【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

文字の大きさ
88 / 173
家族編

エルシーナ

しおりを挟む

 エルダゾルク軍の所持する天馬の数が急激に増えている事は既に大ニュースになっているらしく、今更すぎるのでしれっとヴァルファデの彼女も連れて帰ることになった。
神格の高い天馬は、どの国にも属さないという了解があり、契約した人の物になるそうだ。

 もう隠しても無駄だとリヒト様があっけらかんと言う。

「外に出るたびに紬がつれてきちまうし」

「私じゃないよ!今回はクレアちゃん!」

「そう思ってるのはお前だけだ!!」

 何なのか。私何もしてないのに。

 亜麻色の天馬はヴァルファデの横に大人しく着いてくるので手綱はしていない。

 綺麗な毛並み。女の子だけどヴァルファデと同じくらいの大きさで、しっかりとした体躯。多分この子すごく強い。芯があるというか、凛としてると言うか。女騎士様みたいな感じがする。優しいお母さんタイプのルルとは違う感じ。

「あ!リヒト様、適任者いたかも」

「んあ?」

「ヴァルファデ、ちょっとだけ彼女さん借りてもいい?先に離れにかえっていてね、厩にこの子が入るようにルース君と準備していて?」

 ヴァルファデが了承したように私の手のひらをスリと押す。
亜麻色の天馬に長いことスリスリした後、離れの方にルース君と歩いて行った。

「ヴァルファデの彼女さん、ちょっとだけつきあって?」

 亜麻色の天馬は私をじっとみた後、ブルンと一声鳴いた。

「ありがとう、いきましょうか」

「どこいくってんだよ。こっちは王宮だぞ」

「ん、リヒト様、陛下のところに連れて行って?」

「はぁ?報告でもするつもりか?」

「んー多分うまく行くと思うんだよね」

 リヒト様は意味わからんと呟きながらも、王宮の奥に進んでくれた。リツさんがすっ飛んでどこかへ行った。多分先ぶれに行ってくれたんだと思う。

 庭が途切れて大理石の王宮内に入り、カツンカツンと歩きにくそうな蹄の音が響く。
ハイヒールが音を立てているようで笑ってしまう。

 柱が沢山立った廊下の先の部屋に入ると、広い広間の向こうに王座の椅子があり、陛下が座って待っていた。
陛下の侍従と一緒にリツさんがゼーゼーいって脇に控えてる。ごめんリツさん。

「紬ちゃ~ん!おかえり!またすごいのつれてきちゃったねぇ~!報告に来てくれたの~~??大歓迎だよ!!今日もすごく可愛い~!いつ僕のお嫁さんになる~?」

 今日もしっかりチャラいな。
金髪の髪を後ろに流し、ややブラウンかかった金の無精髭。柔らかな紫の瞳が優しさまで出している壮絶なイケオジ。中身はポンコツだけど。

「陛下のお見合い相手を連れてきました」

「「 は? 」」

 リヒト様と陛下のイケボが重なる。
陛下の侍従達が目をまんまるにしてるのが見える。

「この子、多分陛下のことタイプだと思います」

「「 は? 」」

「名前、つけてみて下さい」

 ね?と亜麻色の天馬に言うと、天馬はじっと陛下を見てる。絶ッッ対タイプだと思うんだよなぁ。ヴァルファデには悪いけど。主人と恋人は違うし大丈夫でしょ。

「え~と、紬ちゃん?ちょ、ちょっと何言ってるかわからないけど、僕はどうしたらいいのかな?」

「ん~、挨拶して、名前をつけてみてください」

 さっきからそう言ってるのに。

 王座からずり落ちそうになってる陛下はやっと決心したのかフラフラとこちらに近づいて、天馬の目を見て話す。

「フォルド• リア• エルダゾルクという。————君の名は——エルシーナだ」

「クルルルル」

「承諾しましたねぇ」
ユアンさんがお馴染みのセリフを言う。

「エルシーナ!素敵な名前を貰ったねぇ!カッコいい!!!」

 本当に素敵!女騎士様って感じ!

「つ、紬ちゃん?僕は今すごい事をしてしまったのだけれど……リヒト?どうすれば??お兄ちゃんすごく怖い!!!」

 エルシーナとリヒト様の間で陛下がオロオロしている。

「良かったじゃないですか。切望していた天馬が手に入りましたね。紬、また兄上から褒賞がでるぞ?良かったな」

「あ!じゃあ、クロム君とレスターのお揃いの洋服いっぱい作りたいです!陛下のお財布で!!わあ!ありがとうございます!!」

「う、うん?うん、そんなのいくらでも……ってそうじゃなくて、リヒト!?そろそろ説明して!?怖い怖い怖い!!!」

「私にも分かりません。紬に聞けといいたいところですが、本人も感覚で動いているようです。無理矢理納得願います」

「あ、陛下!この子ヴァルファデの彼女なので、私の離れで面倒見てもいいですか?」

「ぅ……うん?うん、いいよ?もう、なんでもいいんじゃないかな?リヒトお前、いつもこんななの?」

「ええまぁ」

「た、大変だねぇ」

「慣れました。天馬の所有、誠におめでとうございます。連理の枝となるようお祈り申し上げる」

 リヒト様はそう言って私をだきあげ、唖然とした陛下達を残して離れに帰ってくれた。



◇◆◇



「陛下も天馬、欲しかったの?」

「あんなでも一応兄上がエルダゾルク軍の総帥だからな。病気も無くなったしすげぇ欲しがってたけど、欲しいからって手に入るもんでもないし、金で買えるもんでもない」

 良かった。欲しかったならきっと大切にしてくれる。そうじゃなかったとしても、彼はリヒト様に似て優しい。エルシーナは大切にされる。

「おにぎりにならなくてよかったぁ!」

 リヒト様は離れの縁側で私を膝に乗せて座り、私のセリフに楽しそうに笑う。

 すぐそばで遊び疲れたクロム君とレスターが座布団の上でひとかたまりに丸くなってスヤスヤ眠っている。

 夕方の風が心地よくとおる。

「リヒト様、私、変?嫌?」
陛下の前で呆れていたから不安になる。

「そんな事いってねぇだろ。お前は俺の全てだよ」

 優しいキスが贈られる。

「ユアンがきっとまた詰めてくるな」

「ゔぅっ…………助けて」

「いいけど、褒美を貰うぞ?」

 長い長いとろける様なキスが降ってきて、ふわふわとした思考になる。

「私も何となくしかわからないんだけどね、多分天馬は家族とかチームとか、そういうのを大切にしてる生き物なんだと思う」

「どうしてリス女じゃなきゃだめだったんだ?」

 まだ名前覚えてない!
覚えようという気概すらない!!

「ヴァルファデの主人であるルース君の家族を見て判断したいんだと思う。ただ単にヴァルファデだけを気にいるってだけじゃあだめで、ヴァルファデの主人の家族が、自分の家族になるわけだから……」

「天馬は孤高の生き物だとされてきてるのが、ひっくり返るな」

「孤高?そんな感じはしないなぁ。家族とチームを大切にするあったかい生き物って感じ」

 その時ヴァルファデが庭に現れて、後ろからルース君がやって来た。

「殿下~~うまやの拡張工事必要だよ~~大家族になってきたよぉ!」

「紬はここを牧場にするつもりかよ」

「えぇ……?わたしのせい?」

 ヴァルファデが庭の真ん中で止まり、じっと王宮の方を見る。

 小道からエルシーナに乗った陛下が来て、ヴァルファデが迎えに駆けつけて行った。

「ええええっっ!!!?? 陛下!?」

 ルース君が大声をあげ、自分の声に我に帰ったのか脇に控えて礼をとる。

「いい、礼はいらない。リオット侯爵子息か。エルシーナをよろしく頼む」

 あ、ポンコツじゃないバージョンの陛下だ。

「お!紬ちゃ~ん!どお?エルシーナ、美人じゃない!?」

 やっぱりすぐポンコツになるな。イケオジなのに。

 エルシーナの手綱は青いタッセルと銀の刺繍の入った豪華なもので、エメラルドグリーンの縁取りに艶々の布貼がしてあるお洒落な鞍が取り付けられていた。

「うわぁ!おしゃれさん!」

「な?切望してただろ?馬具ばっかり揃えて肝心の中身がなかったんだよ」

「ふふふ、エルシーナは幸せ者だね」  







しおりを挟む
感想 1,228

あなたにおすすめの小説

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

処理中です...