2 / 349
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
一章-1
しおりを挟む一章 メイオール村の手伝い屋
1
早朝の体操を兼ねた鍛錬を終えた俺は、雨戸の隙間から差し込む光を頼りに、朝飯を胃袋に押し込んだ。昨日の昼に買ったパンと干し肉だけだけど、これで充分――というには、かなり物足りないが、家計の都合でこれだけだ。
食器を水で満たした桶に入れると、俺は玄関というには質素過ぎるドアを開けた。
日光が、暖かい。
麦穂月(六月)ということもあり、まだまだ日差しも心地良い。
俺が玄関で背伸びをしていると、顔見知りの女の子が前を通りかかった。
「ランドさん、おはよーっ!」
「ああ、おはよーさんです。今度、一緒に食事とかどう?」
「んー、やめとくねぇ。ランドさん、割り勘にするんだもん。奢ってくれるならいーよ」
「あーと。じゃあ、やめとく」
あはは――と、笑いながら去って行く女の子に手を振ってから、俺は改めて周囲を見回した。
俺がいるのは、メイオール村だ。メイオール山の麓に近い場所に、唯一ある村だから、そう名付けられたらしい。
王都タイミョンから西に、馬車で七日のところにある。国境までは三日だから、辺境というわけではないけど、そこそこに田舎だ。
俺の住まいは、村はずれの斜面にある二階建ての家だ。その昔、村に定住した剣士が住んでいた家らしい。
二階は三部屋。一階は寝室と風呂場、便所、台所を兼ねた居間、剣を研ぐための作業場まである。生活のすべては一階だけで事足りるから、二階は物置代わりにしている。
家の裏には、山羊や鶏を飼育する小屋なんかもある。
俺の家のある斜面は、メイオール村を一望できるほど眺めが良い。左右に長いこの村は、農業と酪農が主な産業だけど、宿場町も兼ねてるようだ。
村の東側と西側には村人の家が並び、南北を縦断する通り沿いには商店や旅籠屋、旅人のための厩舎が並んでいる。
俺の家は村の南側、北側には緩やかな裾野に、麦や野菜などの畑が広がっていた。
鶏の鳴き声を聞きながら、俺は深呼吸をした。
「今日も平和だねぇ……さて」
独り言を呟いてから、俺は玄関の横に手作りの看板を立て掛けた。
『手伝い屋 営業中 未経験の仕事のときには、技能の一部を貰う場合があります』
これが、この村で営む俺の店だ。依頼を受けて、村人や旅人の仕事や雑務の手伝いをしている。何でも屋や冒険者と違うのは、あくまでも仕事の手伝いというところだろう。
俺だけで仕事をする、という依頼は断ることにしている。
実際、これで仕事の依頼があるかと言われれば……王都を追放されて、約七ヶ月。最初こそ苦労したけど、今ではおかげさまで、そこそこの依頼がある。
依頼は主に酪農家や農家の仕事だけど、それ以外にも旅籠の手伝いや狩り、狼や魔物から村を護るなど、依頼の内容は様々だ。
村での生活は所謂、晴耕雨読。
雨天のときは余り依頼はこないから、本を読んで過ごしている。追放されたときに、そこそこの量の本を持って来たんだ。
訓練生だったときのように、いがみ合ったり、競い合ったり――そう言った荒々しさはほとんどなく、穏やかな日々を過ごしている。
……ホント、ここでの暮らしは自分でも驚くほど、性に合ってる気がしてる。
追放されたときは、この世の終わりかと思ったけどな。
寝て起きれば、安住の地――昔の格言だけど、よく言ったものだ。住み慣れると、王都での暮らしより快適に思える。
俺は散歩と、それから村人たちへの挨拶回りを兼ねて、村の通りを歩いていた。 行き交う村人たちと挨拶を交わしていると、スミス爺さんが近寄って来た。
「やあ、ランド。おはようさん」
「おはようございます。今日は朝一からの畑じゃないんですか?」
「ああ……ちょいと、おまえさんに用事があってな」
「おっと。そういうことは、御依頼ですか?」
俺の言葉に頷くと、スミス爺さんは後ろを振り返って、誰かを手招きした。
確か……孫のスウトだっけ。八、九歳くらいの男の子が近寄って来た。スミス爺さんはスウトの頭を撫でながら、畑の方角へ逆の手の人差し指を向けた。
「明日、麦の収穫があるんだが、手伝ってくれんか」
「それは良いですけど……俺、麦畑は初めてですよ?」
「わかっとるさ。だから、孫のスウトで前払いさせてくれ」
孫娘で支払いって……俺はスミス爺さんから、スウトへと視線を移した。
「えっと、やることは知ってるよな? チクッとするけど」
スウトはやや緊張した面持ちで、俺に頷いた。
それをそのまま、俺は了承の合図と受け取った。左手のトゲを出すと、差し出されたスウトの右腕に突き刺した。
途端、俺の頭の中にスウトの持つスキルや《スキル》が、文字となって流れ込んで来た。
掃除に――《スキル》は記憶術か。スミス爺さんが、スウトは物覚えが良いって言ってた気がするけど……なるほど納得。
俺はスキルの列の中から、農業・麦のスキルを見つけた。この子の持つ《スキル》のお陰か、年の割に色は濃い。
俺は農業・麦のスキルだけを考えた。この七ヶ月で、俺の持つ〈スキルドレイン〉の使い方も随分と理解した。
〈スキルドレイン〉は俺の意志次第で、吸い取れるスキルの量が調整できる。だから、スキルを日常生活には影響が少ない程度に吸収、なんてことも可能なんだ。
俺はスウトの持つ農業・麦の文字が、少しだけ薄くなる程度にスキルを吸収してから、左手を離した。
これで、スウトの持っている農業・麦のスキルの一部は、俺の所有スキルとなった。
「うん。よく我慢したよな。偉い偉い」
「うん。爺ちゃんのげんこつより、痛くなかったよ」
「こら、そんなことばかり言いよって」
スミス爺さんに叱られたスウトは、脱兎の如く逃げ出した。
それを見送ったとき、一頭の騎馬が村の中に入ってくるのを見た。騎馬は村の中を突っ切り、そのまま村長の家へと向かった。
騎馬に紋章――騎士団の先触れか?
俺はそんな考えを顔に出さずに、スミス爺さんに肩を竦めてみせた。
「……村の中を騎馬で駆けるなんて、危なっかしいですねぇ」
「そうだなあ……しかし、この村に騎馬が来るなんざ、一〇年以上ぶりだ。厄介ごとが起きなきゃいいが」
「そーですねー」
俺とスミス爺さんは呑気に肩を並べながら、走り去っていく騎馬を眺めていた。
118
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる