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最終章 人族編
魔球壁
しおりを挟む離れの広いお庭で息子二人がドカバキと手合わせをするいつもの日常。
テト達がいて、リヒト様がそばにいる。安心の時間。
「私も戦えたらいいのに……そうしたら、子供達のことも、守れるのに」
トーナメント試合での出来事を思い出して呟くと、リヒト様が呆れた様に言う。
「もう守られる様なタマじゃねぇよあいつらは。強いから防御の魔法が苦手なだけだろ。自分には必要ないからな。今回のことで必要さが身に染みて分かったんだろ、必死で練習してるよ」
「そうなの?」
「兄上が二人を煽りまくってるからな。お子様結界とか、障子紙とか…………なんだかんだ手本を見せて気付かれない様に鍛えてるだけだが。
兄上はビビリだから防御の魔法に長けてるんだよ。あれで二人から尊敬の眼差しが得られたとか言って喜んでたぞ」
陛下らしくて笑ってしまう。
二人の手合わせを下からじっと見ていたルース君がゆっくりとこっちへ来て私の目の前で止まった。なんだ?
「殿下~~~いい~?」
「いいぞ」
何?何が?
「つむつむ~~~目つぶって~~~、絶対当てないから~~」
「あ、うん、こう?」
よく分からないまま言う通り目をつぶると、ヒュンッとした音のすぐ後にガキンっと何かがぶつかる音がした。
恐る恐る目を開けると私の周りに半円の結界ができている。
「くっそ!クロムのやつ!視線だけでこんだけの魔球壁とか可愛くない!!!」
刀を鞘ごと振り回しながらルース君が叫ぶ。
「レスター殿下も一瞬の指差しだけで構築するなんてさすがだなぁ」
いつの間にか来ていたクロードさんがレスターの方を見て感心した様に言う。
二人は今まで通りツキとケイに乗って戦ってるけれど?
よく見ると私の周りは二重に結界が張られていた。
レスターと、クロム君が作ったの?戦いながら?
前と全然違う、陛下が作ったみたいな分厚い重い感じのする結界。
「な?すぐにもっとすごい結界も張る様になる。兄上もうまく誘導してるし。刀も頂いたんだ、あいつらもっと強くなるぞ」
クロム君は短めの双刀二振り。レスターはリヒト様と同じ刀の大小二本差しを頂いた。
どちらも王家の紋章が入っている。
寝る時も抱いて寝ていてヒヤヒヤする。
「強くならなくていいの。優しい子になれば」
「お前が育ててるんだからそうなるだろ」
リヒト様の子だからだと思うけど。
クロム君もレスターも、ちゃんとリヒト様が優しいのを知ってる。甘える時は甘えて、尊敬してるのもわかる。私には向けない目を向けるもの。
「来週先々代の王の法要があるぞ。紬にも出席してもらいたい。わりと大規模な催しだから他国の者達も大勢くるが…………大丈夫か?」
またあの獅子の王様みたいな人がいたらと思うと怖くて、トーナメント試合以来他国の人が来る国際パーティーの類は欠席させてもらっている。
「あ、うん、法事ならしかたないね、頑張る」
「大丈夫だよ。俺もあいつらも、ちゃんとお前を守るから」
「うん………………」
竜人やこの国の人たちは平気でも、他国が関わると途端に不安になってくる。
他国が関わるだけで嫌な予感がする程には苦手になっている。
「ずっと側にいてもいい?王族のお仕事がある?」
「側にいるよ。儀式的な物は兄上の領分だしな」
目を細めて笑いかけてくれたリヒト様は、私の髪を撫でながら言う。
「なら…………大丈夫……」
「クロムとレスターがついてれば大抵の奴は近寄れないよ」
「それでも、リヒト様の側にいたい」
「ああ、ずっと側にいる。約束する」
やっと肩の力が抜けて、リヒト様に身体を預けると、抱き上げてくれてスタスタと歩き出す。
「スカーレットに儀式用の衣装を頼んである。一緒に受け取りに行くか?」
「テトに、乗せてくれる?」
リヒト様は「今日は俺が護衛騎士だな」と言って嬉しそうに笑った。
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