通ずるは、君の汀。〜異世界に飛ばされたら、絶対的αの運命のΩになっていました〜

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「では!キナリ様が他の奥様達より、一歩リードしているということですね?!」


嬉々として声を上擦らせるツィーに、僕は相談する相手を間違えたと後悔した。


そうだった………。

元々ツィーは、僕にアルナイルの〝一番〟になって欲しいと、切に願っていたんだった。


ヒートのせいで、一番重要なことを忘れていたよ………。


そういうのに、なりたくないんだってば。


元の居場所も………僕は喪男だし、まぁ、そんなに際立って幸せではなかったけど。
元の居場所に帰れないのなら。
緩やかに、波風立てず、穏やかに過ごしたいと思うのは僕のワガママでは無いはずだ。
注目されるとか、妬みとか、恨みとか、そういうのに慣れてないし。


何より、それは僕の性分に合わないよ………。


………パステルカラーの人たちだらけのココじゃ、モノトーンの僕は、目立って仕方がないんだけど。


「じゃあ、明日のSOWでは、奥様達に一発ガツンとかましてくださいね!」
「かます、って何をかますの?」
「『アルナイル様は、キナリ様のものです!』って言ってください!」
「ツィーさん、大事なこと忘れてない?」
「はい?」
「僕、アルナイルと〝番〟というものに、まだなってないんだよ?」
「関係ありません!今からです!」
「今から、って言ってもなぁ」
「言っても、なんなんです?」
「僕がいくらアルナイルに〝愛してる〟と言っても、〝好き〟と言っても。
アルナイルは全く納得してくれないんだ。
いつも……いつも言うんだよ。
『ちゃんと愛して。ちゃんと思い出して』ってさ。
僕はその答えを見つけるまで、アルナイルと番にはなれない」


僕は、ツィーと目を合わせられなかった。


ツィーの期待に応えられる自信がない。

アルナイルの答えに近づく自信もない。


ココで一番好きな海が見える窓に目を向けて、なるべくツィーを見ないように、僕は続けた。


「……僕が答えを見つけられずに、グズグズしている間にも、アルナイルは気が変わってしまうかもしれない。
ミモザさんやエニフさんが、アルナイルの1番になってしまうかもしれない。
………そうしたら、僕は。
僕はどうなっちゃうのかな……?
元々いた世界に帰る方法もわからない。
ココでどうやって生きていけばいい?
僕はココを追い出される?
…………ツィーさん、僕は………いつ割れるのか分からない、薄氷の上にいるのかもしれないね」











暗いよ、寒いよぅ………。


ここから出して、お母さん!


もう悪いことしないから、お父さん!


泣きすぎて、喉が痛くて。

目の周りが熱くて、腫れぼったくて。


暗い上に、蔵の中に置いてある古道具から、カタカタ変な音がするから怖くて仕方がない。


肌寒くて、眠たいのに眠れない。


蔵の隅っこで身を小さくして、両手で体を抱きしめた。


とにかく、誰かにこうして欲しかった。

それが無理なら、自分でするしかなかった。


………一人はイヤだ。

こんなの……イヤだ。

誰か……誰か………僕の側にいて!!


誰かっ!!


「どうしたの?」


暗闇の中、僕と同じくらいの子どもの声が蔵の中に響いた。


「……だれ?」


オバケ……?

ユウレイ……?

あんまり僕が、誰かを望んだから……?


僕は怖くて震える体から、ようやく声を絞り出して言った。


暗くて姿が見えなくて。

僕は本当に……本当に、怖かった。


ふっ…と。


僕の肩に、温かくて柔らかな何かが触れる。
瞬間ふぁーっと、花の香りが僕にまとわりついた。
そして、暗闇の中から、嬉々とした声が響いたんだ。

「……見つけた。やっと、見つけた」












「………久々に、見たなぁ」


懐かしいんだか、トラウマなんだか分からない夢からの目覚めに、僕は思わず本音を口にした。

こっちの世界に来てから、初めてかもしれない。
元々の世界にいた頃の夢なんか………。
しかも、幼い頃の恐怖でしかなかった蔵の夢だなんて。

僕はいつの間にか、窓辺の長椅子で寝ていたらしく、僕の体にはツィーがかけてくれたのか、小さなブランケットがかけられていた。


夜に……なっちゃってたんだなぁ。


ゆっくり体を起こして。
窓の外を見ると、月明かりが漆黒の海を照らして、そこだけがキラキラして。

ここには、月が2つあるから。
余計に明るくて………全然、怖くない。

蔵の中は小さな窓があるものの、とても高いところにあったから、小さな僕はそこに手が届かなくて、月明かりさえ入らなくて………だから、怖くて怖くて、仕方がなくて。


………なんで、こんな夢見たのかな…?


僕は膝を立てて、その上に頭を置いた。


毎夜毎夜、アルナイルにめちゃめちゃに溶かされるくらい抱かれて、夢なんか見る暇すらなかったからかな……。

日中、ツィーが僕にひっついて、鬱陶しいくらい話しかけてくるし。


………元々の僕がどんなんだったか、なんて。


思い出す暇もなかったし、考える余裕すらなかったし。


昼間に漠然と渦巻いていた胸の内を、ツィーに話したからかもしれない。


僕がアルナイルの問いかけに、「作麼生!」「説破!」くらいの勢いで答えることが、無事できたとして。

無事、かどうかは未だ分からないけど、アルナイルの番になったら、本当にそれでいいのか……。

問いかけに答えることができずに、番になれなかったら、どうなるのか……。

僕のことを「いなくなった!」って心配してくれる誰かが、元々の世界にいるのかどうかとか……。


色んな不安や柵が、束になって輪になって。


一気に僕に襲いかかるから、頭も心もキャパをオーバーしている気がする。


「キナリ」


突然、僕の体の体温を条件反射的に上昇させる〝あの声〟が、室内に響いた。


「アルナイル」

「どうしたの?眠れない?」


いつもの穏やかな笑顔で、アルナイルは長椅子に座っている僕の背後に回りこんで座ると、そのたくましい腕を、僕の体を後ろから包み込むようにして抱きしめる。


「………うん。昔の、夢を見てしまって」

「昔の?」

「小さい頃の記憶……かな?
……僕、小さい頃悪い子だったから、よく蔵の中に閉じ込められてて」

「……そう。それで?」

「蔵の中は、暗くて寒くて寂しくて。
……ある日、子どもの声で僕に優しい言葉をかけてくれた時があって。
………あったかくて、優しい香りがして僕は一瞬だけ不安じゃなくなったんだ」

「キナリ」

「座敷童子だったのかな……?父も母も、兄弟ですら信じてくれなかったから、あれは夢だったのかなって」

「……32点」

「は?」


夢の中の話を月夜にかまけて、ノスタルジックに話していた僕に対して、その内容に評価をつけるように、点数を言い放ったアルナイルに僕は言葉を失った。


作り話的に32点なんだろうか、はたまた、僕の喋り方が32点なんだろうか。


「惜しいけど、惜しくない。もうちょっと、ちゃんとボクを愛して、キナリ」


「え?」

「ちゃんと………思い出してよ。キナリ」

「アルナ……っぅあっ!!」


どうして?!アルナイル、なんで?!


と、僕が聞こうとした瞬間、アルナイルは僕の足を大きく広げた。


僕を優しく抱きしめていた両腕は、片方は僕の乳首をキツく弄り出して、片方は僕の前を尋常じゃないくらいの速さでしごき出す。


驚いて腰が浮いた僕の後ろの孔に、アルナイルが間髪入れずその〝極〟のついたものを勢いよく突き上げた。


「ひぁ………ぁあっ………深……深……いぃ」

「ボクはこんなにも、キナリを愛してるのに。
キナリのことを1日足りとも忘れたことはなかったのに。
早く………早くボクに追いついて……キナリ」

「んんっはぁ、………こ、れ……や、……いやぁ」


あっという間に、後ろが溢れんばかりに濡れてきて。


前が我慢できずに、勢いよく飛沫をあげる。


乳首が痛いくらいにコリコリしだして、僕の体が勝手に反り返った。


「やらぁ………おかし…く、な……る」

「おかしくなって……キナリ。
おかしくなって、全てをリセットして。
そして、ボクを愛して……愛して!!」


そうアルナイルが言った瞬間、僕の体はアルナイルから一斉に攻撃されて、意識が真っ白になってしまった。


………夢か、現か。


あの時、蔵の中で聞いた小さい子どもの声が、鮮明に頭に響いたんだ。

「大好きだよ!ボクがそばにいてあげる。
そのかわり、ボクのことも大好きになってくれる?」
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