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第四巻・反乱VR
超豪華な回転寿司である
しおりを挟む夕暮れ間近のグルグル寿司である。宇宙人がここに入るのは初めてのことであろう。しかし日本人は面白いことを考えたな。食べ物をベルトコンベヤーで回すとは……まるでオートメーション化したブロイラーチキンの鶏舎みたいだな。
や。失敬、失敬。これは宇宙人から見た感想なので、炎上させないでくれたまえ。
でもって――。
我々はお店のおネエさんに案内されて、レーンを正面にしたカウンター席に座らされた。
「これが回転寿司でっか……へえー。ほー」
ギアはいたく感心しており、我輩も少々興奮気味で心ここにあらずである。
まだ時間が早いのか、お寿司はそれほど回っておらず、もう見たくもないプリンと、何だかよく解らない食べ物が小皿に盛られて店内を周回しておった。
アキラは出されたおしぼりで顔を拭き、それから手を拭くというオッサン風の作法を済ますとレーンを覗き込み。
「食べたことのない豪華なのを食べてみたいな」
と口にした。
その瞬間、我輩は見た。厨房の奥で閃光がいくつも放たれたのだ。
そしてギアと二人してほくそ笑む。
「来るデ、ゴア。世紀の一瞬や」
「おう。トリュフの味噌炒めでも、ごはんの代わりにキャビアで握ったオニギリ、具は明太子で。はたまたフォアグラの水炊きでも何でも来いだ」
寸刻もして。
「うおぉ。ごっついモンが出てきよったデぇ!」
とギアが唸るのも無理はない。レーンの流れにまかせて厨房から出て来た大型のクロッシュ。まるで豪華なフランス料理に使用されるような銀のドームを被せられた食器が、いくつも並んで出てきた。それと比べると先に出ていた小皿なんかネコの餌であるな。
「うほほほほ。まっすぐこっちに来(き)よるがな」
当たり前である。先に誰かが取らない限り、レーンは一本。停滞することもなく我々が座るカウンターに向かってまっしぐら。進撃の巨皿だった。
「ほれ来たデ。まずはアキラな」
ギアはご機嫌な様子で、立ち上がると両手でレーンから持ち上げてアキラの前に。続いて我輩。そして自分の前に取り下ろした。
「ごっついがな。豪華を通り越して、豪奢や。中身は何やろな?」
「マツタケの姿焼きかも知れぬぞ」
「マツタケってなんや?」
「タケノコの一種だろ? タケって言うぐらいだから……」
もうこっちは大騒ぎである。
そしてアキラも、
「すごいねぇ。これ高いんじゃないの? この入れ物いくらだろ?」
「え? ここって入れ物を買うのか?」
回転寿司など初めてであるからして、店のシステムを理解できないのは仕方が無い。
「違うよ。盛られている入れ物でその食材の値段が決まってんだよ」
「ほうかぁ。銀皿とクロッシュでなんぼや?」
「まてまて、壁に値段表とサンプルの写真がある。このセットだと、えーっと……120円」
「「120円!!」」
思わずギアと立ち上がってしまった。
「嫌な予感がする……」
「ワテもや……」
アキラはけろりんとして、
「どうしたの? 食べないの?」
クロッシュの摘まみを持ち上げた。
中から出てきたのは……プリンではなく。
「あは。シュークリームだー。やったぁ。これ食べたかったんだよ」
おーい。シュークリームを一つ、こんなゴージャスな入れ物に入れて出すな。
我輩はここへ支配人を呼んで懇懇と説教を垂れてやりたい気分である。
ギアはジト目でアキラを見つめ。
「これがオマはんが思ってる豪華な料理かいな?」
「え? 豪華な入れ物に入ってんじゃん」
「入れ物なんかどーでもエエねん。中身や。中身を豪華にせんかいな」
「なに怒ってんのさ?」
「ここはアキラの夢の中なんや。もっと食ったことの無い物を想像せえや」
「なんだよ……シュークリーム食べないのなら僕がもらうよ?」
「いーや。食べる。腹減っとんや」
なんだか、アキラもキヨ子も似たようなものだな。
「まあ。いいではないか。アキラも反省しておる」
「うん。今度こそ食べたことの無い、すっごいのが欲しいね」
「そうそう。そういうのを想像すんねん」
同時に厨房で閃光が。
そして再び銀色のバケツみたいな食器がレーンを回ってくる。
照明の光を煌びやかに反射する銀のバケツ風の食器。あまりに高級過ぎて何という名前の食器かもわからない入れ物の周りに、これまた豪奢な銀のカトラリー類が。スプーンからフォーク、ナイフまでそろったデラックス版。
「来たぁぁぁぁ――っ!」
ギアは立ち上がり、我輩も首を伸ばす。
「なにが入っているのか分からぬが、すごい料理には違いはない。よかったぁ。電磁生命生活数百年。ついに皇帝料理をいただくのである」
「お、重いで。こりゃものごっつい料理なんやデ」
ギアはアキラの前に恭しくそれを置いた。
「ささ。陛下。ご注文の、これまでに食べたこともない、料理が届きましたデ」
「へぇ。うれしいな……ねえ、ギア。フタを開けてよ」
地球製の食器のことはよく解らないが、簡単に説明すると小さめのバケツみたいな形をしており、ルビーかサファイアの摘みが付いたフタがしてあった。
タンドリーチキンでもずらっと並んでおるのかもな。
で、タンドリーチキンとは何か?
言っといてなんだが。我輩の知識はネット内を拾い読みしたものがほとんどで、聞いたり見たりしていても、内容はさっぱりのことが多いのだ。
「すごいな。これ何の宝石やろ? でっかいで10カラットはあるんちゃうか?」
カラットがどんなものか知らぬが、それぐらい高級なのだ。
「ほな拝ましてもらいまっせ!」
ギアがさっと摘み上げ、ついにその中身が。
ガンカラカランガン……カラカラカラ。
ギアの手からフタが落ちた音である。
店内に響く音に驚いて、飛んできたお店の人がフタを拾い上げ、料理の名前を告げた。
「ご注文のバケツカスタードクリームです」
「うあぁーーーい。スゴイすごい、すごい。僕の大好物カスタードクリームのバケツサイズだぁ」
そして従業員が続ける。
「あ、お客様。バケツプリンと、バケツチョコでございます」
レーンを続けて流れてきた二つのバケツをテーブルに下ろした。
「ぷ、プリンは見るのもいやや……」
「バケツサイズのチョコはチョコではない。あれは小さいから口解けが心地よいのではないのか? 踏み台にでも使用できるサイズのチョコはある意味怖いぞ」
「すっごーい。こんなの見たことないよー」
アキラは感嘆の声を上げ、ギアは椅子の上でひっくり返る。
「オマはん、どんな感性しとんねん」
「アキラをお寿司屋さんに連れてきたのが失敗だ。コイツには高級寿司のイメージが作れないのだ」
「豪華な食事イコールが、バケツプリンでっか? でかければ高級……うーむ。安易的なテレビ番組を見て育っとるんやろ」
で――。
お寿司屋さんの外である。
「寿司が食えなかったぞ」
「ほんまや。シュークリーム一個やで」
「支払いはシュークリーム二個で240円で済んだが……」
「アキラの分の請求が来んかったのは幸いや」
「美味しかったね。また来ようよ。こんな回転寿司は見たこともないや」
そりゃぁ無いだろう。あんたの頭から生まれたのだからな。
歩道に立つ三人組。アキラは半パンとアロハ。一人はトラ縞ハッピとステテコ。そして我輩は相も変わらず真っ裸(ぱ)に白衣である。
辺りは黄昏。西の空がオレンジ色に染まっておった。
「何だか口の周りが甘くて気持ちが悪いぞ」
「ほんまや。朝からスイーツ三昧(ざんまい)やで。あー気色ワル」
「どうだ、ギア。こちらから高級店を名指しにすれば奴もそれなりに思いつくのではないか?」
「せやな。試してみよか」
ギアは一歩先でスキップを踏みつつ歩道の石畳を歩んでいるアキラへ尋ねた。
「でやアキラ。これから焼肉いかへんか?」
なるほど。高校生でも焼肉ぐらいは、想像できるだろう。
「そこへ行って高級和牛を頼むといいのだ、アキラ」
「え、ほんと? あー。うれしいけどさっきのカスタードクリームでおなか一杯になっちゃった」
そりゃぁ、バケツサイズだ。よく食えたもんだ。
「それに、僕、もう眠いよ」
「「はぁぁぁ?」」
我輩たちは顎が外れそうなほどに大口を開けてアキラを見た。
「ほんまにコイツは雨降りの太鼓やで……」
「ドン鳴らん。どうしようもない奴な」
いちいち説明がめんどくさいな。
「アキラ、オマエは公園の滑り台の中で昼寝をしてただろ?」
「でももう寝る時間だし」
「って。まだ午後8時になっておらぬぞ」
「だっていつもなら8時過ぎに寝るんだよ」
「オマはんは、おジイちゃんかっ。若者感皆無やがな。ほんで何時に起きとるねん」
「8時だよ」
「「あぁぁぁ?」」
我輩はギアとそろって頭を抱え込んだ。
「若い者が毎日12時間も寝るって……」
「コイツの脳ミソが腐るんも分かるワ。一日の大半を使わんと過ごすからや」
とにかくだ。ここでうだうだ言ってても仕方がない。
「ほなしゃあない。今日は辛抱しよ。その代り明日は朝から焼肉や」
「うあほーい。うれしいなー。朝ごはんでステーキを食べれんの?」
「はいなー。これから毎朝がステーキや。昼はフランス料理で、夜はイタリアンかな」
「早死にするぞ」
「じゃあさ。帰り道にちょっと本屋さんへ寄って行こうよ」
「ほんまは飯屋がええねんけど……」
と言い出したギアの肩を引く。
「相手は皇帝さまだぞ。逆らわないほうがいい。『見たこともない物』とか叫んで、変な動物を焼いた肉でも出て来たらたまらんぞ」
「了解したデ」
素直にうなずき、ギアはアキラに訊く。
「本屋って駅まで戻らなあかんデ」
「家の近所ににあるブックオンだよ」
北野家のほど近いところに一軒ポツンとあるブックオン。そういえばよくアキラと塚本氏が出入りしておるのだ。
ギアはハッピの袖を振り上げて、片手を空に突き出してジャンプ。
「よっしゃーっ。ブックオンに向かって、レッツガウ!」
「おいおい。人の真似はいかんぞ」
立木さん、すまないのだ。我輩はあなたの元気のいいナレーションが大好きであるぞ。
「ここが古本屋さんなのか」
「オマはん、言い方がいちいち古臭いな」
「いいではないか。一般的な名称で呼ぶほうが色々と安心なのだ」
関係各所に気を遣わなくていいからな。
「しかし……なーんも食うモン売っとらんな、実際」
「よほど腹がへっているのだな?」
「せや。腹と背中がくっつくってこういう意味なんやな。初めて知ったワ」
「明日まで我慢すればステーキか焼肉であるぞ」
「ジュルジュル。あかん、よだれが出て止まらへん」
「よだれはいいのだが、アキラはどこへ行った?」
「あそこや。DVDがぎょうさん並んどるコーナーにおるワ」
店内は比較的すいており、ほとんどのお客さんは小説棚の前で列を成しておるだけで、DVDコーナーは誰もおらず、アキラかぽつんと立ってDVDのレーベルを眺めておった。
「なるほど。中古のDVDやCDをこうやってリーズナブルな値段にして販売しておるのだな」
「放(ほ)るもんは無いっちゅうわけや。あー。素晴らしい世界や。こういう店は大阪人の鑑にせなアカンで実際」
大げさな奴つなのだ。
アキラはその中の一つを引き抜き、表面を注視した後、ぽつりと。
「昔の時代劇だね」
言葉がおかしかろう。時代劇とは昔のモノではないのか?
ところがギアは、
「時代劇ちゅうても色々あるんや。せやな、今は第四期ぐらいやろな」
と言った。
「そんな分類があるのか?」
「簡単に言うたら、初代黄門さんが第一期や」
ふむふむ。
「従者をしておった人が黄門さんの役をやり出した頃が第二期やろ。ほんでちょっと砕けて、若者にもウケけるように現代風のニアンスを混ぜて作られたのが第三期や」
「若者に受ける?」
「せやがな。どんどん現代ドラマに視聴者が流されて、慌てた時代劇作家が現代風時代劇を作ったんや。例えば結構人気があったんは、侍三人が全国を旅しつつ悪人を倒していくちゅう、半分コミカルで、なんでもありのすっきり爽快時代劇や。なんちゅうても三人の侍に個性を持たせて、一人は高貴なお侍、一人は詐欺師風の槍使い。三人目は超貧乏の素浪人でいっつも腹をすかせとる男や。けど、その三人が決めるとこはびしっと決める。中でも貧乏浪人のヨボヨボ剣士が見せる殺陣は見事なんや。そのギャップと時代考証無視なストーリーがおもろくてな、ワテは町の小娘が『バイバイ』って手を振ってるのを見たで。そんなんでもオッケーを出した監督さんには脱帽や」
まあ。こいさんと共に生きて来たのだから、一緒に見ていたのかもしれぬが。熱く語りよったな。何というタイトルなのだろう、少々気になるな。
「三匹が……」
「わあぁぁぁ、ここで言うな」
慌ててギアの言葉を遮り、先を促す。
「それで第四期とは?」
「アニメチックなストーリーに変化しとるワ。乱暴な言いをすれば、時代劇アニメの実写版や。ほとんどSFやがな」
「なるほどなー」
「こんな風に変えられたら年寄りは誰も見ぃひん。けっきょく人情物の時代劇は年に一度ぐらいしか作らへんようになったんや。ま、そういう背景があるから、ここの時代劇DVDコーナーが廃れへんのやがな」
「そうか。ジイちゃん、バアちゃんでもDVDは見れるものな」
その時であった。
腕を組んで『時代劇を考える』の会を開催する我々の背後を、
「御用だ! 御用だ!」
ついでに呼子笛の甲高い音が店内を鳴り響く。
ピィィ――。
「御用っ! 御用っ!」
ピィィ――。
「なんやっ!?」
こっちは吃驚仰天である。
後ろを駈けて行ったのはチョンマゲ姿の岡っ引きだ。でかでかと『御用』と書かれた提灯を突き出し。十手を振り回し。
「御用だ! 御用だ!」
ピィィ――。
「御用っ! 御用っ!」
ピィィ――。ピィィ――。
我輩らの背後を駆け抜けると、店内の通路を駆け回り、最後は店の奥へ消えた。
「今の岡っ引きは駅前交番の二人やで……」
「ああ。そうだ」
ギアと我輩は棚の前で立つアキラへ視線を滑らせる。
ちょうどアキラは『奉行所の役人のくせに庶民に扮装して居酒屋で酒を飲むうち事件に巻き込まれ、最後は、美術的な絵画に匹敵する、美しく咲き乱れる桜の絵を、自分の肌に直接描写した物をお白洲の上から曝け出す』時代劇のDVDを棚に戻すところだった。
ひぃ。疲れるぞ。青年。これが限界なのだ。
「具現化や……」ぽつりとギア。
そう、アキラが頭の中で想像するだけで、このハーレムクラスオブジェクトでは、それを現実のものとして実体化するのである。これはやばい。
「アキラまずいぞ! それを戻せ」
思わず我輩はアキラの手からDVDを取り上げた。
アキラは意味解らずポカンとしたが、気にもせずにその場を離れて別の棚へと歩み、我輩は胸を撫で下ろす。
「にしても岡っ引きだけですんでよかった。主人公まで出て来たら版権問題で、我々はとんでもない損害賠償を突きつけられたかもだぞ」
「5000円ぐらいで許してもらえるんかな?」
「足りるか!」
「アキラのヤツ今度はホームドラマのコーナーへ行きよるで」
ホームドラマと言えば……。
「銭湯を題材にしたのとか、石屋とか。あのころはすごい演出家がいたからなー」
「せやな。ドラマが始まったら町から人が消えたっちゅうぐらいやからな」
アキラには興味は無いようで、そのまま素通り。我輩たちはまるで黄門さまの従者の如くその後ろを付いて回った。
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