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【5】知らない……怖い!※
しおりを挟む「あ、きゃっ!」
自分の口から飛び出た子犬の鳴き声のようなそれに、ラドゥはついに耐えられずに、己の口を両手で塞いだ。すると男はそれに気付いて胸から顔をあげる。
「声を堪えるな」
そして、ラドゥの手を口からはずしてひとまとめに片手で、自分の頭上に押さえ付けてしまう。もう片方のイタズラな指先は、たった今吸い付いてラドゥにとんでもない声をあげさせた、胸の飾りにかかる。そこを摘ままれ、先を軽くひっかくようにされて、ラドゥの口から「うぁ……」と熱い吐息が漏れる。
「なんでそんな…ところ……いじるな…ヘンに……なるっ!」
「ヘンではなくて、これは感じているんだ。気持ちいいだろう?」
「これが? し、知らな…いっ! こんな…のっ!」
ラドゥが最も知る感覚は痛みだ。殴られる蹴られる肉体のそれだけでなく。唇を噛みしめ、拳に爪を食い込ませて耐えねばならない屈辱の心の痛みも。
苦痛を与えられることならば慣れている。だが、こんな自分が自分で無くなるようなそれは知らない。
これが“快楽”だなんて。
「い、嫌だ……こんな…こんなの……し、知らな…い……こ、怖い……!」
指でいじられていない、もう片方の乳首にも吸い付かれて、声をあげれば「ここも真っ赤に熟れたさくらんぼのようだ」なんて言われる。
より濃密になった未知の感覚に口から思わずこぼれる声に、さらにラドゥは混乱してついに悲鳴をあげるように言った。
怖い……と。
不死であっても、身体に与えられる痛みはある。暴力を与えられた傷はたちまち治るにしても、身体と心を引き裂かれた痛みの記憶は残る。
恐怖はいつでもあった。死なないのに死ぬかもしれないと思った。重い甲冑に身を包んでいた中の身体は、剣を握る手は、戦の前はいつだって震えていた。
だが、痛いと怖いと泣いていたのは幼い子供の頃のこと。いつしかラドゥは歯を食いしばり、それを押し込めるようになった。
「これは怖いことではない」
まるで幼い子供に言い聞かせるような男の低く柔らかな声が、耳をうつ。まなじりに口づけられて、ちろりと舌でなめられて、その目元の熱さに己が瞳を潤ませていたことを知る。かあっと、また頬が熱くなる。
「急くつもりはなかったが。いや、私も若いな。少しでも早く、お前が欲しくて」
組み敷かれていた体勢から、幼子のように膝に抱きあげられる。そして本当に小さな子にするように、大きな手で頭をなでられた。長い褐色の指が、自分のものとは思えない、淡い金色の髪を指で絡めるのを見る。端正な唇がその毛先に口づけるのも。
「ああ、だが“怖い”だけではなく、お前も感じているな」
「え? あ…ぅ……」
ガウンを脱いだ裸の姿なのだ。白く細い太もものあいだに手がすべらされて、髪より少し濃い色の金色の茂みから、薄紅の頭をもたげる己の雄芯を握りしめられて、ラドゥは目を見開いた。
実のところ、己のそこがそうなったのを見たことは、ラドゥは一度もなかった。己には醜い身体と不死の代わりに、その機能さえ失っているのだと、そう思っていたぐらいだ。
「よ、よせ……ふぁ……」
「大切に可愛がってやろう。これも“気持ちいい”」
まるで教え込むように耳に低い声がふきこまれる。己を握りしめる男の手を引き離そうと、ラドゥは手を伸ばしたが、ゆっくりと擦られて、先を親指の腹でなぞるようにされて、男の大きな手にかかった細い指が滑り落ちる。
「あっあっ、やだ!」
「やだではない。イイんだ」
「し、しらな…い……あああっ!」
他人の手どころか、自分の手さえ知らないラドゥだ。たちまち張り詰めた薔薇色の雄芯は、耐えることなくはじけて、アジーズの褐色の指を白く濡らす。
その手が己の足のあいだから離れていくのを、達したけだるい身体でぼんやりと見る。持ち上げられるのに視線をめぐらせ、男の舌がぺろりと舐めるのに、大きく紫の瞳を見開いた。
「そんなものを舐めるな!」
「そんなものではない。ラドゥが私の手で初めてこぼした白蜜だ」
「ゲテモノ食い!」と言えば「またそれか」と不敵に笑われる。
やられっぱなしは悔しいと、カフタンの腰元をおおう布の前を開いて、はいていたゆったりしたズボンを押し下げて、飛び出してきたものに、目を見開く。
「これは蛇か?」
「そう見えるか? 私の一部だぞ」
赤黒くて太くて長くて鎌首をもたげている。とても、目の前の涼しい貌をした帝王の持ち物と思えないが、彼の股間にくっついているのだから、その一部なのだろう。
おそるおそる触れればどくりとそれがはねたのに、びっくりして手を引く。頭上でくすりと笑い声がしたのに、ラドゥはむうっと唇を尖らせて、再び手を伸ばして今度はむんずと、その太くて長くて赤黒い蛇を掴んだ。
「乱暴にするなよ。そこは繊細だ」
頭の上からまた声がする。一瞬、ぎゅっと握りしめてやろうかと思ったが、ウラキュアの民を人質にとられていることを思い出した。
男がさきほど自分にしたように手を上下に動かす。片手では足りずに、両手なのが悔しい。いままで興味がなかったが、戦場での兵士達の下世話な話を思い出す。ここの大きさが男の価値とは思いたくはないが。
数回しごくと、そこがますます大きく固くなったことに、ラドゥは菫の目を見開いて固まってしまう。
くすくすと笑い声がして、顔をあげて目の前の整い過ぎている男の顔をにらみつける。紺碧の瞳には愉快そうな色が浮かんでいた。
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■GPT
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