はもろいと言うからな」
「あら。クララさんはキヨ子さんを認めてるの?」
「当然であろう。NANAを言い負かす幼児などいるか。あの子は天才だ。それは認めておる」

「キャザーンの女王に認められたんや。たいしたもんやで、キヨ子はん」

「さてどうすればいい? 妙案があれば手伝うぞ」
「まず一両日中に片付けないと表ざたになるであろうな。そうなると役人が出てきてややこしいことになる」
 あれだけの美少女が夜の街をうろつけば、目立つものである。そうなると必ずそのような機関が動き出す。

 その辺りはNAOMIさんも重々承知しているようで、不安げな面立ちである。
「そうねえ。まずどこに行ったか探さなきゃね」
「そりゃそうだが。この家ににはまともなヤツがいないぞ。これでは人員不足だ」

 人前に出ても差し障りの無いのはアキラとクララだけであるが、クララは少し不安が残る。容姿は完璧な地球人ではあるが、中身が正真正銘の宇宙人の考え方をしておるだけにそのまま手放しで町へ出してもいいものかどうか。
 後は我輩とこいつか……。
 到底戦力にはなりそうもない。

「なにゆうてケツかんねん。ワテはアグレッシブにアクティブや。このバギーで走り回って探しまんながな。ま、そこのスマホのヤツは他力本願や。アキラとペアーが精一杯やろ」
「お前こそ何を言う。我輩だって町中に張り巡らされた送電線を使えば大概の場所に瞬間移動できるぞ」

「仕方ない。手の空いているKTNの連中を町に散らそう」
 キャザーンの頭領らしいことを言うが、
「それはやめておいたほうがよろしおまっせ。逆にファンが集まって大騒動になるんがオチや」
「そうか。そうだな……」

「あたしにいい考えがあるの」
 そう言うとNAOMIさんはキヨ子どのが出しっぱなしにして帰った足場に登り、インターフォン横の操作パネルを器用に前足で叩き出した。
「この操作パネルはこの家の制御だけじゃないのよ。あたしとリンクできるの」

「へえ。ほーでっか。なるほどなー」

 ギアは理解していない。いや、する気もないのだろう。完璧に上の空だ。
 我輩も今の説明ではイマイチ意味不明である。

 NAOMIさんは、ぱかりと開(ひら)けた接続コンソールに尻尾を突っ込むと、
「世界中の町に張り巡らされた監視カメラの映像をここに集めることができるわ」
 
 NAOMIさんの尻尾はインタフェースポッドだとは聞いていた。あの尻尾であらゆるネットワークにモバイル接続できるらしい。なので政府の危機管理室のスーパーコンピューターであろうと、NASAの管制室で飛び交う最新の宇宙情報であろうと、世界中のデータ収集が可能なのだ。1秒間に4000万モバイルデータチャンネルに同時接続は伊達ではない。

 食堂にある48インチのワイドテレビに超高速で動画が送られてきた。目まぐるしい速さで画面が切り変わるが、常人の目では何が映っているか皆目わかない切れ切れの映像なのだ。
「あ。富士山。あ、ピラミッド、エッフェル塔にビッグベンだ!」
 まるで世界の街を撮った写真集のページをパラパラと捲るようだ。
「失礼ね。写真集じゃないわ。リアルタイムの映像よ。現時点の現地の監視カメラが映す画像なの。だから夜もあれば昼のところもあるでしょ」

 まるで世界紀行であるが……。
「ヨーロッパにはいないわね」
 と漏らした途端、クララが吼えた。

「どこを探しておる。グローバル過ぎて時間の無駄だ。メルデュウスは空間ジャンパーではない。足を使って移動するごく当たり前の生き物だ。この町内を探せ」
 ごく当たり前の生き物なら分体などしないと言ってやりたい。

 にしても宇宙人のほうが的確な意見を言うところがすごいな。
「そっか。そうだわね」
 NAOMIさん。すごいんだか、間が抜けてんだか、よく解からないぞ。

「どこから行こうか? 喫茶店? それともコンビニの監視カメラ?」

「お風呂屋さん!」
 本気か冗談かよく分らないが、元気に挙手をしてアキラが言うもんだから。
「え? 最近のお風呂屋さんは女風呂に監視カメラが付いてまんの?」
「え? ついてんの。すごい。それ出してよマイボ」
「ホンマか―! 地球ってごっついエエとこなんや。ワテも見たい見たい。映しておくれーな」
「すごいすごいーっ!」
 ギアもアキラも互いに興奮しており、自分たちで広げた話題にパニックになっておるのだ。

「やったぁー。こんな簡単に見られるんなら早く頼めばよかった」
「ほんまやー。ワテなんか、これまでにどんだけ危ない目に遭(お)うてきたことか」
 二人して、てんやわんやの大騒ぎだ。

「お前ら一旦落ち着け! そんなものがあるわけなかろう!」
 クララに一喝されてシャットアウト。

「あんたたちバカ? 女風呂に監視カメラがあったら犯罪でしょ。そういうのは監視ではなくて盗撮っていうのよ。見れるわけ無いじゃない」

「なぁ――――んだ」
「しょ――――もな」
 失速の勢いも半端なかった。


 クララはバカをみる目で――実際バカであるが、
「なぜオマエらはそんなにも女風呂にこだわる? あんなとこ、女の裸しかないだろ?」と首を捻った。

「当たり前でんがな。誰が好き好んで男のハダカなんか見るかいな。ベベンジョカンジョや」
 男性諸君。ギアにとって、きみらの裸はサルモネラ菌以下だそうだ。気の毒にな。

「そっかあ。キャザーンは女の子のだけの軍隊だから……男はいないんだ……うあぁ。天国だぁ――、あ! 鼻血でた――」
 こっちは真正のバカなのだ。



 映像が町内に切り替わり。商店街やコンビニ、カラオケ店などの店内の様子が映し出されていたが、ふと思い出したかのように、ギアが尋ねる。

「そらそうと。NAOMIはん。メルデュウスの顔を知ってまんの?」
「ほんとだ。知らないワ。あたしって抜けてるわね」
 前脚を折って、自分の頭を肉球でポコンと叩いて舌を出す。犬ではあり得ない振る舞いだが、だいたいNAOMIさんに肉球が果たして必要なのであろうか?

「さ。情報提供しなさい。あんたたち知ってるんでしょ? 顔認証するわ」
 その肉球を上にして手を出すNAOMIさん。
 なるほど。裏と表がよく分かるように付いておるのだ。さすがはヘンタイ、いや。天才北野博士のこだわりは天下一だな。

「情報は我輩が住んでおるスマホに入っておるが、どうやって渡せばいいのだ?」
「メニュー、設定から開発者向けオプションに入って、USBデバッガにチェック入れたら、あとはあたしが抜き取るから。ほら出しなさい」

「むぉう。さすがに詳しい……」
 ところが。
「開発者オプションというのが見当たらないのだが?」
「そういうときは、端末情報のビルド番号と書かれた部分を7回連続タップすればいいのよ」
「おお、ほんとだ。項目が増えておる。すごいぞ、NAOMIさん」

「デベロッパーモードなんて素人さんには関係ないからね。さっ、貸して」



 1分ほどして――。

「なるほどね……」
 我輩が入るスマホのUSBポートから尻尾の先を抜いたNAOMIさん。
「……クララさんが黒と言ったのがよく分かるわ。で、こっちの子が白なのね」
「その先っぽ、どんな構造してまんの?」
 ギアは尻尾の先を最先端の医療器具を見る目で眺め、NAOMIさんは質問に答えず、ソファーの上で横たわる少女を見つめていた。

 本人はネコのつもりだろうが、容姿はスタイルのいい少女である。ワンピースの寝姿とは何だか色っぽい。
 それにしてもおとなしいな。

「顔認証したから。すぐに見つかるわよ」
 カメラの切り替わる速度がぐーんとアップした。もはや何が映っているのかも分からない。引き千切れた縞模様だ。

 それが忽然と止まる。
「いたわよ」
 NAOMIさんが停止させた画像はどこかの商店街にあるアーケード。その柱から見下ろした映像で、お肉屋さんの店先にぼんやりと立つ少女だ。見覚えのあるキャップ帽を被っていた。

 ここはどこかと訊くと、
「天神ノ橋筋商店街の真ん中あたりね」とNAOMIさんは答え、アキラが指差して喚く。
「間違いないよ。あの子だ! 小麦色の肌。キャップ帽に栗色の髪の毛とミニスカート……か。残念、ハダカじゃないや」
 そこで無念がるとは、恥ずいぞ。アキラ。

「あの衣装はアヴィリル・ドルベッティの私物だ」
 と宣言するクララに視線を振ってから、映像に戻したNAOMIさんが口をぱっかりと開(ひら)いた。
「あ。もういない」
 店先の少女は立ち去ったのか、通路には大勢の酔っ払いが通過中だった。

「人が来たから逃げたんやろけど。すばやい動きでんな」
「どこ行ったんだろ?」
 映像を斜めから見てもその先は見えんぞ、アキラ。

「ちょっと待って。あ。いた! あ、消えた」
 電柱と立て看板が映った画像に瞬間人影が動いたが、すぐにカメラの視界から消えた。

「メチャクチャ俊敏であるな」
「まぁ。ネコだから。そうだろうな」
 当たり前のような、非常識のようなことを言うクララ。

「だめ、動きが早過ぎてカメラの分析がおっつかないのよ」
 NAOMIさんは一旦、コンソールのインタフェースポートから尻尾を抜き出し、
「いっけない。キヨ子さんのスピリチュアルインターフェース切るの忘れていたわ。だから処理が重たかったのよ」
 と言うと、またもや赤い舌を出した。

 ということは、スーパーキヨ子のまま帰宅したのか……パパさんも気の毒なのである。
 超居丈高キヨ子と夕餉(ゆうげ)を迎える緑川家のパパさんの気持ちが痛いほど分かる。愛娘と向き合って楽しいひと時を過ごしたく帰宅したのに、高慢ちきな女性科学者の小難しい講義を聞きながら晩酌を過ごす、なんと堅苦しい時間であったであろうな。今頃ノーマルキヨ子に戻って安堵の息を吐いていることであろう。

「さぁ。負担が軽くなったからさらなる高速化が可能よ」
 その言葉を裏付けるように、映像が高速に切り替わるのは、NAOMIさんが張り切りだしたからで、
「めっけぇ~」声も高らかに片足を上げた。人間なら片手を上げたとなるところだな。

「何だか公園みたいなところよ」

 街灯に照らし出されたベンチに座る小麦色の少女。ミニスカートで膝を抱えて乗っかる。ちょっとドキリとする仕草はこのあいだの晩に見たのと同じであった。

「こうえん、みたい……にゃあ………」
 おとなしく寝ていたラビラスが起き上がった。
「そうだ。オマエの相棒だ。すぐに連れ戻していやるからな」
 銀の頭髪をなびかせてクララにすり寄る姿は人間なのだが、仕草はネコそのもの。
 柔和な面持ちでその子の頭を撫でていたクララが、険しい視線だけをディスプレイに転じてNAOMIさんに尋ねる。

「ここはどこの公園だ? やけに広いな」

「大阪之城公園だわ。こんなとこで、あっ! もう消えた」
「ちょこまかと落ち着かん子ぉやで」

 しばらくだだっ広い園内の映像が差し替わっていたが、すでにどこにもその姿は無い。
 またもや周辺のコンビニ、駐車場、あるいは信号機に取りつけられた交通管制用のカメラの映像が流れる。にしても、そういう系の画像を横取りしているが、法律的にいかがなものかと思うのだが。

「悪用してるんちゃうし。エエんちゃうの?」
 だろうか……。

 当の本人はケロッとしたもんで、
「ほーら見つけた。鶴の端商店街の中よ」
 NAOMIさんが吠えてギアが首を捻る。
「タクシーで移動してまんのか? 二駅(ふたえき)を数分で移動してまっせ」
「ギアって、大阪の町が詳しいんだね」
 と訊くのはアキラ。
「そんなことおまへんけどな。なんせ。ワテが育ったのは船場やさかいに……」

「お前は、番頭はんと丁稚ドンか!」
 思わず突っ込んでしまった我輩をギアは横目で睨んだ。

「おまはん。ほんま古いでんな」
「いや。昔の映像をYチューブで見まくっておるからな。それより、それを知っておるお前のほうこそである」

「せやから。ワテは船場育ちや、っちゅうてまっしゃろ」

「だから、何だと言うのだ」

「番頭はんと丁稚ドンは船場を舞台にしたコメディドラマや。知ってて当然やろ」
「あ……左様(さい)ですか」
  
  
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