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第一章 運命の出会い
十三
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箸が止まっていた手を秀也に不思議がられて、拓海は秀也に魅入っていたなどと言えず、料理に意識を戻した。
拓海は南が言っていた事を思い出して「そういえば、池上君って」と話を切り出すと、秀也は「秀也で良いですよ」と言った。拓海は名前を言い直す事にして、まだ礼儀を持って「秀也君」と言おうとしたら、「僕は後輩ですし、呼び捨てで構いませんよ」と笑顔で付け足した。秀也は後輩という方便を使って、拓海と精神的に距離を縮めようとする。
拓海はそんな秀也の思惑を見透かしてあえて敬称を付けて呼んだ。
「……秀也君は、池上病院の息子なんだよね? どうしてウチの医大に来たんだ?」
「僕の事、知ってたんですか!」
秀也は敬称の事には触れず、拓海が南から教えてもらった事を口にしただけなのに、嬉々としている。
「あ、ああ、先輩が秀也君の事を知っていてね」
そう言うと、秀也の目は今度は何かを探るような目つきになった。
「昨日の人ですか?」と不満そうな声で言った。
昨日の人、そうか、昨日南先輩と会うまで立ってたんだっけ。
「うん、その人」と頷きながら言うと、秀也が黙ってしまった。
「……それよりも、なんで自分の親の大学にいかなかったんだ? ウチは私立だし、ほら、附属病院も池上病院より少ないだろう?」
「んー、それは……」と秀也は少し言いづらそうにしている。
「すまん、家の事情だったら言わなくていい、気になっただけだから」
拓海はそこまで深刻な問題があるとは思わず、ただ本当に些細な疑問から聞いただけだった。
言い渋っていた秀也だったが、拓海の「気になった」という言葉に、形の良い眉をピクリと動かした。
「はは、大丈夫ですよ、少し話が長くなっちゃうと思ったので、そうですね、色々ありますけど」と言って少し間を置いてから言った。話すことを簡潔にまとめているのだろう。
「大学の理事長と僕の父は古い付き合いがあって、それで父の大学より研究の設備が整っていたので、今いる大学に入学したんです」
「そうだったんだな」
よくあるα同士の付き合いかと思ったが、自分の意志もあるみたいだな。まあ確かにウチの大学は大学院生も多いし、そのまま海外の研究職に就いている先輩もいるからな。
「まあ、それで拓海先輩と運命的に出会えたので入学して良かったです!」
秀也は恥ずかしげもなく言った。拓海はその運命という言葉を聞いて手に力が入る。
幸せそうな顔をしている秀也に対して拓海の心は真っ暗だ。【運命】その言葉だけで、拓海は千本の針が心臓を突き刺すような痛みを感じる。
運命がずっと続くとは限らない。そんなもの信じても、いつかは人生を狂わされるだけ。
拓海は南が言っていた事を思い出して「そういえば、池上君って」と話を切り出すと、秀也は「秀也で良いですよ」と言った。拓海は名前を言い直す事にして、まだ礼儀を持って「秀也君」と言おうとしたら、「僕は後輩ですし、呼び捨てで構いませんよ」と笑顔で付け足した。秀也は後輩という方便を使って、拓海と精神的に距離を縮めようとする。
拓海はそんな秀也の思惑を見透かしてあえて敬称を付けて呼んだ。
「……秀也君は、池上病院の息子なんだよね? どうしてウチの医大に来たんだ?」
「僕の事、知ってたんですか!」
秀也は敬称の事には触れず、拓海が南から教えてもらった事を口にしただけなのに、嬉々としている。
「あ、ああ、先輩が秀也君の事を知っていてね」
そう言うと、秀也の目は今度は何かを探るような目つきになった。
「昨日の人ですか?」と不満そうな声で言った。
昨日の人、そうか、昨日南先輩と会うまで立ってたんだっけ。
「うん、その人」と頷きながら言うと、秀也が黙ってしまった。
「……それよりも、なんで自分の親の大学にいかなかったんだ? ウチは私立だし、ほら、附属病院も池上病院より少ないだろう?」
「んー、それは……」と秀也は少し言いづらそうにしている。
「すまん、家の事情だったら言わなくていい、気になっただけだから」
拓海はそこまで深刻な問題があるとは思わず、ただ本当に些細な疑問から聞いただけだった。
言い渋っていた秀也だったが、拓海の「気になった」という言葉に、形の良い眉をピクリと動かした。
「はは、大丈夫ですよ、少し話が長くなっちゃうと思ったので、そうですね、色々ありますけど」と言って少し間を置いてから言った。話すことを簡潔にまとめているのだろう。
「大学の理事長と僕の父は古い付き合いがあって、それで父の大学より研究の設備が整っていたので、今いる大学に入学したんです」
「そうだったんだな」
よくあるα同士の付き合いかと思ったが、自分の意志もあるみたいだな。まあ確かにウチの大学は大学院生も多いし、そのまま海外の研究職に就いている先輩もいるからな。
「まあ、それで拓海先輩と運命的に出会えたので入学して良かったです!」
秀也は恥ずかしげもなく言った。拓海はその運命という言葉を聞いて手に力が入る。
幸せそうな顔をしている秀也に対して拓海の心は真っ暗だ。【運命】その言葉だけで、拓海は千本の針が心臓を突き刺すような痛みを感じる。
運命がずっと続くとは限らない。そんなもの信じても、いつかは人生を狂わされるだけ。
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