「俺、殿下は女だと思うんだ」

夏八木アオ

文字の大きさ
9 / 14

5. 謝罪と告白 - ①

しおりを挟む
同じベッドに寝るのも辛くてしょうがないのだが、エリーゼが朝や日中にスキンシップを取ってくるのもきつい。

指を絡ませたり、頬や手にキスをしたり、腕に触れたりする。朝起きた時、ちょっとした会話中や寝る前など、顔を合わせると俺に微笑みかけて、軽く触れる。

嬉しいけどきつい。ちょっとでも触ると続きがしたくなる。横に座って太ももに手を添えてきた時は流石にキレそうになった。

こっちはエリーゼのために我慢してるのに、俺を試すようなことばかりするなと思った。でもその怒りは理不尽だなと気付いて気持ちを鎮めた。

エリーゼは多分俺が触りたいと言ったら触らせてくれるはずだ。それを、気持ちがないと嫌だから触らないと決めたのは俺の方だ。

「もう!早く好きになってくれよ!」

どうやって好きになってもらえばいいか分からないし、それを確かめる術も無い。俺にはエリーゼが義務感で俺に触れているのか、俺のことが好きで触れてくれるのか全然分からない。

「よし、本人に聞こう」

分からないなら聞くしかない。
一回フラれても、結婚してるから何回でも方法を変えてアプローチできる。フラれて終わりの関係じゃなくてよかった。

次の休日に、一緒に出かけることにした。当日俺はエリーゼの支度を待ち、ソファでそわそわ落ち着かない気持ちでいた。

「チャールズ、お待たせ」

ドアノックの音からほとんど時間をおかずに扉が開き、エリーゼが中に入ってくる。

以前よりまた少し伸びた髪を一つにくくって、明るい色のスラックスと、深いグリーンのジャケットを着ている。
俺が贈った服だ。

「かっこいいな!似合うよ」

今日は二人で遠乗りをしようと思って、乗馬ができる服を贈った。

結婚してから、エリーゼはずっとスカートかドレス姿でいる。そろそろ周りの人にエリーゼとルイは別人という印象も強くついてきたから、エリーゼが男みたいな服装をしていても問題なさそうだと思った。
男装していた時は遠乗りが好きだったのに、俺と結婚してからは一度も馬に乗っていないはずだ。

「こんな男みたいな格好して大丈夫かな」
「うん。もう男には見えないよ」

胸も潰してないし、ジャケットの肩も柔らかく丸みを帯びたものだ。後ろから見ても男には見えない。

「心配だったら、魔法で目眩しもして行けばいいだろ?久しぶりに一緒に遠乗りしよう。好きだろ。ルイ……じゃない、エリーゼと出かけるの楽しいから、俺もまた一緒に行きたいと思って」
「うん、好きだよ。ありがとう」

意図せず『好き』という言葉を引き出してしまい、心臓が高鳴った。緊張と、期待と、よく分からない感情が混ざっている。

俺はエリーゼに好かれたいと思って、色々とやろうとした。
まずは名前を頻繁に呼んで、笑いかける。いつも以上にたくさん名前を呼んだ。相手の話によく耳を傾け、うなずき、肯定して、困っていたら手を差し伸べる。

ただ、好かれようと思ってやらなくても、その程度なら元々たくさん名前も呼ぶし、一緒にいると自然と笑ってしまう。話をするのも楽しくて、気付くと俺がたくさんしゃべっている。
困っていそうだったらすぐ助けようと思ったけど、エリーゼは基本自分でさっさと解決してしまう。どちらかというと助けてもらうのは俺の方だ。

他にできることと言えば、贈り物をすること。ルイによるアドバイスでは、あまり仲良くない相手から物をもらっても困るから、最初は消耗品、身に付けるものは好みがあるから恋人になっても注意すること、と、恋人がいない状態でも忠告を受けていた。

俺とエリーゼはすでに仲は良いから、贈り物をするのは構わないだろうということにした。
菓子や花、文具や小型の魔導具からスタートして、今日の服をプレゼントするまで少し展開が早すぎたかもしれない。でも他にできることも思いつかなかった。

エリーゼはいつも制服か、参加する茶会や夜会で一番近付きたい夫人に合わせてドレスを選ぶ。だからエリーゼ自身の女性用の服の好みは全く分からなかった。
エリーゼの養夫婦である伯爵夫人に手紙を書いて意見を聞いてみたり、身支度を手伝っているメイドに話を聞いてみたりして、そしてやっぱりよく分からなくて結局エリーゼ本人に聞いた。

理想を言えばサプライズにしたかった。ただ、以前ルイには「サプライズをしたいという自己満足のために反応しづらい物を押しつけない方がいい。サプライズしたいのか、喜んで欲しいのかどっち?」と言われたことがあった。
俺は喜んで欲しかったので、本人に好みを聞くという手段を取った。
気に入ってくれているように見える。

「あと、もう一つ渡したいものがあって」
「何?」

サプライズはサプライズをした時点で用済み。贈ったものにはさほど価値がない。ルイにはそれも言われたが、どうしてもサプライズもしたかった。

俺が唯一、エリーゼの好みについて自信を持ってこれだと言えるものがあって、それはエリーゼに何も言わずに準備した。

俺は一旦別室に行った。荷物を取って戻ってくると、エリーゼの目が丸くなる。俺が武器を持っているから驚いたのだろう。

「武具なら好みが分かるから、こっちはサプライズにした。びっくりしたか?」

軽くて細身。工房もルイの好きなところにしたし、意匠もほとんど任せた。俺のセンスが入ってないからエリーゼも気に入るはずだ。

唯一俺が指定したのは、柄の装飾に目立たないように俺の瞳の色を入れてもらうこと。そこは趣味と違うかもしれないけど、それくらいは許して欲しい。

「ちゃんと使用許可も申請して降りてるから、街中を佩刀して歩いて大丈夫だよ」

エリーゼは目を見開いた。

俺はこれをどこかに大切に飾って欲しくて用意したわけじゃない。エリーゼは剣より魔法の方が得意だけど、ちゃんと訓練を受けている。
長年一緒に努力してきた物をなかったことのように扱っているのが寂しくて、また剣を握って欲しいと思ったのは俺のエゴでもある。

「……ありがとう」

エリーゼはあまり嬉しそうではなくて、下を向いている。

でもこの顔は、本当は最上級に嬉しい時のはずだ。嬉しいけど感動してなんて言っていいか分からない時の顔のはず。
殿下から勲章を贈られた時に同じ顔をしていた。

「エリーゼ……?喜んでるよな?」

一応喜んでもらえている自信はあったけれど、あまりにも固まっているのでちょっと不安になってきた。
エリーゼははっと顔をあげた。

「うん。すごく嬉しい。嬉しくてどう反応していいか分からなかったんだ。本当にありがとう」
「よかった」

エリーゼは俺の手に触れようとして、少し躊躇った様子だった。俺から手を取ると、軽く目を見開いてから握り返してくれた。

「ありがとう、チャールズ」
「うん。また手合わせもしよう」
「そうだな。お手柔らかに頼むよ」

エリーゼはふっと笑った。ようやく笑顔を見ることができて安心した。
幸先は良さそうだ。

(できることはやったよな)

やることをやり切ったら、あとは本人に気持ちを聞いてみるだけ。
気合が入って手を強く握りすぎてしまい、エリーゼが眉を顰めたので慌てて手を離した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

しつこい公爵が、わたしを逃がしてくれない

千堂みくま
恋愛
細々と仕事をして生きてきた薬師のノアは、経済的に追い詰められて仕方なく危険な仕事に手を出してしまう。それは因縁の幼なじみ、若き公爵ジオルドに惚れ薬を盛る仕事だった。 失敗して捕らえられたノアに、公爵は「俺の人生を狂わせた女」などと言い、変身魔術がかけられたチョーカーを付けて妙に可愛がる。 ジオルドの指示で王子の友人になったノアは、薬師として成長しようと決意。 公爵から逃げたいノアと、自覚のない思いに悩む公爵の話。 ※毎午前中に数話更新します。

ミリしらな乙女ゲームに転生しました。

猫宮乾
恋愛
 父親の葬儀後、幼い弟の手を握っている時に甦った過去の記憶。主人公の私(リリア)は、ミリしらな乙女ゲームに転生してしまった事を悟った。未来の宰相補佐官×王族の裏の護衛の侯爵令嬢で固定のお話となります。他サイトにも掲載

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【本編完結】美女と魔獣〜筋肉大好き令嬢がマッチョ騎士と婚約? ついでに国も救ってみます〜

松浦どれみ
恋愛
【読んで笑って! 詰め込みまくりのラブコメディ!】 (ああ、なんて素敵なのかしら! まさかリアム様があんなに逞しくなっているだなんて、反則だわ! そりゃ触るわよ。モロ好みなんだから!)『本編より抜粋』 ※カクヨムでも公開中ですが、若干お直しして移植しています! 【あらすじ】 架空の国、ジュエリトス王国。 人々は大なり小なり魔力を持つものが多く、魔法が身近な存在だった。 国内の辺境に領地を持つ伯爵家令嬢のオリビアはカフェの経営などで手腕を発揮していた。 そして、貴族の令息令嬢の大規模お見合い会場となっている「貴族学院」入学を二ヶ月後に控えていたある日、彼女の元に公爵家の次男リアムとの婚約話が舞い込む。 数年ぶりに再会したリアムは、王子様系イケメンとして令嬢たちに大人気だった頃とは別人で、オリビア好みの筋肉ムキムキのゴリマッチョになっていた! 仮の婚約者としてスタートしたオリビアとリアム。 さまざまなトラブルを乗り越えて、ふたりは正式な婚約を目指す! まさかの国にもトラブル発生!? だったらついでに救います! 恋愛偏差値底辺の変態令嬢と初恋拗らせマッチョ騎士のジョブ&ラブストーリー!(コメディありあり) 応援よろしくお願いします😊 2023.8.28 カテゴリー迷子になりファンタジーから恋愛に変更しました。 本作は恋愛をメインとした異世界ファンタジーです✨

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...