【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

文字の大きさ
40 / 173
婚約者編

現実

しおりを挟む

「殿下!陛下のことで急ぎお知らせしたい事がございます!こちらへ!」

 王宮に入ってすぐに、すごく焦って息を切らしている獣人の男性がリヒト様の姿を見て慌てて声をかけてきた。

「兄上の侍従だ。ちょっといってくる。すぐにユアンをよこすから紬はここにいろ。夜会の時間までに戻らなければ王族の園庭で待ってろ。迎えに行くから」

「ん、わかった。いってらっしゃい」

 王宮の冷たい大理石の廊下でポツンと取り残されてしまった。ユアンさんが来るまでどうしようと思いながら窓の外を見ていると、艶めかしい女の人の声がかかった。

————「貴方が噂の方ね?少しお話しがしたいの。いいかしら」

 振り返ると、天女風の着物を着た女性の二人組。

 一人は金髪の丁寧に巻いた髪を今日の私と同じ様に高い所でポニーテールにしていて、ツンとした印象の綺麗な方。

 もう一人は長い緑の髪を海外女優の様に巻いた大人の女性、という感じのグラマーな女性。 

「すぐそこの部屋が使えるわ?少しお話ししたいだけ。どうかしら」

 特に断る理由も無いので頷くと、二人はにっこり笑ってから部屋へと私を連れて行った。

「人と会う予定だったのです。ドアを開けておいても?」

「かまわないわ?こちらへ」

 ユアンさんならこれで私の存在に気づくだろう。
示されたソファーに座ると対面に二人の女性が座り、金髪ポニーテールの女性が自己紹介をしてくれた。

「リヴィアル公爵家のアマリリスと申しますわ。こちらはガイナ伯爵夫人」

「紬・玲林と申します」

 あんまりいい雰囲気じゃないなぁ。
面接を受けているみたいな気持ちになる。

「担当直入に言うわ?私たちの番グループにまだ貴方が入っていない事が心配なのよ」

「つがいグループ……」
聞き慣れない単語が出て来たな。

「えぇ、殿下の仮の後宮のことよ?」

「後宮……」
馬鹿みたいに単語を反復する私に苛立ったのか、金の眉がピクリと動いた。

「爵位の高いわたくしが管理をかってでているわ。いつもはユアン様が私に繋いで下さるのだけれど……今回は手違いかしら、珍しいわね。ユアン様が見落としなど」

 話の内容から真実は見えているのに気持ちが一生懸命否定する。あの人はそんな人じゃない、と。

 二人の顔が見れなくて、アマリリスさんの華奢な手にはめられたごつい金の指輪をぼんやりと眺める。

「私達、皆殿下に愛されておりますの。私の夫が亡くなった時はそれはもうお優しく寄り添って頂きましたわ?」

 ガイナ伯爵夫人と名乗った海外女優のような女性が、扇子を広げて口元を隠しながら話す。
涙ぼくろが妖艶で、壮絶な色気がある。

「あら、わたくしが一番夜のお呼びの回数が多いのですよ?あの方が王になられた暁には、番グループの全員が後宮にあがるのです。わたくしは正妃になりうる身分ですので、後宮の管理を任されるはず。貴方のような手違いがあると困るのです」

「……手違い…」

————「紬嬢!!!!!」

 凄く焦ったユアンさんが部屋に飛び込んできて、その後ろにリツさんが青い顔をして控えているのが見えた。

「まあユアン様、ごきげんよう。なかなか彼女の繋ぎがありませんので心配しておりましたの。ご覧の通りわたくしの方からご説明致しましたので心配ありませんわ?」

「~~~~~~!?!?」

 ユアンさんが青い顔をして絶句するなんて珍しいなとぼんやりする頭で考えた。もうここから出たくて立ち上がり、失礼しますと言って頭を下げた。

「あら、あなたもそれを頂いたのね?やっぱり私達のお仲間じゃない。私達、みんなそれ頂いているわよ?誕生石をそれぞれ変えてプレゼントして下さったの。ね?だから抜け駆けはよくなくってよ?皆平等に愛して下さっているのだから」

 二人の令嬢の視線が私の銀の髪飾りにある事に気がつく。
あぁ、そうだったんだ。
可愛くてお気に入りにだった髪留め。 
その他のご令嬢達と宝石違いの同じ物だった。

 素直に喜んでしまった。
あの人は心の中では笑っていたんだろうか。
 
「失礼します」

 部屋を出てスタスタと歩き出す私に、ユアンさんが焦って話しかけてくる。

「紬嬢!誤解なき様!殿下にとって貴方は特別です!」

「唯一ではなかったみたいですね」

 ぼんやりした頭でとっさに言い返してしまった。とにかくここから出たい。

「リツ!紬嬢を庭園に!私は殿下に報告に行きます!!」

 後ろの方でユアンさんが指示する声がする。
庭園でまってろと言っていたっけ。
会って彼の口から本当のことを聞いた方がいいんだろうか。もう百パーセント黒っぽいけど、意味はあるのだろうか。

「天女さん、あの、庭園はこっちっス。俺、こういう時なんて言ったらいいのか……でも!殿下の天女さんへのお気持ちは本当で!!」

 リツさんの後に続いて庭に向かうか迷って足が止まってしまう。
彼の口から本当の事を聞くのは、もっと辛いんじゃないのかと気がついて足がすくむ。

 リツさんが悲壮な顔をして私を待ってくれている。

「離れに戻ります」

 そこでちゃんと考えよう。もうパーティーに出る様な気分ではないし。

「そんな!お願いします!!庭園でお待ちください!!」

 リツさんの悲痛な叫びに迷いながらも頷いて、また歩き出した。

 王族専用庭の入り口には兵士が二人立っていて、リツさんは私を中のガゼボに通した後、退出して行った。

 広い庭園にまた一人取り残される。
私はどうしたらいいんだろう。






しおりを挟む
感想 1,228

あなたにおすすめの小説

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

もう何も信じられない

ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。 ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。 その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。 「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」 あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。

処理中です...