みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される

【35】物好き？戯れ？※

　　　



　黄のシニチェリは、帝王バーディシャー暗殺の罪を受けて解体された。シニチェリ創設以来、近衛を務めてきた歴史ある軍団はこうして幕を下ろした。
　軍団員たちは厳しい取り調べを受けた。暗殺の陰謀に直接荷担した団員達は、そのときにアジーズに斬られるか、ラドゥ襲撃の水牢に閉じこめられて溺死していた。首謀者とされる前母后用人のベルガンもまた、毒をあおり自死している。

　残る前母后のサフィエはアジーズの宣告どおり、旧宮殿から都の外の離宮へと移されることとなった。手足であったベルガンに黄のシニチェリは解体。かつては帝国の影の支配者とまで言われた彼女の凋落はあきらかだった。
　そして、もろもろに裁決を下したアジーズは、最後に宣言をする。

「我が唯一の夫人カドゥンであるソフィアを正妃ハセキとする」

　この言葉に、大宰相以下、高位の文官達は一人も異を唱えることはなかった。



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　そしてラドゥもまた、アジーズが直接やってきての言葉に「そうか」とひと言答えたのみだった。
　「怒らぬのか？」と聞かれてラドゥは思わず吹き出した。今さらになってこの男が自分の顔色をうかがうなんてだ。

「勝手に愛妾イクバルにされて、次は夫人カドゥンでソフィアなんて名前をつけたのはそちらだぞ。
　今度が正妃ハセキだろうが驚かん」

　自室の居間。気に入りの吊りソファーに半ば寝そべるような姿勢で答える。天井から吊されたそれの、ゆりかごのようなゆったりとした揺れが心地よい。
　太い腕が伸びて、そこから抱きあげられた。居間から隣の次の間へと入るのに、ラドゥは口を開く。

「湯浴みをしてない」
「あとで共に浴びればいい」
「ことが終わったあとか？　疲れて俺は寝てるぞ」
「赤子のように大切に抱えていてやるから、安心しろ」
「落としたら、二度と一緒に風呂に入ってやらんぞ」

　運ばれるあいだ、戯れるように唇を重ねながら、寝台へともつれこんだ。
　広い男の背に手を回し、うなじをたどる唇に「はあ……」と息をはく。
　今のやりとりはまるで睦言だ。
　いや、睦言だろうな。

「考えごとか？」
「やあっ！」

　胸のとがりのくぼみを爪でかりかりと軽くひっかかれて、その疼痛に声をあげる。この手にも、肌に押しつけられ吸い上げる唇にもずいぶんとなれた。
　初めは屈辱だったか？　
　いや、初めてでさえも混乱し抵抗しながら、その手の優しさにあらがえなかったのは事実だ。
　どうして、この男は男の自分を抱くのだろう？　

　物好き？　
　戯れ？　

　その答えはすべてが終わったあとに訊ねてもいいような気がした。