精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
243 / 329
オヤの街のハーフリングとオーク

243.靄の声

しおりを挟む
 ウッダとの取引が終わり、俺としては早く退散したいのだが、ハーフリング族は退くことはない。俺達を行動を防ぐように、一定距離を保ち監視している。

 出来れば短剣の事がバレる前に、この草原からさっさと退散したい。あの光る短剣がオークの魔石を壊すための特効武器にはなり得ない。
 勘違いしたのはハーフリング族だし、俺は決して嘘を付いたり騙してはいない。少しだけ勘違いするような行動をしたが、ハーフリング族の欲望で濁った目が真実を見抜けなかっただけ。
 しかし、光る短剣も十分に価値のある武器なので、取引としては成立する。オルキャンが命がけで作り出した死霊特効の武器は、上位種のリッチでさえも一撃で仕留める。ただ折れた長剣からつくり出したものなので短剣は2本ある。俺としては、交換しやすい取引であったとはいえる。
 スキルや魔法を極めれば上位種を倒すことも可能になることは分かったが、そこまで極めた者は数える程しかいない。

「それにしても、ウッダはしつこいな」

『それだけ守護者の秘密を知っているあなたがハーフリング族にとって都合悪いんでしょ』

「守護者と戦って生きて戻ってきた者がいないっていうのは···」

『そういうことね。遠くから監視している割には、守護者の事を詳しく知りすぎているもの。生き残った者から情報は得ているはずよ』

「もちろん俺達に危害を加えるのは、契約の範囲外だよな」

『ええっ、残念ながら範囲外ね♪もういい加減に諦めて、ロードとの約束を果たしたら?』

「繰り返すけど、俺はオリジナルと会う約束はしていない!」

『だけどオリジナルが出てきたら、ハーフリング族も退散するわよ』

「ムーアの目的はそれだじゃないだろ」

『クックックックッ』

 ムーアの笑いが込み上げてくる。コピーのスキルであってもキングのスキルを吸収するつもりはなかった。しかしウッダとの取引で、上手く利用されスキルを吸収させられてしまう。

『折角なら、オリジナルのスキルを確かめてきたら?どこまで差があるかを知っておいても損はないでしょ』

「んっ、湿原に誰か近付いたか?」

 遠くに見える湿原に、急に黒い靄がかかり始める。それは暗雲が立ち込めたかのように黒くて分厚い。

 北東側の守護者は俺達が倒したばかりで、ハーフリング族で近付いていく者もいない。
 東側の守護者はまだ健在だから、残るのは守護者のいなくなって時間が経つ北側。しかし守護者にも勝てないのに、オリジナルに安易に近付く者なんているのだろうか?

「カショウ、少しずつ異臭が薄くなルワ」

 ブロッサが逸早く空気の変化に気付く。守護者が倒されれば異臭が強くなり、それと同時にオリジナルが現れる。今はそれとは逆の現象が起こっている。

「もしかして、あそこに異臭が集められているのか?」

 草原に拡散されていた異臭が吸い込まれ、空気の流れが起こり風が吹き始める。それは徐々に強さを増し、じっと立っていることも難しくなってくる。そうなれば俺達よりも体の小さいハーフリングは、落葉のように風に巻き上げらてしまう。

「んっ、何の音だ?」

 それは風の吹く音ではなく、黒い靄から聞こえてくる小さな音。途切れ途切れでノイズのような雑音が混ざるが、ハッキリと聞こえてくる。

「聞こえるか?」

『何も聞こえないわよ』

「私も聞こえナイ」

 靄が濃縮される程に、次第にハッキリと声が聞こえてくる。それは、禍々しい負の感情で、怒りや憎しみに哀しみ、苦しみが入り混じり、一つの塊となり大きな叫び声となる。

『聴覚スキルが強化されたからかしら?』

「そうみたいだな。順番が違っていたら、俺はここで発狂してるよ!」

 凝縮された負の声を聞いてしまえば、まともな精神状態ではいられない。その感情に耐えきれずに、精神だけでなく体も崩壊してしまう。イッショやタダノカマセイレがいるからこそ、正気を保っていられる。

 さらに風が強くなると、地面に無数の亀裂が走る。分断された地面はジグソーパズルのように捲れ、吸い込まれるように空中へと巻き上げられる。

「全てを壊すつもりなのか」

 吸い込まれるように引き寄せられる、ハーフリングも土や石も途中で消えてなくなってしまう。

 陰魔法のシェイドは全てを吸い付くして劣化させる力だとすれば、この靄はそれとは真逆の力。溢れ出す負の感情を流し込んで、耐えられなければ内部から暴走させ爆発する。それには、人も精霊も石でも関係なく一瞬で塵としてしまう。

 そして、俺達も少しずつオリジナルの方へと引き寄せられる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...