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こっちの世界にきて、僕は初めて服という服に袖を通した。
ゆったりとした、オフホワイトのシルクでできた貫頭衣みたいな。
鮮やかな細い帯で上着を腰の辺りをキュッとしばると、いたってシンプルな服は、たったそれだけで途端に華やかな装いになる。
ツィーはさらに、華奢なデザインのアルナイルと瞳と同じ色をした一粒石のネックレスを、僕に着けてくれた。
「素敵です、キナリ様!!どの運命のΩ様たちより、美しく輝いておいでです!」
僕を着飾ったツィーは、満面の笑みで言う。
それがツィーの本心なのか、思惑を含んだ下心アリな美辞麗句なのか。
滅多に褒められることのない僕は、たったそれだけのことに心底、居心地が悪かった。
「今日は、〝SOWの日〟ですから!!自信を持ってください!!キナリ様は、一番お美しいですから!!」
「…………ありがとう、ツィーさん」
「あっ!!これを!!これをお持ちくださいませ!!」
「何ですか?これ?」
「マダム・デネボラのカップケーキです!!皆さん、大好きなんですよ!!」
「僕はどっちかっていうと、チー鱈とかタコワサの方が、好……」
「キナリ様?」
僕がついウッカリ、自分の嗜好を口にした瞬間。
笑顔のままのツィーの気配が、一気に鋭くなる。
ツィーの綺麗な髪の毛が逆立っているような、そんな殺気立ったツィーの気配に、僕は何も言えずに固まってしまった。
「それでは、いってらっしゃいませ!!キナリ様」
「………は、はいーっ!!行ってまいりまーす!!」
半ばツィーの勢いに押されて、僕はカップケーキ満載のカゴを抱えて部屋の扉を開けた。
〝SOWの日〟
Super Omega Wivesーめちゃめちゃイケてる、オメガの妾たちの日。
アルナイルの選ばれし運命のオメガが、だいたい月一で集まって、お喋りをしたり、近況を報告したり………牽制しあったりする日……らしい。
要は、運命のオメガ同士仲良くして、抜け駆けしないように互いが互いに釘を刺す。
表面上の、付き合い………みたいな?
そういうのも異世界にあるなんて、さぁ。
どこの世界も、大して変わらないじゃないか。
それでも僕は。
13番目の僕は、13番目らしく。
目立たず、でしゃばらず、粗相の無いように。
〝いつもの僕〟でいれば、いいんだ。
でも、一気に12人………覚えられるか?
そんなぼんやりしている僕を察してか。
ツィーは、似顔絵付きカンニングペーパーを僕に持たせてくれていた。
名前と特徴のある似顔絵と、だいたいのヒトトナリと。
ツィーお手製のそれは、本当に上手で、それでいて的を得ていて。
僕は吹き出しそうになるのを、必死でこらえる。
………ツィーは、すごい才能を持ってるなぁ。
「本日皆様にお集まりいただきましたのは、言うまでもなく。アルナイル様の13番目の運命のオメガとして、ワタクシたちの仲間となった方のご紹介をいたしたくて」
ズラーっと勢揃いしたオメガワイブズの、上座の一番奥に座っている、物凄いオーラを纏った美人が口火を切った。
………あぁ、この人は……1番目の運命さんだ。
薄い桜色の艶々した髪を靡かせて、同じ色の大きな瞳で周りを見渡すその人は、ツィーのカンニングペーパーによると、ミモザさんという人らしい。
「あなた、自己紹介をしてくださる?」
不意に話を振られて、起立の体勢を取った僕は、危うくカンニングペーパーを落としそうになってしまうくらい、動揺した。
「あ………あの。僕は、ユ………キナリと言います。よ、よろしくお願いします」
………一瞬の、沈黙の後。
「どちらからいらしたの?」
「漆黒の目と髪だ……。初めて見た」
「ヒートも未だなんじゃないか?」
僕の自己紹介が悪かったのか、珍しい形の割には地味なのが災いしたのか。
僕が一言発したと同時に、先輩ワイブズたちが一斉にヒソヒソ喋りだす。
〝どちらから?〟と言われましても、うまく説明できないんです、ごめんなさい。
日本人特有の髪色と彩光の色に、ここまで食いつかれるとも思わなかったし。
だいたい、あなたたちがパステルカラー過ぎるんですよ。
僕だってここに来て初めて、地毛がピンクやら水色やらの人間を見たんだってば。
………身の置き所が、見当たらない。
「みなさん、お静かに」
凛とした澄んだ声が、ヒソヒソ話す声を制し、一瞬で室内が静かになった。
「みなさん、もうキナリ様のことは覚えられましたね?キナリ様が、みなさんの大好きなカップケーキを持ってきていただいたことですし、ご歓談しながらキナリ様と仲良くなりましょうね」
………救われた、というか………完全に眼中に無い、というか。
ここにいる全員は、僕がどんなヤツか色んな想像を巡らせて、戦々恐々としていたに違いない。
そんな中に現れたのが、容姿こそは珍しいけど、いたって平凡なパッとしない喪男の僕で。
きっと、この時点で。
僕はツィーの思惑から、ずーっと遠くにいる存在なんだなぁと実感したんだ。
「いかがでしたか?!みなさん、カップケーキ喜ばれたでしょう?!」
「うん、本当助かったよ。ありがとう、ツィーさん」
「それで、ちゃんとアピールされましたか?ガツンとかましてこられましたか?」
「まぁ……うん。それなりに自己紹介はしてきたかな?」
「みなさん、キナリ様の美しさに驚かれたことでしょう!」
そう満足げに笑うツィーに、僕は若干、胸が痛くなった。
違うんだよ、ツィー。
僕は目立たず、出しゃばらず、粗相の無いように。
ただひたすら、カップケーキにかぶりつき、それをトウモロコシみたいな味がするお茶で流し込むという作業をひたすら繰り返して。
そんな僕にワイブズの諸先輩方は腫れ物でも扱うような態度でさ。
………気疲れすること、この上なくて。
このままシレーっと、戦線離脱したい。
元々僕なんかいなかったんじゃないかって感じで、フェードアウトして元の世界に帰りたいんだよ。
「アルナイル様!」
身の置き所がなかった〝SOW〟の疲れがドッとでて、ベッドに横たわったっていた僕は、ツィーのうわずった声で体を起こした。
いつも不意に現れては、いつも上機嫌なこの人が、僕は心底羨ましい。
この人は悩みなんて、これっぽっちもないんだろうな、きっと。
「どうしたの?キナリ」
「初めて他の奥方様と、ご対面されたので」
僕のかわりにツィーが答えた。
「そうか。じゃあ今日はゆっくり話でもしようかな。ツィー、下がっててもらえる?」
「かしこまりました」
アルナイルは僕に近づくと、ベッドに腰をかける。
僕は正直、この人の香りが苦手だ。
アルナイルが見に纏うジャスミンの強い香りは、嗅いだだけで………体がファーッと熱くなってしまうから。
「疲れた?」
「……はい。………あの、アルナイルさん」
「何?」
「僕は、あなたに必要ですか?」
「どうして?」
「あんなに素敵な方々ばかりいらっしゃるのに。みなさん、あなたの事を心から思っています」
「………キナリ、は?」
アルナイルの顔が目の前に瞬間移動したと思ったら、肩を押されて、僕はベッドに押し倒された。
いつもの柔和な表情を浮かべているアルナイルなのに、その眼差しはいつになく真剣で。
その澄み切った瞳の青さに、僕は息をする事を忘れるくらいドキッとした。
………そう、言われても…なぁ。
「分かりません。………オメガとか言われても、はっきり言ってピンとこないし。それに………あなたといると、僕は………僕じゃないみたいなるから。人を好きになるとか、僕はそういう経験に乏しくて。だから………」
「だから?」
僕の肩を押さえるアルナイルの手の力が、グッと強くなる。
「あなたが僕を、ここに連れてきた理由が………分からない。………あなたが、僕に執着する理由が分からない、んです」
「違う」
アルナイルは、低く耳に残る響く声で言った。
あの時の、鏡の中から聞こえた、あの……声。
………その声に反応して、体が一気に熱くなる。
今まで経験がないくらい、顔まで熱くなって頭がグワングワンして………。
息も荒くなる上に。
変に感じてしまって前は勃っちゃうし、後の孔がヒクついてジワっと濡れてくるし。
あまりの、体の急激な変化に涙目になった。
………な、なにぃ?……これぇ……?
「………ぅ………ぁ」
「キナリは、どうなの?」
「………え……?」
「キナリは、ボクのこと………どう思ってるの?」
「………僕………は」
「ねぇ、どう思ってるの?」
「……っはぁ……はぁ」
「ねぇ、キナリ………どう、思ってるの?」
有無を言わさない、アルナイルの気迫。
それが今、全部僕に注がれている。
オメガバースとか、アルファとか。
ネットでググッたくらいで、深くはよく分からないけど。
………感覚で知った。
本能みたいなのが、僕の全てを支配するみたいに。
その本能がアルナイルに向かって、一筋の道標を示す。
「好き……」
「何?キナリ」
「好き………だ。………アルナイルが……好きだ」
体がマグマを宿したみたいに熱くなった僕は、待ちきれない衝動に駆られて、アルナイルの唇に僕のそれを重ねた。
キスをしただけで、脳が溶けそう………。
………もう、どうにかなりそう。
それくらい、アルナイルに今すぐ抱かれたい………。
「ヒートがきたんだね、キナリ」
「………ヒート?」
「ボクの子どもを、宿す準備ができた証。………ボクと番になる体ができた合図だよ、キナリ」
指を入れて解さなくても、僕の中はアルナイルのソレをすんなり呑みこんで、揺さぶるように奥まで突き上げる。
………ぁあ、気持ちいぃ。
セックスって………僕が妄想していたソレとは随分様相が違うけど………ゾクゾクするクセに、クラクラして。
………アルナイルと、離れたくない……離したくないと思った。
「………っふぁ………あぁ……あん」
「………キナリ………噛みたい」
涙でボヤける視界を凝らして、飛びそうな意識の中、僕はチラッと確認したアルナイルの表情。
いつもの穏やかで、優しい表情とは違う。
本能丸出しの、野性味あふれる、その表情が。
僕をさらに淫らにさせて………。
………なんだかもう。
アルナイルになら、何をされてもいいと思ってしまった。
ゆったりとした、オフホワイトのシルクでできた貫頭衣みたいな。
鮮やかな細い帯で上着を腰の辺りをキュッとしばると、いたってシンプルな服は、たったそれだけで途端に華やかな装いになる。
ツィーはさらに、華奢なデザインのアルナイルと瞳と同じ色をした一粒石のネックレスを、僕に着けてくれた。
「素敵です、キナリ様!!どの運命のΩ様たちより、美しく輝いておいでです!」
僕を着飾ったツィーは、満面の笑みで言う。
それがツィーの本心なのか、思惑を含んだ下心アリな美辞麗句なのか。
滅多に褒められることのない僕は、たったそれだけのことに心底、居心地が悪かった。
「今日は、〝SOWの日〟ですから!!自信を持ってください!!キナリ様は、一番お美しいですから!!」
「…………ありがとう、ツィーさん」
「あっ!!これを!!これをお持ちくださいませ!!」
「何ですか?これ?」
「マダム・デネボラのカップケーキです!!皆さん、大好きなんですよ!!」
「僕はどっちかっていうと、チー鱈とかタコワサの方が、好……」
「キナリ様?」
僕がついウッカリ、自分の嗜好を口にした瞬間。
笑顔のままのツィーの気配が、一気に鋭くなる。
ツィーの綺麗な髪の毛が逆立っているような、そんな殺気立ったツィーの気配に、僕は何も言えずに固まってしまった。
「それでは、いってらっしゃいませ!!キナリ様」
「………は、はいーっ!!行ってまいりまーす!!」
半ばツィーの勢いに押されて、僕はカップケーキ満載のカゴを抱えて部屋の扉を開けた。
〝SOWの日〟
Super Omega Wivesーめちゃめちゃイケてる、オメガの妾たちの日。
アルナイルの選ばれし運命のオメガが、だいたい月一で集まって、お喋りをしたり、近況を報告したり………牽制しあったりする日……らしい。
要は、運命のオメガ同士仲良くして、抜け駆けしないように互いが互いに釘を刺す。
表面上の、付き合い………みたいな?
そういうのも異世界にあるなんて、さぁ。
どこの世界も、大して変わらないじゃないか。
それでも僕は。
13番目の僕は、13番目らしく。
目立たず、でしゃばらず、粗相の無いように。
〝いつもの僕〟でいれば、いいんだ。
でも、一気に12人………覚えられるか?
そんなぼんやりしている僕を察してか。
ツィーは、似顔絵付きカンニングペーパーを僕に持たせてくれていた。
名前と特徴のある似顔絵と、だいたいのヒトトナリと。
ツィーお手製のそれは、本当に上手で、それでいて的を得ていて。
僕は吹き出しそうになるのを、必死でこらえる。
………ツィーは、すごい才能を持ってるなぁ。
「本日皆様にお集まりいただきましたのは、言うまでもなく。アルナイル様の13番目の運命のオメガとして、ワタクシたちの仲間となった方のご紹介をいたしたくて」
ズラーっと勢揃いしたオメガワイブズの、上座の一番奥に座っている、物凄いオーラを纏った美人が口火を切った。
………あぁ、この人は……1番目の運命さんだ。
薄い桜色の艶々した髪を靡かせて、同じ色の大きな瞳で周りを見渡すその人は、ツィーのカンニングペーパーによると、ミモザさんという人らしい。
「あなた、自己紹介をしてくださる?」
不意に話を振られて、起立の体勢を取った僕は、危うくカンニングペーパーを落としそうになってしまうくらい、動揺した。
「あ………あの。僕は、ユ………キナリと言います。よ、よろしくお願いします」
………一瞬の、沈黙の後。
「どちらからいらしたの?」
「漆黒の目と髪だ……。初めて見た」
「ヒートも未だなんじゃないか?」
僕の自己紹介が悪かったのか、珍しい形の割には地味なのが災いしたのか。
僕が一言発したと同時に、先輩ワイブズたちが一斉にヒソヒソ喋りだす。
〝どちらから?〟と言われましても、うまく説明できないんです、ごめんなさい。
日本人特有の髪色と彩光の色に、ここまで食いつかれるとも思わなかったし。
だいたい、あなたたちがパステルカラー過ぎるんですよ。
僕だってここに来て初めて、地毛がピンクやら水色やらの人間を見たんだってば。
………身の置き所が、見当たらない。
「みなさん、お静かに」
凛とした澄んだ声が、ヒソヒソ話す声を制し、一瞬で室内が静かになった。
「みなさん、もうキナリ様のことは覚えられましたね?キナリ様が、みなさんの大好きなカップケーキを持ってきていただいたことですし、ご歓談しながらキナリ様と仲良くなりましょうね」
………救われた、というか………完全に眼中に無い、というか。
ここにいる全員は、僕がどんなヤツか色んな想像を巡らせて、戦々恐々としていたに違いない。
そんな中に現れたのが、容姿こそは珍しいけど、いたって平凡なパッとしない喪男の僕で。
きっと、この時点で。
僕はツィーの思惑から、ずーっと遠くにいる存在なんだなぁと実感したんだ。
「いかがでしたか?!みなさん、カップケーキ喜ばれたでしょう?!」
「うん、本当助かったよ。ありがとう、ツィーさん」
「それで、ちゃんとアピールされましたか?ガツンとかましてこられましたか?」
「まぁ……うん。それなりに自己紹介はしてきたかな?」
「みなさん、キナリ様の美しさに驚かれたことでしょう!」
そう満足げに笑うツィーに、僕は若干、胸が痛くなった。
違うんだよ、ツィー。
僕は目立たず、出しゃばらず、粗相の無いように。
ただひたすら、カップケーキにかぶりつき、それをトウモロコシみたいな味がするお茶で流し込むという作業をひたすら繰り返して。
そんな僕にワイブズの諸先輩方は腫れ物でも扱うような態度でさ。
………気疲れすること、この上なくて。
このままシレーっと、戦線離脱したい。
元々僕なんかいなかったんじゃないかって感じで、フェードアウトして元の世界に帰りたいんだよ。
「アルナイル様!」
身の置き所がなかった〝SOW〟の疲れがドッとでて、ベッドに横たわったっていた僕は、ツィーのうわずった声で体を起こした。
いつも不意に現れては、いつも上機嫌なこの人が、僕は心底羨ましい。
この人は悩みなんて、これっぽっちもないんだろうな、きっと。
「どうしたの?キナリ」
「初めて他の奥方様と、ご対面されたので」
僕のかわりにツィーが答えた。
「そうか。じゃあ今日はゆっくり話でもしようかな。ツィー、下がっててもらえる?」
「かしこまりました」
アルナイルは僕に近づくと、ベッドに腰をかける。
僕は正直、この人の香りが苦手だ。
アルナイルが見に纏うジャスミンの強い香りは、嗅いだだけで………体がファーッと熱くなってしまうから。
「疲れた?」
「……はい。………あの、アルナイルさん」
「何?」
「僕は、あなたに必要ですか?」
「どうして?」
「あんなに素敵な方々ばかりいらっしゃるのに。みなさん、あなたの事を心から思っています」
「………キナリ、は?」
アルナイルの顔が目の前に瞬間移動したと思ったら、肩を押されて、僕はベッドに押し倒された。
いつもの柔和な表情を浮かべているアルナイルなのに、その眼差しはいつになく真剣で。
その澄み切った瞳の青さに、僕は息をする事を忘れるくらいドキッとした。
………そう、言われても…なぁ。
「分かりません。………オメガとか言われても、はっきり言ってピンとこないし。それに………あなたといると、僕は………僕じゃないみたいなるから。人を好きになるとか、僕はそういう経験に乏しくて。だから………」
「だから?」
僕の肩を押さえるアルナイルの手の力が、グッと強くなる。
「あなたが僕を、ここに連れてきた理由が………分からない。………あなたが、僕に執着する理由が分からない、んです」
「違う」
アルナイルは、低く耳に残る響く声で言った。
あの時の、鏡の中から聞こえた、あの……声。
………その声に反応して、体が一気に熱くなる。
今まで経験がないくらい、顔まで熱くなって頭がグワングワンして………。
息も荒くなる上に。
変に感じてしまって前は勃っちゃうし、後の孔がヒクついてジワっと濡れてくるし。
あまりの、体の急激な変化に涙目になった。
………な、なにぃ?……これぇ……?
「………ぅ………ぁ」
「キナリは、どうなの?」
「………え……?」
「キナリは、ボクのこと………どう思ってるの?」
「………僕………は」
「ねぇ、どう思ってるの?」
「……っはぁ……はぁ」
「ねぇ、キナリ………どう、思ってるの?」
有無を言わさない、アルナイルの気迫。
それが今、全部僕に注がれている。
オメガバースとか、アルファとか。
ネットでググッたくらいで、深くはよく分からないけど。
………感覚で知った。
本能みたいなのが、僕の全てを支配するみたいに。
その本能がアルナイルに向かって、一筋の道標を示す。
「好き……」
「何?キナリ」
「好き………だ。………アルナイルが……好きだ」
体がマグマを宿したみたいに熱くなった僕は、待ちきれない衝動に駆られて、アルナイルの唇に僕のそれを重ねた。
キスをしただけで、脳が溶けそう………。
………もう、どうにかなりそう。
それくらい、アルナイルに今すぐ抱かれたい………。
「ヒートがきたんだね、キナリ」
「………ヒート?」
「ボクの子どもを、宿す準備ができた証。………ボクと番になる体ができた合図だよ、キナリ」
指を入れて解さなくても、僕の中はアルナイルのソレをすんなり呑みこんで、揺さぶるように奥まで突き上げる。
………ぁあ、気持ちいぃ。
セックスって………僕が妄想していたソレとは随分様相が違うけど………ゾクゾクするクセに、クラクラして。
………アルナイルと、離れたくない……離したくないと思った。
「………っふぁ………あぁ……あん」
「………キナリ………噛みたい」
涙でボヤける視界を凝らして、飛びそうな意識の中、僕はチラッと確認したアルナイルの表情。
いつもの穏やかで、優しい表情とは違う。
本能丸出しの、野性味あふれる、その表情が。
僕をさらに淫らにさせて………。
………なんだかもう。
アルナイルになら、何をされてもいいと思ってしまった。
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