29 / 65
第ニ章 運命の番
十三
しおりを挟む
低予算で見つけた賃貸のアパートの二階。大学からは近く、駅からは遠い住宅地の中にある。
二人はすでに、拓海の部屋のベッドの上にいた。ベッドの下には、秀也の黒いコートと拓海のカーディガンが脱ぎ捨てられていた。
空は夕暮れ。カーテンの隙間から茜色の日が仰向けになっている拓海の顔にかかり、拓海の顔は恥ずかしさなのか、日差しのせいなのか、分からないほど赤くなっている。その肌に触れる秀也のスラリとした長い指。拓海はくすぐったそうに目を細める。日差しによって睫毛の影が長く濃くなった。
僕の拓海先輩。嬉しい。やっと触れられる。
長かった。二年……ようやく手に入れた、僕の愛しい人。
秀也は二年の時間をかけてようやく彼の【運命】を叶えた。
自分の普段の表情も彼への接し方も、社交場での彼の姿を知っている人が見たら、声を揃えて言うだろう。
――「あれは誰だ?」と。
それほど、この二年間、拓海が自分という人間を受け入れるようにと、彼の割れた心の隙間に金継ぎを施すように彼の"優しさ"と"甘い"性格を利用して秀也は彼の心を修復していった。
秀也は自分が彼の【運命の番】になれずとも、彼の"唯一"になれる日が来ると確信していた。なぜなら、徐々に拓海が自分を受け入れている事に気付いてたからだ。
だから、秀也は一度も拓海から距離を置いたりしなかった。拓海が南を【運命の番】と認めるまでずっと……。
後は、彼の人生のなかで大きな問題を起こすだけだと、誕生日を迎えるまで機会を窺っていた。
あの日、バーに行く前に仕事があった南を遅くに呼び出した。拓海が南を見て【運命の番】だと認識するためにだ。
秀也の計画は成功だった。拓海に手を振り払われた時は、悲しさが込み上げてきたが、南にも近づかれるのを恐れていた姿を見て、安堵した。
これで、今の彼は【運命】を拒否していない事が分かった。それは、自分に【運命】を感じてくれている事の証拠ともなった。
秀也の酷い妄想だと、思うかもしれないが、南が四年間も隣にいてきたのにも関わらず拓海は彼を【運命の番】と認識することは無かった。しかし、秀也が現れてから、拓海は【運命】に少なからず動かされていたのだと秀也は理解したのだ。
さらに、秀也は路地裏で鉢合わせのタイミングに合わせ、あの場所に悪質で有名な記者を呼び寄せていた。誰も疑わないだろう。たまたま居合わせただけだと、記者が言えば、誰が自分の地位を脅かす記事を書かせるか、と人々は思うだろう。
結果、理事長も、父親でさえも秀也の思惑に気付かなかった。全て秀也の思い通りに事は進んだ。
拓海先輩が僕を、【運命】を受け入れてくれた。
「拓海先輩……好きです、愛してます」
秀也はそう言って、拓海のシャツを捲り、彼のほんのり赤くなった肌に長い指を滑らせると、彼の体温を感じために掌で薄い腹を撫でる。拓海の身体は外の寒さなどとうに忘れたように熱を帯びている。
「恥ずかしい事を言わないで、はやく……」
拓海は赤い目元の潤んだ瞳を隠すように、顔を背けて言った。秀也は彼の様子に頬を赤く染めながら、彼の赤くなった温かい肌に吸いついた。
二人はすでに、拓海の部屋のベッドの上にいた。ベッドの下には、秀也の黒いコートと拓海のカーディガンが脱ぎ捨てられていた。
空は夕暮れ。カーテンの隙間から茜色の日が仰向けになっている拓海の顔にかかり、拓海の顔は恥ずかしさなのか、日差しのせいなのか、分からないほど赤くなっている。その肌に触れる秀也のスラリとした長い指。拓海はくすぐったそうに目を細める。日差しによって睫毛の影が長く濃くなった。
僕の拓海先輩。嬉しい。やっと触れられる。
長かった。二年……ようやく手に入れた、僕の愛しい人。
秀也は二年の時間をかけてようやく彼の【運命】を叶えた。
自分の普段の表情も彼への接し方も、社交場での彼の姿を知っている人が見たら、声を揃えて言うだろう。
――「あれは誰だ?」と。
それほど、この二年間、拓海が自分という人間を受け入れるようにと、彼の割れた心の隙間に金継ぎを施すように彼の"優しさ"と"甘い"性格を利用して秀也は彼の心を修復していった。
秀也は自分が彼の【運命の番】になれずとも、彼の"唯一"になれる日が来ると確信していた。なぜなら、徐々に拓海が自分を受け入れている事に気付いてたからだ。
だから、秀也は一度も拓海から距離を置いたりしなかった。拓海が南を【運命の番】と認めるまでずっと……。
後は、彼の人生のなかで大きな問題を起こすだけだと、誕生日を迎えるまで機会を窺っていた。
あの日、バーに行く前に仕事があった南を遅くに呼び出した。拓海が南を見て【運命の番】だと認識するためにだ。
秀也の計画は成功だった。拓海に手を振り払われた時は、悲しさが込み上げてきたが、南にも近づかれるのを恐れていた姿を見て、安堵した。
これで、今の彼は【運命】を拒否していない事が分かった。それは、自分に【運命】を感じてくれている事の証拠ともなった。
秀也の酷い妄想だと、思うかもしれないが、南が四年間も隣にいてきたのにも関わらず拓海は彼を【運命の番】と認識することは無かった。しかし、秀也が現れてから、拓海は【運命】に少なからず動かされていたのだと秀也は理解したのだ。
さらに、秀也は路地裏で鉢合わせのタイミングに合わせ、あの場所に悪質で有名な記者を呼び寄せていた。誰も疑わないだろう。たまたま居合わせただけだと、記者が言えば、誰が自分の地位を脅かす記事を書かせるか、と人々は思うだろう。
結果、理事長も、父親でさえも秀也の思惑に気付かなかった。全て秀也の思い通りに事は進んだ。
拓海先輩が僕を、【運命】を受け入れてくれた。
「拓海先輩……好きです、愛してます」
秀也はそう言って、拓海のシャツを捲り、彼のほんのり赤くなった肌に長い指を滑らせると、彼の体温を感じために掌で薄い腹を撫でる。拓海の身体は外の寒さなどとうに忘れたように熱を帯びている。
「恥ずかしい事を言わないで、はやく……」
拓海は赤い目元の潤んだ瞳を隠すように、顔を背けて言った。秀也は彼の様子に頬を赤く染めながら、彼の赤くなった温かい肌に吸いついた。
154
あなたにおすすめの小説
【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—
水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。
幼い日、高校、そして大学。
高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。
運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
神楽
立樹
BL
谷川彰也は、大学でも美形で人の注目を集めている近松神楽にモーニングコールをしている。
ただ、モーニングコールをするだけの仲だった。ある日、コールをしていることがバレてしまった。
彰也も近松に言っていない秘密があって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる