屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか

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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

四章-4

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   4

 メイオール村の外に建てられた《白翼騎士団》の駐屯地には、団員の住まいとなる寄宿舎と軍馬のための厩舎がある。
 丸太の塀に囲まれた敷地で地面がならされたところは、剣技の修練を行う訓練場だ。
 レティシアとセラが監査役に寄宿舎と厩舎を案内しているあいだ、リリンやクロースたちは訓練場にいた。
 キャットは腕を組みつつ、レティシアたちがいる寄宿舎を睨んでいた。


「あの男たち……思い出しただけでもむかつくわ」


「キャットは……美人だから。かなり言いよられてたね」


 男たちに触られた二の腕を、クロースは両手をクロスさせながら擦っていた。リリンは幼い外見からか実害はなかったが、ユーキに至っては半泣きで蹲っていた。
 キャットはユーキに近づくと、背中を擦った。


「とにかく、今は団長に任せるしかないけどさ。あたしらで、なんとかしたいわね」


「ランドさんと瑠胡姫様には、声をかけてあります」


 キャットの意見を受けて、リリンが初めて自分たちの行動を打ち明かした。
 しかし、キャットは露骨に顔を顰めただけだ。


「あんな奴ら、役に立つとは思えないけど」


「で、でもでも! ランド君は強いじゃない? なんとかしてくれると思うんだ……」


 クロースの訴えに、キャットは肩を竦めただけで、なにも答えなかった。
 そこで会話が切れたとき、寄宿舎からレティシアとセラ、そしてゴガルンら監査役たちが出てきた。
 レティシアの表情から、穏やかな監査でなかったことは明白だ。
 不安げな団員の視線に気づいたセラが、レティシアたちから離れ、クロースたちのほうへと近寄った。


「厩舎を見て廻ったあとは、剣技の訓練の視察がある。各員、剣と鎧を身につけて待機」


「あの……監査の状況は、どんな感じなんでしょう……?」


 クロースの問いに、セラは苦虫を噛みつぶしたかのように、顔を顰めた。


「あくまでも個人的な見解だが、反吐が出そうだ」


「まさか団長は……あいつらに、変なことをされたんじゃないでしょうね?」


 キャットの指摘に、セラは「たわけ」と返した。


「わたしと団長は、そこまで迂闊ではないぞ。団長も一定の距離を取っているし、監査の最中は大丈夫だろう。今も、厩舎の管理人たちが一緒だ」


 心配するな、と最後に付け加えてから、セラは団員を見回した。


「厩舎が終われば、次は訓練だ。急いで装備を整えろ」


 団員たちは声を揃えて「はい」と告げると、訓練用の木刀や鎧を身につけ始めた。



 団員の訓練は、普段の模擬戦形式だった。
 副団長のセラを師範役として、キャットから順に訓練を開始した。十数打で一本を取られたキャットの次は、ユーキだ。
 怯えた顔のユーキに、セラは表情を崩さないまま、静かに溜息を吐いた。


「最初は攻撃を受けるだけにしてやるから、怖れずに来い」


「は、はいぃ……」


 ユーキは木刀の切っ先を右後ろに向けながら、両脚を屈めた。
 静かに息を吐いた次の瞬間、ユーキは一気にセラとの間合いを詰め、木刀で真横に斬りかかった。
 セラは寸前のところで、切っ先を下にした木刀で一撃を受けた。


「良い一撃だ!」


 ユーキの木刀を弾いたセラは、二歩下がって間合いをとった。
 そんな訓練の光景に、レティシアは安堵しながら、ゴガルンを初めとする監査役たちに告げた。


「このように、団員は訓練生より濃い鍛錬を続けております」


「濃い訓練……なんだと」


 ゴガルンは横にいる部下に視線を送った。
 視線を受けた赤毛の男が、横にいる小太りな男の横腹を突いた。


「俺か? まあ、いいけど」


 小太りの男は茶色の髪を掻き毟りながら、のったのったと歩き出した。そして訓練をしている二人に近づと、ユーキから木刀を奪い取った。


「ひっ!? な、なにを……」


「俺に貸せ。本当の訓練ってやつを教えてやる」


 小太りの男は右腕一本で木刀を構えると、いきなり左手から《スキル》による〈圧縮空気〉を撃ち出した。


「な――っ!?」


 驚くセラは咄嗟に動くことができず、高密度に圧縮された空気の砲弾をまともに受けてしまう。
 両腕で顔は護れたが、セラの身体は丸太の塀まで吹き飛ばされた。


「セラっ!」


 駆け寄ろうとしたレティシアだったが、ゴガルンに腕を掴まれてしまい、それ以上は動けなかった。
 レティシアは藻掻きながら、ゴガルンを睨んだ。


「貴様ら――なにを考えている!?」


「なあに。おまえが王都に戻りやすいようにしてやるんだ。こんな騎士団なんざ、ぶっ壊してやるって言ったろ?」


「な――」


 穏やか――下心が丸出しだったが――に告げるゴガルンに、レティシアは信じられない目を向けた。


「それじゃあ、これが最後だ」


 小太りの男は木刀を捨てると、両手を前に突き出した。


「逃げろ、セラ!」


 レティシアの叫びとほぼ同時に、セラは横に跳んだ。
 その直後に小太りの男から放たれた圧縮空気は、塀の一部である三本の丸太の中央部分を吹き飛ばした。
 丸太を縛っている上部の縄から丸太が滑り落ち、小さな土煙をあげながら地面に倒れた。


「セラ、外に逃げろ!!」


 叫ぶレティシアに目で頷いてから、セラは壁だった丸太を飛び越して外に出た。
 しかし、小太りの男はそのあとを追いながら、右手を振りかぶった。


「はっは――逃げても無駄だ!!」


 小太りの男が叫んだ瞬間、突き出しかけた右腕が大きく弾かれた。
 突然の激痛に叫び声をあげた小太りの男は、目に見えぬ一撃を喰らって気を失った。
 塀の外にいたセラは、どこか呆けた顔をしていた。
 レティシアだけでなく、ゴガルンたち監査役の者たちも、なにが起きたのか理解できていない。
 唯一、希望に目を輝かせていたのはリリンたち、三人娘だけだった。

   *

 三人娘の予感が当たったな――そんなことを考えながら、俺はどこか呆けた顔のセラに、「下がってろ」と手だけで指示を出した。
 砕けた丸太の断面を跨いで駐屯地に入った俺は、現在のところ、世界で一番見たくない顔に向けて、長剣の切っ先を上下に振ってみせた。


「まったく……相変わらず、やりかたがゲスの極みだな、おい。これ、誰が直すと思ってるんだ?」


「てめえ……ランド!?」


 怒りと憎しみに歪んだゴガルンの顔に、俺は挑発的な笑みを浮かべた。
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