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家族編
エクレア
しおりを挟む数ヶ月後にルルの出産があった。獣医のチームももう慣れたもので天馬出産のプロチームになりつつある。
今日初めてテトとルルが離れのお庭に仔馬を連れてきたので、リヒト様や幹部のみんなも見にきてくれている。
ケイとツキの妹になる子は両親の色を混ぜ込んだ綺麗なシルバーグレーの女の子で、さっきからずっとルルの側にいる甘えん坊だ。
大人しく凛とした可愛い女の子。
「あの子はうちで飼おうかな。別の国へお嫁にいったらテトもルルも心配しちゃいそう」
「つむぎが決めたらいい。誰にも文句は言わせない」
離れの広い庭でテトとルルのそばから離れない仔馬を見てリヒト様が言う。
また仔馬が産まれたことで各国から面会依頼が絶えない。はぐれ竜人の返還は嬉しい事だけれど、こればかりは仔馬の性格とテトとルルの意向が優先されないといけない。ルルは優しいお母さんタイプだから手放すことはなさそうだしね。
「要望はありますが無視で構いません。そもそも竜国が他国の意見に耳を貸す必要はありませんので」
ユアンさんがズバッと言う。
「まぁね~~けどヴァルファデとエルシーナの子が魔力の高い良い天馬だったし、各国はよだれ垂らして待ってるだろうね~~」
「今は研究チームをここに派遣したいって言ってくる国も多いな。まぁリヒトが許すわけないだろうけど」
クロードさんが苦笑しながら言う。
「そうなの?駄目なの?」
「当たり前だろ。ここにはお前がいるんだぞ。俺が他人を中にいれるわけねぇだろが。研究者なんかみんな男だぞ、論外だ」
すんっと目が座ったリヒト様を無視して、縁側でくつろぐみんなに紅茶とエクレアを出す。エクレアはみんなの好物の中の一つだ。チョコレートが無いので、コーヒー味だけれど。
「母上!クリストフも来ました!」
レスターの言葉に庭を見ると、ユアンさんの天馬がこちらに向かってくる。
「ユアンさんがいるのに気づいたのかもね?それかクロム君にオレンジもらいに来たかな?」
クリストフはゆっくりこちらに近づいて、縁側でエクレアを食べていたクロム君の首根っこをはむっと咥えて持ち上げた。
クロム君はキョトンとした顔でされるがままだ。
そのまま踵を返してテトとルルの方へゆっくりと歩いていく。
お食事エプロンをしたクロム君を口に咥えて。
皆唖然と見ている。
「母上!兄上取られた!」
「ふふ、そうじゃないよ。あの仔馬ちゃん、クリストフの彼女になるんだよ。クリストフってまだ若い馬みたいだね」
「クリストフは推定五歳程度です。本当ですか?ですが何故クロムが?」ユアンさんは半信半疑で見守っている。
「ユアンさんは恋人はいますか?」
「いえ、おりませんが……」
「ご家族は?」
「母と兄がおりますが、領地におります」
「うーん、じゃあユアンさんの身近でユアンさんが家族だと思ってるのってクロム君だけじゃないです?弟だと、思っているでしょう?」
「え、えぇ、それは……まぁ……」
「クリストフもそれを分かってるからクロム君を見せに行ったんですよ。主人の、家族だから」
クロム君はクリストフによって仔馬の背中に下ろされてまたもやキョトンとしている。最高に可愛い。
「アルトバイスの彼女が今後もし現れても、クロム君を連れていくかもしれませんね。ミリーナさんや奥さんになる程の方がいればその方の方がいいかな?どちらでも大丈夫かも。クロードさんも、そうでしょう?」
「そりゃ……クロム坊は弟みたいなもんだから……」
カップルが成立したらしく、クリストフがスリスリと仔馬を撫でる。仔馬も嬉しそうだし、テトとルルも嬉しそうにしてる。
ふよふよとキョトン顔のまま帰ってきたクロム君に声をかけて抱き止める。
「クロム君があの子の名前をつけたら良いよ。何が良いかな?」
「僕?おともだち?」
みんなの口がまたぽかんと開くのを知らんぷりして続ける。
「そうそう、お友達。何かつけたいお名前あるかな?」
「えくれあ」
「「ブッッッッフォッッッ!!」」
あ、ルース君とクロードさんがお茶吹いた。
「…………クロム、エクレアからとって、エレノアはどうですか?」
ユアンさん、笑顔だけど圧がすごい。愛馬の奥さんがエクレアなの嫌なんだな?
「ん、エレノア、しゅる」
「ふふ、じゃあ、エレノアだよって言っておいで」
「ん。」
またふよふよと仔馬とクリストフの所に飛んでいったクロム君が仔馬の顔の前で止まり話しかけているのがみえる。その後すぐにスリスリとクロム君の顔に仔馬が擦り寄り、キュルキュルと可愛く鳴いているのが聞こえたので契約できたみたい。
「天馬を二頭も所有なんて世界初だぞ。クロムは有名人になるな」
「兄上また強くなっちゃう!!!!俺も二頭使いになりたい!!」
ショックを受けた顔のレスターが叫ぶ。
「五年ぐらいで大人になる。そしたらエレノアとクリストフの子が産まれるかもな」
「待てないぃ!!テトくれ親父!」
「おまえじゃテルガードの力にのまれる。無駄だあきらめろ」
「レスターはまだ二頭も面倒みきれないよ。クロム君は毎日全部の子の面倒をみに厩へ行ってるよ?」
幹部のみんなが驚愕した顔でこちらに戻って来るクロム君を見る。
クロム君は私の膝の上にすとんと着地してもうエクレアに夢中。
「クロム君、天馬のお世話大好きだもんね?」
キョトンとしたクロム君は私の質問にコクンと頷く。厩番はいるけれど、天馬達は体に触らせないからやれる事は限られる。
体を拭いたり、ブラシをかけたり、好物を手づからあげたりしているのは最近はもっぱらクロム君。
朝起きたらレスターがまだ寝ている間に厩へ行って、水と風の魔法を使って上手に洗う。体の部分は火と風の魔法で温風を出して乾かして、顔だけは柔らかいタオルで一頭一頭拭いていた。
「クロム~~ありがたい~~」
「クロム坊、まじか、すごいな」
「我らは弟に支えられていたのですね……」
「兄上~~俺もやりたい~~」
「レスタ、加減、へた」
「ゔっっっ」
レスターが涙目になってグリグリと私に顔を押し付けてくる。
喧嘩まではいかないけど、好き放題いい合える兄弟で良かった。レスターも心からクロム君が大好きなのが分かる。
「鍛錬しろ。クロムはお前が昼寝してる間に自分から手合わせに来てるぞ」
レスターがまたショックをうけた顔をする。
「今はまだお昼寝も大事。クロムくんの方がお兄さんな分早く起きてるだけだよ」
「兄上~~~俺も一緒に行きたいです~~~待ってて下さい~~」
レスター、完全に泣いてる。そんなに?
「ん、いいよ」
レスターは竜体になって、今度はすんなり許したクロムくんの頭の上に丸くなった。
レスターのクロム君への甘え方は独特なのだ。
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