【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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番外編 クルミ

魔王の反応3 つむぎside

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「父上、クルミ姫を私に降嫁たまわりたい」


 リヒト様に跪き、クロム君が言う。
 ぶわわわっと涙が溢れそうになるのを、すんでの所で堪える。

 ————クロム君が、

 ————リヒト様を、

 ————父上と呼んだ。

 4歳から私と一緒にいた。
 卵にこもる期間が長く、2年も遅れて出てきた私の子。
 リヒト様が大好きなくせに、かたくなにあるじと呼び続けていた。
 強要するものでもないし、自然に任せていたら今の今までずっと主呼びのままきた。
 そのクロム君が。

「クロム、お前は何を見せる」
リヒト様は動じてない。臣下の前のリヒト様。

 フロア全体がしんとして、皆が注目して何かの儀式の様に見える。
ビリビリとした、緊張感。

「父上と闘い力を示したい所ですが…………それは母上が悲しみましょう。僕以外にクルミを守れるこまはいないと思いますが」

 頭を下げたままのクロム君が言う。

「はっ!まだそんな事いってんのかお前は。クロム、お前は卵の時から俺の息子だろ。駒として扱ってんのは俺じゃなくお前自身だ。紬を泣かせるな」

「母上を……泣かせるなど……」

 言葉に詰まるクロム君を一瞥し、リヒト様が私を迎えに来ようと動く。

「父上!!!まだ返事を頂いておりません!!」

 噛み付く様に勢いよく顔をあげたクロム君が必死に叫ぶ。

「クロム、俺は幼いお前に何と言った。紬とクルミを必ず守れと言ったはず」

「俺は常にお前にしかめいは出していない。レスターと秋はそれを聞いてただけだろ」

「それは……どういう……」

「最初から俺はお前にクルミを預けている。今更だろ。めいは永遠に継続する。励め」

 クロムくんは、泣きそうな顔でふにゃっと笑った後、「はっっっ!!!」とガバッと頭を下げた。

「つつ、つむぎちゃん!?そんなに涙をためたら目が溶けちゃうよ!!??」

「でも、私も感動した……」

 クレアちゃんとレアットちゃんが言う。
おなかのふっくらしているレアットちゃんがウルウルしているのを見て、クロードさんが慌ててるのが視界の端で見えた。

 クロム君は不思議な子だ。多くを喋るわけではないのに、愛情をひしひしと伝えてくる。
行動や、雰囲気だけで。

 常に私のそばにいて、しがみついて離れなかったあの子が公爵の位を継ぎ、陛下の側近になった。私と下の子達を守るためにどんどん強くもなった。

 クルミの元に戻るクロム君が涙で霞んでぼやけてしまう。大きく、立派すぎるぐらい立派になった。リヒト様の背を見て、彼を追いかけて大きくなったんだろう。

————「泣くな。ここではまだ、耐えろ」

いつのまにかリヒト様が私のそばに来て言う。

「リオット侯爵夫人、セリュタ伯爵夫人、今宵は楽しんでいってくれ。妃は少し疲れた様だ、休ませたい。また離れに来てやって欲しい」

「「お気遣い、感謝申し上げます。妃殿下をお早く……」」

2人がひざまずき礼の姿勢をとる。


 珍しく私を横抱きに抱き上げて、スタスタと母屋に戻るリヒト様の首に抱きついてグズグスと泣く。

 もうここには誰もいないから泣いてもいい。

「よく頑張った」

「泣いちゃってたよ」
妃としては、失格だ。

「あのくらいなら、まぁセーフだ」
笑いながらリヒト様が言う。

 きっとセーフじゃないけど。

「嬉しいの……」

「ああ」

 リヒト様は私のこめかみにキスを落としてから続ける。

「いつだったか……幼いレスターが俺に言ったことがある。クロムとお前の縁は、自分達と同じか……たまにそれ以上に見える時があると。なのになぜ本当の血のつながった子供じゃないんだと」

「本当?私には、そんな事一度も…………」

「あいつは、言わなくていい事をわざわざ言ったりはしない」

 泣きすぎて頭がぼんやりする。

「リヒト様が子供達を褒めてくれるのは、嬉しい」

「紬のおかげだ。紬は獣人じゃないから愛情表現が独特だ。あいつら4人は竜人の子育てじゃ駄目になってたと思う。特に、クロムとレスターは」

「レスターも?」
クロム君は心に傷をもってたから、人間の子育てが合っていたかもしれない。
けどレスターは。

「あいつは…………将来竜族の王になる事を生まれながらにして分かっていたんだろうな。俺には兄上がいたから幼い頃にそういう重圧はなかった。俺が順当に王になる未来や兄上にお子が授かる未来もあったはずなのに、加護を受けてる子竜の考える事はよくわからん」

「神様に、何か言われて来たのかもね」

「あいつがか?お前がやれよとか言い返してそうだな」

「ふふ、あのこはちゃんとした場面ではびっくりするぐらいしっかりするもん、そんなはずないよ」

 母屋の夫婦の部屋のベッドにふんわりとおろされる。

「疲れたか?天空領に風呂入りに行くか」

「ん、石のお城のホテルに行きたい」

「そっちか?珍しいな」

「ホテルの最上階のスイートルーム、リニューアルしたんだって、いってみたい」

 ふわっと笑って いいよ、と軽く答えてくれる。

「王族がこれ以上増えたら争いの元?」

「?いや?レスターが王位を継ぐのはもう決定事項だし、リアの血は多ければ多いほど安寧につながる。誰も王座なんて面倒なものいらないしな。そんなものなくて、王族というだけの方が気楽だ。王位を争った歴史などうちにはない。重圧が、大きすぎるからな」

「ふぅん、ルルリエさん、許してくれるかな」

「は!?どういう意味!?」

 年子で3人も産んだ私の体調を心配して、しばらくは避妊を勧められていた。生理痛みたいな出産で、楽々なのに……。

「さぁ、どういう意味でしょう?」

「すぐ行こう!!今すぐ!!俺に任せろ!!」









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