最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
37 / 123
第二章『生き写しの少女とゴーストの未練』

一章-3

しおりを挟む

   3

 夕方になり、俺は厨房馬車での商売を終えた。
 留守をユタさんに任せると、そのまま買い出しのために街へと出た。小麦や野菜、干し肉を仕入れるときに、街を歩き回ることになる。そのついでに、街の様子を探るつもりだった。
 荷物持ちを買って出てくれたアリオナさんと街を歩きながら、大通りに出た。
 ここは屋台が並ぶ市場とは異なり、商店が多い。小麦粉や干し肉を多く仕入れるには、こっちのほうが便利なんだ。
 この街でいつも使う商店に向かう途中、前にはなかった紫色の屋台から、嗄れた老婆が顔を出してきた。


「そこのお二人さん、星占いはどうかね? 今は馬座に、幸運の星が来ているよ。詳しい話を聞きたくはないかね?」


「いや、大丈夫なんで」


 俺が誘いを断ると、老婆は顔を顰めた。


「なんだい。あんたら、余所者で金を持ってるんだろ! ケチッ!!」


 ケチって言われてもなあ……そんなに裕福ってわけじゃないし。それに星占いなんて、怪しさしかないじゃないか。星空の出てないし、なにより今は馬座の季節じゃない。
 この世界の星座は、やはり元の世界の星座とは、まったく異なる。名前は同じ星座もあるみいだけど、その形や物語は全然違ったはずだ。
 星座自体に興味がないから、詳しくはしらないけど。
 ちなみに、馬座というのは一月生まれの星座だと記憶してる。これも前の世界と異なっていて、誕生月ごとに星座が割り振られているみたいだ。
 アリオナさんは老婆の表情を見て首を傾げたけど、そこは曖昧に誤魔化しておいた。
 目的の店に入ったんだけど……そこで俺は、店主さんから街の状況について、話を聞くことができた。


「……夜に、魔物ですか」


「そう。そのせいで、街の外に出るのは禁止になってるんだ。それだけに、商人なんかの出入りも少なくなっててね……うちも仕入れが減ってるんだよ」


「そういうことですか……って、小麦粉の値段、前の三割増しになってません!?」


「……すまないね、仕入れが減っててさ」


 うわぁ……地味にショック。
 魔物の情報よりも衝撃が大きいかも。他の店でも、似たような感じかな……これ。
 それから干し肉と卵の仕入れはできたけど、野菜は無理だった。資金の問題というより、鮮度の問題で……。
 やはり商人の出入りが減っているからか、鮮度が落ちている。
 隊商の馬車列に戻る途中、アリオナさんが声をあげた。


「クラネスくん、あそこ見て。馬車が沢山あるよ」


「ん? あ、ホントだ」


 城壁と家並みとの境に、馬車が並んでいた。餌は貰っているようで、馬糞の臭いも漂ってきている。
 行商人とかが使いそうな馬車ばかりだな……。
 そんなことを思いながら、俺たちは市場近くにある広場――馬車列が停まっている場所だ――へと歩き出した。
 それから街に泊まったけど、あのゴーストは出てこなかった。
 その代わり――街は魔物の集団に襲われた。喧噪と戦いの音が、市場にある厨房馬車まで聞こえてきた。
 街は護りきったようだけど……負傷者や死者は、どのくらいなんだろう? そんなことを考えながら、俺は馬車列の見張りを続けた。

   *

 翌朝、俺たち《カーターの隊商》は、ギリムマギを出立する準備に追われていた。魔物が街を襲うことが確実になった今、長居は無用だ。


「準備は出来ましたか? 出発です!」


 広場から出発した《カーターの隊商》は北門を目指して大通りを進んだ。
 大きく開かれた北門にいる衛兵たちが、慌ただしく動く様子が見え始めた。なにかあったのか――と思っていたら、その衛兵たちは《カーターの隊商》の行く手を遮った。
 護衛の傭兵やフレディの騎馬が立ち止まると、そのあとに続いていた厨房馬車を前に出す。
 衛兵たちの前に出た厨房馬車の御者台から、俺は何食わぬ顔で問いかけた。


「……あの、なにかありましたか?」


「街の外は、魔物が出て危険だ。よって、御領主の命令で街から出ることは禁止されている」


「いえ……その、俺たちは街の住人ではありませんよ?」


「それは、見ればわかる。だがこの命令は、すべての者に対して有効なものだ。旅人だとうと、例外はない」


「……え?」


 そんな無茶苦茶な。
 だけど衛兵を相手に、強行突破をするわけにはいかない。俺は深呼吸をして気持ちを落ちつかせながら、反論を試みた。


「いや、あの……ですね。我々は隊商なんです。街や村を巡って商売をして、生計を立ててるんですよ。この街にいたら、生活ができません」


「そのことなら、安心せよ。この街の御領主である、ボロチン・ハワード男爵様は、そういった者たちへの配慮を忘れてはおらん。隊商の全員でも、代表者数人でも構わぬが、民兵として街の護りについてもらう。それで全員に、御領主様からの配給が受けられる」


 衛兵からの回答を聞いて、俺は唖然とした。
 そうか。これが……こんなのが、あの噂の正体だったのか。街を訪れる旅人を街から出さないようにして、生活の糧を得るために民兵として召し抱える。
 こうやって、戦力を維持しているってわけだ。
 考えた当人は『ナイスアイディア』なんて思ったかもしれないが、その標的となった立場からすれば、迷惑千万でしかない。


「……拒否権は」


「何度も言うが、街の外は危険だ。これは、御領主様のご配慮である」


 質問の答えにはなっていないが、これで街の方針はわかった。
 つまり、「街に来た商人は民兵にする。つべこべ言わずに、いうことを聞け」ということなんだろう。俺は舌打ちしたい衝動をグッと堪えながら、馬車列に広場まで戻ることを宣言した。
 馬首を元来た道へ巡らす途中、先ほどの衛兵が声をかけてきた。


「民兵として参加する者は、市場の側にある兵舎へと行ってくれ。そこで、登録を行う」


 ああ、駄目だ。冷静に――と思えば思うほど、苛立ちが抑えきれなくなる。
 俺は衛兵の顔を見ないように礼を述べると、手綱を操って街の広場へと厨房馬車を進ませた。
 道中、アリオナさんには状況の説明をしたんだけど、問題は民兵として誰が行くか……だ。傭兵たちは、あくまでも隊商の警護で雇っているだけで、ここで民兵へと差し出せるような契約はしていない。
 となると、残る手段は限られる。
 俺はユタさんに、隊商の指揮と管理を委ねることにした。民兵への登録は、俺とフレディの二人でやることにした。
 馬車から降りた俺は、フレディと兵舎へと向かったんだけど……なぜか、アリオナさんが付いてきてしまった。


「アリオナさんは、馬車に戻って」


「なんで? あたしも一緒に参加するよ?」


「参加って……民兵に!?」


 驚きながら訊き返す俺に、アリオナさんは頷いた。


「うん。だって、あたしは用心棒として雇われてるんだもん。こういうとき、クラネスくんと一緒に民兵に参加しなきゃ、意味がないじゃない」


「待って。ちょっと待って。それは、駄目だよ! 危険だし、女の子がやることじゃないからね」


「……クラネスくん?」


 アリオナさんは、おもむろに俺の右手を掴んできた。それから力尽くで、俺の腕を自分のほうへと引き寄せた。


「忘れた? 力だけなら、クラネスくんよりも強いの」


「そうかもしれないけど、戦いっていうのは、それだけじゃないから……四方八方から襲われたら、腕力だけじゃ裁ききれないし」


「……そのときは、クラネスくんが護ってくれるって、信じてる」


 やや上目遣いになったアリオナさんが、ジッと俺を見てきた。

 ……いやあの。その、ちょっと頬を染めた表情は、かなり狡いと思います。

 そんな顔をされたら、こっちだって顔が赤くなってしまう。この前の一件――俺を落ちつかせるために、キスをされたこと――以来、アリオナさんのことを意識しない日はないんだから。
 お互いに告白まではしてないし、前回のあれは、俺を助ける……というか、励ますために、ついやってしまったって説明だったから。
 誤魔化すような口ぶりだったけど、回答としては、そうだったわけだし。恋仲という関係ではない……んだけど。
 でも期待したいような、俺個人の問題もあるから、ちょっと抵抗感もあるんだけど……ひょんな切っ掛けで色々な妄想をすることも、最近はちょっと増えてきた。


「……護って、くれないの?」


 返答がないことに焦れたのか、アリオナさんは、そう問いかけてきた。
 顔を真っ赤にして答えに窮している俺の背に、フレディの手が添えられた。


「若――ここは、男を見せるときだと思いますが」


 ――うっ。正論といえな、正論かもしれないけど。かもしれないけど、好きな女の子を危険に晒すのも、どうかと思うんですが!
 俺はキッと表情を引き締めると、アリオナさんを真っ直ぐに見た。


「……護ります」


 ……ええ、負けましたよ。完全に。俺に、アリオナさんを拒絶しきれるわけないじゃないか。

 こうして俺たち三人は、民兵として登録を終えた。
 本当に、良かったのかな……これで。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也
ファンタジー
人間が好きすぎて魔界を追放された元・魔王。 世界を救って燃え尽き気味の元・勇者。 派手に振られて落ち込んでいる精霊王。 逆セクハラが過ぎて追放された千年狐。 可愛すぎて人間が苦手になった真竜。 戦場のトラウマで休養中の傭兵――。 そんな“最強だけどちょっとズレてる”面々が集まる、 異世界のちょっと変わった施設《弱者の庭》。 異世界転生してきた平凡な青年・アルキは、 このゆる〜い最強たちの管理人に任命されてしまった。 日常はバタバタだけど、どこかあたたかい。 そして――住人が一人、また一人と“卒業”を迎えていく。 傷ついた彼らと過ごすのんびりスローライフ。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

処理中です...