屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか

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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

エピローグ

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 エピローグ


 椅子に座った瑠胡が長い黒髪を書き上げると、首筋に一枚だけ、濃緑色の小さな鱗が見えた。


「へえ……そこから、脚とか翼とか出るんですか?」


「左様。ドラゴンの姿となるための、核となる鱗よな」


 瑠胡は髪を戻すと、俺を見上げて微笑んだ。
 《白翼騎士団》の監査騒ぎを終えてから、二日が経った。太股の傷は、翌日にはほとんど塞がっていた。痛みもなくなり、歩くのにも支障がないほどだ。
 天竜族のおまじないって、かなり効くんだな……と感心してしまった。ただ、その……なんというか、人前でやるにはかなり恥ずかしいけど。

 ゴガルンと三人の部下たちは捕縛され、今頃は王都へ連行中だ。ゴガルンは治療を終えたのちに収監。三人の部下たちは、監査役を免職されて軍の兵士になり、小競り合いが起きている前線へと飛ばされるらしい。
 自業自得だから、同情する気にはなれない。
 ベリット男爵が村人たちに声をかけた甲斐あって、俺に対する村人たちの恐怖心は、幾らか和らいだようだ。
 まだ二日しか経ってないけど、仕事の依頼は普段と比べて微減で済んでいる。だけど村人たちの視線は、三分の一くらいが恐怖混じりだ。
 解消するまで、もう少しかかりそうだ。
 そんな中、瑠胡は前と変わらぬ態度で俺と接してくれている。

 ……まあ、それは騎士団のクロースやリリンも同じなんだけど。

 昼飯の後片付けを終えると、次の仕事までは休息できる。
 この二日で変わったことといえば――いや、そんなに変わってないか。強いて言えば、騎士団の連中が家を尋ねてくる頻度が上がったこと。
 そして、瑠胡が俺の側にいる時間が長くなった――くらいだろう。


「ランド、少しよいか? 先ほど鱗を見せたときに、襟がずれたようでの。ちと直しておくれ」


 瑠胡が再び髪を掻き上げると、うなじが露わになった。
 襟は……少しだけ、よれた部分があるくらい。俺はうなじを見ないようにしながら、襟を整えた。


「こんな感じ……で、どうです?」


「ふむ……よい具合に直ったの。助かったぞ、ランド」


「いえ、別にいいですけど……この服って、自由に動かせるんじゃ?」


 俺の質問に、瑠胡は口元を綻ばせた。


「左様。だが、あれは少々疲れる。人の手のほうが楽でのう。できたら、毎朝の着付けも手伝って欲しいくらい……どうした?」


「いや、なんでも……」


 話を聞きながら、俺は顔が真っ赤になっているのを感じていた。
 着付け――即ち、着物を整えながら着ることらしい。それを手伝って欲しいと言われ、俺は先ほど見た、うなじの白い肌が脳裏に蘇ったわけである。
 照れるなってほうが、無理な話だ。
 俺が顔を背けると、瑠胡はわざわざ椅子から立ち上がって、顔を覗き込んできた。


「ランド? お主どうした、顔が真っ赤だぞ?」


「あ、いえ……なんでも」


「なんでも、という顔ではなさそうに見えるのぅ? ほれ、妾に話してみよ」


「いや、だから、勘弁してください」


 なんども言うが、今の俺はただの村人だ。ドラゴン族の姫に恋慕なんて、抱いて良い身分ではないのである。
 気を落ち着かせるべく呼吸を整えていると、瑠胡は「もしや……今なら効果があやもしれんな」と呟いてから、俺の背中にそっと両手を添えた。


「ねえ……あなた。これから、ご飯にする? お風呂にする? それとも、あ、た、し?」


「だから、それは勘弁して下さいってばっ!!」


 赤面したまま、俺は喚いていた。大体、昼飯はもう食べたでしょ!
 前とは違って今の俺では、マジで心臓と理性が保ちそうにない。


「あの……姫様はいつものままが、一番いいですから。そんなことしなくたって……」


「ほう、そうかそうか」


 扇子で口元を隠しながら、瑠胡は嬉しげに目を細めた。
 だから……そういう表情も、今の俺にとっては破壊力が大きすぎる。色々とヤバイ――と思ったとき、村の鐘が鳴った。


「もう正午も終わりですね……俺、仕事に行ってきますから。あ、夕食は《月麦の穂亭》で食べましょうか。昼からは、そこで仕事ですし」


「ふむ、承知した。お主が作る料理も、好みではあるがのぅ」


「あはは……どもです」


 顔を赤らめたまま、俺は逃げるように家を出た。
 帰るまでには、赤くなった顔や心臓の動悸は、落ち着いているだろう。でも……歩きながら、俺はある考えが浮かんでいた。
 目的を果たした瑠胡が、村を去る日は必ず来る。
 そのとき、俺はどうなってしまうんだろう。やけ酒ができるくらいには、酒に強くなっていたほうがいいのかな?
 そんなことを考えつつ村へと続く斜面を降りていると、リリンが通りかかった。なにか本のようなものを抱えたリリンは、微笑みながら俺に会釈をした。
 俺も「よ」と返事をすると、《月麦の穂亭》に急いだ。

 ――本?

 とてつもなく厄介なことが起きる予感が、頭を過ぎった。
 まったく……リリンを追いかけながら、俺は過去の記憶を蘇らせていた。
 屑スキルだったものが覚醒し、そのせいで王都から追放された。この村で手伝い屋を営みながら比較的、のんびりと過ごしていたのに。


「リリン、ちょっと待った! その本、ちょっと待った!」


 ……なんか最近、色々と大変なんですけど!?

 のんびりとした日常が取り戻せるのは、いつになるんだろう。そんなことを考える、今日この頃です。

                                   ――完

-----------------------------------------------------------------------------------
初めましての方は、初めまして。そうでない方も、この作品では、初めまして。

わたなべ ゆたか と申します。

『屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです』、とりあえずの幕となりました。

この一ヶ月ちょいのあいだ、本作を読んで頂き、まことにありがとうございます!

ほんとうに、感謝の念しかございません。

ちょっとだけ補足的な説明をしますと、ヒロインを和装、そして名前を漢字にしたのは理由がありまして。

主人公らの生活とは、一風変わった姿。だけど、我々日本人には想像しやすい姿。
天竜族という異種族感が、ビジュアル的に出ればなーという意図があります。

これで幕ではありますが、まだ二日残ってるんですよね……。土曜日からは、少し時間を空けながら書いていこうと思っています。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしく・・・・・・・お願いします!
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