オットマンの上で

刺客慧

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第七話:くるま交差点(上の下)

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(前回までのあらすじ)
 晴雄晴夫?
 残念、正解は晴御晴夫でした~。
 はーい、誤植多いので直しておきまーす。

 姉古川町市街地。

 十時を過ぎて人通りもまばらだが街路はビルの灯りや街灯でそこそこに明るい。自分たちのスマホを見ながら散歩?に興じるスウェット姿の若者が二人。

「お前の周り何出てる?」

「ゴリチーマーとカスチーマー、フケチーマー」

「ゴリ狩ろうぜ」

「お前武器何でいく」

「エイトフォー」

「じゃ、俺、掃除機の先っぽね」

「ハナクソたまってる?」

「たまってるー。ウィー」

「じゃ開始ブッパな」

 スマホを黙々とタップしている若者二人の横を車が一台通り過ぎた。

「ん、あれ、ワンダリングじゃない」

「え! マジで」

「だってほら、おせえし、運転席だれもいない」

「うわ、マジ初めて見た」

「俺三回目だよ」

「すげえな。あ、始まるぜ」

「オッケーー」

 無人の車が徘徊する現象をワンダリングというらしい。二人は何事もなかったようにスマホに目を戻した。

「ガ、ヒャヒャ。 ブッパ外すなよ」

「へっへっへっ、誠に遺憾いかんであります!」

「おりゃ、溜め打ちー」

「よし、大胸筋破壊」

「ハイ終わりー」

「ヨユーじゃん。フケチーマーもいこうぜ」

 ぶふぉおおおおおおおおおおおおおおお!
 ゲームに興じる二人の耳に男の雄叫おたけびと、犬の遠吠とおぼえが聞こえてきた。だんだんこちらに近づいてくる。
 
 聞こえてきた方向から猛スピードでマウンテンバイクが走ってきた。乗るのは目が血走ったデブ一人、カゴには何匹かぬいぐるみが入っている。
 遠吠えをあげているのはその中のトイプードル二匹だ。

「アオーーーーン。オンオーーーン。あ、おなら出ちゃったでしゅ」
「ウオーーン。コンコーーーーン。あ、間違ったでしゅ。オオーーーン」
「どけどけどけどけどけどけどけど」

 若者二人は歩道の脇に引いたが、自転車は彼らの目の前に急ブレーキで止まった。
 そもそも車道を爆走しているから、どくも何も、前には何もないのである。
 
 男は遠目で見た時もなにか頭を光らせていたが、その正体は頭に巻き付けた二本の懐中電灯だった。
 
 大汗をかき、肩で息をする男を二人は無言で見ていた。
 
 呼吸が落ち着いてくると、男は血走った目で二人をにらんだ。

「お前ら! 人の乗っていないコアラーを見なかったか! 4WDだ! 一度先輩に貸したら中で交尾した跡があった!」

「あ、いや……」

「えっと、この先に行きましたけど……」

「バカモン! そいつが俺の車だ!」

 二人は咄嗟に何も返せず、口を開けたままだった。

「はあ、そうですか……」

「頑張れば追いつけそうですね……」

「ん、お前ら何してんだ?」

「え、これチーハンナウですけど……」

「おいおいマジかよ! 今何出てる?」

「フケチーマー」

「狩ろうぜ、狩ろうぜ!」

 カゴに乗っていたぬいぐるみたちがギャーギャー騒ぎ出した。よく見たら、中には車のシフトノブまで乗っている。

「分かった分かった。いくよお。じゃ、ありがとな!」
 男はまた雄叫びをあげながらママチャリで爆走し始めた。

「ハルオもっとこいで!」

「ぜえっ、ひゅー。俺はかるた部のエース……」
 
 ママの実子、太一郎から無断で拝借はいしゃくしてきたマウンテンバイクは通学カバンを乗せるためにカゴ付きだ。カゴに乗っているのはジェイミー、ノブ子、メルザに双子である。
 ハルオは出だしかなり勢いは良かったが、家を出てから五分としないうちに体力が切れた。
ひゅー、ひゅー、ほひー、ほひーと肺から割とヤバイ音を出してハルオはついに車道のど真ん中で止まった。

「逆モデルちゃん、体力なさすぎ~」

「方向は分かったからタクシー拾おう」

 ジェイミーはいち早く、カゴから飛び降りようとしたが、ノブ子が、待って、と言った。

「ここじゃ、タクシーもそんなに来ないわ。もたもたしてると追いつけない」

「けど、今はそれしかないよ」

「前聞いたことあるんだけど、このバイク、ぬいぐるみ用アシスト付いてるみたいよ」

「え、なにそれ、怖いんだけど……」ジェイミーは知らないらしい。

「なんか~、ぬいぐるみ用にいろいろエグくなるって」メルザは即座に自分の端末で検索して動画を見せてきた。
 なるほど、とジェイミーは感心。

「すごいでしゅ。ボクうんてんするっ」
「ライ、ずるいよー。ボクがするんだよー」

「待った、待った。ハルオはどうしようか?」

「……、……」

 
***


 ノブ子はすでに見切りをつけていた。

 ハルオはジェイミーから登山用の酸素缶だけ渡されて。すぐそばにあったスナック『夜の託児所たくじしょ』に無事入店。スナックのママに早速、ポコポコとお腹を叩かれ遊ばれていた。

「さあ、さあ、行こう」

 サドルに乗ったのはジェイミーだ。レバーをメルザに引いてもらいレッツスタート!

 まずはサドルの座高があがり、前側にスライド。
 ペダルが伸びてジェイミーの足にフィット。
 ハンドルがT型からU型になり、ハーレーダビッドソン顔負けの究極のチョッパースタイルを再現。ここまでは動画通り。

 バッテリーかと思っていたフレームに取りついた黒い箱が変形。四つに割れて一つ一つがバイクのマフラーの形になったかと思うと、後輪の方ではなくフロントフォークに取りついた。そのまま火を噴きだす。

 双子は感動していた。

 対してジェイミーはあっけにとられていた。
(思ってたんと違う。これどうやって動かすの……)

 右ハンドルが回せるようになっていた。まさかと前にひねるとあっと言う間にバイクはカッ飛んで行った。
まっすぐではなく斜め上。

 ETのチャリンコの完全再現であった。

 
***


 ところでここはジェイミー達不在のオットマンの上……。

「エフィさん、僕らは一緒に行かなくてよかったんですか?」
 幼児型ぬいぐるみドンアマトルは飛び出していったハルオやジェイミー達を思い出してそわそわしていた。

「ほっこりするわ~」

「え?」

「あの双子の一生懸命なところ、ほっこりするわあ~」
 酒でも飲んだんだろうか、スカンク型ぬいぐるみエフィは自分の世界に浸っていた。

「ニュ? もっこり? あんたずいぶん古臭いこと言うのねえ」
 我らが主人公ペンギンちゃんの登場である。正直今回はエフィ共々お呼びでない。

「言ってませんー! ほっ、こ、り、よ! 耳腐ってんじゃないの」

「出た! 流行語ナマゴミ。アンタ、ほっこりとか言ってる自分がかわいいとか思ってるんでしょ」

「そっちが流行りについていけないババアなだけでしょ! いちいち絡んでこないで」

「ゲゲゲ。みんなあ! ほっこりとか言ってるこいつ、昨日酔っぱらって、なんて言ってたか知ってるー? ゲゲゲゲ! マ、ン、グ、リよおー!」

「言ってませんー! 嘘ばっ、かり」

 しかし周りからは予想に反する失笑とひそひそ声の嵐。
「いってたよね」
「たしかに言ってた」

「うぇし、まんぐりってなんすか?」アルビノゴリラのぬいぐるみエゴンは、ぷぷ、と笑いをこらえていた。

「僕もしらないです。マングリって何ですか??」こっちはピュアなドンアマトル。

「ほ~ら、みんな興味津々よ。マングリ、しないの? マングリ、すんじゃないの~お!?」

「ヤダ、このババア信じらんない!」
 エフィは顔を手でおおい去って行った。

「ゲゲゲゲゲ! ケツまっくり女ー!」

(続く…)
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