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家族編
トーナメント試合2
しおりを挟む重厚な金の両開きの扉が左右の騎士によって開けられる。
王様らしき王冠を被った人はいるけれど、長テーブル のお誕生日席にはいない。この中で一番地位が高いのがリヒト様だからだと思う。お誕生日席は空けて参加国の王家の方達が揃う。今回は五カ国ほどが集まっているらしく、ずらっと煌びやかな人達が並ぶ。
「ちょっと、緊張するね」
「お前の隣は空けるように指示してあるから大丈夫だよ。俺だけ見てろあとは全部無視でいい」
「えぇ……」
私達の後ろの壁にはユアンさんとルース君が控えて警備に立ってくれている。
リヒト様の言った通り、私の隣の席は空いていて、少し離れて女性の方の席があったので無理に会話しなくて良さそう。
リヒト様のお隣は黒髪の妖艶な女性。黒豹王国のお姫様だ。艶々の黒髪が波打って、踊り子みたいな衣装がとても似合っている。
大きなテーブルを挟んで私の前はシーラフの主人のルーファス王子だ。
「此度も皆様のお力添えを頂き、五カ国での合同トーナメント開催、誠に嬉しく思う。皆様ごゆるりとご歓談くだされ」
黒豹の王様のスピーチで食事が始まる。切って焼いての味付けは変わらないけれど、コース仕立てになっていて面白い。
「竜国王弟妃殿下、また天馬の繁殖に成功したとか。我らにも秘訣をお教え願います」
ワニ獣人の王子が斜め前から声をかけてきた。
カルネクアも参加してるんだな。
「ええ、ですが私の息子が既に契約してしまいまして…………なかなか皆様にお目通りが出来ず残念です……」
秘訣なんてないからそれには答えない。
「おお、クロム伯爵子息ですか?レスター殿下ですか!?二頭も所有なさるとはすごいですな!!」
ちょっとお腹も空いてきたので笑顔だけで答えて食事に集中する。みんな天馬好きだなぁ。カルネクアの王子との会話を耳を大きくして聞いているもの。
「妃の好きにさせている。天馬に関してはこちらもまだ分からないことばかりだ」
リヒト様がまだ話したそうにしているワニさんとの会話を終わらせてくれた。
「妃殿下の元に産まれた天馬は愛情深い。主人との繋がりが他の天馬より強いように思います」
ルーファス王子がニカっと笑って言う。
「ありがとうございます。明日、シーラフに会いにいっても?」
「ええぜひ。かなり大きくなりましたよ。びっくりなさると思います」
「それはとても楽しみです」
シーラフが愛されているのを彼の言葉の端々から感じることができて嬉しい。
————「リヒト!明日もきっと貴方が優勝ね!?また花輪をねだってもいい?正妃様がいらっしゃるから無理かしら…………寂しいわ?」
リヒト様の隣、黒豹のお姫様がリヒト様に話しかけてる。ルーファス王子のお姉さんらしい。
「俺は番以外に物は贈らない。弟に頼め」
「あら冷たい。何度も私に下さったのに」
へーーー、ふーーん。
ここにもいたか、元カノ…………
「八股男…………」
お仕事バージョンのリヒト様は慌てたりはしないけれど、眉がピクっと動いて視線だけで私を見た。
「前回はわざわざ私の席まで天馬で来て下さって夢のようだったわ?」
へぇ。なるほど、なるほど。
思い立って、リヒト様の軍服の上着を脱いで膝に置いた。リヒト様の呆気に取られた目は無視する。
周りはガヤガヤと歓談していて誰もこちらには注目してはいないのをいい事に、お姫様はリヒト様にガッツリ体を向けて話しかけてる。
さぁ、重い軍服も無くなったしご飯を食べよ~!
ご飯に集中しようと思ったらリヒト様がまた肩に軍服をかけてくる。ちっ、重いのに。
「私の部屋には貴方から贈られた花輪が三つもかざってありますのよ?」
あ、これ、私に聞かせるつもりで言ってるな。はぁ~、リヒト様の彼女達ってみんな性格にてる。実はこういう人がタイプなんじゃない??
またズルッと軍服を脱いで今度は椅子にかけた。
リヒト様ずっと視線がこっち向いてるな。
焦りは顔に出してはないけど、私にはわかるもんね。
「姫が欲しがったから渡しただけだ。他意はない」
黒豹の姫に返事をしながらまた私の肩にかけてくる。器用だな。
「あら、今回もいるか、と毎回聞いて下さったのに?わたくしのせいにするなんてひどいわ?」
ほうほう?へえ?
するっと軍服をぬいで今度は隣の空いた席に畳んで置いてやった。バーカバーカ。
「ブフォッッ!」後ろでルース君の吹き出す声。
「~~~~~~っ!?」リヒト様ちょっと表情崩れてきたな。
フルーツのお酒、美味しいな!食事はやっぱり味気ないけどお酒は美味しい。ジュースみたい。
「リヒト?」
ってゆーかこのお姫様ガッツリ呼び捨てで呼んでるな。敬語の中にしれっとタメ語も混ざってる。幼馴染とかかな。同い歳ぐらいに見えるし、定期的に共同の催しが開かれていたなら王族同士仲良くなるのかもね。
お酒飲んだら暑くなってきちゃったよ。
ミリーナさんがかけてくれた羽織りも脱ごうかな。
王女様が話しかけて来る度に脱いでやる。バーカ。
「花輪は諦めるから、視線をくれる?勝った時」
よし脱ごう。これで完全体の踊り子!この衣装可愛いから嬉しい。
羽織を脱いで丸めて隣の椅子の軍服の上に置いた。
「ブッハッッ!!!」ルース君笑いすぎ。
「はぁ~~~」 ユアンさんなんでため息?私悪くない。
肩がっつり出てるし、チューブトップブラみたいな布の上に透ける生地がヒラヒラしてる。おへそも出てるし次話しかけて来られても脱ぐ物もう無いな。困った困った。左手につけてる婚約指輪と結婚指輪でも順番に外すか。
指輪をじっと見ていたら、驚愕の顔をしたリヒト様が私を抱き上げて立ち上がった。
「妃が酔いすぎたようだ。皆は続けてくれ、先に失礼する」
別にまだ酔ってないです!!って言いたかったけど、いじめ過ぎた自覚はあるので黙っておいた。
「おなか減ったなー?」
廊下をスタスタ早足で歩くリヒト様に向かって言う。
「…………………………」
やっぱいじめ過ぎたかな。後悔はしてないけど。
「………………姫とはなんでもない」
「何にも聞いてないのに。お腹減ったって言っただけだよ」
「お前戦い方が独特すぎるだろ!!!」
「そお?リヒト様の番はお腹がすいてるんだけど?」
「~~~~~~!?…………着替えてくれたら、街に、連れてく…………」
おぉ、サーザンランドの街!行きたい!屋台とかあるかな。面白そう。
「ふふ、デートだね。楽しみ」
「マジで俺が王じゃなくてよかった…………お前傾国の妃すぎる……会食の場をすっぽかしちまった……」
「たまにはいいんじゃない?」
リヒト様色の紺と金色の着物を着よう。
きっと喜ぶ。
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