最強の竜騎士団長は、すべてが妹♡至上主義!

黒いたち

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第二章 臣下とは王のために存在する

それぞれが果たす使命

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 うすぐらい地下に悲鳴がひびく。
 ブラットリーが男に溶けこんでいく――いや、男がブラットリーに侵食しんしょくされていく。
 融合ゆうごうと呼ぶには、あまりに一方的な蹂躙じゅうりんだ。

 男のかたちが溶けて、再構築される。
 ねじれた双角そうかく、黒ずんだ肌、髪は白く変色し、いびつな翼が生える。
 まるで爬虫類はちゅうるいを人型にしたような姿だ。
 異形いぎょうは激しく首をふり、胸をかきむしる。

「すべてをゆだね、すべてをうけいれろ。高貴なる血に屈服することは、ひとの本能であり本質である」

 唇が不自然に動き、ブラットリーの声を発する。
 しかしすぐに白髪はくはつを振りみだし、おぞましい声で叫ぶ。

「――ぼくに従え、ダグ・ストーン。おまえの望みを叶えてやろう」

 異形は頭をかかえて、うつむく。
 いびつな翼が痙攣けいれんして、動きが止まった。



――いまのは何だ。

 ギルバートは石壁にすがって立ちあがる。
 見たことが、しんじられない。
 人間が、悪魔のように他者に溶けこみ、異形いぎょうとなった。

――ブラットリーは人間だ。でも異形からは悪魔の気配がする。

 奔放ほんぽうなイブリースに、魔界まかいに連行されること数十回。
 経験則けいけんそくから、ギルバートは「悪魔」か「そうでない」かを見分けることができた。

――悪魔を貸す? ずっと体内で飼っていた? 王族特有の能力か、術具か、それとも……。

 さまざまな疑問が浮かぶが、なにひとつ確証かくしょうがもてない。
 しかしこれだけはわかる。

――あの異形を生かしてはおけない。

 たとえそれが、ブラットリーを殺すことになっても。



 ギルバートは全速力で飛翔する。
 岩壁にとびつき、魔術剣をもぎとる。
 手になじむつかに魔力を流し、ふりむきざまに払う。
 漆黒の残光がはじけて伸びる。
 凶悪に膨張した刃を、異形のくびにたたきつけた。

 みみざわりな音と火花が散る。
 斬撃ざんげきをうけとめたのは、無造作に上がる白銀の小刀。
 異形のくびはつながったまま、赤い瞳がこちらを向いた。

「――むだだよ。この術具じゅつぐは、すべての剣技を防ぐ」

 聞きなれた口調に、ギルバートはなまりを飲んだ気分がした。

「……ブラットリーか」
「意識下ではそうだね」
「ダグは死んだのか」
「まさか。勝手に死霊術士ネクロマンサーにしないでよ」

 そう言って、異形いぎょう――ブラットリーは小刀をはらう。
 術具による凄まじい力、ギルバートは鍔迫つばぜりあいを避けて、飛びのく。
 せまい地下室、天井に翼をうちつけて、バランスがくずれた。
 ブラットリーは跳躍ちょうやくする。
 飛行には貧弱な翼、だが落ちるギルバートよりははやい。

 白刃が突き出される。
 ギルバートは魔術剣の刃先をからめて、横にさばく。
 ブラットリーの体勢がくずれた。
 がらあきのどうをねらい、魔術剣を斬り上げる。
 白銀の小刀が割って入った。その尋常ではない速さ。
 甲高い金属音とともに、ギルバートの剣を押しとどめた。

 ギルバートは息をのむ。
 渾身こんしんの力を込めるが、そこから腕が上がらない。
 ブラットリーの剣技は稚拙ちせつだ。しかし鉄壁てっぺきの防御に、なすすべがない。

 ギルバートは刃をすべらせ、膠着状態こうちゃくじょうたいから脱する。
 すぐに後方に退しりぞき、間合いをとって魔術剣を構えなおした。

 必死なギルバートに対して、ブラットリーは余裕よゆうだ。
 高性能な術具もさることながら、彼は無傷だ。
 ギルバートは一太刀ひとたちごとに体が重くなっていく。
 右足を伝い、地面にあかい液体がしたたる。
 ギルバートの残った体力と魔力が、いっしょに流れて消えていく。

 術具じゅつぐがすべての剣技を防ぐなら――それ以外で勝つしかない。
 視界の端で光るのは、手首に残った白銀の輪。

「――邪魔だ!」

 漆黒の刃をぶつけて、横に一閃。
 白銀の輪に切れ目がはいり、真っ二つに割れておちた。

 ブラットリーは瞠目どうもくし、あわててギルバートに飛びかかる。
 ギルバートは身を反転させ、部屋の中央までける。
 空中で魔術剣を左手に持ち替え、右手首の輪を壊した。
 動きながら斬ったために皮膚まで切れたが、白銀の傷よりマシだ。

 地面すれすれに下降し、魔術剣で寝台しんだいの足を薙ぎ払う。
 先端におもいきり体重をかけ、直立させてたてにする。 
 そのかげに逃げこみかせいだ数秒、左足の輪を剣先でいて壊した。

「あとひとつ――!?」

 寝台がこちらに倒れてきた。
 ギルバートは刹那迷い、右に飛びだす。
 そこにはブラットリーが待ち構えていた。
 輝かしい小刀を手に、お見通しと言わんばかりに口角を上げる。
 ギルバートは剣柄つかをにぎりしめ――。

「やかましい!!」

 怒気をこめて、魔術剣をブラットリーに投げつけた。

「ぼく、なにも言ってないけど!?」

 ブラットリーは抗議しながら、飛んでくる剣をかわす。
 すぐに小刀を構え直すが、ギルバートがふところに入るほうが速い。
 ブラットリーは目を見開く。
 ギルバートはにぎったこぶしを、異形の頬にたたきこんだ。

「――ざまあみろ!」

 晴れやかに言い放ち、よろめくブラットリーをすりぬける。
 落ちた魔術剣をつかんだ直後、右足首を引っ張られた。
 傷からの激痛に体が固まり、そのすきに引きずり倒される。
 せまる床に、ギルバートは両手をついて、激突を回避する。
 身をひねって足首をとりもどし、おおいかぶさってくるブラットリーに膝蹴ひざげりをかます。

「――触手しょくしゅみたいなマネしやがって!」
「怒っていいのは、ぼくだよね?」

 ブラットリーはギルバートを組み敷く。腹に馬乗りになり、体重をかける。
 ギルバートは不利な体勢から抜け出そうと、めちゃくちゃに暴れる。

「ギルくん、いい提案があるよ!」

 ブラットリーは明るい声で、白銀の小刀をふりおろす。
 とっさに魔術剣で受け止めたギルバートは、歯がみする。
 避けるべきはずの、鍔迫つばぜりあいだ。

「言ってみろ、ブラットリー! ひまだから聞いてやる!」

 上からの圧倒的な力に、ギルバートの腕はガタガタと震える。
 ブラットリーは身をかがめ、声をひそめた。

「ぼくのものになるなら、なんでも言うことをきいてあげる」
「――は?」
かごの鳥にしようというわけじゃない。まずは一日、ぼくの好きにさせてくれるなら、この実験を廃止すると約束しよう」
「悪魔お得意の“約束”か」
「知ってるんだ。じゃあぼくが絶対に約束を破らないことも、理解できるよね」

 ブラットリーの笑う気配がした。
 逆光で、彼の表情は見えない。

「さあ、どうする? 稀代の魔人。――断れば、腕をもらう」

 ブラットリーの手に力が入る。
 白銀と相殺され、魔術剣の漆黒が薄まっていく。
 気合で魔力をぶちこむが、相殺の速度にかなわない。
 血も魔力も不足して、ギルバートの目がかすむ。
 白銀の小刀に押され、魔術剣がギルバートに接近する――敗北が、ちかづく。
 ギルバートはおおきく息を吸い込んだ。

「――俺のすべてはアンジェリカためにある! 貴様なんぞに渡してたまるか!!」

 刃から漆黒の魔力が消失し、ただの金属にもどる。
 白銀の小刀が、ギルバートの魔術剣をはじきとばした。

「だいじょうぶ、ぼくは主治医だ! 死なないように処置してあげる!」
 
 白銀の小刀がぎらついた。

「――イブリース!!」

 名にを込めて叫ぶ。
 悪魔は意を理解し、ギルバートから離脱りだつした。
 ふりおろされた白銀、そこにみずから二の腕を突き刺す。
 魔人といえども生身なまみなら、切断に至らないのは実証済みだ。

 ギルバートは歯をくいしばり、柄まで二の腕を押しこむ。
 驚愕するブラットリーの、手首を両手でつかみ、一気にへし曲げる。
 ボキリ、と鈍い音がした。
 強いのはあくまで術具。ブラットリーの手首ではない。

 ブラットリーの手からつかが離れる。

 ギルバートは二の腕から小刀を引きぬき、逆手のまま突きだす。
 ブラットリーは反射的に利き腕をあげて、防御する。
 悪魔と融合した体・・・・・・・・では、白銀は防げない。
 祝福された刃先は、異形の腕を軽々と突破とっぱする。
 ちぎれる肉片は盾にはならず、白銀はくぎんの閃光が、無防備むぼうびな喉笛をった。





 ギルバートは立ちあがる。
 駆け寄ってくるイブリースを手で制し、右足をひきずりながら数歩あるいて、床に腰をおろす。

 差し向かいには、異形の魔人。
 倒れた寝台に背中を預けて、ぐったりと座りこんでいる。
 喉からおびただしい血をながし、首は不自然にかたむいている。

 ブラットリーとも、ダグとも違う姿。
 目に焼き付けるように、ギルバートはその姿を直視する。
 うつろな瞳がギルバートをとらえ、ゆっくりとまたたいた。 

「……つけ、てよ」

 ブラットリーは残った手をひらく。
 そこにあったのは、虹をとじこめたアイリスクオーツ。
 片方だけのピアスには、彼の血がこびりついていた。

 ギルバートは腕を伸ばして、それを受けとる。
 右耳につけると、三連のチェーンが揺れる感触がした。
 無言でブラットリーを見つめる。
 彼はまぶしそうに目をすがめ、ゆるやかに微笑んだ。

「……ああ……とっても、きれい……だ」

 ブラットリーのまぶたが下りる。
 血のような赤い瞳、その理由は永遠に閉ざされた。
 彼の呼吸音に、笛のような喘鳴ぜいめいが混じる。
 ギルバートは目をそらさない。

 ブラットリーはちいさく息を吸って、呼吸を止めた。
 
 ギルバートは最期まで見届け、目を伏せる。
 急激に全身の力が抜けた。



『――ギル!!』

 意識を失い、かたむく体をイブリースは抱きとめる。そのあまりの冷たさに、ぞっと背筋せすじを凍らせた。
 出血のせいで体温が下がっている。傷は深い。すぐに止血をしなければ。だが。
 
『よりによって白銀の傷ばかり! 僕じゃ治せない!』

 ギルバートをかき抱き、イブリースは歯噛みする。
 空間転移しようにも、行き先に迷って実行できない。
 どこに行けば彼は助かる。
 主治医はいま殺した。
 ブレイデン公爵家に飛んだところで、彼を治せる人間はいない。
 治癒魔術に長けた、ギルバートの絶対の味方など――。

『――エリオット!』

 一介の人間の魔力を追うには、すさまじい労力が必要だ。
 しかし彼とは「約束」を交わしたばかり。結んだ魔力をたどれば、彼のもとに飛べる。

『なんの因果いんがだ!』

 憎々しげに吐き捨て、清廉潔白せいれんけっぱくな魔力のありかをつきとめる。
 聖騎士は言わば天敵、乗り気もしなければ、嫌悪感しかないが、最愛の主の命には代えられない。
 イブリースは地団太を踏んで、エリオットのもとに空間転移した。
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